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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第二話 ソラ危篤

 すくすくと成長して8歳になったゴジの日常は父ジャッジの命令で母ソラを治すための研究の毎日であり、今は母ソラの手を取って生まれ持った電気の能力を使い、体を巡るシナプスの電気信号を解析して、彼女の心臓の動き等を観察して体調管理をしている。


「うん。母さん今日も体調は安定しているよ。」


 僅か8歳の子供に何をさせているのかと思うかもしれないが、ゴジは科学王国と呼ばれるジェルマ王国において既に並ぶ者なしと称される頭脳の持ち主でこのソラの治療のためだけに作られた研究所の所長である。


「ゴジ、いつもありがとう。苦労を掛けるわね…」


 ソラは血統因子に影響を与える劇薬を飲んで以来、体調が優れずに病院生活を余儀なくされており、今は治療法を見つける為にゴジの研究所に入院している。


「何を言うんだ。今の俺があるのは母さんのおかげだ。だから、俺が母さんを必ず助けるよ。」


 ゴジは母をそんな体にした元凶である父の命令に従うのは癪であったが、母を治すために莫大な予算とゴジ専用の研究所にそこで働くこの国でも優秀な研究者と医師等のスタッフを用意してくれたことには感謝し、日々母の為に研究に励んでいた。


「ゴジ……貴方は本当に……」


 ソラがゴジに手を伸ばそうとした時、窓の外からサンジの悲鳴が響き渡った。


「痛い!!止めてよぉぉぉぉ!?」

「サンジ!てめぇ……お前が騒ぐとまたゴジが……」


 ヨンジがゴジに聞かれたらマズいと慌てて馬乗りになってサンジの口を塞ぐが、既に出遅れである。


「母さん……ちょっと行ってくるよ。」

「あらあら……ゴジ……サンジをよろしくね。」


 数分後ゴジは何事もなかったかのようにイチジ達に苛められていたサンジを背負って母の元に帰ってきた。


「お母さん!」


 サンジを苛めていたイチジ達がどうなったかは……言うまでもあるまい。


「サンジ…またイチジ達に苛められたのね……大丈夫?」


 サンジが病室に着くなりベッドで横になる母さんに抱き付き、そんな彼をソラは優しく抱き止めた。


「うん…でも、ゴジが助けてくれたよ…。」


 ソラは自分と同じ金色の髪を持つサンジの頭を撫でながら、両手を後ろ手に回して立つゴジの顔を見て微笑む。


「そう…ゴジいつもありがとう。あなたがいてくれて本当によかったわ…。」

「俺が俺であるのは母さんとサンジ兄さん、レイジュ姉ちゃんのお陰だから、三人は何があっても助けてみせるよ!母さんの体ももう少しで治せそうなんだ。」


 ソラは服用した劇薬で体にある血統因子が崩壊していくことが原因で衰弱しているが、先日なんと彼女の飲んだ劇薬の効果を打ち消して血統因子の崩壊を安定させるための薬の開発に成功し、臨床実験に移行する段階である。


「ゴジ…サンジ…お母さんはイチジ達を救ってあげれなかったけど、あなた達が人間として生まれてくれたことが本当に嬉しいのよ…はぁ……はぁ…」


  長時間起きていたからかソラの顔色が青白くなっていくので、慌ててゴジが近寄って身体を支えてゆっくりとベットに寝かせる。


「母さんはそろそろ休まないと……」


 ソラは自分を支えるゴジの手からジュゥという音に気づくと彼の掌にある火傷に気付く。


「あら?ゴジまで怪我したの?」


 8歳にもなると、能力の使い方の上手くなったイチジ達と比べて元々ゴジが手にすべき能力ではないパーフェクトゴールドの能力はイチジ達のモノに比べて非常に精度の低い事に気付いた。

 しかし、5つの能力の組み合わせと戦闘センスによりカバーして未だに三対一でもゴジは負け無しであるも、完封勝利とまではいかず、ソラが聞いた音はイチジの“火花(スパーキング)フィガー”を受け止めた時、負った火傷が癒えている音である。


「あぁ……かすり傷だよ。俺には“超回復”があるから大丈……」


 ゴジが笑顔で手を振っていると、怒りの形相を浮かべたサンジに手を掴まれて引っ張られる。


「ゴジ!?ダメだよ!!怪我したのなら、医務室に行くよ!!」


 ゴジは明らかに自分よりも重傷なのはサンジだと訴えようとするが、サンジの顔を見て諦めて従うことにした。


「いや、サンジ兄さんの方がって……はぁ、分かったよ。一緒に行こう。じゃあね。母さん♪」

「お母さん!またね♪」


 ソラは仲良く手を繋ぎながら、反対の手を振る最愛の息子2人を見ながら、笑顔でその瞳を閉じた。


「ふふっ………はぁ……はぁ……お母さんは少し…だけ………休む……わ…………」


 ゴジとサンジが病室を出ると、病室の前に待機していた主治医のサクラ医師と出会う。


「サクラさん、母さんは今眠ったところだよ。」


 彼女はサクラ色の美しい髪を肩くらいの長さまで短く刈り揃え、さらに切れ長の目が特徴の妙齢の美女であり、歳はソラと同い年のソラの幼なじみであると同時に若くして国1番の医師となった才媛であり、ゴジの研究所に所属してソラの主治医を務めている。


「ええ…それでは後は私がソラ様の容態を見させてもらいますね。」


 サクラはゴジ達と入れ違いに病室に入っていくと、先を歩くサンジに手を引っ張られる。


「ゴジ、早く医務室に行くよ!!」


 ゴジはそんなサンジの背中を見ながら、嘆息する。


「はいはい……全くいつも優しいクセにこういうとこは頑固なんだから、俺は早く研究に戻りたいのに……」


 まもなく母を救える可能性を秘めた薬が完成間近と迫っている今、ゴジは一分一秒を無駄にしたくはないが、どうにもサンジには逆らえない。


「ゴジ様ぁ!!大変です!!」


 病室から響くサクラさんの悲鳴にも似た叫び声に従い、ゴジは慌てて部屋に飛び込む!


「どうした!?何があった!!」

「ソラ様の脈がありません!!」


 それを聞いたゴジは頭が真っ白になり、ヒューマンエラーという言葉がゴジの脳裏を過ぎる。


「なっ!?」


 ヒューマンエラーとは意図しない結果を生む人為的な過失のことであり、ゴジはいつもソラが眠った後で電気を操る能力を使って体内のシナプス等の動きから体調の変化を確認しているが、先程は薬の事を考えながら、サンジに手を引かれていたので怠った。


「えっ…お母さん…死んじゃやだあぁぁぁ!」


 サンジの叫びがゴジの意識を現実に引き戻すと、サクラが心肺蘇生用の電気ショックを起こす機械の準備をしていた。


「すぐに電気ショックの準備を…」

「俺がやる!俺が母さんを連れ戻す。」


 サクラの言葉をゴジが制すると、ゴジの部下として彼の能力を良く知るサクラは、ゴジのやろうとしている事に検討が付いたので彼に命令に従い、場所を入れ替わった。


「ゴジ様…分かりました。電気を流すタイミングはこちらで指示します!」

「頼む!」


 ゴジはソラの心臓のある胸の中央部に手を当てて心臓に電気を流していくと、バチンッという音共にソラの体が跳ね上がるも未だに彼女の心臓は動かない。


「まだです!もう1回!」


 ゴジがサクラの合図に従って何度も電気刺激を続けていると、胸に手を当てていたゴジはトクンッと心臓が再び時を刻み始めた事に気付き、手を離す。


「動いたっ……!?」


 ゴジの声に慌てて聴診器をソラの胸に当てるサクラは涙を溢れさせて、ゴジの顔を見て頷く。


「ゴジ様…戻りました!ソラの心臓が動いてます!」


 サクラの声に今度はゴジも涙を溢れさせる。


「はぁ、はぁ、よかった…ほんどうに…よがっだぁ…」


 涙を溢れさせたゴジは突然サンジに抱き締められて頭を撫でられる。


「ゴジ…なぐな…いいご…いいごぉ、おがあざんを…助げでぐれでぇ…あ"りがどう…」

「兄さん……ゔぅぅ……うわぁぁぁん!!」


 サンジは瞳に涙を溢れさせながらも大泣きするゴジの頭を優しく撫でながら、兄としての務めを果たそうとしていた。


 ◇


 ソラは一命は取り留めたものの翌日になっても未だに目を覚まさないため、ゴジは母の体が限界である事を知り、研究所のチーム全員に召集を掛けた。


「サクラさん、母さ…いや、ヴィンスモーク・ソラの容態を報告して欲しい。」 

「はい。ソラ様の容態ですが一時心肺停止に陥りましたが、ゴジ様の電気ショックで持ち直し、脈拍呼吸は正常値を維持していますが、未だに目を覚ますことなくこのまま目を覚まさない可能性もあります。俗に言うところの植物人間状態です。」


 サクラは息子であるゴジにも遠慮することなく、正直にソラの容態を説明した。


「そうか…率直に聞く。いつまで持たせられる?」


 ゴジとて、ソラを助ける為に遠慮されて嘘の報告をされる方が困るので、元よりそんな人員はチームに入れていないので、報告を聞いたゴジがサクラに求めることは一つである。


「長くて3週間…いえ、私のプライドに掛けて1か月は持たせてみせます。」


 ソラの延命治療……1ヶ月がソラに残された時間である。


「ありがとう…サクラさん、母さんを宜しく頼む。」


 ゴジはサクラに頭を下げた。


「お止めください!ゴジ様、私に頭を下げないでください。」

「いや、俺は母さんの危篤に気づくのが遅れたんだ。君があの時来てくれてなかったら、母さんはあの日に亡くなっていただろう…本当にありがとう。」 


 ゴジはサクラがあの日自分と入れ替わりに部屋に入らなかったからと思うと、ゾッとする彼の心からの感謝の言葉をサクラは歯を食いしばって受け止める。


「悔しいわ……私では目の前で苦しむ親友すら助けられないのね……。ゴジ様……どうかソラを助けてあげてください。」


 サクラはゴジの感謝の気持ちは受け止めつつも素直に感謝を受け止めきれず、病床に伏す親友を想ってゴジに頭を下げてからソラの元へ戻るために部屋から出た。


「必ず1ヶ月以内に母さんを助ける方法を見つける!!」


 ゴジはサクラの退室を見送った後、60歳でありながら現役の研究チーム主任のヒッコリーに向き直る。


「ヒッコリー、新薬の効果は?」

「はい。劇薬の影響でソラ様の体内にある血統因子が崩壊していましたが、例の新薬のおかげでその崩壊はとまりました。」

「では何故母さんは目覚めない?」

「新薬の効果で確かに血統因子の崩壊は止まりましたが、何分臨床試験前の薬でしたので、新薬の副作用により新たな血統因子が作られなくなっている可能性が高いです。」


 臨床試験とは新しい治療、あるいはそれらの組み合わせで行われる治療法などに対して、その効果や安全性について確認するために行われる試験のことであるがソラの危篤を受けて臨床試験中の新薬をやむなく投与したのだ。


「今までの作ってきた薬では母さんの容態を安定させることは出来ても、新たな血統因子が作られなくなるという副作用があったのか。」


 研究員達は最悪の事態に全員が下を向く。

 血統因子とは血液に含まれる成分の一部であり、それが作られなくなると生命の危機に繋がってしまうのだ。


「くそ……どうしたらいい……。」


 ゴジだけでなく、ヒッコリーを初めとする研究チーム全員が頭を抱える。


「あの劇薬に耐えうる血統因子があれば副作用をもたらす新薬の投与を中止出来るのに……」

「そんなのあるはずがない。毒を操るゴジ様、レイジュ様であれば可能かもしれませんが……」


 どんな毒をも作り出すポイズンピンクの能力を持つゴジとレイジュであればソラの服用した劇薬すら意味を為さない上、毒性が強ければ強いほど美味と感じる味覚すら持つ。


「強すぎる遺伝情報を持つゴジ様とレイジュ様の血統因子では、普通の人間であるソラ様の体が持ちません。」


 研究員達が意見を出し合って解決策を探っていく中で失われた血統因子を移植する話が持ち上がるが、超人的な能力を有するゴジ達は生まれながらに血統因子を改造されてそれに耐えうる強靭な体を持って生まれているのだ。


「あの劇薬に耐えうる一般人の血統因子を探してみますか?」

「しかし、1ヶ月は短すぎる。例え見つかってもソラ様の骨髄と一致する可能性は極めて低い。」


 血統因子を作り出す骨髄の適合率は血縁関係がないと数百人から数万人に1人の確率とされている。


「せめて劇薬に侵された母さんの身体から生まれた俺達の兄弟の中に普通の人間がいれば……ん?んんん……?あっ!?」


 骨髄の適合率は血縁関係があれば、可能性がグッと上がるので、ゴジが何気なく放った言葉に研究チームの時が止まる。


「「「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」


 ゴジを初めとした研究所にいる全員がジェルマ王国の失敗作と呼ばれている一人の少年の顔を思い浮かべた。


「サンジ兄さんだ。なんで気づかなかった…。サンジ兄さんは劇薬に蝕まれる母さんの中で育ち、ただの人間としてこの世に生を受けた。その兄さんの骨髄を母さんに移植出来れば助かるかもしれない!」


 ゴジの言葉に研究者達の目の色が変わる。


「大至急、母さんとサンジ兄さんの骨髄が適合するか調べろ!」

「「「はっ!」」」


 こうして、諦め掛けていた研究者達の全員の目に希望が宿り、自分の出来る作業へ大急ぎで戻って行った。 
 

 
後書き
4月30日加筆修正。 
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