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それから 本町絢と水島基は  結末

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5-⑺

 3日後、富美子ちゃんから、合格の連絡があった。

「先生 受かったよ お母さんたちも、とても喜んでいるよ。ちゃんと先生にお礼言いなさいって。
ありがとうございます」

「そうか 良かったね 大丈夫だろうと思ってたけど、やっぱり、心配だったから 富美子ちゃんもよく頑張って、えらいぞ」

「先生 約束だよ ご褒美」

「うん そうだね 何が良いの?」

「ご褒美に 水族館に連れてって欲しいの 遠足でしか、行ったことないから」

「えっ 水族館か お母さんに聞いてみないとな 今度、行った時に聞いておくよ」


 お母さんは「うちはお店があるから、なかなか遊びに連れて行けなくて・・先生、お願いできたら・・ご迷惑じゃぁなかったら、この子も、どうしても先生と行きたいって、駄々こねて」と、言ってたから、今度の日曜に行くことになった。幸一郎君も一緒に行こうと、誘ったが、面白くないからって、断られたので、結局、富美子ちやんと二人きりになつた。絢には、ややこしいので、内緒だ。

 当日の朝、僕はむこうの家まで、迎えに行くことにした。富美子ちゃんは、もう、何時でも出れるように準備して、待っていた。

「先生、お休みのところすみません、こいつったら、昨日からはしゃいでしまって お弁当作って、ここに入れときましたから よろしくお願いします」

 と言って、富美子ちゃんのリュックを軽く叩いた。富美子ちゃんは、長めの髪の毛を両方におさげにしていて、野球帽をかぶっていた。ジーンの短パンにハイソックスだったけど、足が小学生の割には、長くて、おそらく、背が高くなっていくのだろう。

 駅前まで、路面電車で行って、バスに乗り継いだ。

「重いだろう 先生持つよ」

「大丈夫 お弁当とタオルぐらいしか入ってないから」

 と、言ってたけど、僕がリュックを上げてみると、結構重かった。水筒なんかも入っていたから、僕は、水筒だけ、抜いて、移した。

 水族館に着くと、ちょうどイルカショーが始まるところで、会場に行くと、もう沢山の人が居て、僕たちは、上の方にしか座れなかった。それでも、富美子ちゃんは、手を叩いて、「すごい」とか言って、感動していた。

 その後、ペンギンとかカワウソなんかを見てまわったけど、その度に「かわいい」とか言って、彼女は、無邪気にはしゃいでいた。園内は、あんまり、ゆっくりお弁当を食べるところが無くて、ショーの観覧席に座って、お弁当をひろげた。

「先生の彼女って、どんな人 きれい?」と、いきなりだった。

「うーん きれいかどうかわからないけど、かわいいよ 僕には」

「そう 私もかわいいかな?」

「富美子ちゃんもかわいいよ 明るいしね 男の子にも人気あるんじゃぁないの?」

「そんなことわかんない でも、先生はやさしいし、好きだよ」

「孝弘君を好きなんじゃあないの そういえば、彼も受かったの?」

「うん 受かったよ でも、今は先生の方が好きなんだよね」

「まぁ 中学になったら、変わって来るよ」と、僕は、焦ってはいたが、少しうれしい気持ちもあった。

 水槽の方を見に行った時

「先生 離れちゃうから、手つないでー」

 と、言ってきた。まだ小さな手だ。僕は、女の子と手をつなぐのは、二人目なんだ。でも、僕に妹が居たら、こんな感じなんだろうかと考えていた。

 例のサンゴの前にきたら、僕の足が止まった。やっぱり、じっくり見ていたい。

「富美子ちゃん、ずーと、あっちも見てきなさい 僕は、ここで、見ていたいんだ」

「やだ 迷子になるよ 先生のそばに居る」

「でも、色々見たいだろう こんな動かないもん、見ててもつまんないだろう」

「小さなお魚居るからきれいだよ こんな、かわいい子が独りでウロウロしてて、誘拐されたら、どうするのよ」

 脅迫され、僕は、サンゴの周りを、苦笑いしながら、観察を続けた。出来れば、水槽の中に入りたいぐらいだ。

「先生 マンボウさんって何でお尻無いの これから生えてくるの」

「いや あれは、逆に尾びれが無くなっていったんだ ふぐの仲間でね 進化していったんだと言われているんだ 他の魚に食べられないように、身体を大きくする為に、尾びれを失くしていったのかもね」

「大変だね お魚さんも・・勉強してるのかな」

 ぐるりと巡って、外に出てきて、ウツボの水槽の前に来た時

「何 これ 怖い」って、僕の腕にしがみついてきた。何匹も居たから、余計なんだろう。最後に変なものを見せてしまった。出てきて、彼女はあそこの先っぽに行きたいと、岬を指さした。絢との想い出の場所だ。

 まだ、西陽というには 太陽がギラギラしていて、かすんで地平線が遠くに見える。

「うわぁー 広いね 向こうまで、何にも無いよー 私の住んでいる所の近くに、こんなとこがあるなんて・・ あっ 先生 あれって、船だよね すごいね あんなとこ」

「うん 船だ 貨物船かもね」

「そーだよね どこ行くんかなぁー こっちじゃぁないよね 横浜かなぁ 先生 地球って、やっぱり丸いんだね 水平線が まあるく 見えるよ」

「そうだね 丸いんだ 富美子ちゃん 賢いね よく、気づいたね」

「うん でも、ここから見て、こんな風なんだから、地球って、そんなに大きくないんかなぁ」

「それは、僕も解らない」

 富美子ちゃんは、喜んでいた。連れてきて、良かった。帰り道、彼女は僕の腕を抱きかかえるようにして

「先生 私、とっても楽しかったわ 今までで初めてかも 良かった、先生とデート出来て 私にとって初めての男」

「そういう言い方はちょっと、おかしいと思うよ」

 彼女の胸の柔らかさを、僕は腕を通して感じて、意識してしまったのは、不純なんだろうか。絢がすねて口を曲げた顔が浮かんできた。富美子ちゃんはかわいいけど、絢への想いとは、違っていると、僕は自分に言い訳していた。










 
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