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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第一章 少年期
  第一話 五つ子

 ここは北の海(ノースブルー)、この海には無数の巨大電伝虫の殻の上に作られた大地が連なり、その船上で人々が生活することで国をなすこの世界で唯一国土を持たないにも関わず世界政府に国として認められている海遊国家ジェルマ王国。

 世界有数の科学力を誇るこの国では今、国王ヴィンスモーク・ジャッジと王妃ソラが彼女のお腹にいる五つ子のことで喧嘩をしている。


「五つ子とはな…よくやったソラ…早速、お腹の子供達にも血統因子の改造手術を施す。」

「あなた…この子達にもまたレイジュのような手術をするの?」


 長女のレイジュにはソラのお腹にいる間に血統因子と呼ばれる遺伝情報を記録した体内の遺伝物質を操作することでピンクの髪、銃弾を通さない外骨格と毒を操る能力を得ることに成功していた。

  勿論当然ながらこの技術は世界政府の名のもとに禁忌とされ、この血統因子を発見した世界一の頭脳を持つと言われるDr.ベガパンクはこの禁忌の研究をしたことにより世界政府に拘束されているが、当時彼と共に研究をしていたヴィンスモーク・ジャッジは世界政府の手を逃れてこの研究を進め完成させていたのだ。


「戦争に優しさなど必要ない。この子達にはジェルマ66(ダブルシックス)の能力の他に戦いには不要の優しさという感情を…すなわち心を捨てる手術も施すとしよう。」


 今年で3歳になるレイジュの血統因子の操作は確かに成功し、この歳にして精強と知られるジェルマ王国の兵士では相手にもならないほど強いが、その性格は戦う相手が傷付く事を嫌い、戦いに向かないごく普通の女の子であった。

 ソラには内緒にしているが血統因子の操作の時にレイジュにはジャッジには決して逆らえないようにしてあるので、戦いを嫌うレイジュもジャッジの命令で戦う事に逆らうことは出来ない。

 ちなみにジェルマ66(ダブルシックス)とはかつて北の海(ノースブルー)において世界経済新聞に連載されていた【海の戦士ソラ】に登場する6人組の悪役のことで、圧倒的な戦闘能力と銃弾も通さない外骨格と呼ばれる硬い皮膚を持ち、それぞれに固有の能力がある。


 スパーキングレッド…赤い髪が特徴の光と爆発を操る能力

 デンゲキブルー…青い髪が特徴の電気を操る能力

 ステルスブラック…黒色の髪が特徴の透明になる能力

 ウインチグリーン…緑色の髪が特徴の怪力

 ポイズンピンク…桃色の髪が特徴の毒を操る能力

 パーフェクトゴールド…金色の髪が特徴で上記五人の全ての能力と合体ロボを作り出した海の戦士ソラに匹敵する類まれなる頭脳を持つ。


 レイジュは血統因子の操作により、無事に桃色の髪とポイズンピンクの能力を手に入れる事に成功した。

 その為ジャッジは五つ子達に残りのそれぞれの能力と、能力に対応した髪色と外骨格そして戦いには不要の優しさという感情を取り除くように血統因子を改造する予定であるが、子を愛するソラはそんな手術に猛反発しているのだ。


「やめて!私の子達よ!!心を失ったらそんなの人間じゃない!」

「怪物でいいんだ!戦争にさえ勝てればな!!我が子にこそ…その最たる力を与える!」

「そんな手術!絶対にやらせなぃ…うっ…眠気が…あなた…もしか…して…」

「先程の食事に睡眠薬を混ぜてあった。起きたら手術は終わっている…おまえはゆっくり休め…」

「あなた……やめて…子供をたすけ…すぅ…すっ…」


  ソラの意識が遠く寸前、彼女の耳に彼女を優しく抱きとめた夫ジャッジの声が聞こえる……


「ソラが目覚める前に子供の血統因子の改造手術を急げ!!」


  しかし、ソラの願いは愛する夫には届かず、ジャッジは眠ったソラを抱き上げて研究者達が持ってきたベットに優しく乗せると、研究員達はソラを手術室まで連れて行った。


 ◇


 数時間後、手術を終えて麻酔の切れたソラがベットで目を覚ました。


「ソラ、大丈夫か?」


 ソラは自分の身を案じるジャッジの顔を見ながら、自分の体なんかよりも気になる事はたった一つである。


「あなた…私の子供達は…?」


 ジャッジも人の親としてソラが子供の心配をしている事はわかっているので、満面の笑みで頷く。


「安心しろ…手術は成功だ。後は元気な子を…」


 夫の満面の笑みを見たソラは顔面蒼白となると、慌ててベットから降りて一人部屋を飛び出す。


「ソ……ソラ!?」


 ソラは愛する我が子を生物兵器にする手術の成功なんて望むはずもなく、むしろ夫が良心に従って手術を中止してくれた事を望んでいた。


「あの人は変わってしまった…子供達は…私が助けないと…!?」


 しかし、その微かな望みは叶わなかったことを知り、お腹の子供を助ける一つの可能性に賭けて、研究室へ走った。


 ◇


 ジャッジが慌ててソラを追うと、ソラが飛び込んだ研究室からガシャンという金属を撒き散らしたような音が響き渡る。


「ソラ!?」


 ジャッジが慌てて研究室に飛び込むと、血を吐いて冷たい地面に横たわるソラの手にはドクロマークの書かれていた血統因子に影響を与える可能性のある劇薬の瓶が握られていた。


「大丈夫か!?……そ……それはまさか!?」


 ジャッジはソラを抱き上げて、ようやく己の間違いに気付いた。


「私は……なんて事を……誰か……早く来い!?ソラあぁぁああ!!」


 研究室にジャッジの泣き叫ぶ声が響き渡った。


 ◇


 科学大国と呼ばれる優れた医療技術を持つ医師達による的確な措置でソラとそのお腹の子供は一命を取り留め、数ヶ月後…ソラは無事に元気な男の五つ子を出産した。


「ジャッジ様、王子達の髪色は予定通りの五色です。」


 生まれてきた子供達は予定通り赤、青、金、緑、黒の髪を持って生まれ、生まれた順番にイチジ、ニジ、サンジ、ヨンジ、ゴジと名付けられた。


「ソラの飲んだ劇薬は子供達に影響を与えず、ソラの体にのみ影響を与えたのか?これでこの国は……」


 しかし、ジャッジの願いとは裏腹にソラの飲んだ劇薬の影響がその子供達にも少なからず与えている事を知ることとなる。

 ある日、ジャッジの計画通りに銃弾をも通さぬ硬い皮膚である外骨格と驚異的な身体能力を持って生まれて、今五歳になったイチジ、ニジ、ヨンジの3人がサンジを一方的に攻め立てている。


「おい、サンジ!よえーな。俺たちが鍛えてやるよ!」

「いだっ!?」


 スパーキングレッドの能力を持つイチジがサンジを殴ると、小さな爆発が起きてサンジを殴り飛ばす。


「ははは…よえーよえーなぁ…おい!」

「あぎゃっ!?」


 デンゲキブルーの能力を持つニジがサンジを蹴り飛ばすと静電気が走る。


「おい!サンジ!!この大岩を受け取れぇぇぇ!!」


 ウインチグリーンの怪力を持つヨンジが自分の身体ほどもある大きな岩を持ち上げていると、ボロボロになって立ち上がることすら出来ないサンジはそれを見て青ざめている。


「ヨンジ……止めて……そんなの落とされたら、僕死んぢゃうよ……」


 ジェルマ66(ダブルシックス)の中で一番強いのは金色の髪と全ての能力と天才的な頭脳を待つパーフェクトゴールドであるはずだが、その能力を持つはずのサンジはイチジ達に為す術なくやられて死の淵に立たされていた。


「無能は生きていても仕方ない。」

「弱ぇ奴は死ぬんだよ…サンジぃ」


 まだ未熟ながらも改造手術により手に入れた一騎当千の能力を使ってサンジを追い詰めたイチジ達は醜悪な笑みを浮かべながら、地面に倒れ伏して命乞いをするサンジを嘲笑っていた。


「おい!お前たち!!サンジ兄さんを虐めるな!」


 短く狩り揃えられた黒髪を逆だたせた髪型が特徴のゴジが颯爽と現れてヨンジが持つ岩に飛び蹴りを放ち、岩を粉々に蹴り砕いた。


「やべぇゴジだ!!」

「逃げ……」


 イチジ達がゴジの姿に驚いて一目散にその場から立ち去ろうとしたが、逃げた先にいる怒りの表情を浮かべて仁王立ちするゴジの姿に唖然となる。


「逃がすかよ!このクソボケ共がぁぁぁ!!“火花(スパーキング)フィガー”!!」


 ゴジは背を向けて逃げるイチジの頭に爆発の能力を宿した拳で拳骨を落とす。


「ぐべっ!?」


 先程イチジが放ったモノとは比べ物にならない熱量の爆発と共にイチジの頭が地面にめり込んだ。


「イチジ!?速っ……」


 ニジはイチジがやられた事で立ち止まって振り返ると、すぐ目の前にゴジが電気の能力を宿した拳を振り上げていた。


「ニジ、能力をまとも使えないのが無能なら、静電気程度の電気しか出せないてめぇはどうなんだよっ!!“電撃(プラズマ)パンチ!!」


 青い稲妻がバチバチと迸るゴジの右拳による拳骨を受けたニジの頭もイチジ同様に地面にめり込んだ。


「ぐはっ!?」


 イチジとニジを一瞬で沈めたゴジはすぐにヨンジへ向かう。


「俺はアイツらのようにはいかねぇぞ!来やがれ!」


 ヨンジは立ち止まって、ゴジと戦う決意を固めて全身に力を漲らせていく。


「ヨンジ……弱ぇクセにグダグダしゃべるな…“巻力砲瑠(ウインチポール)”!!」

「ぐぎゃあああ!!」


 ゴジはヨンジと一足で距離を詰めるとそのまま左拳を振り抜くと、彼の体は城壁にめり込んだ。


「ふんっ!今日はこれくらいにしてやる。サンジ兄さんを虐めたらまたボコボコにしてやるからな!!」


 5歳の子供にやりすぎだと思われるかもしれないが、彼等は皮膚が鉄のように硬い外骨格を持っているので、見た目ほどダメージはなく、さらにイチジ、ニジ、ヨンジの傷からジュゥという音と共にみるみる傷が癒えている。

 これがジェルマ66(ダブルシックス)の有する外骨格、特殊能力にならぶもう一つの能力“超回復”である。


「サンジ兄さん大丈夫か?」


 ゴジは既に傷が癒えて気絶しているだけのイチジ達を一瞥してから慌ててサンジに近寄る。


「ゴジ…ありがとう…うえぇーん…怖かったよぉぉ……痛いよぉ…」


 みるみる傷の癒えていったイチジ達とは違ってサンジは外骨格も超回復もなく生まれてしまったので、イチジ様にやられた傷は赤黒く腫れて血が滲んでいた。


「兄さん泣くなよ。さぁ、早く傷を見せて。」


  ゴジは膝を着いて擦りむいたサンジの膝に手を当てると彼の手が桃色の光が溢れる。


「“桃色治療(ピンクヒール)”!これでもう痛くないから大丈夫だよ。母さんのとこに行こう…さあ兄さん早く乗ってくれ!」


 ゴジは毒の能力を使って、擦りむいたサンジの膝が破傷風などにならないように傷口を消毒した後、サンジが乗りやすいように彼に背を向けて屈むと、サンジは泣きながらその背に乗る。


「ゴジーありがど……うえぇ〜ん…お母さぁ〜ん!!」


 傷だらけで泣き喚くサンジを背負って城へ入っていくゴジ達の姿をジャッジと研究員が見ていた。


「ご覧の通りにサンジ様はただの人間で、ゴジ様はステルスブラックの能力だけでなくパーフェクトゴールドの能力を持っていますが、お二人とも感情欠落が見られません」


 彼ら五人が生まれてずっと研究員は交代で彼らを観察して血統因子の成果を調査しており、今日のことも一部始終見ていたのだ。


「つまり?」

「恐らくですが、サンジ様が受け継ぐはずだったパーフェクトゴールドの能力が全てステルスブラックであるゴジ様が受け継いでおります。さらにそのゴジ様はジェルマ66(ダブルシックス)が有する全ての能力を使いこなして既にこの国一番の戦士となられ、医学、物理学、歴史、血統因子研究等様々な分野において科学大国と呼ばれるこの国の誰も適う者のいない神童でもあります。」


 血統因子の操作が失敗に終わった理由はここにいる全員が理解していた。


「さらにソラの劇薬の影響はサンジとゴジの感情欠落にまで及んだか……」

「はい……それしか考えられません…」


 ジャッジを悩ますのは普通の人間として生まれてきてしまったサンジではなく、城に戻る直前に自分達が覗き見て居ることに気付いて鋭い眼光で睨み付けてきたゴジの方である。


「ゴジ……まさか性格まで海の戦士ソラを彷彿とさせる慈愛と正義に満ちたモノとは……私は世界を征服する為の“怪物”を生み出すつもりが、この国を滅ぼしうる本物“ヒーロー”を生み出してしまったのかもしれん…。」


 ジャッジはイチジ達倒してサンジを救い出し、ジェルマ王国の総帥である自分に敵意を剥き出しにするゴジに、世界を守る為にたった一人でジェルマ66(ダブルシックス)に挑み続けた海の戦士ソラの影を重ねてガックリと肩を落とした。 
 

 
後書き
4月29日加筆修正 
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