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予防接種

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第一章

                予防接種
 この日ふわりはケージから決して出ようとしなかった、国崎洋介はそんな彼女を見て母の由里子に言った。
「じゃあ今から行って来るよ」
「狂犬病の予防接種にね」
「そうしてくるよ」
「お願いね、けれどね」
「ふわりこの日が来るってわかってるんだよな」
 ケージから出ないふわりを見てぼやいた。
「予防接種の日だって」
「頭いい娘だから」
「わかってるからな」
「それでね」
 母もそんなふわりを見つつ言う。
「その日になったらね」
「ケージから出ようとしないんだよな」
「気持ちはわかるけれどね」
「どんな犬も予防接種嫌だしな」
「だからね」
「行きたくなくてな」
「ケージから出ないのよ」
「けれどな」
 それでもとだ、洋介は言った。
「絶対に行かないと駄目だしな」
「だからね」
「行って来るな、今から」
「そうしてね」
「ふわり行くぞ」
 洋介はそのふわりにも声をかけた。
「今からな」
「クゥ~~~ン」
 ふわりは明らかに嫌そうだった、だが。
 行かねばならないことはわかっているのかケージから出た、それで恐る恐るだったが洋介の前に出た。
 洋介はそのふわりを抱いてケースに入れてそのうえで狂犬病の予防接種をしている場所にまで車で行った。
 そうして予防接種の場に並んだが。
 順番になるとだ、ふわりはケースから出されて下ろされたがとぼとぼとだった。
 獣医の前に出て半分蹲る様に頭を垂れた、すると獣医は彼女にすぐに注射をした。獣医は注射を終えてから洋介に言った。
「もう大丈夫です」
「はい、それじゃあ」
「お疲れ様でした、しかしいい娘ですね」
 獣医はずっと吠えることも暴れることもしないふわりを見つつ彼女のリードを持っている洋介に言った、リードはケースから出した時に付けたのだ。
「大人しくて」
「怖がってますけれどね」
「それでも全く暴れたり逃げたりしないんで」
 それでというのだ。
「いい娘ですね」
「ええ、凄くいい娘ですよ」
 洋介も笑ってこのことを認めた。
「俺達に勿体ない位に」
「そうですね、それでは」
「また来ます」
「そうして下さい」
 予防接種をして欲しいとだ、こう言ってだった。
 獣医は洋介とふわりを見送った、洋介はふわりをまたケースに入れてそのうえで車で家まで連れて帰った。すると。
 ふわりは家に戻るとすぐに自分からケースに入った蹲った、そしてしょんぼりとした感じで休んだが。
 その彼女を見ながら洋介は母に言った。
「狂犬病は終わったな」
「予防接種はね」
「じゃあ後はな」
「ノミとダニは終わったし」
「フィラリアだな」
「それで終わりね」
「犬っていうか生きもの飼ってるとな」
 ケージの中で悲しそうに、嫌な場所に行って怖い思いをしたのでそうなって寝ているふわりを見て話した。
「どうしてもな」
「こうしたことは絶対ね」
「狂犬病なんてな」 
 この感染症にかかってしまえばというのだ。
「なったら」
「絶対に助からないのよ」
「噛まれてもな」
「私達もそうなるから」
 絶対に助からないからだというのだ。 
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