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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第80話:嘗ての師弟

 
前書き
どうも、黒井です。

最近は頻繁にランキング入りさせていただきありがとうございます。励みになります! 

 
 場面は戻って、リディアンの劇場。

 一般人参加へと移行した勝ち抜きステージに、クリスに挑戦すると名乗りを上げた切歌と調。
 切歌がクリスを挑発しつつ、ステージ上に上がりマイクを握った。

 2人の目的はこのステージでクリスに勝ち、彼女が持つシンフォギアのギアペンダント……即ち聖遺物の欠片を奪い取る事である。
 このステージは最終的に勝ち残った者に願いを叶える権利が与えられる。2人(と言うか切歌)はそれに目を付け、合法的に聖遺物の欠片を手に入れようと言うのだ。

 そして始まった2人の挑戦。歌うのはまさかの『ORBITAL BEAT』、奏と翼のナンバーであった。

「この歌……」
「翼さんと奏さんのッ!?」
「何のつもりの当てこすり! 挑発のつもりか!」

 動揺を隠せない翼・響・未来の3人。
 それに対して、奏と颯人は嫌に静かだった。全く動揺していないどころか、何処か昂っている雰囲気すらある。

「奏……」
「皆まで言うなって奴だ颯人。あいつら、良い趣味してる」
「どうする? これでもまだ大人気ないって言うか?」

 意図しているかどうかは知らないが、切歌と調は挑戦状を叩き付けてしまったのだ。

 歌に対して強い思い入れを持つ奏に対して、彼女の持ち歌で対抗するなどこれ以上ない程の挑発であった。闘志に火をつけたと言って良い。
 幾らプロが学生の催しに本気を出すのは大人気ないとは言え、彼女の土俵に彼女の武器で上がって黙っていられるほど奏は穏便ではないのである。

 切歌と調が歌う『ORBITAL BEAT』は確かに良かった。心からの本気の歌。それは聞く者の心を揺さぶり、クリスの時とは別の感動を齎した。

 だがそれはイコール、奏の歌手としてのプライドを刺激する事に他ならない。

 切歌と調が歌い終わり、喝采が2人に向けられる。思っていた以上の反響だったのか、2人がポカンとしている間に採点をする教師が得点をボードに書き込んでいく。
 このままではクリスと切歌・調コンビだけで勝負が終わってしまう。ここで終わらせてなるものかと、奏が立ち上がり手を上げようとした。
 2人にクリスのギアペンダントを渡さないと言う、複雑な事情からくるものではなく、純粋な歌手としての戦いである。2人が模したツヴァイウィングの歌に、本家本元の歌が何処まで通用するか。それを試したいと言う、ただそれだけが奏を突き動かしていた。

「翼、行くぞ!」
「えっ!? 奏、行くって……」
「アタシらの歌で魅せ付けてくれたんだ。行くっきゃないだろ!」

 意気揚々と翼を伴い、舞台に上がろうとした奏。

 その瞬間、切歌と調の2人が耳に付けていた通信機が緊急を報せるアラートを鳴らした。
 何事かと通信に出た2人は、ナスターシャ教授から現在の状況を手短に聞かされた。

『アジトが特定されました』
「「えっ!?」」

 2人が目を見開く中、ナスターシャ教授は連絡を続ける。

『襲撃者は退けましたが、場所を知られた以上長居は出来ません。私達も移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう。ソーサラーを向かわせます』
「そんなッ!? あと少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよッ!?」
『緊急事態です。命令に従いなさい』

 そう言ってナスターシャ教授は一方的に通信を切った。反論は聞かんと言う意思表示だろう。それと同時に、切羽詰まっている事が語調からも伝わってきた。

 悔しいが仕方ない。歯噛みする切歌の手を、調が引いてステージから足早に下りて行った。

「さあッ! 採点結果が出た模様です……あれ?」

 その間に採点結果が出て、司会が発表しようと振り返るが、その時には既に2人はステージに背を向けていた。

「お、おいッ! ケツを巻くんのかッ!?」

 まるで逃げるようにステージから去る2人に、クリスが半ば挑発染みた言葉を投げかけるが、調は意にも介さず去って行く。

「調ッ!?」
「ソーサラーさんが居るならきっと大丈夫。でもマリアとセレナが心配ッ!」

 色々と物申したい所ではあるが、切歌も特にセレナの事は心配だった。何しろ彼女はベッドの上から動けないのだから、何かあっては事である。

 それを黙って見逃がす颯人達ではない。

「よし、何があったかは知らねえがこいつはチャンスだ。追うぞ」
「あぁ」

 颯人達はステージから立ち去った切歌と調を追うべく、足早に客席を立ち劇場を後にするのだった。




***




 時は少し遡り――――――

 ワイズマンの罠に嵌りエアキャリアから強制的にジェネシスの居城へと転移させられたウィズ。

 警戒する彼の前に姿を現したジェネシスの首魁ワイズマンは、有無を言わさずウィズに襲い掛かった。

「フンッ!」

 両手から出した赤い光刃を振り下ろすワイズマンに対し、ウィズは極力正面から打ち合う事はせず回避と防御に徹していた。縦横無尽に振り回される赤く輝く刃を、ウィズは紙一重で回避し、ハーメルケインで受け流し、どう足掻いても回避できそうにないものは受け止めていく。

 しかしワイズマンの攻撃は苛烈だった。まるで嵐の様な攻撃に、ウィズは防戦一方で反撃どころか逃げる事すら儘ならない。

「ふふっ、どうした? お前の力はこの程度か?」
「くっ!?」
「あの頃から全く変わらないな。寧ろ弱くなったんじゃないか?」

 戦いながらワイズマンはウィズを挑発する。他の相手であれば意にも介さないだろう言葉だったが、ワイズマンのものだけは話が別なのか心を乱されていく。

「まぁそれも当然だな。何しろお前は以前私に敗北し、魔力の大部分を封印されているのだからな。寧ろその状態でよくここまで戦えたもの、だ!」
「ぐはっ?!」

 次々と放たれる斬撃を防ぐ事に精一杯になっていたウィズに、ワイズマンの蹴りが炸裂する。蹴り飛ばされたウィズは、背後にあった調度品を破壊しながら壁に叩き付けられた。
 腹と背中を襲う衝撃に、ウィズはハーメルケインを杖代わりにしながら立ち上がった。

「はぁ、はぁ、くそ――!?」
「ふん。どうしたウィズ? 魔力を半分封印されているにしても消耗が早いじゃないか? どこかで魔力の無駄遣いでもしているのか?」
「ちぃっ!?」

 ウィズは現在、エアキャリアを守るソーサラーに足止めされている風を装う為、デュープで作り出した分身を戦わせている。そちらに魔力を割いている為、何時も以上に魔力を消耗しているのである。

 苦戦必須の戦い。いや既に苦戦している現状、ウィズは既に逃げる事を考えていた。

 ジェネシスサイドの戦力で分かっている事の一つに、連中は結界などに関する魔法が乏しい事がある。このアジトも特に隠蔽されるようなことはなく、どこかにある人の寄り付かない古城を利用しているに過ぎない。
 つまり、一瞬の隙さえあればテレポートで逃げる事は可能という訳だ。少なくとも一度発動してしまえば、阻まれる事はあるまい。

 問題は指輪を取り換えて魔法を発動する隙が与えられるかと言う事である。ウィズは戦いの中で、指輪を取り換え魔法を発動する隙を伺った。

「戦いの最中に考え事とは余裕だな!」

 しかしワイズマンからの攻撃は相変わらず激しい。全く隙が無い。

 しかも何が恐ろしいって、ワイズマンは純粋な剣技だけで今のところウィズを圧倒しているのだ。颯人は勿論、透すら圧倒してみせたウィズが今はワイズマンに手も足も出ていない。魔法も無しにウィズが圧倒されているところを颯人達が見たら、信じられないと言った顔をするだろう。

 だがウィズも一方的にやられてばかりではない。戦いの中で、彼はこの状況を打開する策を考えついた。
 その策を実行に移すべく、ウィズは戦法を変えワイズマンの周りを素早く動き回りながら攻撃を仕掛けた。突然戦法を変えたウィズに、ワイズマンは一瞬呆気にとられる。

「ほぉ? 戦法を変えたか。面白い、だが…………」

 周囲を動き回りながら攻撃してくるウィズの動きを見極め、的確に攻撃を防ぐワイズマン。そして何度目かのウィズの攻撃を捌いた次の瞬間――――

「――――そこだ!」
「ッ!?」

 一瞬の隙を突いて、ワイズマンの斬撃がウィズを捉えた。×字に振るわれた刃が、ウィズの鎧を切り裂きその場に膝をつかせた。

「ぐ……が、はぁ……」

 ウィズの負傷は遠く離れたエアキャリアの隠してある倉庫にも影響を及ぼした。

 出し抜けにソーサラーと戦っていたウィズが体を崩壊させたのだ。

「ッ!?」
「ウィズッ!?」

 何の前触れもなく分身が姿を消す。それが意味しているのは、本体に何か異常があった事のみである。

 まさかの事態にアルドは激しく動揺し、またソーサラーも突然戦っていたウィズが消えた事に狼狽える様子を見せた。
 そこにさらにナスターシャ教授からの通信が入る。

『ソーサラー、撤退します。貴方は切歌と調を回収に向ってください。後程合流しましょう』

 ソーサラーはナスターシャ教授からの通信を聞くと、一瞬躊躇った様子を見せたがすぐに気を取り直し、ハルバードを振るいアルドを吹き飛ばした。

「あぁっ?!」

 吹き飛ばされたアルドがコンテナに激突しゆっくり崩れ落ちるのを、僅かな時間見つめソーサラーは切歌と調を迎えに魔法でその場から姿を消した。

「う……ウィズ……」

 アルドが朦朧とした意識の中でウィズの名を呟く。

 そのウィズは、ワイズマンの一撃に膝をつきながらも自らの策が実を結んだ事に仮面の奥でほくそ笑んだ。

「ふ……」
「ん? 何が可笑しい?」
「いや……詰めが甘いと思ってな」

 ウィズはそう呟くや否や両手を体を抱く様に振るった。すると室内の調度品が一斉にワイズマンに向けて飛んで行った。

「ッ!?」

 よく見ると調度品には目では見づらい極細のピアノ線が結びつけてある。

 ウィズは戦いながらワイズマンの周りの調度品にピアノ線を巻き付け、タイミングを見て一斉にワイズマンに殺到させたのだ。

 喰らってもダメージにはならないだろうが、調度品に纏わり付かれては動く事も儘ならない。ワイズマンは両手の光刃で迫り来る調度品を次々切り裂いた。

 それはウィズが逃げるには十分な時間となった。

〈テレポート、ナーウ〉

 ワイズマンが調度品への対処に追われている間に、ウィズは魔法で転移しその場から逃げ出す。
 迫る調度品を全て切り払った時、そこにウィズの姿は無かった。ワイズマンは暫し周囲を見渡し、完全に逃げられた事を悟ると光刃を消した。

「ふぅ…………ふっはっはっはっはっはっはっ!」

 誰も居なくなった室内で、ワイズマンは一頻り笑うと踵を返してその場を立ち去った。

 そして同じく部屋から姿を消したウィズは、エアキャリア近くへと転移していた。アルドと合流する為だ。
 彼が転移した時、エアキャリアは既に飛行体勢に入っており、隠れている倉庫から出た瞬間姿を消してその場を飛び去った。

 飛び去ったエアキャリアを見送り、ウィズは周囲を探しコンテナに叩き付けられたアルドの姿を見つけた。

「アルド、大丈夫か?」
「ウィズ……私は、何とか。それより何が?」
「ワイズマンに罠に嵌められた。どうやら奴の策は見抜かれていたらしい」
「では――!?」

 アルドの同様に、ウィズが頷いて答える。由々しき事態だ。しかし現状、2人はボロボロで何か行動を起こすにしても今は休まなければならない。

 だがまだ出来る事はあった。

「アルド、例の指輪は出来ているか?」
「ランドは出来ています。付属させる魔法も完成しました」
「直ぐに颯人に届けるぞ。今はあいつらに少しでも頑張ってもらわなければならない」
「はい」

 ウィズの言葉に頷いたアルドは、懐から二つの指輪を取り出した。
 その内の1つは、フレイムドラゴンと同様、ランドウィザードリングに酷似していた。 
 

 
後書き
と言う訳で第80話でした。

昔の師弟。その片割れが敵に回った場合、相手が師でも弟子でも味方側が巻けるフラグだと思うのは自分だけでしょうか。
主人公の師匠が強敵に負ける率は高いと思う。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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