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SHUFFLE! ~The bonds of eternity~

作者:Undefeat
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第二章 ~罪と罰~
  その三

 始まりはなにげない質問からだった。

「……ねえ、楓……」

「はい?」

「ファーストキスってどんな味だった?」

 唐突に浴びせられた麻弓からの質問に楓は思わずこけた。

「あ、今日は明るいピンクなんだ」

「こ、声にしないでください!」

 スカートを押さえながら、慌てて起き上がる楓。顔が真っ赤だ。

「いきなりどうしたんだい、麻弓」

「いやー、ちょっと隣のクラスの友人と話してて議論になりまして」

 樹の疑問に答える。

「恥ずかしながら、私まだ経験ないのよねー。それで、楓だったら知ってるだろうなあって」

「……」

 無言の稟。どうやら聞こえなかったふりをするようで、次の授業の予習を始めている。しかし、殺気に満ちた視線を感じ、手を止める。

「……樹……なんだ、その殺気に満ちた目は……」

「大丈夫だよ。俺様だけじゃないから」

 周囲を恐る恐る伺う。クラス中の男子の視線が稟に向いていた。空気が重い。

「わ、私だってありません! そ、そんなキス……だなんて……」

 クラス中の耳が楓と麻弓のやりとりに集中している。男子生徒はみんな目の色が違っていた。この会話の後、はたして稟は無事でいられるのだろうか? ……おそらく無理だろう。

「えー、まだないわけ? 土見くん、甲斐性が無いのか度胸が無いのか責任逃れなのかはっきりしといた方がいいわよー」

「激しく余計で大きなお世話だ」

(柳、早く戻ってきてくれ!)

 心の中で幼馴染の早期帰還を祈る。

「他に経験ありそうな子かあ……」

 そう言って辺りを見回す。その目が小柄な姿を捉えた。

「リンちゃんはどう?」

「え……あ、あの……私、ですか……?」

 ネリネがチラリと稟を見る。少し顔が赤い。

「その……していただけたら、とは思っていますけれど……」

 稟に向けられる視線にはっきりとわかるぐらいの殺気がこもり始める。

(頼むからもう終わってくれ。頼むから! それで柳、早く!)

 心からの祈りを込めて、ある席を見た。……いない。今は教室から出ているようだ。胸を撫で下ろす。あいつがいたら事態はさらに深刻になるところだ。と、教室のドアが開く音がした。柳哉が戻ってきたのだろうか、とそちらを見て稟は絶句した。

「あれ? みんな何話してるの? なーんか、クラスの雰囲気が怖いけど」

 シアだった。

(お約束すぎるだろう! 神はいないのか!)

 一応いる。あてにはならないが。

「キスって、どんな味なのかなあって。このクラスはどうにも清純奥手派だらけのようでして、誰も知らないのですよ」

 水守くんも恋人いないって言ってたし、とため息をつきつつ麻弓が言う。

(止まれ! ストップだ! 思いとどまれシア!)

 どうやら稟には心当たりがある様子。そんな稟の内心を知らず、シアの口から爆弾が投下された。

「キスの経験? 私あるけど」

 祈りは届かなかった。天を仰ぐ稟。

「へー、シアちゃんあるんだ。結構意外……」

 樹の言葉が途中で止まる。自分が何を言ったのか理解したのだろう。

「……」

『な、なんだってええええーーーーーっっ!!』

 そこにいたクラス全員(稟・シアを除く)による大合唱が学園全体を包み込んだ。よく窓ガラスが割れなかったものだ、とは稟の感想。

「シ、シアちゃん!? それ本当!?」

「うん♪」

 常に所持しているデジカメを構えながら詰め寄る麻弓に、シアは照れたような笑顔ではっきりと頷いた。

「……」

「……」

 ネリネや楓にとっても今の発言は驚きだったらしく、言葉を失いシアをじっと見つめていた。さあどうやってごまかそうか、と考える稟。

「いつ!? どこで!? 相手は!? やっぱり神族!? レモンの味した!?」

 矢継ぎ早にシアに質問を浴びせる麻弓の姿に、

(無理だな……)

 そう結論し、静かに席を立ち、そのまま音を立てないように教室の後ろのドアへ歩いて行く。幸い、クラス中の興味がシアの元に集中している。このままいけば……。恥ずかしそうではあるものの、嬉しそうに語るシアを横目にしながら、時間はあまり無さそうだと判断し、若干足を速める。

「あの……八年前、この街で、稟くんと」

 訂正。あまり、というかほとんど無かった。シアに注がれていた視線が、一斉に稟に向く。

「まあ、こうなることは分かっていたわけで……」

 教室から全速力で離脱。

「逃げたぞ! 追えー!!」

「他のクラスにも応援を求めろ! 過ぎたこととはいえ、一撃くらいは食らわさんと気がすまん!!」

「放送室だ! 全校放送で呼びかけて、学園中に警報を発令しろ!!」

 逃走を開始した稟の耳にそんな声が届いた。

「こ、こら楓、だからしっかりしなさい!」

「楓さん、幼い頃の綺麗な思い出ですから。それほど気にすることもありませんよ」

 倒れた楓を慌てて介抱する麻弓。フォローを入れるネリネだが、

「そういうリンちゃんも、教科書逆さまだから!」

「え……あ、あの……これは……」

 おもいっきり気にしているようだった。

 
          *     *     *     *     *     *


「ん? 何だ?」

 飲み物を買いに学生食堂まで来ていた柳哉はやけに騒がしいことに気づいて首を傾げた。

「あー、多分いつものアレじゃないかな」

「親衛隊ですか?」

「当たらずとも遠からず、ですわね」

 たまたま一緒になった先輩二人の言葉にさらに首を傾げる。その時だった。

『えっと、放送します』

 特徴的なチャイムと共に校内放送が始まった。

「稟ちゃんらしいというか何というか……」

「まあ、分からんでもないですが」

「まままぁ♪」

 放送の内容を聞いて亜沙が苦笑いし、柳哉が呆れ、カレハは……いつも通りだった。
 要約すると“過ぎた事とはいえシアのファーストキスを捧げられた土見稟にせめてもの制裁を”という内容だ。わざわざ要約したのは嫉妬や私怨によるものと見られる部分が数多くあったためだ。放送を依頼した生徒が付け加えたか、あるいは放送をした女生徒(声から判断)の独自のものか。
 
「……ちょっと放送室まで行ってきます」

「あれ? 稟ちゃんを助けに行くんじゃないの?」

「これも試練、ということで」

 多分大丈夫だろう。結構頻繁にやってるようだし。二世界の王女の婚約者候補である稟だ。そんなにひどいことにはならないだろう。何より稟はそこまで弱くない。

「まままぁ♪ 稟さんはもうそこまで♪」

 とりあえずカレハは放置し、柳哉は放送室へ向かった。そこである出会いをすることになる。 
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