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人徳?いいえモフ徳です。

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六十八匹目

パーティーが始まった。

お母様たちお偉方の挨拶で始まるパーティー。

このパーティーは先々で行われるパーティーの練習の意味合いもあるが、学内の交流の意味合いが強い。

なのでそれほどマナーが厳しいわけではない。

普通なら声をかけられないような目上の家の子女に声をかけることもできる。

このパーティーで上級生は下級生を自らの派閥に誘ったりするらしい。

で、そんな立食パーティーで僕らは何をしているかと言えば。

「うん。やっぱりお菓子はサニャトリウム製よね」

「食ってばっかでいいのくーちゃん?」

ずっと食べてるのは話しかけるなっていう意味になる。

勿論マナー的に良くない。

だがよほど上級生に話しかけられるのが嫌なのか、さっきからちびちびと料理を食べてなくなったら取りに行っている。

僕らの魔法の腕と学問の優秀さは知れ渡っているので上級生たちは僕らを取り込もうと話しかける機会をうかがっている。

「いいのよ。学内政治には興味ないもの。突っかかってくる輩は捻り潰せば済むもの」

「……脳筋」

「だって私に政治基盤は必要ないし。大人になったらそうね、貴方たちと冒険者にでもなろうかしら」

「そりゃぁそうだけどさぁ」

くーちゃんの王位継承権は低い。

現王アルフレッドの直系の中ではという条件付きだが。

これが人間の国、例えばミズガリアなどであれば順当にいけばクーちゃんが王位を継ぐのが当たり前ではあるが、フライハイトの王族はエリクシールを使うため人間よりも長命である。

いまのアルフレッド王が退位すればそれを継ぐのはアーネスト王子。

順当にいけばその実子であるクーコ姫が王位を継ぐ。

が、アーネスト王子が退位する頃にはクリスティナ様かリオネ様が男児を産んでその子に継承権が行くだろう。

そうでなくてもクーちゃんにはやる気がないので多分継承権放棄を宣言して公爵家の誰かが王になる。

極論だが王にならないのであれば政治基盤は必要ない。

「だからって帝王学やら何やらは王族の必須科目でしょ? 人心掌握しなくていいの?」

「私の心は狭いの。貴方たち以外を入れる気はないわ」

そう言っているクーちゃんに話しかける影が複数。

「お初にお目にかかります姫様」

話しかけてのは代表者らしき男子上級生。

結構身長が高い。最上級生かな?

礼服をぴっちり着こんでいる。

その頭にはピンと立った犬耳。

後ろには数人の犬系獣人属。

種族で集まっているグループのようだ。

「ええ、始めまして。それで何か用かしら」

「はい。私の名はヤクト・ウォルガ。ウォルガ伯爵家の者です。ですが今は家は関係ありません。我々はこの学園でそれなりに大きな派閥でして」

その言葉を遮るようにしてクーちゃんが不満げに言った。

「勧誘かしら?」

「いえ! そのような身の程もわきまえぬような事をいうはずが無いではありませんか。逆ですよ。我々を姫様の手足として」

「要らないわ。話がそれだけならもういいかしら? そんな無駄話より貴方たちも料理を楽しんだら? 例年とは違ってうちのシラヌイが構える店が用意した甘未よ。楽しんでちょうだい」

「あ、あの、姫様?」

「貴方たちの協力はいらないわ。どうせ学園内の政治は興味ないもの。それに私にはもう優秀な部下が三人いるの」

そして帰れと言わんばかりに大口で甘未をほおばる。

「わかりました。もし何かあれば我々は強力を惜しまないのでいつでもお尋ねください」

そういって彼は部下を連れて帰っていった。

「いいの? あれ。部下の方今にも飛び掛かりそうだったけど」

「その時は貴方がどうにかしていたのでしょう?」

そりゃぁそうだけど。

「で、メリー。ヤクトの派閥については?」

シャクティがメリーちゃんに尋ねる。

「ようは狩猟同好会。さっきのヤクトが、一から作り上げた、正真正銘、ヤクトの派閥。
ヴォルガ家は、ウェアウルフの家。軍内でも、そこそこの地位。
ヤクト自身も、銀級冒険者」

たしかヤクト先輩のお父様であるヴォルガ伯爵は攻勢師団群の第一師団、つまりは歩兵部隊の大隊長の一人だったはず。

「銀か、結構な実力者なのだな」

なお僕らのパーティは鉄級。

試験が面倒だし、ギルドの優遇制度が欲しいわけではないからだ。

「うん。強い。学園内では、強い部類。でも問題、ない」

「そう。ならいいわ」

メリーちゃんの発言に興味をなくしたようにクーちゃんが切り捨てた。

「くーちゃん、一応言っとくけど数で押されたら僕ら無力だからね?」

数をひっくり返す魔法もあるができれば使いたくない類の物だ。

「慢心しては無いわシラヌイ。ちゃんとあのグループがどれくらい魔法を使えるかは確認したもの。私よりも耳がいい貴方ならわかるでしょう?」

僕とクーちゃんはエルフ族の血を引いている。

それはつまり魔力を感じる耳を持っているということだ。

確かにヤクト先輩とその部下たちの魔力はそう高くはなかった。

あの魔力量であれば大魔法の行使や魔法の連発は不可能だろう。

であればアウトレンジからの魔法攻撃で勝てる。

が、しかし。

「たしかにあの中にはいなかったけど、彼らは派閥の代表。彼らの派閥に魔法に秀でたものが居ないとは限らない。むしろ狩猟同好会なら後方要員がいないはずが無い」

魔物と戦うなら魔法を使える後方要因が必要になる。

物理攻撃が効きにくい相手はこのリベレーソの周辺にもいる。

最も身近な例はスライムだ。

「シラヌイ、貴方は慎重すぎるのよ」

「クーちゃんが能天気すぎるだけでしょ」

と言うとクーちゃんがムッとした顔をして食器を近くのテーブルに置いた。

そして僕の頭に手を伸ばす。

「お仕置きよシラヌイ」

「え?」

ずぼって耳に指を突っ込まれた。

さふさふさふさふさふさふ!!!!

「ふやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

side out

















「うゆぅ…!」

「シラヌイ―?」

クーコが調子に乗った結果シラヌイが拗ねてしまった。

今はシャクティの翼に隠れてしまっている。

「ほらー、プリンよ? 食べないの?」

とクーコがスプーンを差し出す。

「おい姫様私の羽に着けるなよ」

「もしつけたら?」

「口にケーキをねじ込む」

そんなやり取りをしながらもシャクティはシラヌイの意を汲んでシラヌイを翼で隠している。

クーコもそれはわかっていても言わない。

まぁ、ただの茶番である。

シラヌイが面倒な女ムーブで遊んでいると、遠くが少し騒がしくなっていた。

人だかりができていて中心が見えない。

クーコ一味がいるのが端っこなので、ちょうどホールの真ん中あたりだ。

「何かしら…シラヌイ」

「はいはい」

飽きたのかシャクティの翼から出てきたシラヌイが耳を澄ます。

「..........えぇ?」

「どうしたの? 喧嘩?」

「や…なんか…ギャンブルしてる」

「ギャンブルぅ?」

クーコがいい物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

「ちょっとクーちゃん?」

「な、なにかしら?」

「ダメだからね」

「えー」

シラヌイがメリーに視線を向ける。

「ぬいちゃんの、言う通り。意味ない」

「見るだけ、見るだけだから」

とクーコが人ごみに向かう。

そしてそれに追従するように、しょうがないなぁと三人が付いていくのだった。 
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