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Fate/WizarDragonknight

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困った恋愛脳

 昼過ぎ。
 そろそろココアたちもラビットハウスに戻ってきた時間帯で、ラビットハウスにいるであろう可奈美も今日のシフトは終わったころ。
 ウサギたちからモカを引き剥がし、ハルトは公園を後にしようとしていた。

「ああ、オッちゃん……オッちゃん……」
「おっさん?」
「オッドアイのウサギだからオッちゃん。いい名前でしょ?」
「……ウェルカムかもーんといい、保登さんちはなかなか逸脱なネーミングセンスなんだね」
「うん?」

 まだ名残惜しそうにウサギを見ている。
 ご丁寧に、モカと戯れていたウサギもまた、見滝原公園の草原部分の端でこちらを見つめていた。
 赤と緑の瞳をみて、あああれがオッちゃんかと思いながら、ハルトはモカを引っ張る。

「ほら、モカさん」
「オッちゃん……君のことは忘れないよ……!」

 モカが、大袈裟にハンカチを取り出している。汽車の見送りのようだった。
 動くよりもこのドラマチックな寸劇を優先しようとする彼女に、ハルトは呼びかける。

「また明日も連れてきますから! それより、ラビットハウスに戻りますよ。ココアちゃんもそろそろ帰ってきていますから」

 ハルトはそう言いながら、スマホを確認する。既に二時を下っている。寄り道でもしない限りは、ココアももうラビットハウスに到着しているころだろう。

「ええ? もうそんな時間?」

 駐車場に付き、モカへヘルメットを渡す。

「もうちょっと皆と遊びたかったな……」
「はいはい。申し訳ないんですけど、俺もこの後用事があるんで」
「お? もしかしてハル君、彼女?」
「いません。そもそも最近まで旅してたんで」

 ハルトは言いながら、マシンウィンガーに腰かけた。座席が弾むのと時同じく、モカもハルトの後ろに腰を下ろした。

「ん? いないの? じゃあお姉さんがなってあげようか?」
「結構です」

 ヘルメットのシールド越しに頬をつついてくるモカ。ハルトは少し気まずさを感じながらアクセルを入れる。モカは気付かないだろうが、ハルトの体内の魔力を動力にしているそれは、ハルトたちを科学の馬に等しい走力を与えた。

「ええ? じゃあココアは? ココア、可愛いでしょ?」

 突然妹を売ってきた姉。

「ないですから」
「じゃあ、可奈美ちゃん? それともチノちゃん? あの子は流石に犯罪だよ?」
「二人とも同い年……あ、そうか。可奈美ちゃん十六ってことになってるのか。まあ、そうじゃなくてもチノちゃんは中学生に見えないけど。……じゃなくて、だから俺は」
「そうやって否定ばっかりしてくるの、子供っぽいぞ」
「いや、これ別に否定しているわけじゃ……あの、モカさん。俺、運転中運転中」

 モカがヘルメットの上から頭を撫でてくる。視界がぐるぐると揺れながら、ハルトは彼女の手を振り払う。

「親戚のおばさんですかアンタは。ないですって。そもそも俺は……」

 そこまで言いかけたところで、ハルトは口を閉じる。

「ハル君?」
「いや、何でもないです」

 公園がある通りを抜け、見滝原中央駅にたどり着く。ここから西に向かっていけば、ラビットハウスがある木組みの街に着く。
 その時。

「……!」
「きゃっ!」

 ハルトはブレーキをかける。
 路肩に停車したそれは、予備動作もなかったため、モカが小さな悲鳴を上げていた。

「も、もう……ハル君。急ブレーキは危ないよ」

 ハルトの耳には、モカの苦言は入っていなかった。
 ヘルメットを外したハルトは、道を歩く女子中学生へ声をかけていた。

「ほむらちゃん!」

 その声に、少女は足を止める。長い黒髪を靡かせながら、ゆっくりとハルトを振り返る。
 暁美(あけみ)ほむら。ハルトとは少なくない因縁を持つ、聖杯戦争の参加者の一人。
 これまでほとんどポーカーフェイスをハルトに見せてきた彼女だったが、ハルトの姿を見るなり、目を大きく見開いた。

「松菜ハルト!」

 魔法少女としての姿もあるのに、生身のほむらがハルトの肩を掴む瞬間を、視認することができなかった。

「フェイカーを見なかった!?」
「え!?」

 彼女の口から、先ほどハルトが戦ったばかりのサーヴァントの名前を口にした。
 だが、それはもう何時間も前の話。
 ハルトは頷く。
 すると、ほむらは更に詰め寄った。

「どこで!? いつ!?」
「十一時くらいに……見滝原公園で」
「十一時……」

 その時刻を知った瞬間、ほむらの顔が歪む。

「あれ? もしかして、本命はこの子?」
「違います!」

 おちょくってくるモカを制しながら、ハルトは改めてモカの質問に答える。

「十一時だよ」
「私よりも早い……!」

 ほむらは唇を噛んだ。
 その只ならぬ雰囲気に、ハルトは尋ねた。

「何かあったの?」
「貴方には関係ないわ」

 ほむらは唇を噛みながら、走り去ろうとする。
 ハルトは彼女を追いかけようとするが、あの体のどこにそんな力があるのかと聞きたくなる勢いで、彼女の姿は見えなくなっていった。

「何なんだ一体……?」

 ハルトはそう言いながら、モカに振り替える。

「ごめんなさい、モカさん。少し急用ができたみたい。えっと、帰り方分かります?」
「分かるけど……どうしたのハル君。なんか、怖い顔してるよ?」

 モカの言葉に、ハルトは努めて表情を作る。咳払いをした後、改めてほむらの姿を見る。

「あの子、ちょっとした知り合いで……さっきの話は、ちょっと俺に……あんまり口外できない秘密の用事があったみたいなんです!」

 精一杯の言い訳を口にする。ぽかんとした顔のモカに果たして伝わっているのかどうか気になるところだが、次の彼女の返答次第では、魔法を使っても引き離さなければならなくなる。
 そして。

「分かった! つまり、あの子と逢引きね!」
「違うからああああああああ!」

 今、このお姉ちゃん属性の塊の一面が分かった気がする。
 この人は。

(恋愛脳だ……っ!)

 そう考えて彼女を見てみれば、なるほど目がハート型になっていたり、手を頬に当てていたり(それでなぜか我妻由乃の姿を連想したのは蓋をしておく)。
 変な勘繰りを入れられる前に、ラビットハウスに返さなければとハルトは結論付けた。

「あ、あとは……この駅から、見滝原線に乗れば三駅で木組み通り駅に行けるので、そこから十五分くらい、商店街を右に行けば帰れますよ」
「うん。分かった。ココアたちにはうまく言っておくよ」

 明らかにハルトのことを誤解しているモカは、キラキラと笑顔で答えた。

「でも、そういうのはお姉さん、感心しないぞ? ちゃんと一人心に決めて、それ以外の人はちゃんとある程度の距離を置かなくちゃね♡ 可奈美ちゃんとか」
「だからそういうのじゃないってば! ……ああもうっ!」

 見れば、もうほむらの姿が小さい。
 ハルトはモカからヘルメットを返してもらいながら告げる。

「とりあえず、ここからの帰り方は今説明した通りですからね! 何かあったら連絡してください。一応注意していますから」
「そんなことより、速く行かないと彼女行っちゃうわよ?」
「だからそういう関係じゃないですって!」

 言いながら、ハルトはアクセルを入れる。

「とにかく、もうラビットハウスにココアちゃんも戻っていると思うので、戻ったら今日はじっとしていてくださいね。くれぐれも、変なところに行ったりしないでくださいよ?」

 ハルトはそう言うが速いが、マシンウィンガーのアクセルを入れた。
 最後に、モカの言葉など、発射音で掻き消されていた。

「ふふふ。こんな面白そうなこと、私が見逃すわけないでしょ?」



「ほむらちゃん!」

 いくら強化されたとはいえ、生身とバイク。マシンウィンガーの速度ならば、即座にほむらに追いついた。
ハルトの声に、ほむらはイヤそうな姿で振り向く。

「松菜ハルト……」

 その名前を毒づく。
 ハルトはバイクをほむらの前に停車させた。

「心配出来てあげたのに、その顔はないでしょ。それよりフェイカーって、何があったの? それに、そんなに焦って……」

 だがほむらは、彼の言葉を最後まで待たずに、ハルトの手からヘルメットをひったくる。そのまま後部座席に乗り込み、その首に掴みかかる。

「出して!」
「ちょっと、ほむらちゃん! 苦しい、放して!」
「いいから出して!」

 それまで聞いたことがないようなほむらの大声に、ハルトはバイクを走らせた。
 その風に体を落としながら、ほむらは続ける。

「急いで! フェイカーを探して!」
「フェイカーを探してって……一体何が起こっ……」
「まどかが……」

 ハルトの言葉を遮りながら、ほむらが唇を噛む。
 彼女はそのまま、ハルトに必死の形相で訴えた。



「まどかが、誘拐された!」 
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