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歪んだ世界の中で

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第十四話 新しい道その六

「そうやって飲むものじゃないの?」
「そういうのだけじゃなくてね」
「他にもあるんだ」
「そう。普通にコップに入れてもいいんだよ」
「そうして飲んでもいいの?」
「どうしないと飲んだら駄目っていうのは」
 そうしたものはどうかというのだ。
「ワインにはないから。そうした決まりがあるって聞いたことあるの?」
「そういえばないかな」
 言われてみてだ。実際に考えてみるとだ。 
 確かにそうしたことは聞いたことがなかった。希望にしてもワインはそうした礼儀正しく飲まなければならないとだ。聞いたことはなかったのだった。
 そのことがわかってだ。希望は千春にあらためて言った。
「じゃあきあれ?ビールや日本酒みたいに飲んでも」
「いいんだよ」
「気軽に飲んでいいんだ」
「そうだよ。それじゃあこれからはね」
「ワインを気軽に飲むよ」
 微笑んでだ。希望は千春に答えたのだった。
「そうするよ。それじゃあ引越しだけれど」
「引越しのこと?」
「暫くかかるけれどね。楽しみだよ」
 こう言うのだった。
「あの家から離れられるって思うと」
「ううんと。それだったらね」
 千春はその希望にこう言ってきた。
「千春もお手伝いしていい?」
「千春ちゃんも?」
「そう、千春もお手伝いしていいかな」
 明るい笑顔でだ。千春がこう話してきたのだ。
「お引越しの」
「いや、もう業者さんに頼んだけれど」
「それでも。希望も何か運ぶよね」
「うん、そうするよ」
 ただだ。業者さんに任せるだけではないというのだ。
「大事なものとかはね」
「だったら。千春もね」
「その僕の大事なものを」
「運ばせて。そうしていい?」
「いいの?重いよ」
 心配する顔でだ。希望は千春に問い返した。
「荷物っていっても」
「わかってるよ。けれどね」
「けれど?」
「一人より二人だよ」
 こう言うのだった。
「だからお手伝いさせてね」
「ううん、いいんだ」
「いいよ。ところでね」
「今度は何かな」
「全部業者さんに任せなかったんだ」
「お金がね」
 それの問題だというのだ。
「おばちゃん達が出してくれたけれど、引越しのお金は」
「だったらどうして全部じゃないの?」
「僕がそうしたんだ。全部出してもらったら悪いから」
 二人に気を使ってのことだというのだ。
「それで。半分にしてもらったんだ」
「それであとの半分は希望が自分でするのね」
「そうしたんだ。業者さんのお仕事は一日で終わるけれど」
 希望のやること、それはというと。
「何日かかかるよ」
「そうなの」
「そのつもりだよ。けれどそれでもね」
 おばちゃん達に過度の負担をかけたくはないというのだ。自分を気遣って優しくしてくれる人達だからこそだ。希望もそうしたいのだ。
「頑張るよ」
「けれどその度にあのお家に行かないといけないのよね」
「それはそうだけれどね」
「じゃあやっぱりね」
「千春ちゃんも手伝ってくれるんだ」
「そうするよ」
 千春の言葉は変わらなかった。 
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