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退院するまで待って

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第一章

               退院するまで待って
 トルコのアンカラに住むセマルケン=トゥルグは愛犬のボンクク、雌の白い垂れ耳の大きな優しい顔立ちの犬を散歩に連れて行く時に交通事故に遭った。そしてだった。
 すぐに救急車に乗せられて病院に連れて行かれた、その時に。
「ワンワン!」
「えっ、ボンクク」
 飼い主は愛犬が救急車の中に入ってきたのを見て驚いた、浅黒い肌に黒い髪と目で顎髭のあるやや小柄な初老の男性だ。
「ついて来てくれたんだ」
「あの、ちょっと犬は」
「病院ですから」
 救急車の中のスタッフ達が彼女を見て言った。
「ですから」
「ここは」
「ちょっとお願いします、ついて来てくれるのなら」
 飼い主はスタッフ達に言ってだった。
 ボンククに救急車の中にいてもらった、そうして救急車で病院の中に入れられた。診断の結果命に別状はなかったが入院することになった。
 するとだ、ボンククは。
「今日もですね」
「はい」
 トゥルグの娘で入院中の父の世話をしている学生のアイヌールが言ってきた、さらりとした長い黒髪と長い睫毛の二重の目に琥珀の様な肌と見事なスタイルの持ち主だ。着ている服は楚々とした感じだ。
「どうしてもです」
「病院の前にですね」
「来たい感じで私達も根負けして」
 アイヌールは病院のスタッフに話した。
「こうして」
「そうなんですね」
「はい、ですが」
「それでもですね」
「こうして来て」
「ご主人を待っていますか」
「そうです」
 こうスタッフに話した。
「この通り」
「そうですか、では病院の中に入らないですし」
「いいですか」
「それだけ想ってくれるなら」
 それならというのだ。
「私達も」
「そうですか」
「はい、そして」
 それでというのだ。
「この娘の隙にさせましょう」
「申し訳ありません」
「謝る必要はないです、この娘の気持ちを受け取りましたので」
 病院の者達はこう言ってだった。
 ボンククが毎日病院の前にいることをいいとした、彼女はそこでずっとじっとしていて人が病院に出るとみてドゥルクかを確かめた。
 だが彼はまだ退院せず常にだった。
 がっくりとなった、しかし。
 遂に彼が退院した時だった。
「ワンワンワン!」
「お待たせ、ボンクク」
「この娘はずっと貴方を待っていました」 
 院長が彼に笑顔で話した。 
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