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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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特別編 追憶の百竜夜行 其の一

 
前書き
◇今話の登場ハンター

◇アダイト・クロスター
 ユベルブ公国に仕える騎士の家系・ルークルセイダー家の出身である新人ハンター。武器はバーンエッジIを使用し、防具はレウスシリーズ一式を着用している。当時の年齢は14歳。
 

 
 ――今から何年も昔の、この当時は。

 アダルバート・ルークルセイダーが、「アダイト・クロスター」と名を改めてから間もない頃であり。
 後にカムラの里の教官となる少年「ウツシ」は、ハンターの資格を得たばかりであった。

 これはそんな2人をはじめとする、後の「ツワモノ達」の在りし日の姿を追う、物語である――。

 ◇

 カムラの里に近しい地に築かれた、巨大な柵。「百竜」と形容されるほどの群れに備えるべく、カムラの里の人々はその防衛線の構築を急いでいた。
 竜人族の双子姉妹をはじめとする里の者達は、少なからず表情に焦りの色を滲ませている。里の希望となるこの牙城の完成を待たずして、モンスターの大群が押し寄せようとしているのだから。

 その進捗を見守る、里長・フゲンをはじめとする里の年長者達は、外部のハンターズギルドに応援を要請するべく「使者」を送り出していたのだが。
 それでも不安は拭い切れないらしく。彼らの険しい表情は、この事態の深刻さを雄弁に物語っている。

「……フゲンや。ウツシの奴は、間に合うのかのう。このままでは、未完成の砦が破壊されてしまうでゲコ」
「うむ……だが今は、彼奴を信じるしかあるまい。確かに今は、猫の手も借りたい状況だが……それは誰でもいいという意味ではないからな」
「そうだな。この里を導く『灯火』に相応しい者達でなければ……いずれにせよ、カムラの未来はないのだ」

 里長のフゲン。ギルドマネージャーのゴコク。加工屋のハモン。
 彼ら3人の期待を一心に背負う少年――ウツシは、里に迫る危機に共に立ち向かってくれるハンターを求めて、遠方に旅立っていたのである。

 近年では一部のハンターの素行不良がある種の社会問題として重く受け止められており、派遣先の村々も警戒するようになり始めていた。調合した薬品を高値で売り付けるため、ひたすらハチミツを強請るハンターまでいるという噂もある。
 フゲンとしても、本来なら人柄など問わず、力を貸してくれるハンターに対しては快く受け入れたいという思いがあったのだが。問題視されているハンター達の噂や、その「素行」が里の民に与える影響を鑑みれば、身勝手を承知で「選り好み」せざるを得ないのである。民を守ることを第1とせねばならない、里長としては。

「頼むぞ……ウツシ」

 故に今は、邪な心を持たない純粋さと、確かな強さを兼ね備えたハンター達の到来に期待するしかないのだ。その「ツテ」があるという、ウツシの人脈に賭けるしか。

 ◇

 百竜夜行。その名の通り、モンスターの群れが大挙して押し寄せ、村とそこに住まう人々に甚大な被害を齎す災厄である。
 カムラの里においては古くから言い伝えられてきた災いであり、里長・フゲン自身も過去にはその「最前線」を経験したのだという。

 それに近しい現象の兆候が確認されたのは、約1週間前のことであった。
 里そのものが滅びかけた数十年前の悲劇を繰り返させないためにも、現在は「翡葉(ひよう)の砦」と呼ばれる防衛線の構築も進んでいるのだが……その防壁もまだ、万全と言える状態ではない。

 このままでは砦の完成を待たずして、モンスター達が里に押し寄せてしまう。なんとしても今回の大移動による被害だけは、食い止めなければならない。
 しかし、如何にフゲンが他の追随を許さない剛の者であっても、単身で大型モンスターの群れを屠るのは容易ではなく。砦の設備も不十分な上に里守達の訓練も万全ではない現状では、この「波」を乗り切るのは困難を極める。

「……それでわざわざ、オレを呼ぶためにこんな遠方まで飛んで来たっていうのか? 相変わらず、やることが豪快だよなぁ」
「そこまでしてでも、守りたい故郷がある……ということさ。それに、信じていたからな。君ならば、必ず引き受けてくれると」

 そこで、ハンターの資格を得たばかりの少年――ウツシは、信頼の置ける「同期」のハンター達に助太刀を依頼するべく。西シュレイド地方南部の都市「ミナガルデ」を訪ねていたのである。

 その街の酒場で旧友との再会を果たした、彼と同じ1年目の新人ことアダイト・クロスターは。暑苦しいほどに真っ直ぐなウツシの眼に、深々とため息をついている。
 一方、そんな彼が纏っているレウスシリーズの防具に、ウツシは「期待」に満ちた笑みを零していた。

 1年目のハンターはその未熟さもあり、半年も経たずに命を落とす者が多い。運と才能に恵まれた優秀な者でも、3年目までは鳥竜種の狩猟が精一杯であることがほとんどだ。
 そんな中でアダイトは1年目でありながら、何頭もの火竜を狩ってきた証である装備を身に付けているのである。その佇まいに、「寄生」特有の着られて(・・・・)いるような雰囲気は全く見られない。

「もちろん、断るつもりなんてないけどさ。1年目のオレが役に立てるのか? このミナガルデには大ベテランのハンターが大勢いるんだし、そっちを頼った方が……」
「確かに、強さだけで選んだ方が確実ではある。だが俺は、俺の目で里の未来を託せるハンターを選びたいんだ。里長も、それで構わないと言ってくれた」
「ウツシ……」

 実力こそ一流だが、素行不良のあまり派遣先の村から「出禁」を言い渡されたハンターの例は、様々な場面で耳にすることがある。
 ましてやカムラの里は、独自の軍事力を有する極めて特殊な地域なのだ。里側から外部のハンターを呼ぶとなれば、その人選は慎重にならざるを得ない。

 そこで、ウツシが自分の目で見てきた「同期」の新人ハンター達に白羽の矢が立ったのである。
 なんとしても里は守らねばならない。しかし、ただ強いだけのハンターを里に入れるわけにはいかない。

「……そうか」

 その狭間に揺れながらも、希望を求めてここに来たウツシの表情に秘められた、微かな「憂い」をアダイトは見逃さなかった。

「それならもう、遠慮はいらないな。……行こうウツシ、カムラの里は遠いんだ! 迷ってる時間なんてないはずだろッ!」
「……あぁ! 感謝するよ、アダイト!」

 力が込もるあまり、震えていた彼の拳を掴んだ少年は、力強く参加を宣言する。その言葉に救われたウツシも、ようやく本来の豪快さを取り戻したかのように、声を張り上げたのだった。
 何事かと目を丸くしている周囲のハンター達や受付嬢の視線など、意に介さず。

 ◇

 かくして、共に百竜夜行に立ち向かうことになった2人は足早に酒場を後にすると、眩い日差しに照らされた街中へと繰り出していく。
 カムラの里に行くなら「足」が必要だと思い立ったアダイトは、行商の馬車に視線を向けていた。

「ちょっと割高になるけど、少しでも速い馬車を借りるしかないな。ちょっと待ってろよウツシ、今手続きに……」
「その必要はないさ、アダイト。馬車より速い『足』なら、すでに用意してある」
「え……?」

 だが、それよりも早く。ウツシが口笛を吹いた瞬間、牙獣種に相当する狼のようなモンスター「ガルク」が2人の前に現れた。

「な、なんだ……!? なんでモンスターが街の中にッ!?」
「あぁ、『ガルク』を見るのは初めてだったね。訓練所で一緒に頑張ってた頃に、一度話したことがあっただろう?」
「こ、こいつが……?」

 一目見た瞬間、街にモンスターが入ってきたのかと誤解したアダイトは、バーンエッジを抜こうとしてウツシに嗜められてしまう。そんな初々しさを残している戦友の様子に、カムラの使者は微笑を溢しながら、愛犬の背に乗るよう促していく。

「ふふっ、こいつも君が気に入ったようだし……行こうか、アダイト。俺の後ろに乗ってくれ!」
「あ、あぁ。けどさ、2人も乗って大丈夫なのかよッ――!?」

 ウツシが言うなら大丈夫なのだろう、とは思いつつも不安を拭い切れなかったアダイトは。2人も乗せているとは思えないほどの速さで、街を飛び出していくガルクの脚力に圧倒されてしまうのだった。

「うわぁあぁあッ!? な、なんだよこのスピードッ!」
「しっかり掴まっていてくれよ、アダイト! こいつの速さなら、里まであっという間だからなッ!」

 その勢いのまましばらく走り続けて、ようやくアダイトがガルクの速さに慣れてきた頃には、すでにミナガルデが見えなくなるほどの距離に至っていた。
 カムラの里に最短ルートで辿り着くために、森の中へと突っ込んでいった2人の視界に――やがて、煌々と光り輝く1匹の「蟲」が飛び込んでくる。
 ランゴスタの近縁種か。そう判断したアダイトは再びバーンエッジを引き抜こうとして、またしてもウツシに制止されてしまうのだった。

「……!? 気をつけろ、ウツシ! 新手の虫型モンスター……だ……!?」
「ふふっ、相変わらず君の反応は見ていて飽きないなぁ、アダイト。……これは翔蟲(かけりむし)。俺達の頼れる仲間さ」

 それはガルクと同じようにウツシが従えている、甲虫の一種だったのである。カムラの里ならではの技術を目の当たりにしたアダイトは、再び目を剥いていた。

「お、お前の里じゃあモンスターを飼い慣らして狩猟してるのか……!?」
「オトモアイルーの延長線上と思えば、そう不思議なことじゃないだろう? 他の皆もガルクや翔蟲を見たら、驚くことになりそうだね」
「他の皆、って……オレ以外の連中にも声を掛けてたのか?」
「俺が信頼を寄せている同期達全員に、この件の便りを送っている。他の皆には、里に来るまでの路銀込みで報酬を用意してるんだが……恥ずかしながら、君だけはその分の額が工面できなくてね。だからこうして、直接迎えに来たってわけさ」

 だが、いつまでも驚いている場合ではない。すでにウツシは、自分が信頼できる「同期」全員に声を掛けているというのだ。

 百竜夜行と呼ばれるこの災厄は、多数の大型モンスターを同時に狩猟せねばならないという極めて特殊なケースであり。今回だけは1人でも多くのハンターを集めるために、「連続狩猟」という形で複数のクエストを用意しているらしい。
 そうすることにより、本来なら4人までしか受注できないという制約をかわして、何人ものハンターを呼び込めるようにしているのだが。当然その分だけ、依頼する側の費用も増してしまうのである。里に来させるための旅費すら、負担出来なくなるほどに。

 そんな際どい懐事情を抱えながらも、どうにか里を救いたいと奔走するウツシの想いはきっと、便りを受け取った各地の同期達にも届いている。彼の言葉に唇を噛み締めるアダイトは、そう信じるより他なかった。

「……そんなもんなくたって、オレは蹴ったりしないよ」
「ははっ、君ならそう言うと思っていたよ。……それじゃあ俺が困るのさ。これくらいは、させて貰わないとね」

 それはウツシも同様であり。友情と義に厚い者達ばかりだと理解しているからこそ、里の都合に巻き込んでしまうことに対して、心苦しさを覚えている。
 しかし、それでも今だけは。その葛藤を飲み込み、前に進まねばならないのだ。里に迫り来るモンスターの群れは、人間の都合など考慮してはくれないのだから。

 ◇

 ――そして、迎えた決戦の日。完成を待たずして死闘の舞台となった翡葉の砦は、モンスター達の咆哮と断末魔が止まぬ修羅場と化していた。

「はぁ、はぁ……! 話には聞いてたけど……まさか、ここまで激しいなんてッ……!」
「アダイト、柵を破ろうとしている奴らがいるぞ! そいつらを頼むッ!」
「はぁッ、はぁッ……はいッ!」

 フルフル、バサルモス、ヨツミワドウ。アケノシルム、プケプケ、アオアシラ。これほどの規模のモンスターが同時に襲来する事態は極めて稀であり、当然ながら西シュレイド地方から来たアダイトにとっては、未知の地獄であった。
 里守達を率いて迎撃に当たっているフゲンの指示に従い、アダイトは慣れない土地での戦闘に翻弄されながらも、懸命にバーンエッジを振るい続けている。

 バリスタの数も全く足りていない現状では、不利を承知で接近戦を挑むしかないのである。ハンターではない里守達に、その危険な役回りを与えるわけにはいかないのだから。

「ぬぅんッ……気焔万丈(きえんばんじょう)ッ!」
「す……凄いな、フゲンさんは……!」

 そんな中、太刀を振るい多くのモンスターを同時に斬り伏せているフゲンの戦い振りは、新人を圧倒するには十分過ぎる光景であり。何頭ものリオレウスを狩猟してきたアダイトも、その威風には息を呑んでいた。
 だが、これが彼1人で凌ぎ切れるような災厄ならば、わざわざ外部のハンターを呼ぶ必要などないのである。彼の猛攻を凌ぎ、その防衛線を突破してきたモンスターの群れは、フゲンの後方に陣取っているアダイト達に迫ろうとしていた。

「ここは任せてくれ、アダイトッ!」
「ウツシ!?」

 その時。1頭のアオアシラの上に跨っているウツシが颯爽と駆け付け、群れを率いる「大物」のオサイズチに勢いよく襲い掛かっていく。
 翔蟲から発射される鉄蟲糸(てっちゅうし)をモンスターに絡ませることで、意のままに操る操竜(そうりゅう)という技術だ。彼が操るアオアシラは、自身よりも大きなオサイズチを相手に鋭い爪を振るい、体格差を物ともせず圧倒している。

「翔蟲って、そんなことまで出来るのか……!?」
「大自然と手を取り合い、共に災禍に立ち向かう。これがカムラの里の狩猟というものだよ!」

 里の中でも特に操竜に長けているというウツシの技量を以てすれば、「大物」の撃破も容易いのだろう。オサイズチはなす術もなく叩き伏せられ、僅かだが群れの勢いが弱まったように見えた。

「よし、大物を仕留めたことで奴らの気勢も削がれたようだな! いまのうちに体勢を立て直して……ぬうッ!?」

 だが、それは「前兆」でしかなかったのである。大勢のモンスターを相手にしており、手が離せないフゲンの頭上を飛び越して――その「真打ち」は、一気にアダイト達に襲い掛かってきたのだ。

「あいつは……!」
「アダイト、危ないッ!」

 その巨影にアダイトが戦慄を覚える瞬間。咄嗟に操っていたアオアシラを盾にして、彼を庇ったウツシが――凄まじい猛火に飲まれ、吹き飛ばされてしまった。
 直撃を受けたアオアシラは断末魔と共に消し炭になり、跡形もなく崩れ落ちていく。「真打ち」が放った火炎の威力を物語るその光景には、里守達も冷や汗をかいていた。

「くそッ……アオアシラが黒焦げになるなんて、とんでもねぇ火力だ!」
「こいつが、今回の群れの親玉かぁッ!」
「里長にばかり任せるわけにはいかねぇ……! なんとしてもコイツは、ここで止めてみせるッ!」

 それでも彼らは、里の防衛を任された戦士として、恐れることなくバリスタを撃ち続けていた。そんな彼らに牽制を任せつつ、アダイトは壁に叩き付けられていたウツシに素早く駆け寄っていく。

「ウツシ、大丈夫か! 今、応急薬を……!」
「俺のことはいい……! それより、早く戦線に戻って皆を守ってくれ……! 里守の皆も覚悟はできているが、それでもモンスターと戦うのは……ハンターの仕事のはずだ!」

 血みどろになりながらも、応急薬を握るアダイトの手を掴み、懸命に「戦ってくれ」と訴えてくるウツシの眼は。信じると決めた戦友の顔を、真っ直ぐに射抜いていた。
 決戦の日を迎えた今になっても、この場にいる外部のハンターは現状、アダイトしかいない。それでもウツシは、必ず他の同期達も駆け付けて来ると確信している。

「……分かってる。オレだってハンターだ、依頼(クエスト)は必ずやり遂げるさ。だからお前も、生きて最後まで見届けてくれ」
「あぁ……頼んだよ、アダイト」

 ならば自分は、そんな彼に応えられるような戦いを続けるしかない。そう結論付けたアダイトは、身動きが取れなくなっているウツシの胸に応急薬を押し付けると。

「余所者のオレには、翔蟲もガルクも扱えないが……関係ない。お前だけは、必ず狩るッ!」

 バーンエッジを引き抜き、空を舞う「真打ち」こと――「大物」リオレイアを仰ぐ。激しい咆哮と共に、雌火竜がアダイトに狙いを定めたのは、その直後だった。

「……!」

 そして。刺し違えてでもこの竜を討つ、と覚悟したアダイトの前に。
 物々しい装備を携えた何人ものハンター達が、拠点(ベースキャンプ)の方向から続々と飛び降りて来たのである。

「……お前、ら」

 遠方より駆け付けてきた「同期」の新人ハンター達が、ついに合流して来たのだ。本当の狩りはこれからだ、と言わんばかりに。
 
 

 
後書き
 今回から「ライズ」の世界観に準拠した特別編をお届けして行きます! ウツシ教官の少年時代、という独自設定で突き進む新作エピソード、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و 
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