ジェルマ王国の末っ子は海軍大将
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第一章 少年期
第三話 母子愛
検査の結果、サンジとソラの骨髄は見事に適合し、諦め掛けていた研究者達の目に希望が宿る。
「よし!サンジ兄さんは?」
ゴジの問いに研究所の女性職員が前に進み出る。
「サンジ様なら、先程ゴジ様の執務室に案内しました。」
ソラとサンジの骨髄が適合したと分かった瞬間に、サンジはゴジの執務室まで案内されていたが、ある職員の言葉で皆が一斉に下を向くことになる。
「でも、サンジ様は注射がお嫌いだったはずです…」
サンジが検査の度に普通の注射で意識を失うほど怖がりなのはここで働く研究者や医師なら皆知っていることであり、しかも骨髄移植の為に必要な注射は太い注射針で背中に打ち込むことになる。
「母さんを助けるにはこの方法しかない……変更はない!!急いでサンジ兄さんの骨髄を母さんに移植する。兄さんは俺が必ず説得して来るから皆はオペの準備だ!」
しかし、ソラの容態は一刻を争うので、説得出来るかではなく、説得するしかない。
「「「はい!」」」
ゴジは研究所を後にしてサンジが待つ自分の執務室に走る。
「サンジ兄さん!」
ゴジが勢いよく扉を開けるも自分の執務室にはサンジの姿はなかった。
「あれ?どこいったんだ……?」
ゴジは研究所内を探し回っていると調理場の方から漂ってくるスパイスの刺激臭に気付いた。
「この匂いは……まさか…………。」
サンジは病床に伏せるソラの為に料理を作ったことがあるが……正直あれを料理と呼ぶのは料理に対する冒涜ではないかと言うほどの物だった。
「サンジ兄さんっ!?……うっ……この匂いはまた凄い……」
調理場にいるサンジは数多のスパイスを入れ、ブツ切りにされた魚や肉、野菜等を入れて何故か紫色に変色したスープを煮込んでおり、そのあまりの匂いには毒の効かないゴジですら顔を歪める程である。
「ゴジ?お母さんは大丈夫なの?俺は料理でお母さんを助けるんだ…やくぜんりょうりって言うんだって。」
無意識に鼻を抑えたくなる刺激臭を発しながらグツグツと煮込まれた何が入っているか分からない紫色の液体を料理と呼ぶのかは別にして母の為に何かしたいというサンジの心意気をゴジは誇らしく思う。
「なるほど……それよりもサンジ兄さんよく聞いてくれ!実は母さんを助ける方法が見つかったんだ!母さんを助けられるのは、サンジ兄さんしかいないんだよ。」
「え…?どういうこと?」
サンジは頭を捻るが、ゴジは掻い摘んでソラを助ける方法を説明していく。
「──という訳で劇薬を飲んだ母さんを治す薬はサンジ兄さんの血だったんだ…サンジ兄さんが注射苦手なのは知っているけど…」
ゴジがサンジを心配して言い淀むが、ゴジの話を聞いたサンジの行動は早く、即座に両手の袖を捲ってから腕をゴジに突き出した。
「ゴジ…俺の血でお母さんを助けられるなら何本でも注射打ってよ!お母さんを助けられるなら注射なんて怖くない!」
ゴジはサンジの決意を聞いて改めて誇らしく思うとサンジの手を取って手術室へ走る。
「サンジ兄さん…ありがとう。でもね…注射は背中にするんだ。今までの注射よりもすごく痛いけど、今すぐに研究所に来て欲しい!」
ゴジの言葉を聞いてもサンジの決意は揺るがない。
「せ……背中っ!?へ……平気さ!!」
「はははっ!!大丈夫、なるべく痛くないように注射するからさ!!」
ゴジはそんなサンジを気遣って走りながら、とうとう手術室へたどり着いた。
◇
サンジを連れたゴジが手術室に入ると手術着に着替えた多くの研究所の職員がおり、さらにゴジの指示通りに手術の準備が整っており、手術室には2台のベットが並べられてその1つには時折苦しそうに呻くソラが眠っている。
「お母さん……。」
サンジは母の姿に泣き出しそうになっていると、手早く手術着に着替えたゴジの声にビクッと反応する。
「兄さん、母さんのベッドの横にあるベッドに横向きに寝転がってくれるかい?」
サンジはゴジが指差すソラが眠るベッドに並ぶように設置された殻のベッドを見て首を縦に振る。
「う……うん。お母さん……ゴジ、任せたよ。」
サンジはゴジに促されてベッドに母を背にして横向きに寝転ぶとゴジが皆に告げる。
「あぁ。必ず母さんを救ってみせる。兄さん……いくよ。」
「うん!!ゔっ……!?」
ゴジは骨髄を採取する為の注射をサンジの背骨の隙間に射し込んだ。
◇
翌朝、ソラは目を覚ました。
「ん…あれ?私は…あれっ…サンジ?まさか……また怪我したの?」
ソラは隣にあるベッドで眠っているサンジに気付いてびっくりしているが、彼女の意識はサンジとゴジを見送った2日で止まっているので仕方ない。
「母さん!!」
「あら?ゴジ…?サンジは大丈夫なの?」
昏睡状態から生還して無事に目を覚まし、自分よりも真っ先にサンジを心配するソラの姿に見てゴジの目に涙が浮かぶ。
「母さん……良かった。サンジ兄さんは疲れてるだけさ…それよりも体はどう?」
サンジは手術中は注射の痛みに耐えていたが、手術が終わると気が抜けたのかそのまま眠ってしまい、今はヨダレを垂らしながら幸せそうな顔で熟睡している。
「疲れてる?そういえば……体が嘘みたいに軽いし、どこも痛みがないわ。ゴジ…何があったの?」
ゴジは思わず涙を拭ってソラの心臓が止まってから目が覚めるまでの長い一日について説明した。
「──という訳でサンジ兄さんの骨髄を母さんに移植したんだ。劇薬に耐性を持つサンジ兄さんの骨髄から作られる血統因子が母さんを守ってくれてるんだよ。」
「お母さんは難しいことよく分からないわ…」
ゴジの説明は医学的過ぎてソラには理解出来ないが、ゴジの嬉しそうな顔を見て、自分が助かったことはよく理解出来た。
「つまり母さんがサンジ兄さんを普通の人間として産んでくれて、サンジ兄さんが勇気を出してくれたから母さんは助かったんだよ。」
ゴジはソラに分かるように難しい事を省いて何とか説明しようとするが、隣で眠るサンジの頭を撫でるソラはゴジのじっとゴジの目を見つめる。
「そう…サンジが頑張ってくれたのね。でもね……ゴジの説明には肝心な事が抜けてる。それぐらいは私でも分かるわ……。」
答えの分からないゴジは自分に優しい笑顔を向けるソラの顔を見つめる。
「肝心な事って?わっ… 」
ソラはそんなゴジを優しく抱き寄せる。
「それはゴジ…貴方よ。貴方とサクラ達が諦めずに私を救う方法を見つけてくれたから、私は助かったんでしょ?私を助けてくれてありがとう…ゴジ…」
この3年間、母を救う為に研究を重ねて張り詰めていた糸が切れたゴジは堰を切ったように涙と共に感情が溢れ出した。
「うわあぁぁーんっ…があ"ざんっよがっだぁ…ほんどにじんじゃうがとおもっだ!!」
「うんうん……。お母さんは貴方達のおかげでこの通り元気になったわよ…本当に自慢の息子だわ……」
「うわあぁぁーん!!」
ゴジはその日泣き疲れて眠るまで、ソラの胸で泣き続けた。
「お母さん!!」
翌朝、ソラが完治したことを知ったレイジュがソラの病室に飛びんでくると、大きな声を出さぬように人差し指を口に当てたソラの姿があった。
「しぃ〜……うふふっ」
「そうよね……いくら国一番の戦士で秀才でもまだ8歳の子供だもんね……」
レイジュはソラの左右から抱き着いて幸せそうな寝顔で眠る末っ子の姿があった。
後書き
4月30日加筆修正
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