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真・恋姫†無双~俺の従姉は孫伯符~

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蓮華×雪蓮×雹霞=複雑な関係?





 雹霞が洛陽にて董卓との顔合わせをしていた頃。
 黄巾党の残党狩りの際に袁術から許可を貰った雪蓮は、大陸に散らばる仲間達を招集。実に数年ぶりに集合し、感動を分かち合うのもそこそこにして、来る袁術への復讐に向けて力を蓄えていた。
 
 本城、孫瑜の自室にて。
 
「ふっ……はぁっ……ふぅっ……」

 何者かの悩ましげな声が、雹霞の部屋に響き渡る。部屋主は現在洛陽にいるため、ここに誰かがいるはずもないのだが……どうやら、関係者が忍び込んでいるようだ。
 見ると、寝台の辺りで布団がもぞもぞと動いている。侵入者は雹霞の布団を頭までかぶり、その中でなにやら悶えているようだ。……声がやけに熱っぽいのは、気のせいだろうか。

「うっ……ぷはぁっ」

 ずっと布団の中で身動きを取っていたため酸素不足で苦しくなったのか、ようやく犯人が顔を布団の外に出す。……現れたのは、目を見張るほどの美少女。
 桜色の長髪が特徴的で、江東特有の褐色肌はほんのりと朱く染まっている。凹凸がはっきりしすぎた全身には、無数の汗が珠のように浮かんでいた。
 ここまでの説明だと候補は二人になるだろうが、今回この場にいるのは妹の方である。ご容赦を。
 そんな魅力的な少女――――孫権は、布団から顔だけを出した状態で大きく息をついた。

「はぁっ……はぁっ……いい、匂い……」

 うっとりと、熱に浮かされたように呟く孫権。ちなみに、ここは彼女の従兄、孫瑜仲異の部屋で、しかも寝台の上である。決して、顔を赤くして性的興奮に浸る場所ではない。彼女はあくまでも、雹霞の従妹だ。
 だが、孫権はそういったことはすべて無視といった様子で、布団に染みついた愛すべき従兄の匂いをゆっくりじっくり丁寧に吸っていく。

「んはぁ……兄、さまぁ……雹霞、兄様ぁ……」

 二回、従兄の名を呟く。
 彼女がこの城に帰ってきたとき、雹霞はすでに旅立った後だった。行き先を雪蓮に尋ねるも、見聞を広めるための旅なので分かるはずもない。行方が一切わからぬまま、孫権は彼の帰りを待ち続けるしかなかった。
 だが、いつ帰るともしれない旅人を待つなんて気の遠くなるような所業だ。そのため、彼女はこっそり雹霞の部屋へと赴き、こうして寂しさを紛らせているのである。

「あぁ……兄様……」

 その後、数十分にわたって雹霞の部屋は彼女のプライベートルームとなった。





                ☆





「うぅ……私なんであんなことしちゃうのかなぁ……」

 兄様の部屋を出て、適当に城内を歩き回りながら、私は一人自己嫌悪に陥っていた。い、いくら兄様が恋しいとは言っても、あれはちょっと……色々と、駄目なんじゃないかと自分でも思う。
 仮にも私は孫家の次女。姉様に劣らないように、日々王としての自覚と心構えを持っていないといけないのに……。

「兄様のことを考え始めると、自分を制御できなくっちゃうのよね……」

 以前思春に言われた『重症ですね』っていう言葉が痛いほど胸に刺さる。確かに重症だ。もはや恋する乙女とかいう限度を軽く超えてしまっているような気がする。姉様と別れて暮らしていた頃はまだ収まりがついていたんだけど、この城に来てからはもう無理。だって兄様の部屋があるのよ? 我慢しろって言うのがそもそも不可能なのよ。……って、思春に言ったら呆れ顔で首を振られたけど。あの子最近私に厳しいわね。
 それにしても、なんでこんな気持ちになってしまうのかしら。
 きっかけは、よくわからない。物心ついたころから姉様に連れられて、兄様と一緒に遊んでいた。たまにしか会えなかったけど、会えた時はいつも私に優しく接してくれていたわね。
 もしかしたら、そんな兄様の優しさに私は惚れているのかもしれない。こんなことを考えるのは王としてあるまじきことなんだろうけど、これは一人の女性としての私の本心。他人にどうこう言われようが、曲げる気や否定する気は一切ない。これが私なんだもの。嘘はつけないわ。

「……だからって、雹霞の部屋で自分を慰めていいとは限らないわよ?」
「にゃわっ!!」

 突然耳元で囁かれ、思わず前のめりに倒れてしまう私。い、いくら思考の波に身を任せていたとは言っても、少し油断しすぎてしまったわ……。ていうか、私今すっごく恥ずかしい声出さなかった!?
 自分の顔が羞恥で染まっていることを自覚しながらも、顔を上げる。

「はいは~い♪ 今日も元気ね、れーんふぁっ」
「ね、姉様……」

 ひらひらと右手を振って軽い挨拶をしてくる姉様。どうやら、さきほどの犯人はこの人で間違いないようだ。というか、この人しかありえないわね、状況的に。
 はぁ、と溜息をつく。姉様はなぜかにんまりと微笑むと、少し力強く私の肩に手を回してきた。

「ねぇっ、蓮華」
「な、なんですか……?」
「さっき私が言ったことなんだけどぉ……」
「言ったこと? 何のこと……」

 瞬間、私の脳内に数分前の言葉が繰り返される。

『だからって、雹霞の部屋で自分を慰めていいとは限らないわよ?』

「~~~~~~っ!?」

 顔から火が出そうだった。は、恥ずかしい……少しも躊躇わずに直球的に言われたことが、さらに羞恥心を煽ってくる。自分の顔が火が出そうな程赤面しているのが、鏡を見なくてもわかりそうだわ……。
 私が動揺するのを見て、姉様はいたずらを成功させた子供のように明るく笑う。

「あっはは! あ~、おもしろかったー」
「わ、笑いごとじゃありません! いきなりなんてことを言い出すんですか!? それも、こんな場所で! 他人に聞かれたらどうするつもりです!?」
「あ、もしかして恥ずかしいの?」
「当り前です!」

 自分が、その……行為に走っているところなんて、できれば一生口外したくない。だって恥ずかしいでしょう!? 人間なら誰でもしていることとは思うけれど、そういう事実と羞恥心は別問題なの!
 
「恥ずかしいとかそういうこと以前に、他人の秘密をそんなやすやすと口外しないでください!」
「カッタイなぁ、蓮華は。そんなこと、今更言われたってどういうアレでもないでしょうに……」
「あるんです! 秘密は秘密なんですから、そのまま心にしまっておいてください!」
「えー? でも、蓮華がそういうえっちぃことしているっていうのは、この城の武将なら全員が知っていることなんだけどなぁ」
「なっ……!」

 う、嘘でしょ!? ちゃんとみんながいないのを確認してからやってるし、防音対策もしっかりしているのに! なんでバレちゃってるのよー!
 一人真っ赤になりアワアワしている私に、姉様は呆れ半分愉快半分といった視線を送ってくる。

「アンタねぇ……雹霞が留守の今、アイツの部屋を狙うのがアンタだけとは限らないでしょーが」
「そ、それは……どういう……」
「だーからー、この城にいる武将……祭、穏、明命……あ、それと思春もかな? その四人ほども、蓮華と同じく雹霞の留守中を狙っているってことよ。まぁ、理性の塊の冥琳や、アイツを兄としか見ていないシャオはそういうことはしてないみたいだけどねー」
「そ、そんな……」

 ガクン、と項垂れてしまう。こ、この軍がそんなに積極的な女子の集まりだったなんて……ていうか、思春までそういうことやってたわけ……? あんなに堅物の雰囲気まき散らしているくせに……人間って怖いわね。
 
「ま、仕方ないって言えば仕方ない気もするけどさ。アイツ、優しいし。恋人一号の私以外にも、デレデレするところあるし……もしかしたら自分も、っていう気持ちがあるんじゃないかしら」
「うっ……それは……」

 ある意味、図星だった。姉様と兄様がそういう仲になったのは冥琳から聞いていたけれど、心のどこかでは『兄様は自分にも振り向いてくれるはず』という気持ちが燻っている。もう数年ほど会ってないけれど、きっと再開したら兄様は昔と変わらず優しく接してくれるはずだ。姉様という存在がいても、そんなことは関係ないといった具合で……。

「私としては少しイヤ~な感じなんだけど、でも皆と一緒に一人の男を取り合えるって言うのは、それはそれで楽しいとは思うわ」
「そんな軽いものじゃないと思いますが……」
「そう? 私としては全員でまぐわうのも良いと思っているわよ? ふふっ、雹霞の身体が耐えられないかしら」
「ね、姉様!」

 ゴメンゴメン、と悪びれる様子のない謝罪をしてくる姉様。まったく……姉様はいつもいつも……。
 ……でも、全員かぁ。
 ちょっとだけ、想像してみる。

『雹霞……好きぃ♪』
『おい雪蓮! 乗っかるな重いから!』
『雹霞さん意外にコってますね~。私がほぐしてあげますよ~』
『穏! なんかマズイものが! この小説の年齢制限じゃ防げないレベルのものが!』
『お主ら、少し黙らんか……んっ、儂が達せぬではないか……』
『祭はなんでこの状況で続行してるのさ! ありえないよね!?』

 …………やめよう。途中で気分が悪くなってきた。これはあまりにも衝撃的すぎて、身体と心の両方に悪い。というか、ある一部分が異常に発達した人達だからか、少し暑苦しく感じてしまった。
 私が想像したのを悟ったのか、姉様は「あははっ」と再び笑う。

「じょーだんよ、じょーだん。それはさすがにムリだって。色々な意味で」
「でしょうね……兄様の身体云々以前の問題ですよ」
「そーね。……話は変わるけど、アイツなら蓮華のことも受け入れてくれると思うわよ?」
「…………はい?」

 突然の話題転換に、思わず気の抜けた声が出てしまう。この姉は今なんて……、

「だから、雹霞なら、アナタのことも恋人として受け入れてくれるってことよ」
「え、えっと……それはどういう……」
「アイツ、どーやら少しひん曲がった考え方をしているらしくてさぁ……【自分の周囲の人間】は【自分が愛すべき人】って思っているらしいのよね」
「はぁ……」
「もうっ、要領得ないわね。つまり、アナタだろーが他の人だろーが、【雹霞の身近にいる人間】なら、同時に【雹霞の恋人】になれるってことなの!」
「!」

 そ、それは……また随分とおいし――――いや、大仰な考えね。男らしい、とも言えるけれど。
 ようするに、私も姉様みたいに、兄様のことを愛してもいいっていうことよね……? う、うわぁ……なんか顔が赤くなってきた……。

「どーやらよーやく理解したみたいね。そんなわけだから、頑張りなさいよ? 蓮華」
「あ……は、はい! 頑張りますっ、姉様!」
「ふふっ、元気でよろしい♪」

 「じゃーねー」姉様はそう言って手を振ると、庭の方へと歩き去っていった。大方、また木の上でお酒でも飲むつもりだろう。どうせ冥琳に怒られてしまうのに……懲りない人だ。
 ふと、空を見上げる。
 目の前に広がるのは、朱色に染まる夕暮れの空。……まるで、今の私の心を表しているような、そんな空。
 もしかしたら、兄様もこの空を眺めているのかしら……。
 
「…………兄様、もし……もしも、再会できたなら……そのときは」

 『貴方が好き』と、言わせてください。





              ☆



 

 その頃の雹霞はといえば……、

「かぁーっ、うまい! やっぱ人生酒と武術やで、新入り!」
「ちょっと霞さん! そろそろ帰らないと詠さんに怒られる――――」
「――――それが分かっているのなら、今からのことは理解できるわよね?」
「か、賈駆ちん!? こ、これは違うねん! 雹霞がどうしてもっていうから、しかたなーくつきおうとるだけで……」
「わっ、それは汚いですよ霞さん! 俺になすりつけないでくださいよ!」
「……いいから、早く帰れぇえええええええええええええ!!」
『う、うわぁああああああああああああああ!!』

 サラシ少女の張遼と、二人仲良く詠に怒られていましたとさ。






 
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