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それから 本町絢と水島基は  結末

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第九章
  9-⑴

「先生、正月うちに来てよ 寮じゃぁ食事出ないんだろ 大したもん無いけど、ゆっくりしてくれりゃぁいいよ 幸一郎達も喜ぶから」

 大晦日は1時までやっているから、元旦の少し遅めの10時に来てくれと言われていた。お店に行くと、富美子ちやんが飛んで出てきて、客席の奥の座敷に連れて行ってくれた。お父さんは、もう飲み始めていた。

「先生、まぁ 飲んでくれ」とお酌をしようとしてきたけど

「僕は、日本酒はちょっと」と断ると、お母さんがビールを出してくれた。富美子ちゃんが隣にちょこんと座ってきて

「先生 これ 富美が作ったから 食べてー」鯛のカルパッチョ風

「お母さんに言われて、混ぜただけじゃないか」と、幸一郎君がポツンと

「お兄ちゃん ばらさないで 裏切者」と、すねた顔をしていた。

「おいしいよ 富美子ちゃん」と僕が言ったら

「ほんと よかった」と、無邪気な笑顔で返してきた。

 しばらく、食べていると、お父さんが

「幸一郎 先生に頼んで、一緒に神社にお願いしてこいや」

「うん 行こう 行こう」と富美子ちゃんが、先に反応した。

「だめだよ 受験のお願いだから、先生とふたりで行くんだ」

「お願いよー 富美 邪魔しないから」

「じゃぁ みんなで行きましょうよ」とお母さんが言ったけど

「ワシは ゆっくり 飲んでいる 今日くらいは飲ませてくれよー」

「明日から 仕込み始めるんだから 飲み過ぎないでよ」とお父さんの背中をポンと叩いていて、立って行った。着替えにいったんだろう。

 路面電車に乗り、少し、歩いて天満宮に向かった。中に短いジャンパースカートを着ているはずの富美子ちゃんが、ダッフルコートだけが歩いているようにしか、見えない。細く、長い脚が真っ直ぐに伸びている。あの両親に似ているとは思えないのだ。

 人も多かったけど、それまで、お母さんと並んで歩いていた富美子ちゃんが、境内に入ると、僕の腕を取ってつかんできた。
 お参りが終わって、帰り道でも、富美子ちゃんは僕の腕をとって組んだままだ。

「富美 先生と仲が良いんだね 神社で何をお願いしたの?」とお母さんが聞いていた。

「うん お兄ちゃんが合格しますようにってお願いした」

「富美 お前って」と幸一郎君が思わず言ったら

「違うよ 馬鹿な兄を持ったら、かわいい妹が苦労するからね」と、言い放って、逃げて行った。

 夕食も一緒にと誘われたが、遠慮した。寮にご飯の用意が無いのはわかっていたが、なんだか、自分勝手にやりたかった。



 
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