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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘と提督とスイーツと・68

    ~間宮:アイスクリーム~

「提督、あーん♪」

「あーん」

 差し出されたスプーンを、大きな口を開けて迎え入れる。瞬間、口の中に広がったのはミルクの濃厚な甘味とバニラの香り。

「どうですか?お味は」

「流石は間宮特製アイスクリーム、美味いよ。それに……」

 目の前に広がる2つの大山脈をガシッと掴む。

「きゃんっ♪」

「こんな絶景と最高の枕を味わったら、本格的にダメにされそうだ」

「うふふ、良いですよぉ?ダメになっても……私達み~んなで養ってあげますから」

 そう言って間宮は色気を漂わせながら妖艶に微笑んだ。

 間宮がチケットを引き当てた時、予め言われていた。『提督のお菓子はいいので、一日独り占めさせてください♪』と。勿論本人がそれでいいなら俺に拒否するつもりはなく、休みの日に全ての予定を空けた。そして今、俺は間宮に膝枕されながらその大きなおっぱいの感触を楽しみつつ、特製アイスをあーんされながら食べさせてもらうという、彼女の居ない奴からしたら血涙を流しながら呪詛の言葉を吐かれそうな楽園にいる。

「ま、老後には嫌でもそうなるんだ。今はまだ仕事に精を出すさ」

「提督の場合介護は必要なさそうですけど?」

「退役したら暇になるからな。多分一日中ヤりたい放題な生活になるぞ」

「それに飽きたら?」

「その頃にゃあ子沢山だ、飽きたなんて言ってられなくなるさ」

「もう、スケベな人ですね」

「……スケベな男は嫌いか?」

「その聞き方はズルいですよ?提督」

「知ってて聞いてんだよ」

 一番付き合いが長いんだ、それくらい理解してるだろうに。



「もう30年近くなるのか、間宮との付き合いも」

「ですねぇ、昔が懐かしいです」

 横須賀の大本営で整体師をしてたのに、何の因果かあのジジィに目を付けられ、提督の知識を半年掛かりで詰め込まれて南方行きの飛行機に押し込まれた。着いた先で待っていたのが秘書艦の五月雨と当時は大本営との折衝役だった大淀、工廠担当だった明石、そして間宮の四人。そこに俺を加えた5人でこの鎮守府は始まったんだ。

「最初の頃は大変でした……貴方は厳しいばかりで、艦娘の事を省みない人でしたから」

「軍人ってのはとにかく規律に厳しく、ってのが根底にあったからな。それに昔は艦娘は人型兵器って認識だった」

 兵器が感情を持つはずがない。喜怒哀楽を見せるのも、人間とコミュニケーションを円滑にするためのプログラムの様な物だろう。そのくらいの認識で、俺は最初の頃は艦娘達に辛く当たった。当時の俺は鬼か悪魔の様に見えていただろう。

「それが変わったのは……」

「良くも悪くも、加賀のお陰だろうな」

 今ウチにいる加賀ではない。沖ノ島で沈んだ、最初の加賀の事だ。

「加賀が沈んだ事で泣いていた中、俺はひたすら工廠に詰めて空母の建造に勤しんだ。仲間を取り戻すなんて高尚な目的じゃなく、戦力の補充って事務的な目的の為に」

「あの時の提督の姿は、痛々しくて見ていられませんでしたよ」

「俺も含めて、あの時は皆どこかしら狂っていた……」

 そうして数日後、新たな加賀が建造出来た所で失意の中にいた艦娘達に俺は言い放った。

『死んだ奴なんぞ忘れろ。今は戦時中だぞ、泣いてないで戦え』

 と。あの時の顔は良く覚えている。何を言われたのか理解出来ないと呆然とした顔、冷酷な発言に怒りを隠し切れない顔、おかしくなりかけていたのか半笑いの奴までいた。様々な感情をぶつけられた中、一番強烈だったのが誰あろう間宮だった。目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にして怒りながら俺の顔を平手打ちにしたんだ。

「あの時のビンタは強烈だった……人生で一番効いたビンタだよ」

「お恥ずかしい話です、立場的には上司に手を上げるなんて」

「いやいや、アレのお陰で俺は正気に戻れたと思ってんだよ」

 正気に戻った、というより気負っていた物が 吹っ飛ばされたと言った方がいいか。軍人とは斯くあるべしって思い込んでいた物が、綺麗に無くなった気がした。

「お陰さんで今の俺は適度に働き、適度に息抜きをする……今のスタイルに辿り着いた訳だが」

「息抜きは行き過ぎじゃないですか?」

「そうかぁ?」

「絶えず動いてる両手が良い証拠ですよ……んっ////」

 確かに俺の両手は絶えず間宮のおっぱいや尻をまさぐり続けている。が、間宮本人だって嫌がるどころか寧ろもっと触れと言わんばかりに突き出してきているんだが?

「まぁ、2人共楽しんでるんだしお互い様という事で」

「ですね♪」




「それにしても、いつの間にこんな場所を?」

 今俺と間宮がいるのは、鎮守府内に整備した飛行場の片隅。そこには狭くない面積の竹藪と平屋造りの庵があり、その縁側で俺は膝枕の感触を堪能している。

「前々から茶室というか、寛げる和室が欲しいって要望があってな」

「あら、日本艦の皆さんが?」

「いや、海外組の連中だ」

 日本の艦娘達はそういう拘りはあんまりないのか、フローリングでも文句は少ない。どうしても畳を敷きたい、って奴等は妖精さんに頼んでフローリングの上に敷ける薄いタイプの畳を作って貰ってる奴もいるが。逆にドイツ艦をはじめとした海外艦勢の方が確りとした日本建築の建家が欲しいとあれこれ注文を付けてきた。

「まぁ、俺も気晴らしにはなって中々面白かったがな」

「え、提督もここの建築に関わってるんですか?」

「あぁ、俺の実家は大工でな。ガキの頃からなんやかんやと手伝わされてたんだ」

 お陰で小中学校の間に家を建てる一通りの作業は出来るようになった。けど親父と反りが合わなかった俺は高校は別の分野に進み、どこをどう間違ったのか今は海軍で提督やってる。ホント、人生ってのは何が起こるか解らない。

「だから妙にキッチンがしっかりとした物が付いてるんですか……」

「何だよ、飯は重要だぞ?」

 今寝転がってる縁側のある和室。囲炉裏もあるちょっと古民家風の造りなんだが、隣にあるキッチンは最新式のアイランドキッチンを入れた。最初は雰囲気も考えて土間とかにするか?と妖精さん達とも盛り上がったんだが、結局誰が使いこなせるんだ?という話になってキッチンは新しい物に落ち着いた。

「それにここは、俺の引退後にゃあホテルリゾートの離れ的な施設になる予定だからな。結構しっかりとした造りにしたんだよ」

 と、自慢気に語ってみせた。しかし間宮はポカンとした表情だ、口をあんぐりと空けたまま正にポカーンとした顔、って奴だ。

「ん?どうした」

「……私、聞いてません」

「へっ?」

「私、聞いてませんよそんな話!」

「そ、そうだっけか?」

 俺の引退後のプラン……既に買い上げてあるこの鎮守府の土地・建物を改装してリゾートにするって計画には、レストランや厨房を仕切れる人材が不可欠。脳内の計画では間宮に伊良湖、鳳翔に大鯨等、料理上手な連中はスタッフとしての雇用が確定していたが……こいつぁうっかりだ。

「いやぁ、もう少し詳細な計画が出来てから話そうと思ってたんだよ。な?機嫌直してくれよ」

「知りませんっ!もう」

 間宮は膨れっ面のままだ。余程教えてもらっていなかった事がショックだったらしい。そもそも、俺の思い描いているリゾート地の基本コンセプトは『艦娘に会えて触れ合えるリゾート』。基本的に拒否されなければ鎮守府の所属艦娘はスタッフとして雇用する予定なんだが。

「なぁ、頼むよ間宮。お前居ないと計画が大きく狂っちまうんだよ」

「……もう、しょうがない人ですねぇ」

 そう言って頬を染めながら、頭を撫でて来る間宮。撫でられる手が止まらない上に、顔が近付いて来て唇が重なる。それと同時にヌルリと唇の隙間を縫って舌が侵入してくる。だが、俺に拒否せずあっさりと受け入れて逆に迎え入れる様に舌を絡ませる。たっぷりと粘膜の交換を終えて唇が離れると、離れ難いとでも言うように唾液の糸が繋がる。その顔は満足げで、どうやら仲直りのキスのつもりらしい。

「私のキスはどうでしたか?」

「甘ったるいバニラ風味で虫歯になりそうだ」

 そんな風に冗談めかして言ったら、ペチッと軽くビンタを貰った。

  
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