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馬との別れ

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第一章

               馬との別れ
 イギリスの王立アルバート=エドワード病院は終末医療の一環として患者の最後の願いを聞いて出来る限り適えることを活動にしている。 
 それで看護師のゲイル=タイラー面長の顔とライトブルーの強い光を放つ目に金髪の短い髪と一九〇を超える逞しい長身の彼は今末期癌のマーシャ=メジャーから話を聞いていた。
「あの、お願いはありますか」
「最後のですね」
「それはその」
「いいですよ、わかってますから」
 白髪の老婆である、穏やかな顔は痩せ細っていて余命幾許もないことは一目見ればもう明らかであった。
「私自身が」
「そうですか」
「ですから最後の願いですね」
 マーシャの方から言ってきた。
「私の。一つあります」
「それは何でしょうか」
「もう動けないですが」
 それでもとだ、老婆はタイラーに話した。
「この世を去る時は人の家族に見送られますが馬や犬や猫は違うので」
「彼等は病院に入られない」
「特に馬は大きいですからね」 
 やはり自分から言った。
「ですから」
「それで、ですか」
「世を去る前に。彼等に会いたいです」
「それが貴女のお願いですね」
「はい、あの子達に別れの言葉を告げたいです」
 こうタイラーに話した、そしてだった。
 タイラーはこのことを院長に話した、すると院長は。
 少し考えてからタイラーに言った。
「生きものの皆は病院の駐車場に来てもらいましょう」
「そこにですか」
「はい、来てもらって」 
 そうしてというのだ。
「メジャーさんに会ってもらいましょう」
「ですがメジャーさんはもうベッドからは」
「起き上がれないですね」
「そこまでの体力は。車椅子に乗ることも」
 それすらも無理だとだ、タイラーは話した。
「最早」
「それでもやり方はありますので」
「そうですか」
「ここはこうしましょう」
 こう言ってだった。 
 院長はタイラーそして老婆の周りの人達に自分の考えを話した、そうしてだった。
 老婆の生きものの家族である六頭の馬に三匹の犬そしてこれまた三匹の猫達が病の駐車場に集められた、それは。
 黒、ブラウン、赤、ダークブラウン、白、顔の中央が白い黒の六頭の馬達で老婆の息子である穏やかな顔立ちの初老の男が話した。
「ビクトリー、ロドネイ、ジョージ、マリア、メリー、ブロンウェンです」
「六頭皆連れて来てくれたんですね」
 タイラーはその馬達を見つつ息子に応えた。 
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