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イベリス

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第十話 アルバイトその十二

「モコがいなくなるなんて」
「言ったけれどよね」
「ちょっとね」
「考えられないでしょ」
「とてもね」
 こう母に答えた。
「やっぱり」
「家族だからね」
「ずっと一緒にいるってね」
 その様にというのだ。
「思うわ」
「そうよね。けれどね」
 母はブラッシングをはじめつつ娘に話した。
「誰だって何時かはね」
「死ぬわね」
「だからモコもね」
「何時かはいなくなるわね」
「そうなるわ。そしてお父さんもお母さんもね」
 自分達もというのだ。
「何時かはね」
「死ぬわね」
「そうなるわ」
「誰だって死ぬから。私も」
 咲は自分のことも話した。
「死ぬわね」
「絶対にね。けれどね」
「けれど?」
「死ぬのはずっと後でいいわよ」
 娘に顔を向けて話した。
「モコよりもお父さんお母さんよりもね」
「長生きしろっていうのね」
「私達より先に死んだら駄目よ」
「娘だからなの」
「子供は親より早く死んだら駄目よ」
「どうせなら長く生きろっていうのね」
「そう、親よりもずっと長生きする」
 娘に微笑んで話した。
「これも子供の務めよ」
「長生きしないといけないのね」
「そうしなさい。いいわね」
「じゃあ健康とか事故にも気をつけないとね」
「駄目よ。そのこともわかってね」
「ええ、そうするわ」
 娘は母のその言葉に応えた、そして。
 モコを見た。今彼女は母のブラッシングを気持ちよさそうに受けているが。
 その彼女にだ、咲は笑って話した。
「あんたも長生きするのよ」
「そうよね、モコもね」
「どうせならね」
「長生きしないとね」
「十年や十一年じゃなくて」
「十五年十六年ってね」
「生きて欲しいわね」
 モコを見てこんな話もした、咲は犬も見て思うことがあった。


第十話   完


                  2021・4・8 
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