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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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特別編 追憶の百竜夜行 其の十一

 
前書き
◇今話の登場ハンター

◇ディード
 新大陸古龍調査団の元メンバーに師事していた新人ハンターであり、格安で依頼を受けることも厭わないお人好しなスラッシュアックス使い。武器はデスピアダドIを使用し、防具はデスギアシリーズ一式を着用している。当時の年齢は20歳。
 ※原案は踊り虫先生。

◇フィオドーラ
 新大陸の調査員として活動中だった北方出身の新人ハンターであり、プケプケに並々ならぬ執着を見せる貴族出身の少女。武器はヒルバーボウIを使用し、防具はプケプケシリーズ一式を着用している。当時の年齢は13歳。
 ※原案はひがつち先生。

◇ムスケル・マソー
 逞しい筋肉美を誇り、外見に反した可憐な声帯まで持ち合わせている強烈な新人ハンターだが、言動は至って常識的であり気遣いも出来る好漢。武器はカムラノ鉄笛Iを使用し、防具はアルブーロシリーズ一式を着用している。当時の年齢は25歳。
 ※原案は王さん先生。
 

 
 スリンガーをはじめとする、新大陸古龍調査団ならではの装備を携行している彼の名は、ディード。2期団に所属していた元ハンターに師事していた彼は、師からその装備を譲り受けているのだ。

「ディード……あなたも来てたのね」
「あんな手紙寄越されて、断るような奴なんて俺達の中にはいないだろう? 仲間外れはごめんだからね」

 デスギアシリーズの防具で全てを覆い隠すディードは、エルネアに不敵な笑みを向けている。「仲間外れは嫌だから」と言ってはいるが、例え他の同期達が断っていたとしても、彼は必ず引き受けていた。引き受けねばならない、理由があるのだ。

 ――かつて。飢饉により困窮すると同時に、モンスターの被害を受けるも報酬を用意できず、依頼が出せないまま壊滅した村があった。
 その村でただ1人生き延びた子供は、誓ったのである。このような悲劇を味わうのは、自分が最後でなければならない。希望に縋る資格もなく、ただ滅びを待つだけの運命など、受け入れてはならないと。

「でも、ベルナ村からここまで来る移動費も馬鹿にはならなかったでしょう……?」
「ちょうど最近、『格安キャンペーン中』だったのさ。旅費も込みでの報酬なんて、俺にとっちゃあ高すぎるくらいだね!」

 ギルドを通さずに格安で依頼を受ける。そのような行為を水面下で繰り返している彼の「格安キャンペーン」も、己が味わってきた悲劇故のものであった。
 スリンガーからクラッチクローを飛ばした彼は、その爪でジンオウガを捉えると一瞬で取り付き。「格安」に反したハイクオリティな仕事を実行するべく、背中の得物を引き抜いていく。

「師匠譲りの、龍属性には良く効く刃だ。……遠慮なく、たっぷり味わえ」

 柔らかな口調でありながらも、冷たい声色で。ディードはそう呟き、デスピアダドIの斧モードを振り下ろしていく。
 垂直に振り抜かれた刃は、ジンオウガの巨躯を真っ直ぐに切り裂き。ディードの全身に、その返り血を浴びせていた。

「おぉ……おおッ!」

 さらに、着地しながら無軌道にその刃を振り回し、幾度となく雷狼竜の肉体に刃を沈め。剣モードへと変形させた瞬間、軽やかに地を蹴り飛天連撃を見舞う。
 最後に放った渾身の属性解放突きは、凄まじい爆音と共にジンオウガの巨体を横転させ、その威力を雄弁に物語っていた。

「すごい……疾いだけじゃない、一撃一撃が重い……!」
「イスミ、しっかりしろ! この程度で参る君じゃないだろッ!」

 そんな怒涛の猛攻にエルネアが息を呑む頃には、すでにディードはイスミの身体を抱え、ジンオウガから距離を取っていた。手際良く回復薬を飲ませたのは、その直後である。

「……!? ディ、ディード! あたしなんかに構ってる場合かいっ!?」
「それだけ騒げるならもう大丈夫だね。やっぱり、スカルダ装備は伊達じゃないな」

 意識を取り戻した瞬間、イスミは間近に迫っていたディードの貌に仰天して跳ね起きていた。そんな彼女のリアクションに微笑を浮かべつつ、ディードは再びデスピアダドを引き抜き、臨戦体勢に移行していく。
 ジンオウガもすでにその巨大を立て直し、逆襲しようとしていた。

「……済まないねぇ。こんな顔、見ても面白くなかったろう」
「そうかい? 俺は見てて飽きないがね」
「なっ……!? あ……あたしをからかうなよッ! いつもいつも……あんたは本当にッ!」

 一方、イスミはディードに続くようにバスターソードを構えているのだが……その頬には、先程の「近過ぎる距離感」による甘い熱が残っていた。

 あまりに鋭く、見る者全てに「キツい」印象を与えてきた。そんな自分の怜悧な美貌を自覚することもなく、ただコンプレックスだけを抱えて生きてきた彼女にとっては、千載一遇の機会だったのである。

(……ディード……)

 自分の素顔を見ても怖がらないどころか、優しげな視線さえ向けられる男との「再会」など。

「ちょっとちょっとぉーっ! わたし、納得いってないんですけどっ! ウツシさんから『プケプケ来るよ』って手紙が来たから、わざわざ新大陸からここまで来たっていうのに……どういうことなんですかぁっ!?」
「フィオドーラ、お前なぁ……」

 だが、仄かに甘くなりかけていたそのムードは、少女ハンターの怒声によって敢えなく掻き消されてしまった。フィオドーラと呼ばれる少女は、呆れた様子で額に手を当てているディードの反応も意に介さず、ぷりぷりと怒りを露わにしている。
 彼女が携行しているヒルバーボウIや、その小さな身体を守っているプケプケシリーズの防具は、いずれも毒妖鳥の素材で構成されている装備だ。それを見れば誰もが察する通り、彼女は何頭ものプケプケを仕留めてきた「手練れ」であった。

「そんなもの……当たりませんよーだっ!」

 大声を出したことでジンオウガの注意を引き付けてしまったフィオドーラは、電撃玉の集中放火に晒されたのだが――彼女はその全弾を軽やかにかわしながら、毒ビンを介した矢を放っている。
 不規則な軌道で飛ぶ電撃の砲弾は、ただ回避するだけでも至難の業だというのに。彼女は矢を射る体勢を維持しながら、玉の隙間を縫うような挙動でジンオウガの攻撃をすり抜けていた。

 しかも、殺気立っている雷狼竜の脚に毒の矢を撃ち込みながら、である。当然ながら、「1年目の新人ハンター」としては常軌を逸した立ち回りであった。

「肝心のプケプケはドラコさん達に狩られちゃうし、もー許しませんっ! こうなったら、あのジンオウガだけでもやっつけちゃいますからねっ!」

 その原動力となっているのは、怒り。自身が激しく執着しているプケプケに会えると聞いて、新大陸から海を渡ってこの砦まで来た彼女としては、今の状況に憤らずにはいられないのである。
 かつては北方の貴族令嬢だった彼女は、プケプケが持つ独特の愛嬌に魅入られて以来、装備の全てをその系統で揃えるほどの偏執ぶりを発揮するようになっていた。そんな彼女だからこそ、「標的」に出会えなかった時の苛立ちの激しさは、計り知れないのである。

「八つ当たりが過ぎる……」
「本当に相変わらずだねぇ、あいつも……」
「腕は確かだけど……やっぱり変人」

 新大陸に行ってからも全く変わっていなかった同期の嗜好には、エルネアだけでなくディードやイスミも、呆れ顔になるばかりであった。理不尽に怒り散らしながらも卓越した技量を披露している、というギャップも、彼らのため息を加速させている。

「皆っ! ため息なんて良くないぞ! さぁっ、俺の旋律でいつもの元気を取り戻すんだっ!」
「ム、ムスケル……お前も来てたのか」

 だが、彼女の変人ぶりをさらに超越する「剛の者」が現れた瞬間。ディード達はため息すら忘れ、なんとも言えない表情を浮かべていた。
 筋骨逞しい肉体を強調するアルブーロシリーズの防具を身に纏い、カムラノ鉄笛Iを振るってジンオウガの頭部を殴打しながら現れたのは――同期随一の体躯と筋肉量を誇る、ムスケル・マルソー。

「どうだい!? 攻撃力強化を齎す、俺の戦慄ッ! この輝かしき音色と、鍛え抜かれた魅惑のボデェー!」
「いや筋肉は関係ないんだが……」

 やや暑苦しくはあれど、誰もが認める情に厚い好漢ではあるのだが。防御力よりも鍛え抜かれた肉体美を優先するその一面と、外観に反した可憐な声色のせいで、屈指の変人としての地位を欲しいままにしているのである。

 だが、変わり者ではあれど、その実力は紛れもなく本物であった。防具というよりは装飾品のような印象を受けるアルブーロシリーズでありながら、その身体にはほとんど傷がない。
 つまり、それだけダメージを受けることなく立ち回ってきたということなのである。アダイトを筆頭に多くの同期達が参戦してから、すでにかなりの時間が経過しているはずなのに、それでもムスケルだけはほぼ無傷で戦闘を続行していたのだ。

「フフッ……甘い甘い、鍛え方が甘いなぁ! そんなことでは俺を倒すことも、この艶やかなメロディを止めることもできんぞッ!」

 それは決して、後方支援に徹していたから傷を負わなかった、ということではない。現に彼は雷狼竜が放つ放電の雨を掻い潜りながら、帯電している頭部に真っ向から狩猟笛を叩き付けている。
 近接戦闘にも精通していなければ、到底実現出来ない芸当だ。彼が振るう痛烈な一撃によって、ジンオウガの角がへし折られた瞬間、その全身に纏っていた電流も霧散してしまう。

「帯電が解除されたぞッ! さぁ皆、『仕上げ』の時間だッ!」

 度重なる攻撃とフィオドーラの毒矢、そしてムスケルの殴打による角の破壊。それらのダメージが積み重なったことにより、ジンオウガはすでに満身創痍となっていた。
 消耗しきっている雷狼竜の爪をかわし、頭を踏み台に軽やかに跳びながら――ムスケルはその筋肉美を強調しつつ、攻撃力強化の演奏を完了させる。それが、決着への序曲であった。

「全く……どいつもこいつも変人だけど、頼りになる奴らばっかなんだよねぇっ!」
「同感。……でもやっぱり、変わってる」
「本当ですよっ! 皆さんって、本当に不思議ですよねっ!」

 イスミの全身全霊を込めた、バスターソードによる溜め斬り。頭部に狙いを集中させた、エルネアの射撃。自分も「変人」に含まれていることには全く気づいていない、フィオドーラの狙撃。

「……ふふっ、良いじゃないか。強くて頼りになる変人の集まり、それが俺達ってことさッ!」

 そして、帯電能力を失ったジンオウガの背に飛び付き、とどめの属性解放突きを放つディード。彼らの総攻撃によって、ついに雷狼竜の牙城が崩壊するのだった。
 轟音と共に倒れ伏していく、ジンオウガの躯。そこから素材を剥ぎ取る間もなく、さらなる「新手」の群れがディード達に迫ろうとしていた。

「ちっくしょう、狩っても狩ってもゾロゾロと……キリがないったらありゃしない! 一体いつまで続くんだいッ!?」
「アダイト達が首魁を倒せば、ケリが付くはずだ。あいつらを信じろ、この戦いが終わるまでッ!」
「……ふっ、結局それしかないってことか。しょうがないねぇ、こうなりゃ死ぬまで付き合ってやるよッ!」

 長時間に渡る戦闘により、集中力も体力も限界に近づきつつある。だが、それでも彼らは相棒である得物を手に、モンスターの群れに挑み続けていた。
 今に、頼れる変人仲間が首魁を倒して、この夜行に終止符を打ってくれる。その可能性に、望みを託して。
 
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