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姫石

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第一章

                姫石
 江戸時代の元禄ことである、信濃の諏訪で不思議な話があった。その話はというと。
「ふむ、石からか」
「泣き声がするとか」
 老中を務めかつ甲府藩の藩主を務めていた柳沢吉保に藩士の一人が話した。
「何でも」
「遠江にはそうした話があるが」
「これがです」
「信濃にも出て来たか」
「諏訪に」
「成程のう」
「それで諏訪の方ではです」
 泣く石があるそこではというのだ。
「何かとです」
「怖がる者もおるか」
「諏訪の大社の方でも」
「それはいかん、民や社が怖がることはな」
 吉保はここまで聞いて言った。
「断じてな」
「安らかにすることが政ですな」
「江戸もすっかり泰平になった」 
 戦国の世の荒んだものがなくなってというのだ。
「ならその泰平を守っていく」
「それがご政道のあり方ですな」
「幕府のな、だからな」 
 それでとだ、吉保は藩士に話した。
「ここはな」
「どうされますか」
「上様にお話をしてな」
「そうしてですか」
「わしが行こう、そちらの藩主殿も困っておられよう」
 だからだというのだ。
「わしが行ってどういったものか確かめ」
「そうしてですか」
「ことを収めよう」
 そうするというのだ。
「この度はな」
「そうされますか」
「うむ、すぐに上様にお話する」
 こう言ってだった。
 吉保は将軍の綱吉に事情を話し自分に話をした藩主を連れて早馬で一旦領地の甲府に早馬で入りこれまた早馬で諏訪に赴いた。そこでだった。
 その地の藩主に事情を話し自分が全て受け持つので心配は無用と言った、藩主は吉保のその話に驚いて言った。
「ご老中がですか」
「はい、それがしが言い出し来たことなので」
 吉保は藩主に平然として答えた。
「責があればです」
「ご老中がですか」
「既に上様にお話しております」
「ですがこちらの藩のことなので」
「いえ、藩主殿も藩のどの方もです」
「そして藩もですか」
「何があろうとも」
 それでもというのだ。
「何もです」
「責はありませぬか」
「全てそれがしにあります」
「その様なことは」
「もう上様に申し上げたので」
 武家に厳しい将軍綱吉にとだ、彼は兎角武家には厳しくこうしたことで何かあれば処罰に躊躇しない。
 吉保もそれがわかっている、だがそれでもというのだ。
「ご心配は無用です」
「それでは」
「はい、これよりです」
「その泣く石のことをですか」
「確かめそのうえで」
「泣くのを止められますか」
「そうしてきます」
 こう藩主に話してだった。
 吉保はすぐにその泣く石のところに赴いた、そこで石屋がことを聞いた藩士であると身分を隠した吉保に話した。
「実は社の鳥居の石にとです」
「この石がいいと思ってか」
「はい、鏨を入れていたのですが」
 石が泣く声を聞いた石屋が話した。 
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