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イベリス

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第十話 アルバイトその五

「昔は結構行ったわ」
「楽しかったな」
「渋谷は昔から若い人の場所ね」
「ああ、そうだ」
「あそこはそうよ」
 その通りという返事だった。
「だから時間があったらね」
「あそこで遊んでもいいな」
「それも経験よ」
「渋谷で遊ぶこともな」
「悪い遊びは避けて」
「そうしてな」
「そうね、渋谷のことも」
 咲は両親の言葉を受けてからあらためて考えた、そうして両親に言った。
「お姉ちゃんなら知ってるわね」
「まあね」
 愛のことだとわかってだ、母は少し憮然として答えた。
「愛ちゃんならね」
「そうよね」
「ええ、ただね」
「お姉ちゃんみたいになの」
「ああした派手過ぎる外見にはね」
「ならないことね」
「あの娘はあの派手さがね」
 どうしてもというのだ。
「気になるから」
「けれど中身はね」
「しっかりしてるっていうのね」
「だからいいでしょ」
「ええ。ちゃらちゃらしてるのは外見だけで」 
 それでとだ、母も答えた。
「しっかりしてるけれどね」
「それで色々知ってるから」
「渋谷のこともで」
「だからね」 
「あの娘に聞くのね」
「そしてね」
 そのうえでとだ、咲はさらに話した。
「渋谷も何処に行っていいか悪いか」
「そのことをなのね」
「教えてもらうわ」
「まあな、聞くことはいい」
 父も憮然としているが肯定した。
「愛ちゃんにな」
「そうよね」
「しかしああしたファッションはな」
「よくないのね」
「派手過ぎて軽薄だの遊んでる様に見えるからな」
「遊んでるってあれよね」
 咲は父のその言葉についても言った。
「悪い遊びよね」
「それをしている様にな」
 まさにというのだ。
「思われるからな」
「駄目なのね」
「お父さんは賛成出来ないな。あの娘も最初は地味だったんだ」
 そうしたファッションだったというのだ。
「それがな」
「高校に入ってからだったわね」
 夫婦で話した。
「あの娘が派手になったのは」
「ああ、高校に入ってアルバイトをはじめてな」
「お金出来てね」
「あちこち歩き回って」
「そうしてね」
「ああなったな」
「全く。親も言わないからだ」
 愛の両親のことも話した。
「中身さえしっかりしていればいいなんてな」
「そう言ってね」
「全く、ファッションについてもな」
「言ってくれたらいいのに」
「人は確かに服装ではわからないが」
「愛ちゃんは目立ち過ぎよ」
「お父さんもお母さんもそう言うけれど」
 それでもとだ、咲は両親に返した。 
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