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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘と提督とスイーツと・66

      ~まるゆ:芋羊羹~

「そ、そんなぁ~」

 目の前で少女が目に涙を目一杯浮かべている。今にもその滴は溢れ落ちてしまいそうに揺れている。

「すまんなまるゆ、これが現実だ」

「で、でもでも……戦闘時だけとかなら」

「それでも無理だ。第一、お前は潜水艦だろう?水の抵抗増やしてどうする」

「うぅ~……」

 それでも尚、諦めきれないのかまるゆは泣きそうだ。

「そもそもな、人は芋羊羹食ったって巨大化は出来ないんだぞ?」

 俺は溜め息を1つ吐いて、幼子に言い聞かせるように優しく言い放った。

「あううぅぅ~」

「なんだ、泣くほど不味かったか?芋羊羹」

「美味しいですうぅぅ~」

 その証拠に、泣きながらも食べる手が止まっていない。

「しっかしよく知ってたなぁ、芋羊羹で巨大化なんてネタ」

 確か俺がガキの頃やってたスーパー戦隊のネタだぞそれ。『戦う交通安全』だったか?それの敵キャラの宇宙人の暴走族が芋羊羹食うと巨大化するんだよな、確か。

「夕張さんがDVDを持ってて、たまに貸して貰うんです」

「へぇ、好きなのか?スーパー戦隊」

「はい!強くてカッコよくて、まるゆ大好きです!」

「でも、なんでそれが芋羊羹で巨大化したいなんて話になるんだ?」

 敵キャラの特徴(?)だぞそれ。

「まるゆ、身体もちっちゃいし戦闘も得意じゃないので……せめて、身体が大きくなったら強くなれるかなって」

 う~ん、これは軍艦が魂と人の身体を手に入れたからこその悩みっぽいよな。戦闘艦ならば強くありたい、みたいな。

「なぁまるゆ、ゾウは解るか?」




「ゾウさん……ですか?はい、おっきくて鼻の長い、あのゾウさんですよね」

「そうだ。ゾウはライオン等にも滅多に襲われない。何故だか解るか?」

「えぇと、おっきくて力も強いから……ですかね?」

「だな。ゾウは力が強いし、身体もデカい」

 身体がデカい、というのはそれだけで生物としては大きなアドバンテージだ。大きい分体力も多いし、筋量も多くなるから力も強い。     その巨体を生かして体当たりをしたり踏みつけたりすれば、それは強力な攻撃手段となるだろう。

「だが、それは陸上だからこそとも言える。海中の巨大な動物といえば?」

「えっと……鯨、でしょうか?」

「そう、鯨だ。鯨も巨大な種は30mを超える奴もいる程にデカい……が、小さい種類もいる。イルカなんかは小型の鯨の仲間だ」

「イルカさんは鯨の仲間なんですか」

「あぁ。しかし小型の鯨は鯱や鮫に襲われて喰われる場合もある。泳ぎが早ければ逃げ切ったりもするようだがな」

 つまり、大きい=強いではなく、大きい=仕留めるのが面倒だから自然界では襲われないと言い換えた方が正しいだろう。




「そして艦娘だ。これに関しちゃあ身体をデカくするメリットは少ない。寧ろ、デメリットの方が多いだろう」

「な、何でですか!?身体をおっきくすればそれだけ大きな大砲や魚雷を積めるのに……」

 確かに、そこは大柄な艦娘のメリットだろう。身体がデカいとそれだけ出力のデカい艤装が積めるし、主砲や魚雷も強力な物が積めるだろう。だが、それを凌駕するデメリットが発生する。

「単純だ、的がデカくなるだろが」

「…………あっ」

 そう、動物に置き換えての話で出てきたメリット、力が強いというのはあくまで『接近戦で』と枕詞が付くメリットだ。が、あくまで艦娘ってのは人の姿をした軍艦だ。その攻撃のメインは砲雷撃を主とした遠距離攻撃。そこに図体のデカいのが出ていったとしても、的の大きい楽な獲物と化して終わりだ。

「そんなぁ」

「だから巨体は諦めろ。艦娘として、って考えるならデメリットしかねぇ」





「……しかし、何だっていきなり巨大化したいなんて言い出したんだ?」


 俺はそう尋ねるが、まるゆは俯いたまま一向に答えようとしない。

「誰かに何か言われたか」

 ピクリ、と身体が反応した。

「……あの、新入りの人達に言われたんです。『戦えない艦娘なんて居る意味があるのか?』って」

 やれやれ、頭の痛くなる話だ。どうにもウチは武闘派で鳴らしてる鎮守府だからな、そういう脳筋的な考えに凝り固まった連中が居ないとは言わん。が、よりによってまるゆにそれを言うかね。

「あ~、それに関してはウチの組織の教育不足だ。すまん」

「いえ!司令が頭を下げる様な事じゃ!」

「いいや、まるゆ。お前みたいな役割の奴等が必死に働いてくれているからこそ、戦闘部隊の連中は十全に動けるんだ。それを理解してない奴がいるってのは教育側の責任……引いては俺の責任だ」

 まるゆは潜水艦である前に輸送艇だ。そういう役割の奴等が運んでくる資材や弾薬、燃料を湯水の如く消費して戦っているのだから、その労苦を理解しないなんてのは馬鹿のすることだ。それを理解もせずに『必要なのか?』だと?そんな馬鹿の方が必要なのかと小一時間(ry

「とにかくだ、お前は不必要なんかじゃねぇよまるゆ。むしろ重要な任務を毎日こなしてもらってる、誇りに思え」

「…………はいっ!失礼します司令」

「ん、じゃあな」

 執務室にやって来たときのどんよりとした雰囲気はどこへやら。まるゆは嬉しそうに執務室を出ていった。

「さて、後は……っと」

 俺はテーブルの裏に貼り付けてあった無線機を剥がし、話しかける。

「聞いてたか?」

『バッチリ、全部聞かせてもらったでち』

「俺はお悩み相談員じゃねぇんだがなぁ」

『部下のメンタルケアは立派な上司の仕事でちよ』

「まぁ、後は好きにしろ。ただし、やり過ぎるなよ?」

『わかってるでち。身の程知らずな若者に、ちょっとした教育的指導をしてやるだけでちよ』

「……本音は?」

『可愛い妹分を泣かせた落とし前はとってやるでち』

「お~お~、部下思いになったもんだなでち公」

『でち公って呼ぶんじゃないでち!』

 そこでブツリと通信が切れた。最近、まるゆの様子が可笑しいってのは聴いてたが……まさかこんな事になっていようとはな。

「やれやれ、俺もまだまだだねぇ」

 そうぼやいて、煙草を咥える。後日潜水艦達と一部の駆逐艦による演習が執り行われ、駆逐艦達は軽くトラウマになるほどにボコボコにされたらしい。以来まるゆの姿を見ると怯えた様子が見られるようになったと、まるゆ本人から半べそで相談を受けたのはまた別の話だ。やり過ぎだぞ、でち公。


 
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