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パープルロマンス

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第五章

「誰かを好きになる可能性はありまして」
「それでだね」
「君達みたいにだね」
「付き合えて」
「結婚まで」
「そうですね、三十代になって」
 恋愛経験のないままというのだ。
「それでもですよ」
「そうなんだね」
「それじゃあだね」
「君達はこれからも」
「二人でだね」
「幸せになっていきます、子供も欲しいですし」
 新堂は客の一人に彼が注文したカクテルを出しながら言った、そのカクテルはモヒートだった。今回も見事な出来だった。
「それで、です」
「それじゃあだね」
「これからもだね」
「二人で一緒に幸せにだね」
「暮らしていきます」
 こう言って次のカクテルに入った、そして。
 二人は結婚してから子宝に恵まれ年を経ても仲睦まじく過ごした、新堂はすっかり高齢になってバーテンダーの仕事を引退してから孫達に笑顔で言った。
「人間何時でも誰かを好きになるものだ」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんみたいにだね」
「そうなるのね」
「何時でも」
「例えどんな歳でも」
 それが適齢期と言われる年齢を過ぎてもというのだ。
「そうなるものだ、だから皆もだよ」
「何時誰かを好きになるかわからない」
「そうなのね」
「だから僕達もそのことは覚えておいて」
「そうして」
「生きていくんだ、僕やお祖母さんの様に」
 歳は取って髪の毛はすっかり白くなり顔も皺だらけになったが三十代の面影そのままの顔で孫達に話した、そして妻と共に日課の散歩に出た。二人は今も愛し合っていた。


パープルロマンス   完


                  2021・2・17 
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