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天才少女と元プロのおじさん

作者:碧河 蒼空
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正美の特訓
  35話 通用しない事が分かったから

「おじさん!初めて会ったときの約束覚えてる?」
「野球を教えるって約束だよね。ちゃんと覚えてるよ」

 眠りの中でおじさんに会いに来た正美はおじさんにバッティングの指導をお願いした。内容は勿論、投手の球威に負けないスイングを手にいれる事である。

「それじゃあ、硬式の打ち方からやろうか」

 まずは軟式と硬式の打ち方の違いをおさらいする事から始まった。
 硬式ボールは軟式よりも下側を叩く必要があり、またバックスピンをかけるようにスイングする事で飛距離を伸ばす事が出来るのだ。

 生まれつき小柄な正美は筋肉を大きくし過ぎると怪我のリスクが上がってしまう為、こういった技術面で改善を図る方針となった。

 鏡の前で素振りをして、自身のフォームを確認した記憶を共有し、寝ている間におじさんから助言を貰ったら、朝起きてすぐに教わった内容をメモする。そしてまた鏡の前で素振りをすのだ。

 こうして全国大会までには形になることを目標とし、正美のバッティング練習がスタートした。






 最近はみんなの疲労を考慮され、部活での練習は軽めに行われている。正美は練習後に一人トスマシンと共に居残り練習をしていた。

 普段のほとんど足を上げない摺り足打法とは違い、足をホームベース側に上げるレッグキック打法でボールの下を叩く。おじさんと取り組んでいるバッティングフォームである。

 トスマシンのボールが切れたところで正美に接近する影が一つ。

「正美ちゃん!」

 正美が振り向いた先に芳乃が居た。

「休まなくて大丈夫?」

 芳乃はバッティング練習を中断した正美に近付いて問う。

「うん。最初の二戦は少ししか出てないし、次は控えだからね。そういう芳乃ちゃんはまた監督と会議?」

 柳大川越戦は詠深が先発する為、正美はベンチスタートの予定となっていた。また、ここ2試合温存されていた詠深に次いで出場イニングが少ない正美はまだまだ余力があると主張する。

「そうだよ。ところで、今のバッティングは?」
「やっぱ気付かれましたかー」

 正美は今日の部活中は摺り足打法で打っていたのだ。芳乃も正美の新フォームを見るのは初めてである。

 正美は打ったボールを集め始めると口を開いた。

「今まではいつでも軟式に戻れるようにフォームを変えないでやってきたけど、先に進めば進むほど私のバッティングは通用しない事が分かったから、暫くは硬式に専念することにしたんだ。私が強い直球を打てないのバレちゃってるだろうしね」

 喋りながら集めたボールをトスマシンにセットする。

「あ、でも県予選中は間に合わないと思うから期待しないでね」
「うん、分かった。あ、私がトスするよ」
「良いの?遅くなっちゃうよ?」
「大丈夫!私家近いから」
「そっか。よーし。なら一丁気合い入れ直しますかーっ」

 二人は暫く居残り練習を続けるのだった。






 柳川大附属川越高校では対新越谷の為のミーティングが開かれていた。

 モニターには詠深が写し出される。詠深は強ストレートを投げる時、リリースと位置が遅くなり前へ、そして低くなる。故に狙うは強ストレート。映像を流しながら一年生捕手の浜田が解説していた。

 次に各野手の情報の共有が行われる。例えば、怜は高い打率を残しており長打も狙えるが、崩されるとセカンドゴロが最も多く、次いで空振り。ただ足も早く守備も硬い。

 次々と野手の解説が行われていくと、最後は正美の番となった。

「三輪選手は右投げ左打、ここまでセンター、ショート、サード、ピッチャーで出場しています。ここまで打率は.667、出塁率は.700。驚異的な数字に目が行きがちですが、足も相当早いので出塁してからも脅威です」

 モニターには影森戦の盗塁のシーンと、熊谷実業戦でホームに帰ったシーンが続けて映し出される。

「うわぁ、早いスね······」

 一年生にてセンターのレギュラーを勝ち取った大島 留々は思わず声を漏らした。

「打球は引っ張り傾向。外角もあまり流すことは無いようです。速い球が苦手なようで、梁幽館の中田選手と熊谷実業の久保田選手の二人を相手に4打数2安打もヒット性の当たりはありません」

 その四打席の映像が順番に流れる。

「見ての通り強い球で内野を越すほどのパワーが無いのでしょう。中田選手との対戦ではフルスイングしているので、全く飛ばせない訳では無いのでしょうが、慣れていないのでしょう。ヒットにはなりましたが打ち損じています」
「朝倉さんなら問題なく抑えられそうスね」

 そんな大島の言葉にエースナンバーを着ける大野は面白くなさそうな顔をした。

「マウンドに上がったのは二試合。両方ともリリーフ登板です。五回を投げて2失点、防御率3.60とまずまずの成績です。軟投派で頻度が高い順に高速シンカー、スライダー、ツーシーム、ストレート、カットボール、チェンジアップ、スローカーブと多彩な球種で緩急を武器にしているものの、これといった球が無いので、球をしっかりと引き付けて打つことを心掛けてください」

 こうして柳大川越野球部はミーティングを終えた。 
 

 
後書き
 ナックルスライダーとナックルカーブの違いを解説した動画を見付けたので、興味のある方はご覧ください。
 https://youtu.be/-S51YX44-5w


 正美の新フォームは埼玉西武ライオンズの森友哉選手のものから、グリップを肩の高さまで下げた形をイメージしています。
 トップを下げと脇が閉まるので、自然とバットが内側から出てくると言うメリットが発生します。 
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