| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

大阪の竜宮童子

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第五章

「いや、まさかね」
「ああした子と一緒にいるなんてね」
「それで幸せを貰っていてね」
「それでお金も儲かるなんて」
「そうした理由だったのね」
「そうなのね」
「まあね」
 ここで英子は言った。
「幸せをもたらしてくれるのは何か忘れて」
「汚いから追い出すのはね」 
 奈々も言った。
「それだけで間違いね」
「そんなことするなら、私が言ったことだけれど」
 透は老婆の部屋で言ったことを思い出した。
「幸せも逃げていくわね」
「そうよね」
「そうした人からはね」
「自然とそうなるわね」
 こう話した、そして。
 英子は二人にあらためて言った。
「お婆さんはそうした人じゃない」
「だから幸せで」
「お金も入って来るのね」
「そういうことね、恩を忘れる様な人は」 
 それこそというのだ。
「幸せにはなれないわね」
「何かをもたらしてくれる」
「そのことに感謝しないとね」
「幸せにはなれないわね」
「最初からね」
「そういうことね、お邪魔してよかったわ」
 英子は今度はしみじみとした口調で述べた。
「本当に」
「いいことわかったわね」
「お金儲けのこと以上にね」
「本当にわかったわ」
「今日お邪魔してね」
「ええ、幸せになる人は恩義を忘れない」
 英子は実際に言葉に出した。
「そういうことね」
「そして汚いからと言って邪険にしない」
「そうしたら奇麗にすればいい」
「そういうことね」
「それだけのことね」
「そうね、身体が汚いよりも心が汚い」
 こうも言った。
「そのことが問題ね」
「そういうことね」
「いいことがわかったわ」
 奈々も透も頷いた、三人はこの日のことは絶対に忘れまいと誓いながら帰った。そして実際に忘れることなく一生を過ごした。


大阪の女郎蜘蛛   完


                  2021・5・30 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧