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幻想甲虫録

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刻まれし始まり 後編

青太郎「☆♯×ゞ¥@±#※¶§¢∂ω…………」


不気味な呻き声をあげ、コヒューコヒューと息をしながらジリジリとソウゴたちに近づく青太郎。


ソウゴ「霊夢、援護して!もしかしたら操られてるのかも!」

霊夢「え、ええ……」


一応警戒態勢に入り、必殺の切り札とも言われる札『スペルカード』を取り出すが。


ウォズ「その前に……我が魔王」

ソウゴ「何だよウォズ。今それどころじゃ―――――」

ウォズ「意思表明をさせてもらいたい。私が話したことは、ほんのひと握りでしかありません。それでも甲虫の王者になりたいですか?」

ソウゴ「そんなの………決まってる……!」


ソウゴは正気を失っている青太郎の前に立ち、睨みつける。


ソウゴ「俺は甲虫の王者になるって決めたんだ!!けれど……俺が魔王になるって言うのなら………誰からも好かれ、霊夢たちを守れる最強のムシキングに………『甲虫の魔王』になる!!」


霊夢の肩から飛び上がったその時、不思議なことが起こった。
全身がまばゆい閃光に包まれたかと思うと、先ほどより人間並に、青太郎並に巨大化したカブトムシが立ちはだかっていたのだ。
だが霊夢たちにはすぐにその正体がわかっていた。もしかしなくてもそのカブトムシはソウゴである。


ウォズ「…………」


巨大化したソウゴにウォズが静かに近づき、彼の決意が真実か否か問う。


ウォズ「………嘘偽りはないですね?」

ソウゴ「ああ!」

ウォズ「わかりました。魔理沙、ギルティ君。我が魔王の援護は無用です。まずはこの世界の我が魔王の実力を見定めてもらいます」


この時、ソウゴの気持ちは霊夢たちに伝わっていた。この決意は本物だ。本当に私たちを守りきるつもりでいると。
しかし正気を失っている青太郎にはソウゴの決意など何ひとつわからず、ソウゴを倒すことばかりで頭がいっぱいだった。


青太郎「オ前、ソコノグラントシロカブトニ魔王トカ呼バレル時点デサラニムカツク……ソウゴ、マズオ前カラ血祭リニアゲテクレルワァァァァァァ!!!!」

魔理沙「うわっ!ホントに操られてんのか!?スッゲェ迫力!」

ギルティ「ソウゴ、ぜってぇ負けんなよ!」

霊夢「そうよソウゴ!あんたがホントにムシキングになるってんなら私たちに実力見せてみなさい!」

ソウゴ「無論そのつもりさ!来な、青太郎!必ず元に戻してやるぜ!」

青太郎「ホザケェェェエェエエェ!!」


猛り狂う牡牛のように青太郎は突進するが、ソウゴも負けじと青太郎に飛びかかる。


ソウゴ「まずはフック!次もフック!」

青太郎「グォ!?ガァ!?」

ソウゴ「懺悔しやがれ!これがダゲキ技『ローリングスマッシュ』だぁ!!」


左右コンビネーションを決め、全身回転打を浴びせるダゲキ技『ローリングスマッシュ』。最後の一撃を食らった勢いで近くの大木に叩きつけられる青太郎。


青太郎「グゥゥゥ……貧乏巫女ノパートナーノ分際デェ………!」

ソウゴ「ちょっとカッコつけてみたけど、結構効いたの……かな?」

霊夢「効いたも何も、ちょっとどきなさい」

ソウゴ「え?」


大木に叩きつけられた青太郎に霊夢は微笑みながら額に青筋を浮かべて近づき、そのまま大顎をつかんでギリギリと締め上げ出した。
さあ青太郎、殺意の笑顔を浮かべる霊夢の顔を見るなりもうたまったものではない。赤い目から怯えの色が現れた。


青太郎「ナ、何ナンダソノ笑顔!?青太郎、何カ変ナコト言ッタ!?」

霊夢「あなたねぇ…………知らないと思うけどいつもうちの神社に奉納してくれる虫が最近現れたのよねぇ♪あのバカ妖精がパートナーの忍者虫がねぇ♪」

青太郎「バカ妖精専用忍者虫………ソウカ、アノ絶対正義ノ心ヲ持ツ父親ノ息子カ!」

霊夢「私の前で禁句言って絡まれるなんてとんだ災難ね。私はソウゴとは違うわ………正気に戻ってもボッコボコにして差し上げないと気が―――――」


大顎を握る力をさらに強めたその時、急に肩にポンと手を置かれた。
手と共にある黄色い長袖。こいしの手だった。


魔理沙「こいし?」

ギルティ「ウォズ?」

こいし「霊夢~?今はソウゴが戦ってるでしょ~」

ウォズ「霊夢、今は我が魔王の実力を見てもらう時間だ。手荒い真似はしたくないが邪魔しないでもらいたい」

こいし「というわけで………『キャッチアンドローズ』!!」

霊夢「ギャース!!」



ピチューン



こいしのスペルが発動され、霊夢はもろに直撃した。


霊夢「な、何……でぇ………」ピクピク

ウォズ「どうも失礼。このまま放っておけば『儀』ができなかったものでね」

魔・ギ「「儀?」」


儀とは何ぞやと言わんばかりに首をかしげる魔理沙とギルティ。こいしのスペルを食らい、ダメージが大きかったのかピクピクと体を震わせる霊夢。
だが、こいしのスペルを食らったのは霊夢だけではなかった。


魔理沙「ところでこいし。霊夢を止めたのはいいけど、そこで巻き添え食らった虫2匹誰だと思ってんだ?」

こいし「え?あっ!!」


そう、少し遡ると青太郎は霊夢に対し貧乏巫女と呼び、大顎をつかまれた。ソウゴの実力を見せる邪魔をしないでほしいとウォズは言い、こいしはスペルを発動させた。その近くには青太郎とソウゴ。
つまり青太郎は霊夢に大顎をつかまれた状態だったので回避できずに被弾、なぜか無関係のソウゴまで巻き込まれてしまったのだ。


青太郎「ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ………」ピクピク

ソウゴ「俺も巻き添えにしないでぇぇぇ………」ピクピク

こいし「ああ………ごめんね。霊夢を止めるためにはそうするしかなかったの」

ウォズ「我が魔王、ご無事ですか?」


すぐにソウゴの安否を確認するが、命に別状はない。安心すると同時に青太郎を横目にこう伝える。


ウォズ「だが青太郎も巻き込まれたということは……今がチャンスです、我が魔王。我々甲虫は………そうですね、例えば先ほど我が魔王が出したダゲキ技、ローリングスマッシュ。あれ以外にも強力な必殺技を持っているのはあなたもご存じのはず」

ソウゴ「………俺とギルティみたいなカブトムシはナゲかダゲキ………クワガタならハサミかダゲキ………青太郎のすくみはチョキでハサミだからあいつの方が有利だよな………でも待てよ?さっきこいしのスペルでかなりのダメージ食らってるし、俺が得意なあの技見せれるじゃん!」

ウォズ「その通りです。あなたの一番得意とする必殺技で青太郎を正気に戻せるはず!」

ソウゴ「っしゃあ!やってやるぜ!!」


意気込むソウゴに青太郎はふらつきながらも立ち上がり、殺意を秘めた赤目でソウゴを憎らしげに睨みつける。


青太郎「オノレ……コウナレバセメテ貴様ダケデモ……………!!」


おぼつかない足取りでソウゴに近づくも、先ほどのダメージのせいで思うように前に進めない。
そんな青太郎にソウゴは襲いかかり、前からガッチリとつかんだ。


ギルティ「青太郎の足が浮いた!てことはあの技…!」

魔理沙「出やがった!ソウゴが得意なあの風を巻き起こす回転技!」

ソウゴ「風よ、唸れ!『トルネードスロー』!!」


そう叫ぶと、魔理沙の言う通り青太郎をつかんだまま竜巻のごとく大回転。
目を回したのを確認すると、そのまま遠くへ放り投げたのだった。


ソウゴ「どっせーい!!」

青太郎「ヌ゛ア゛ァァァァァァ!!」



ズシイイイイイイイイン



放り投げられた青太郎はなす術もなく地面に落下。そのままピクリとも動かなくなった。同時に目の赤い光が消える。


ソウゴ「勝った……これで青太郎は正気に戻ったはず」

ウォズ「こいし、我が魔王の『勝利の儀』の準備はいいか?」

こいし「オッケー!」

ギルティ「ん?勝利の儀?さっきウォズが言ってたのって、まさか…」


先ほどのウォズの言葉『儀』を思い出し、全てを悟ったように察した。


こいし「静まれ~!そして崇めよ~!魔王ソウゴの勝利を祝うがいい~!」


ソウゴの横に立ったこいしは彼の前足を手に取り、天へと掲げる。
同時にウォズも威厳のある声でこう叫んだ。


ウォズ「祝え!全甲虫を凌駕し、時空を超え、過去と未来をしろ示す『甲虫の王者』!その名もソウゴ!!今ここに勝利が刻まれた瞬間である!!」

魔理沙「……………」

ギルティ「……………」


いちいち必要なのかと言わんばかりに魔理沙とギルティはポカーンと口を開けてしまった。


霊夢「………それいちいち必要なの?」


霊夢も同じように呆れていた。


ソウゴ「なんか恥ずかしい……」

???「青太郎ォ!!こんな所にいたんだ!」


階段の方から少女の声が聞こえてきた。そこに現れたのは猫耳と2本の尻尾を生やした少女『橙』。様子からして青太郎のパートナーであろう。
後からサイズはソウゴより大きいブルマイスターツヤクワガタが橙を追うように現れた。背中にはどういうわけか『S』というアルファベットが刻まれている。


ブルマイスター「待ってくれ橙!青太郎が心配なのはわかるが………って青太郎がボロボロに!?」

霊夢「橙!?そっちの虫は!?」

青太郎「………」キュー


目を回して倒れている青太郎を見つけるなり、ブルマイスターツヤクワガタはソウゴの方へ目を向けた。


ブルマイスター「お、おい君!?」

ソウゴ「はい?」

ブルマイスター「一体誰が青太郎にこんなことしたんだ!?」

ソウゴ「ちょっと待ってちょっと待って!?え、あんた誰なの!?」

ブルマイスター「ああ、失礼。俺は外の世界からやって来た『昆虫国際警察』の警官、ケイジロウだ」

魔理沙「け、警察!?」


混乱するソウゴたちにケイジロウと名乗るブルマイスターツヤクワガタは警察手帳を見せる。
するとウォズが説明するために前に出た。


ウォズ「警察の方ですか。失礼ながらあの者は我が魔王に倒されました。ですがこちらが応戦しなくては、我が魔王だけでなく霊夢たちがやられていた可能性もあります」

橙「どういうことなの?」

ウォズ「えっと、青太郎………でしたか?彼はいきなり襲いかかってきました。しかも彼の目は赤く光り、我を失っていた様子でした」

橙「青太郎はそんなことしない!だって青太郎は臆病で泣き虫だもん!」


だが青太郎はソウゴたちを始末しようと襲いかかってきた。ウォズの言葉とソウゴたちが目撃したことに間違いはない。
にもかかわらず橙には信じられず、あり得ないというような表情で首を振った。


ケイジロウ「橙、何気にひどく言ってないか?」

ギルティ「子供は純粋だからなぁ……」

霊夢「………」


なぜか霊夢がソウゴをジッと見つめている。


ソウゴ「霊夢、何で俺を見るの?」

ケイジロウ「だが……青太郎が赤目?」

ソウゴ「そうなんだ。鈴奈庵で読んだ伝記に出てきた『赤い目をした虫たち』のような感じが……」

ギルティ「あ、それ俺も読んだぞ。確か『森の妖精の少年と共に捨てられた甲虫たちやそんな彼らを操って森を支配しようとする悪の妖精との戦い』って………」

ソウゴ「ギルティも読んでたんだ!!」

ウォズ「待て、その悪の妖精というのは『アダー』と呼ばれる老人か?」

ソウゴ「うん。でもアダーはすでに死んでるはずだけど………何で青太郎が?」

ケイジロウ「後で徹底的に調査する必要があるな………ともかく、今は青太郎が気絶しているが、止めてくれたことに感謝する。君、名前は?」

ソウゴ「あ、俺は…」


名乗ろうとした途端、ウォズがそれを遮るように口を開いた。


ウォズ「待ちたまえ」

ソウゴ「ウォズ?」

ウォズ「とりあえずあれを言っておかなくては……」

こいし以外全員『?』


何をしたいのかわからず、ソウゴたちは首をかしげた。
そしてウォズは青太郎に勝った時と同じように威厳のある声でこう叫んだ。


ウォズ「ひれ伏せ!彼こそ『甲虫の王者ムシキング』になる男、ソウゴ!そのパートナーの博麗霊夢、魔王たるソウゴとその家臣であるウォズ!三位一体となって未来を創出する甲虫の王者である!!」

こいし「王者であるぞ~!」

こいし以外全員『……………』



カマシスギッ!



この場にいる全員がポカーンとしてしまった。


こいし「…あれ?」

ウォズ「あー…ゴホンッ、である!」

ソウゴ「ちょっと!?何なの!?」

ウォズ「何とは?」

霊夢「そもそも何なのそれ!?」

ウォズ「決まっているではないか。気絶であるとはいえ、我が魔王はまず青太郎に勝利したのだ。それを喧伝しなければならない」

ケイジロウ「あー…んと………その………ソウゴ君で……いいんだな。えっと……精神病とか知らないから精神科の病院紹介できないんだ………強く生きろよ?」


気遣うように苦笑しながら気絶した青太郎を背負って言った。


ギルティ(あ、これ警官に痛い子認定されたっぽいな……)

ソウゴ「解せぬ」

ケイジロウ「とりあえず橙、まずは青太郎を永遠亭に連れてこう」

橙「うん、おじさん!」

ケイジロウ「いや、だからおじさんはやめてくれ橙……」


博麗神社を去る橙とケイジロウに別れを告げたソウゴたちであった。










そんな中、とある木の枝にソウゴたちが橙とケイジロウに別れを告げるところを眺める1匹のクワガタがいた。


マゼンタのセアカフタマタ「………あれが甲虫の魔王になると言われるソウゴか。なるほど、確かにあいつの可能性は未知数だ」


そのセアカフタマタクワガタはソウゴを評価するような目で見ており、そう呟いた。彼の名は『デストロイヤー』。数多の世界を渡り歩くクワガタだ。何か目的があって幻想郷へ来たのだろう。
だがこの時、デストロイヤーは気づいていなかった。背後からもう1匹のクワガタが忍び寄ってきていたことを。


デストロイヤー「まあ、もし甲虫の魔王になるような未来に確約されてるならこの世界を破壊するしか―――――」

シアンのグランディス「やあ、デストロイヤー。こんな所にいたんだね」

デストロイヤー「ゲッ、『イーストシー』!?」


もう1匹のクワガタことグランディスオオクワガタのイーストシーはソウゴたちを見るデストロイヤーに話しかけるが、彼は思わず嫌そうな顔をしてしまった。


イーストシー「もういい加減ナマコを食べられるようになった?」

デストロイヤー「お前に言われたくない。てか、何セクハラしようとする?ナマコぶつけるぞ」

イーストシー「残念だけど幻想郷には海がないからナマコは…」

デストロイヤー「言うと思った。ほい」

イーストシー「え゛?」


デストロイヤーは自分の持っている荷物からあるものを取り出した。
イーストシーの言う通り、幻想郷には海はない。海はないはずなのだ。にもかかわらずデストロイヤーの荷物からは………ナマコが出てきたのだ。


イーストシー「何でナマコ持ってるの?」

デストロイヤー「どうした?お前はナマコ食えるんだろ?」

イーストシー「あ……えーっと、僕ちょっと用事を思い出した。そろそろ行かなくては。『キリガクレ』」


煙に紛れて姿を消し、上から挟み込んで地面に埋めるハサミ技『キリガクレ』。本来ならその攻撃のはずだが、去るためにも使用できるらしい。
逃げるように姿を消したイーストシーにデストロイヤーはため息をつく。


デストロイヤー「………幻想郷の住民にナマコでも渡そうかな。イーストシー対策として。あいつ絶対お宝狙うからなぁ……」










ところ変わって、ある森にて。
血のように赤い体色のギラファノコギリクワガタが雑魚妖怪の死体の生き血をすすっていた。


???「ペッ、まずい。クソガキ共の相手をするのはもう飽きた。まだまだ足りねぇなぁ………こんな血じゃ全く満たされねぇ………」


その血を吐き出した後、大顎で死体の首を切断し、空を睨みつける。


???「もっと生き血が欲しい。もっと殺して、もっと血が欲しい!甲虫のクソ野郎共を1匹残らず殺し尽くしてやる………!!」


悪も動き出そうとしていた。
左目と全身に負った引っ掻き傷が特徴的なギラファノコギリクワガタ、その名は『ディアボロ』。ある理由でソウゴたち全ての甲虫の存在を憎むクワガタだった。 
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