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異生神妖魔学園

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鬼灯冷火は動かない:黄泉への13階段

鬼灯冷火。異生神妖魔学園の生徒で、魂喰い鬼である。
天才的な頭脳を持ち、飛び級で合格したほどの実力も兼ね備えているため、教え上手でもある少女だ。
そして、彼女は小説家でもある。執筆中のファンタジー小説『メリーとアイズリー』シリーズが大人気で、世界中に大ヒットさせたほど。
もちろん彼女には担当がいる。これはその男が体験した話である。










ある日の休み時間のこと。冷火のスマホに担当から電話がかかってくる。


冷火「はい、鬼灯です(また催促とかなんだろ?いちいちめんどくせぇんだよ……)」

担当『鬼灯先生。僕今度……村の高級アパートに引っ越すことになりました』

冷火「えっ?(こいつ何言ってんの?)」


彼が昔から貧乏なのは冷火もよく知っていた。
高級アパートに住む?文字通り家賃も高く、そんな彼に到底できるわけがない。


冷火「さ、さすがに冗談ですよね?あなた昔から貧乏じゃないですか。そんなお金どこにあるんですか?」

担当『メッチャいい物件なんですよ!2階建てで外側に階段があるんですけど、これから行くのは上ってすぐ横の201号室なんです。他の部屋の家賃全部10万円なんですけど、僕が住む201号室だけ………たった5千円なんですよ』

冷火「5千円!?他の部屋の家賃かなり高いのにそこだけ5千円!?いやいや、それは絶対に怪しい!もし後から来て『家賃大幅アップしました』とか言われて払えずに大家さんから追い出されたら…!」

担当『不動産屋さんホントに言ってましたもん!ホントに5千円しかしないって!何かあったら面白いネタになるかもしれないし、こんな美味しい話、乗らないわけにはいきませんよ!』


不動産屋はいわくつき物件のものに関しては絶対口にしてはならない義務があった。冷火は明日聞きに行きましょうと言い、担当もわかりましたと答えてくれた。





翌日、担当と高級アパートの家賃の安い部屋を提供したその不動産屋へ。
話してくれないことはわかっていたが、それでも単刀直入に聞いてみた。


冷火「あのアパートの部屋……ヤバイですよね?」


店員は悪びれることなく答える。


店員「はい、ヤバイです。あの部屋は以前4人の方が住んでまして……ですが誰も2週間も経たないうちに出ていってるんです。3人は夜逃げするかのように出ていって、あとの1人はなぜか遺体で発見されていました。窒息死だったんですよね」


店員の話を聞いていた担当はネタになると考えたらしく、その部屋に入居することになってしまった。
この時冷火は契約をやめるべきだと忠告していたが、彼は聞いてくれなかった。





異変は早速起きた。不動産屋で店員から話を聞いたその日の翌日、冷火のスマホに担当から電話がかかってきた。


冷火「はい、鬼灯です(こんな時間に何の用だよ…もう行かなきゃならねぇってのに……)」

担当『鬼灯先生。やっぱヤバイっすよ、ここ…』

冷火「何かあったんですか?(どうせ店員が言ってたあれだろ?)」

担当『引っ越しが終わってその疲れで寝てたんですが、急に寝苦しくなって目が覚めたんですよ。時計見たら夜の2時22分で、下の方から子供の声がワーワー聞こえてきました。誰だって思ってカーテン開けてみたらピタッてやむんですよね。閉じたらまたワーワー聞こえてくるんです』

冷火「子供が遊ぶ時間じゃないのに………それから?」

担当『それからよくわからないんですけど、階段の方からゴトンッて聞こえてきまして。昨夜そんなことがありました』

冷火「……もう1回詳しく話聞いた方がいいんじゃないですか?」





その日の放課後、冷火は担当と共にもう一度不動産屋に行ってみることに。
話を聞いてみると、2階建ての家は階段の段数は14段であるという決まりがある。ところがまれに13段という建物もあり、担当が住むことになった高級アパートがまさにそれだった。
何でも13段上ってすぐ横にある201号室は絶対に入ってはいけないと不動産業界では噂になっているらしい。
アパートに帰った担当はすぐに段数を数えてみたが、何度数えても13段しかなかった。しかし彼は引っ越しを考えなかった。ネタになるかもしれないという考えが強かったのだ。




2日目の朝。冷火のスマホにまた担当から電話がかかってくる。


冷火「またですか…そろそろ行かなきゃならないんですけど(ホンットいい加減にしやがれってんだ!ろくに準備もできやしねぇ!)」

担当『すいません、ホントに。実はまた聞こえてきたんですよね』

冷火「引っ越そうとか考えてないんですか?」

担当『考えてないですよ。また同じ時間に目が覚めまして……また2時22分なんです。気持ち悪いなって思ってたらまたあの声が聞こえてきて、今度は階段の方からゴトンゴトンッて音が鳴りました』

冷火「いや、ちょっと待ってくださいよ。昨日話した時ゴトンッて1回だけでしたよね?ゴトンゴトンッて2回鳴ってるのはなぜですか?」

担当『今そのことを話そうとしてまして。あの音でハッと気づきました。階段上ってる音だって』

冷火「階段を上ってる………え、じゃあ店員が言ってたあの『誰も2週間持たなかった』っていうのは…そういえばあのアパートの階段13段でしたよね!?2週間ってことは全部上りきったら入ってきちゃうじゃないですか!だから前の住人はみんな出ていったんじゃ…!」


ところが担当、冷火の話も聞かずにずっとその部屋に住むと発言。もはや引っ越す気などさらさらなかった。





冷火があの話を忘れかけた頃の13日目、彼女のスマホに電話がかかってきた。
相手はあの担当だった。あの話を思い出して電話に出ると、あり得ないことが起こったと言う。


担当『いつもゴトンゴトンッて鳴ってたのに、夕べは明らかに大人数かもしれないのが階段をドドドドドッ!て上ったり下りたり、ドアをドーンドーン!って叩かれたんです…』

冷火「だから言ったじゃないですか!絶対やめた方がいいって!(バカが!なーにがネタになるだ!こんなギリギリまで黙りやがって!)」

担当『僕もう決めました。2週間経つ前に今日引っ越しの準備して出ていきますんで手伝ってくれますか?』

冷火(朝からなんて迷惑な奴だ…)


その日、冷火は学校を休み、担当の引っ越しを手伝うことに。
行く途中神社で魔除けのお守りを2つ買い、彼のアパートに着くと、暗くなる前にすぐに引っ越しの準備を始めた。





ところがかなり手間取っているせいか、荷造りはなかなか終わらず、とうとうアパートの周りは闇に包まれてしまった。
時刻は9時、それは起こったのだった。


冷火「もうすっかり暗くなっちゃって……明日も学校あるのに」

担当「ホントすいません。でももう少しなんで頑張りましょう」


その瞬間、部屋が何も見えないほど暗くなり、冷火たちは闇に飲まれた。


冷火「おい、どういうことなんだよ!こんな時にブレーカー落ちるなんて!」


目が慣れるまでしばらく時間がかかる。
転倒したりぶつかったりしたら大変だと思った冷火は手探りで壁を伝い、ブレーカーを探すことに。


冷火「どこにあんだよ、ブレーカーはよ!」


人の家なのでなかなか見つからない。ところが急に担当のうめき声が聞こえてきた。


担当「うぅっ!ガッハァァア……!」

冷火「ちょっと!?どうしたんですかこんな時に!」


うめき声は聞こえるが、辺りは闇に包まれているので何が起きているかわからない。
ところが、冷火の目が次第に闇に慣れてくると………そこでとんでもないものを見た。


担当「あ゛っ………あ゛ぁあっ………」


なんと担当が床に倒れ、苦しそうにもがいているではないか。
霊のしわざか?放っておけば命取りになりかねない。急いでブレーカーを探す冷火。玄関も探してみたが、窓から漏れる光のおかげで簡単に見つけることができた。
部屋全体が明るくなり、すぐに救急車を呼び、彼は病院へ搬送された。





担当は一命を取り止めたが、あの時苦しんだ理由があり得なかった。
冷火がアパートに行く途中買った魔除けのお守り。そのうちひとつを担当に与えたのだが、そのお守りが彼の喉に詰まっていたのだ。もし1人で引っ越しの準備をしていれば、前の住人のように間違いなく窒息死していた。










あれから担当は元気に暮らしているが、あの日体験した恐怖からか、引っ越しを考えることは二度となかった。 
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