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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第126話

 
前書き
いつもより更新が遅れてすみません(汗)その代わり、文章はいつもより多めです 

 
同日PM1:00―――――



~レヴォリューション・ブリーフィングルーム~



「――――――それじゃあブリーフィングを始める。ちなみに今回の要請(オーダー)の発注先はヴァイスラント新生軍だ。」

「ヴァイスラント新生軍が……もしかして本来だったら部隊長クラスばかりを集めたブリーフィングにミュゼが参加しているのも、それが関係しているからなの?」

リィンの話を聞いて僅かに驚きの表情を浮かべたアメリアはミュゼに視線を向け

「はい。僭越ではありますが私の方より現在のヴァイスラント新生軍の戦況、そして要請(オーダー)の内容について説明させて頂きますわ―――――」

視線を向けられたミュゼは頷いた後その場にいる全員にオーレリア将軍から聞いたヴァイスラント新生軍の戦況や要請(オーダー)の内容についての説明をした。



「……なるほど。今回の我々の目的はエレボニア政府によって占領されているエレボニアの貴族達の本拠地である海都とその盾にしてヴァイスラント新生軍―――――いや、領邦軍にとっての本拠地でもある海上要塞の奪還を目的とするヴァイスラント新生軍への協力か。」

「ルーレの時と違って一筋縄ではいかないでしょうね。何せジュノー海上要塞はエレボニアの”難攻不落の要塞”として有名だもの。」

「しかも後々の事を考えるとオルディスも市街戦による被害を最小限に抑えた状態で奪還しなければならないとか、結構難易度が高いんじゃないですか?」

「だよなぁ?……そういえや、オルディスはステラの地元でもあったよな?もしかしてルーレのような”抜け道”みたいなものがあったりするのか?」

説明を聞き終えたカイルとエーデルガルトは静かな表情で呟き、リシテアと共に疲れた表情で呟いたフォルデはある事を思い出してステラに訊ねた。



「ええ。私がまだ帝国貴族の令嬢だった頃、様々な出入口に通じているオルディス市内に大規模な地下水路があり、その内の一つはカイエン公爵家の城館に直接通じているという話を聞いた事があります。」

「へえ……ちなみに実際の所、どうなんだい?」

ステラの話を興味ありげな様子で聞いていたフランツはミュゼに視線を向けて問いかけ

「ステラさんの仰る通り、市内の地下水路で公爵家の城館に直接通じている出入口も存在していますわ。しかも予めオルディスから脱出する際に地下水路の地図も持ち出したユーディお姉様より頂いておりますので、今回の作戦でその地下水路を利用する際に迷う等といった状況にはなりませんので、ご安心ください。」

「あら。だったら、その地下水路が今回の要請(オーダー)を成功させる為の”鍵”となるかもしれないわね。」

「そうだね。―――――とはいっても敵軍も愚かではないのだから、城館に直接通じている地下水路の存在を見逃すといった事はさすがにしていないだろうね。」

「ああ。それよりも問題は海上要塞にどう潜入し、攻略するかだね。”海上要塞”という呼び方から察するに恐らくその要塞は”海の上”にあるだろうから侵入は容易でない事は目に見えているからね。」

「後は”紅き翼”ですわね。先程の話によると確か鉄血宰相達の謀によって失脚させられたレーグニッツ知事だけでなく、プリシラ皇妃に”呪い”によって傀儡と化した”光の剣匠”までオルディスに滞在しているとの事ですから、今回の要請(オーダー)にも介入してくるのは確実ですわ。」

「ちなみにルシエル殿は今回の要請(オーダー)に関して俺達は具体的などう動けばいいかの戦術は既に考えているのだろうか?」

ミュゼの答えを聞いて呟いたドロテアの話に頷いたフェルディナントは考え込み、ローレンツとデュバリィもそれぞれ意見を口にして考え込み、ドゥドゥーはルシエルに視線を向けて訊ねた。

「ええ。それでは早速今回の要請(オーダー)に関する”策”についての説明をさせていただきます―――――」

そしてルシエルはその場にいる全員にオーレリア将軍にも聞かせた”策”を説明した。



「……なるほど。という事は今回の件、私のような飛行可能な戦士達の大半の戦力は要塞方面の攻略に充てるべきだろうな。」

「そうですね……とはいっても、オルディスの港で迎撃する部隊を空から援護する部隊も必要でしょうから、1~2部隊程度は残しておくべきでしょうね。」

ルシエルの説明を聞き終えたベアトリースとイングリットはそれぞれ考え込み

「……ルシエル殿。一つ気になっている事があるのだけど、いいかしら?」

「何でしょうか?」

「デュバリィ殿も先程口にしたように今回の件にも”紅き翼”が介入してくることは確実でしょうけど……その介入の”方法”として、ルーレの時のように”皇族の威光”や”ラマール統括領主の資格がある人物”を利用して両軍の戦闘を停止させてくる可能性はあるかしら?」

「いえ、ミュゼにも確認しましたが”それは絶対にありえません。”」

「?何故ルシエル殿はそんなにハッキリと確信を持てるんだ?ルーレの時の事を考えると、”紅き翼”が俺達の彼らに対する印象を利用して裏を突いてくる可能性は十分に考えられるが……」

エーデルガルトの質問に対して即答したルシエルの答えが気になったディミトリは不思議そうな表情で訊ねた。



「……わたくしはルーレの件が終わってから、常識で考えれば成功率があまりにも低い彼らの”策”が何故あれ程までに上手く事が運んだかの理由を考えていました。そしてその結果、ルーレの件が彼らにとって上手く事を運べた理由は偶然にも”ある3つの要素”が揃っていた事がわかり、今回の件にその”ある3つの要素が揃う事は絶対にありえないから”です。」

「”ある3つの要素”………?それは一体どういったものなのでしょうか?」

ルシエルの答えが気になったプリネは続きを促した。

「まず一つ目は”正当なノルティア州を統括する主の資格を持つ者”の存在です。」

「”正当なノルティア州を統括する主の資格を持つ者”………アンゼリカ先輩か。確かに幾らログナー侯爵に忠誠を誓っているとはいえ、その娘であり、ログナー侯爵の一人娘のアンゼリカ先輩の主張はノルティア領邦軍にとっては決して無視できないものだな。」

ルシエルの説明を聞いてアンゼリカを思い浮かべたリィンは静かな表情で呟いた。



「ええ。次に先程挙げた”正当なノルティア州を統括する主の資格を持つ者”に連動する形になるのですが……”アンゼリカ・ログナーという存在によるノルティア領邦軍への影響力”です。」

「……なるほどね。ログナー侯爵自身が”武闘派”である事から元々ノルティア領邦軍のログナー侯爵に対する忠誠心は他の領邦軍と比べると一際篤い上、アンゼリカお姉さん自身もノルティア領邦軍からは慕われている様子だったものね。」

二つ目の理由を聞いてすぐに事情を察したレンは納得した様子で呟いた。

「はい。そして最後の理由はノルティア領邦軍が去年の内戦の件でログナー侯爵同様アルノール皇家に対して罪悪感を抱いていた為、アルノール皇家の正当な後継者である皇太子とその兄皇子が内戦の件を持ち出した上での”勅命”に対して本能的に逆らう事ができなかったからです。」

「……ただでさえ彼らにとっての”主”であるログナー侯爵が内戦の件でアルノール皇家に対して罪悪感を抱いていた事も彼らは知っていたでしょうし、そのアルノール皇家の者達から”勅命”を出されてしまえば、内戦の罪を償う為にもその”勅命に従うのが当然”という風潮になっていた……という訳ですわね。」

「それは………」

最後の理由を口にしたルシエルの話を聞いてある推測を口にしたデュバリィの推測を聞いたリィンは複雑そうな表情を浮かべた。



「フム……確かにそれらの件を考えるとルシエルさんの推測通り、今回の件に紅き翼は同じ手を使って戦闘を中断させることができないのは”確実”だね。」

「ああ。今回我々が戦う敵軍は”領邦軍ではなく、正規軍―――――エレボニア政府の命令が絶対という考え”だから、例え彼らが”正当なラマール州を統括する主の資格を持つ者”の協力を取り付ける事ができたとしても、正規軍はその人物の言葉に耳を貸さない事は目に見えているな。」

「というかそれ以前に、あの人達が”正当なラマール州を統括する主の資格を持つ者”の協力を取り付ける事なんて”絶対に不可能”なんじゃないですか?」

「”エレボニア側のカイエン公爵家の暫定当主”を名乗り上げたミュゼちゃんは灰獅子隊(わたしたち)側だし、前カイエン公の娘さん達はクロスベル帝国に鞍替えしたから、クロスベル帝国から二心を疑われない為にもこの戦争で”紅き翼”に協力する事は絶対にしないでしょうね。」

「”カイエン公爵家の跡継ぎの資格”という意味ではユーディット皇妃達の兄君に当たるナーシェン卿も一応その一人ですが……父親の前カイエン公のように自己中心的かつ狡猾、そして”血統主義”であるナーシェン卿の事ですから、例え皇太子殿下達から協力を要請されたとしても、それを殿下達の弱味にして殿下達に対して様々な横暴な要求をすることは簡単に想像できますから、殿下達がナーシェン卿の協力を取り付ける事も絶対にありえないと思います。」

ルシエルが説明した3つの理由を聞いたローレンツとフェルディナントは納得した様子で呟き、リシテアは呆れた表情を浮かべ、ドロテアは苦笑し、ステラは静かな表情でそれぞれ意見を口にした。



「ちなみにですが”正当なラマール州を統括する主の資格を持つ者”は私を含めた今挙げた名前の方々以外にもう一人―――――前カイエン公であるクロワールにとって”叔父”に当たる人物―――――バラッド侯爵という人物もいますが、バラッド大叔父様の性格は前カイエン公と同じく”悪い意味での典型的な帝国貴族”の上自らの益の為ならば他の貴族達も追い落す事もする帝国貴族にあるまじき厚顔無恥な方かつクロワールと違い、利権にめざとく、また鼻も利く方ですから、大叔父様が義憤に駆られるや皇家への忠誠心等といった見返りを一切求めない考えで皇太子殿下達に協力する事は”天地がひっくり返ってもありえない上、そもそも人望もありません”から、皇太子殿下達がバラッド大叔父様を頼る事もありえませんし、万が一バラッド大叔父様の協力を取り付けた所でルーレの時のように、皇家の威光とバラッド大叔父様の勅命で戦闘を中断させることは確率で言えば”限りなくゼロに近い低さ”ですので、ご安心ください♪」

捕捉説明をした後笑顔で答えたミュゼの推測を聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「うふふ、ちなみにミュゼは”限りなくゼロに近い低さの確立”って言っていたけど、例えで表すとしたらどんな事かしら?」

レンはからかいの表情でミュゼに訊ねた。

「そうですわね………例えで表すとすればリィン少将が”妹思いを卒業するかつ女性の気持ちに機敏になる殿方になる可能性”かと♪」

「いや、何でそこで俺を例えに出すんだ!?」

レンの問いかけに対して小悪魔な笑みを浮かべて答えたミュゼの答えを聞いたリィンは疲れた表情で指摘したが

「クク、ミュゼちゃんがそこまで断言するくらいなんだからルシエルちゃんの言う通り、紅き翼の連中がルーレの時みたいに戦闘を中断させることは絶対に無理だって事は今の例えで十分わかったよな。」

「フフ、そうですね。リィンの事をよく知る私達からすれば、ミュゼが口にした例えはそれこそ”天地がひっくり返ってもありえない出来事”ですものね。」

「というかその例えだと”限りなくゼロに近い低い確率どころか、最初からゼロ”なんじゃねぇのか?」

「ちょっ!?何でみんなもその例えで納得するんだ!?」

口元に笑みを浮かべたフォルデの言葉に苦笑しながら同意したイングリットや肩をすくめたクロードの言葉を聞くとリィンは驚いた後反論した。



「今までの貴方が口にした周りの者達にも勘違いさせる程の発言もそうですが、貴方の今の状況を考えれば、貴方がそんな風に見られるのは当然の事ですわよ。」

「ア、アハハ………」

「……………………」

ジト目でリィンを見つめて指摘したデュバリィの指摘を聞いたプリネは冷や汗をかいて苦笑し、リィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせて黙り込んだ。

「コホン。そういう訳で、紅き翼の介入で戦闘を中断させるといった事は起こらないかと。よって、紅き翼関連で警戒するとすれば、オルディスのカイエン公爵家の城館を奪還する際に発生すると思われる戦い―――――”黄昏の呪い”によってオズボーン宰相達の傀儡と化した”光の剣匠”ヴィクター・S・アルゼイド子爵という人物との戦いを妨害されることです。」

「……”光の剣匠”との戦闘を妨害されることは見過ごす事はできないな。」

「ええ。それこそ下手をすれば彼らの妨害によってできた私達の隙をついた”光の剣匠”の反撃によって私達が被害を受ける可能性は十分に考えられるもの。」

「……ルシエル、先程お前は今回の敵将との戦いを妨害する理由は奴らの”身内”を私達に殺させない為と言っていたが……妨害後の奴らの行動―――――つまり、その”呪い”とやらによって敵軍の傀儡と化した敵将を救う方法に検討はついているのか?」

咳ばらいをしてその場のゆるみかけた空気を引き締めたルシエルは説明を続け、ルシエルの説明を聞いたディミトリは不愉快そうな表情を浮かべ、エーデルガルトは真剣な表情で推測し、ある事が気になっていたベアトリースはルシエルに視線を向けて問いかけた。



「そうですね………―――――恐らく私達との戦闘によって疲弊した”光の剣匠”を無力化して捕縛するのが狙いかと。」

「十中八九そうでしょうねぇ。紅き翼の戦力だけじゃ”光の剣匠”――――――ましてや”呪い”によって身体能力を限界以上に酷使できるようになっている達人(マスター)クラスを無力化できるとは思えないもの。―――――おまけに屋内の戦闘になるのだから、紅き翼にとっての”切り札”である”騎神”や”機甲兵”も使えないだろうし。―――――まあ、彼らがカイエン公爵家の城館の被害を無視するのだったら話は別だけどねぇ?何せ前カイエン公は去年の内戦の主犯にしてメンフィルがエレボニアに戦争を仕掛ける原因となった人物――――――つまり、紅き翼にとっては”全ての元凶”の一人の上、Ⅶ組や”協力者達”もそうだけど、トールズの関係者にもカイエン公爵家の関係者はいないのだから、”色々な意味”でカイエン公爵家に対しての配慮をする必要がないもの♪」

「レン、貴女ね……そういうことはせめてミュゼさん達がいない所で言いなさいよ……」

「うーん………ルシエルさんの”策”によってルシエルさん達との戦闘で”騎神”達を呼ぶことができなかったルーレの件もそうですが、戦後カイエン公爵家―――――いえ、”メンフィル・クロスベル連合と良好な関係を築いている私を敵に回すリスク”を考えるとその可能性は絶対にありえないとは思うのですが…………もし本当にそのような事を実行して、公爵家の城館に大きな被害を与えた場合、例え相手が皇太子殿下達であろうとも責任を追及した上で”損害賠償”を要求しますし、”その件を私が殿下達に対して非協力的になった際に反論を許さないネタ”にしますわ♪」

ベアトリースの問いかけに対して少しの間考えた後答えを口にしたルシエルの推測に同意したレンは意味ありげな笑みを浮かべてミュゼに視線を向け、レンの発言にプリネは呆れた表情で頭を抱えて指摘し、レンに視線を向けられたミュゼは困った表情を浮かべた後笑顔を浮かべて答え、ミュゼの答えを聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

「ミュゼの件を置いておくとしても、要するにあの人達は今回の件でアルゼイド子爵を助ける為に”漁夫の利”を狙っているって事ですね。」

「ま、戦略で考えれば合理的な”策”だな。――――――それで?今回の要請(オーダー)で最も難関となると思われるカイエン公爵家の城館の奪還部隊は誰の部隊が担当するかは考えているのか?」

我に返ったリシテアはジト目で紅き翼の面々を思い浮かべ、クロードは肩をすくめて答えた後気を取り直してリィン達に問いかけた。



そしてブリーフィングを続けた結果、カイエン公爵家の城館を奪還する部隊は”光のガウェイン”や紅き翼対策の為に一時的に部隊から外れてリィン隊の指揮下に入るクロードとレーヴェ、レンを加えたリィン隊、鉄機隊、エーデルガルト隊、ディミトリ隊が担当することになり、その内”光のガウェイン”に直接挑む戦闘メンバーはリィン、エーデルガルト、ディミトリ、クロード、オリエ、アイドス、紅き翼対策メンバーはデュバリィ、エンネア、アイネス、レーヴェ、エリゼ、レン、ベルフェゴール、アンリエットが担当することになり、”囮”であるオルディスの港湾区で迎撃する部隊はプリネ隊、フェルディナント隊、ドロテア隊、ベアトリース率いる魔族部隊が担当し、ジュノー海上要塞に突入する為にそれぞれ攻撃、防御、突入を担当する飛行部隊はルシエル率いる天使部隊、イングリット隊、クロード隊の指揮も兼ねるローレンツ率いる混合部隊が担当、要塞内に突入後”主攻”ルートを攻略するオーレリア将軍率いる精鋭部隊をサポートする部隊はルシエル率いる天使部隊、”副攻”ルートを攻略する部隊はフランツ隊、アメリア隊に加えてユリーシャとメサイア、迎撃部隊は前衛はドゥドゥー隊とカイル隊、後衛はリシテア隊とクロード隊に加えて空からの支援部隊はローレンツ隊とイングリット隊、レジーニアが担当することとなった。





~同時刻・カレイジャス・ブリーフィングルーム~



同じ頃、クロチルダよりリィン達とヴァイスラント新生軍によるオルディス奪還の件を知らされたトワは仲間達を集めてブリーフィングを始め、クロチルダから聞いた情報を仲間達に説明した。

「リィン達が受けた新たな要請(オーダー)はオルディスの奪還か………今までの要請(オーダー)と違って、リィン達は直接関わっていないとはいえ、オルディスもⅦ(オレたち)が特別実習で関わった地だな………」

「そういえばわたしやリィン達A班の”特別実習”の地がルーレだった時はガイウス達B班はオルディスだったね。」

「しかも今回要請(オーダー)を出した相手はヴァイスラント新生軍って事はあの公女もあたし達に対する嫌がらせの為に灰獅子隊に要請(オーダー)を出したんでしょうね。」

「ミュゼ君はそんな心の狭い事をするような女性ではありませんよ。オルディスはカイエン公爵家にとっての”本拠地”ですから、恐らくはかつて紅き(わたしたち)がトールズの奪還を”大目標”にしたように、この戦争でのミュゼ君――――――いえ、ヴァイスラント新生軍にとっての”大目標”の一つはオルディスを連合の手を借りずにヴァイスラント新生軍(じぶんたち)の手で取り戻す事だと思いますよ。」

説明を聞き終えたガイウスは複雑そうな表情を浮かべ、ガイウスの話を聞いたフィーはかつての出来事を思い返し、厳しい表情を浮かべたサラの推測にアンゼリカは苦笑しながら指摘した。

「うん、アンちゃんの言う通りだよ。クロチルダさんから聞いた話によると元々オルディスの奪還に関しては可能な限りヴァイスラント決起軍に委ねてもらう事を連合との協力関係を結ぶ交渉の際に決まっていたらしいし。」

「何であのゆるフワはオルディスの奪還にそこまで拘っているんだ?今までのあの女の行動や言動からして故郷の奪還に拘るような奴にはとても見えねぇが。」

「それについてだが………恐らくは”戦後のエレボニア側のカイエン公爵家としての立場を確実にする”ためだろうね。」

「ふえ?それってどういう事なんですか……?」

トワの話を聞いて疑問を口にしたアッシュに対して答えたオリヴァルト皇子の推測を聞いたティータは不思議そうな表情で訊ねた。



「ティータ君達にも以前に説明したようにヴァイスラント新生軍の目的は敗戦後のエレボニアの”誇り”――――――つまり、”連合が占領するつもりでいた領土の自治権を自分達に委ねてもらう事”を認められる為だ。恐らくミルディーヌ君達は連合の手を借りずに自分達の力だけで奪還した領土に関しては連合はミルディーヌ君達に対して何らかの”条件”も要求せず、自治権を認めると判断している……いや、もしくは連合との話し合いで決まっていたのかもしれないね。」

「ましてやオルディスはカイエン公爵家もそうですが、帝国貴族達にとっても”本拠地”となる地ですからね………カイエン公爵家としての”誇り”を守る為にもオルディスの統治を他勢力に委ねる事は絶対にできないでしょうし、戦後帝国貴族達が彼女を”カイエン公爵家の当主”として認めざるを得ない”実績”を作る為かもしれません。」

「”実績”………帝国政府によって奪われた帝国貴族達にとっての本拠地であるオルディスの奪還並びにエレボニアの敗戦後、オルディスの統治権を連合に認められる事、ですか。確かにそれならば帝国貴族達も実績もなく、若輩のミルディーヌ公女を”カイエン公爵家の当主”として認めるでしょうし、他のカイエン公爵家の当主候補達との跡継ぎ争いにも優位に立つことも可能でしょうね。」

オリヴァルト皇子とセドリックの推測を聞いたミュラーは複雑そうな表情で呟いた。

「ったく……祖国の存亡がかかっているんだから、実家の跡継ぎ争いなんて気にしていられる場合かよ。」

「まあ理由はどうあれ、”戦後”の事を考えるとミルディーヌ公女が”エレボニア側のカイエン公爵家の当主”になる事はあんたにとっても都合がいいんじゃないかしら?」

「ハハ、そうだね。ユーディット嬢達がクロスベルに帰属した以上、”現在残っているエレボニア側のカイエン公爵家の当主候補達”のメンツを考えるとむしろミルディーヌ君にエレボニア側のカイエン公爵家の当主になってもらわないと、アルノール皇家もそうだが、エレボニア帝国自身にとってもかなり都合が悪いからね……」

アガットは呆れた表情で溜息を吐き、シェラザードに問いかけられたオリヴァルト皇子は苦笑しながら答えた後疲れた表情で溜息を吐いた。



「あれ?殿下のその口ぶりだと、ミュゼちゃん以外にも”エレボニア側のカイエン公爵家の当主候補”がいるんですか?」

「ああ。現在残っている”エレボニア側のカイエン公爵家の当主候補”はミルディーヌ君以外にも二人いてね。一人はユーディット・キュア姉妹令嬢達にとっての兄君にして前カイエン公の一人息子のナーシェン・カイエンで、もう一人は前カイエン公にとっては”叔父”にあたるヴィルヘルム・バラッド侯爵だ。」

「ナーシェン卿とバラッド侯ですか………確かに二人の人格を考えると、ミルディーヌ公女に”エレボニア側のカイエン公爵家の当主”に就任してもらわないと、戦後エレボニアが存続できても国内の状況は内戦勃発前の状況に逆戻りするかもしれませんね。」

「な、”内戦勃発前の状況に逆戻りするかもしれない”って……」

「ちょっ、その言い方だともしかしてその二人の人格は前カイエン公と同レベルなのか!?」

アネラスの疑問に答えたオリヴァルト皇子の話を聞いて重々しい様子を纏って呟いたユーシスの推測を聞いたエリオットは表情を引き攣らせ、マキアスは驚きの声を上げた後ジト目で疑問を口にした。

「確か情報局の情報だと、前カイエン公の息子のナーシェン・カイエンは父親そっくりの性格で、バラッド侯爵も前カイエン公やナーシェン・カイエン同様”血統主義”の上、前カイエン公と違って自分の利益と地位を得る為なら帝国政府と協力して自分と同じ帝国貴族を陥れる事もあったらしいよ~。」

「それとバラッド侯爵は”浪費家”としても有名な大貴族ですわ。ただその一方、資産家・投資家としての能力は非常に高く、帝国の上流階級として政財界もそうですが経済界にも太いパイプをお持ちですから、その点を考えると前カイエン公よりも厄介な人物かと。」

「なるほどね………皇子の言う通り、あの公女にカイエン公爵家の当主になってもらわないと、エレボニアにとってはあらゆる意味で不都合が生じるって事ね……」

「え、えっと……ちなみにそのお二人は現在どのような状況なのでしょうか?」

ミリアムとシャロンが口にした情報を聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セリーヌは呆れた表情で呟き、エマは困った表情を浮かべてオリヴァルト皇子達に訊ねた。



「ナーシェン卿は内戦終結時前カイエン公が逮捕された事を知るとすぐにレミフェリア公国の親戚筋を頼ってレミフェリアに逃亡したとの事だ。」

「えっと……ちなみにクロチルダさんから聞いた話だと現在のエレボニアの状況を知ったナーシェン卿はミュゼちゃんにナーシェン卿がヴァイスラント新生軍の上層部――――――それも、”総主宰”のミュゼちゃんと同等の地位に就任できる手配をして欲しいみたいな手紙を送ったそうだよ……まあ、ミュゼちゃんは手紙は”戦時の最中に紛失した為届かなったという事にして”、手紙を読み終えた後その場で処分したそうだけど……」

「内戦の償いをしない所か国外に逃亡した上、今回の戦争で有利な立場の勢力のトップと同等の地位を要求するとか、どれだけ厚顔無恥な人物なのよ………」

「ったく、そういう所も相変わらずな野郎だぜ……」

オリヴァルト皇子の説明の後に困った表情で答えたトワの話を聞いたその場にいる多くの者達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサはジト目で呟き、クロウは呆れた表情で溜息を吐いた。

「……やはり、クロウもナーシェン卿とも面識があるのか?」

「まあな………カイエンのオッサン同様表面上は帝国解放戦線(おれたち)に対して親しい態度を取っていたが、心の奥底では”平民”の俺達の事をバカにしていたのは見え見えだったぜ。」

「あのカイエン公の息子だから当然と言えば当然の人物だね。むしろ、何で娘達の方は”突然変異”としか思えない程の真逆の貴族に育ったんだろうね。」

ラウラの疑問に答えたクロウの話を聞いたフィーはジト目で呟いた。



「話をオルディスの件に戻すけど……あの腹黒公女以外のエレボニア側のカイエン公爵家の当主候補がそんな連中だと、前回のルーレの時みたいにオルディスとジュノー海上要塞で起こる戦闘を中止させる事は難しい―――――いえ、”不可能”でしょうね。」

「そうですね……あの二人に協力を取り付ける場合、あの二人の事ですから間違いなく戦後自分達を殿下達の推薦―――――いえ、下手をすれば”勅命”でカイエン公爵家の当主に就任する事を条件に出す事は目に見えていますし、そもそも現在オルディスとジュノー海上要塞の守りについている軍は”ラマール領邦軍ではなく、帝国正規軍”ですから、例えその二人のどちらかに協力を取り付けたとしても、正規軍は耳を貸さないでしょうね。」

「って事は今回の件の目的はパイセン達の”身内”の”保護”だけか?」

「うん、そうなるね。」

複雑そうな表情を浮かべたサラの推測にアンゼリカは頷き、アッシュの確認に対してトワは頷き

「オルディスにいる紅き(オレたち)の”身内”――――――知事閣下に皇妃陛下、そして子爵閣下か。」

「父さん……」

「母上………」

「……知事閣下と皇妃陛下に関しては非戦闘員である上連合にとっても利用価値はないと思われますし、何よりも今回の要請(オーダー)を出したヴァイスラント新生軍はそのお二方に関しては”保護対象”にしていると思われますから、恐らくリィン様達もそのお二方に危害を加えるような事はしないと思われるのですが……」

「……エレボニアで5本の指に入る武人と称えられている上、”黄昏の呪い”の影響によってオズボーン宰相側についている”光の剣匠”は殺すつもりかもしれないわね。」

「幾ら何でもそれは考えすぎだと思うのだけど……子爵閣下が操られている事はリィンさん達も知っているし、ヴァイスラント新生軍―――――オーレリア将軍閣下もご存じだから、子爵閣下の命を奪うような事は考えていないだろうし、オーレリア将軍閣下も子爵閣下と戦闘が発生した場合も子爵閣下の命を奪うような事はしないで欲しいみたいな要請もしているのじゃないかしら……?」

ガイウスが静かな表情で呟くとマキアスとセドリックは心配そうな表情でそれぞれの身内を思い浮かべ、シャロンが口にした推測の後に答えたセリーヌの推測を聞いたエマは心配そうな表情でラウラを気にしながらセリーヌに指摘した。



「ううん………クロチルダさんから聞いた話によるとリィン君達は今回の要請(オーダー)で子爵閣との戦闘が発生した場合、”一切の容赦をしない――――――つまり、殺す事を前提の戦闘を行う”予定の上、将軍閣下もリィン君達のその判断に反対しないどころか、むしろ賛成したんだって……」

「……ッ!」

「そんな……!どうしてリィン達は子爵閣下を……!しかもオーレリア将軍閣下もどうしてリィン達のその判断に賛成したのよ……!?」

悲しそうな表情で答えたトワの話を聞いたラウラは辛そうな表情で唇を噛み締め、アリサは悲痛そうな表情で声を上げた。

「恐らくだが子爵閣下は加減して戦える相手ではないからだろうな。子爵閣下――――――”光の剣匠”相手に加減等すれば、リィン達の負担は大きくなり、犠牲者が出る可能性も高くなるだろうから、リィンは灰獅子隊――――――”軍を率いる立場”として仲間や配下達の犠牲を出さない可能性を低くする為に子爵閣下を”討つ”事を前提の戦いをすることを決めて、オーレリア将軍もリィンと同じ”軍を率いる者”としてリィンのその考えには理解していたからだろうな。」

「確かにお祖父(じい)ちゃんとも互角に戦える達人(マスター)クラスの使い手である子爵閣下に手加減なんてできませんよね……」

「そうね。それこそリウイ陛下やセリカさんクラスでないと手加減はできないのじゃないかしら?」

複雑そうな表情で推測したミュラーの推測を聞いたアネラスとシェラザードはミュラー同様複雑そうな表情を浮かべてミュラーの推測に同意した。



「えとえと……でも確かリィンさんはベルフェゴールさん――――――”魔神”の方とサティアさんの妹さんのアイドスさん――――――”女神”の方と契約していますから、その二人が加勢すれば手加減してラウラさんのお父さんに勝てるんじゃないでしょうか……?」

「それに灰獅子隊にはレーヴェの野郎にエヴリーヌ、レーヴェとも互角以上に渡り合えたプリネ皇女もいるんだから、そいつらも加勢すれば幾ら”光の剣匠”相手でも加減した状態で勝てると思うぜ。」

「多分そのメンバーの誰かは子爵閣下との戦闘メンバーには入っているとは思うが、全員は無理だろうだからだろうね。今回リィン君達が落とす目標はオルディスに加えて”難攻不落の要塞”として有名な”ジュノー海上要塞”なんだから、ジュノー海上要塞の攻略にも相当な戦力を当てるはずだよ。」

「そうだな……少なくても灰獅子隊(かれら)が保有している”飛行戦力”の大半はジュノー海上要塞の攻略に当てるだろうな。ジュノー海上要塞はその名の通り”海の上”に建造されている事から、陸上からの侵入は困難だが、”空”からの侵入になると要塞に備えつけている対空砲の対策をしていれば、地上よりは遥かに容易になるはずだ。」

「そうなるとベアトリースもそうだけど、ルシエル達天使部隊もジュノー海上要塞の攻略を担当する可能性は高いでしょうね。」

ティータとアガットの疑問に対してアンゼリカは複雑そうな表情で推測を口にし、ミュラーの推測を聞いたサラは真剣な表情で考え込んだ。

「戦力に余裕がないんだったら、僕達がリィン達と協力して戦えばいいんじゃないかな……?リィン達にとっては最大の障害となる子爵閣下の制圧は必須で、僕達の目的は”呪い”によって操られた子爵閣下を助ける事なんだから、今回は黒の工房の時みたいに協力し合えると思うんだけど……」

「そ、そうだよな……?どの道子爵閣下を助ける為には戦闘で子爵閣下を無力化する事は必須だろうからな。」

「そのことなんだけど……実はわたしもクロチルダさんから子爵閣下の件を聞いた時に今エリオット君が言った提案を思いついて、クロチルダさんにヴァイスラント新生軍を通してリィン君達に提案してくれないかって頼んだのだけど……クロチルダさんから伝えられたオーレリア将軍閣下が通信でわたしに『提案したところで灰獅子隊は却下するのは確実だから話にならない』という答えとその理由を説明したから、その案は無理なんだ……」

「ええっ!?どうして将軍閣下がリィンさん達に話を持ち込むこともせずご自身でそのような判断をされたのですか……?」

エリオットとマキアスの話を聞いたトワは複雑そうな表情で答え、トワの答えを聞いて驚きの声を上げたセドリックは戸惑いの表情で訊ねた。



「いくつか理由はありますが………一番の理由はわたし達がリィン君達の”足手纏い”になるからとの事です…………」

「私達がリィンさん達の”足手纏い”に………」

「フン……随分と俺達の事を舐めてくれたものだな、”黄金の羅刹”は。」

「そうだよねー?そりゃリィン達が保有している戦力と比べれば劣るけど、ボク達だって内戦で”執行者”もそうだけど”西風の旅団”の隊長クラスとも渡り合えたし”リベールの異変”を解決した遊撃士達の協力もあるんだから、少なくても”足手纏い”にはならないはずだよ~!」

トワの説明を聞いたエマは複雑そうな表情を浮かべ、ユーシスは鼻を鳴らした後怒りの表情を浮かべ、ミリアムは不満げな表情で声を上げた。

「……多分だが”黄金の羅刹”が俺達がリィン達の”足手纏い”になると判断した理由は戦力的な意味じゃなくて、連携に支障が出ると判断したからじゃねぇのか?」

「それってどういう事?確かに今はリィン達とわたし達の方針は別で、ルーレでやり合う事もあったけど、リィン達はⅦ組としてわたし達と一緒に戦ってきたんだから、連携に支障なんて出ないよ。」

クロウの推測を聞いたフィーは真剣な表情で反論した。



「正確に言えばリィン君とセレーネ君、メサイア君、後はエリス君とアルフィン殿下くらいだよ、彼らが私達と共闘した際に連携に支障が出ないメンバーは。」

「それってもしかして……」

「要するにリィン達以外の灰獅子隊のメンバー――――――特に黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)の連中とあたし達じゃ連携はできないとオーレリア将軍は判断したって事ね。」

「ましてや相手はエレボニアで5本の指に入ると称されている子爵閣下――――――”光の剣匠”だからな……ろくに連携も取れない戦力は”足手纏い”どころか、下手をすればリィン達側の被害が大きくなる”要因”へと発展する可能性もあると考えたのだろうな、オーレリア将軍は。」

「それは………」

アンゼリカの話を聞いて察しがついたエリオットは目を丸くし、複雑そうな表情を浮かべたサラとミュラーの推測を聞いたオリヴァルト皇子は複雑そうな表情で答えを濁した。

「え……ですが、黒の工房の時はオズボーン宰相達を相手にリィンさん達と協力して退ける事ができましたが………」

「あの時は戦力が充実どころか、むしろ”戦力過剰”と思えるような状況だったから、圧倒的な人数差もそうだけど、”女神”や”魔神”といった”超越者”クラスの面々に加えて”剣帝”や”鉄機隊”といった達人(マスター)クラスの面々までいたから、戦力差で押し通せたようなものよ。」

「い、言われてみればあの時の戦いは圧倒的人数と戦力差によるゴリ押しのようなものでしたね……実際、Ⅶ組と元々縁があるリィン君達を除いた灰獅子隊もそうですがティオちゃん達特務支援課の人達と私達は誰も戦術リンクを結んで戦っていませんでしたね……」

「ああ………まあ、俺達遊撃士組もそうだがオリビエと少佐ならプリネ皇女達あたりなら戦術リンクを結ぶ事はできると思うが……」

「プリネさん達がリィンさん達と一緒にラウラさんのお父さんと戦うかどうかもわかりませんものね……」

セドリックの疑問に答えたシェラザードの指摘を聞いて黒の工房の本拠地での戦いの事を思い返したアネラスとアガットは複雑そうな表情を浮かべ、ティータは複雑そうな表情で意見を口にした。



「それとラウラちゃん。子爵閣下の件でオーレリア将軍閣下と通信をした際に将軍閣下からラウラちゃんへの伝言を預かっているんだけど………」

「将軍閣下から私に?どのような伝言なのですか?」

複雑そうな表情を浮かべたトワに見つめられたラウラは表情を引き締めて続きを促した。

「『ヴィクター師の娘である其方も理解しているとは思うが、師が戦いによって果てる事は師自身も覚悟している。例え何者かの傀儡になろうとも師は戦いによって自身の命を奪った相手を恨むような狭量な人物ではない。そして戦いによって果てた父の”死”を受け止める事もまたアルゼイド流の後継者として……武人の娘としての”義務”だ。今回の件で師が果てた事でシュバルツァー達を恨むなとは言わないが、その件を理由にシュバルツァー達に”敵討ち”や”復讐”をするといった私もそうだが師を失望させるような事は決してするな。どうしても”敵討ち”や”復讐”がしたいのならば、師を見殺しにしてでもヴァイスラント新生軍の為、そしてミルディーヌ様の為にオルディスの奪還を最優先と判断した私にするがいい』……って内容をラウラちゃんに伝えるように言われたんだ……」

「……ッ!」

「何なのよ、その伝言は!子爵閣下の――――――ラウラにとってたった一人の父親の死を受け入れろだなんて、どうして将軍閣下はそんな酷い事が言えるのよ!?子爵閣下は”呪い”によって操られているのよ!?」

「つーか、その伝言内容だと”黄金の羅刹”は最初から子爵閣下はリィン達に討たれると判断しているようなものじゃねぇか。」

トワを通したオーレリア将軍の伝言内容を聞いたラウラは辛そうな表情で唇を噛み締め、アリサは怒りの表情で声を上げ、クロウは呆れた表情で呟いた。



「……オーレリア将軍は子爵閣下と同じ”武人”だからこそ、”呪い”によって傀儡と化している子爵閣下の気持ちを理解しているから、そのような言葉が出たのかもしれないな……」

「それはどういう事だい、ミュラー?」

複雑そうな表情で呟いたミュラーの推測が気になったオリヴァルト皇子はミュラーに問いかけた。

「……子爵閣下のお前や陛下達――――――アルノール皇家に対する忠誠は相当篤いものだ。――――――それこそ、”アルノールの懐刀”と呼ばれた俺達ヴァンダール家とも並ぶ程に。だからこそ、現在の子爵閣下の状況――――――陛下達の信頼を裏切り、世界を”終焉”へと導こうとするオズボーン宰相達の”傀儡”となっている事で子爵閣下の”武人としての誇り”や”貴族の義務(ノブレスオブリージュ)”を穢され続けている今の状況は子爵閣下自身にとって耐えられない屈辱の状態の為、そんな子爵閣下の苦しみから解放する為にはいっそ子爵閣下の命を絶った方が子爵閣下自身の為とオーレリア将軍は判断しているのかもしれないという事だ………」

「そ、それは………」

「ハッ、幾ら敵に操られている状況だからと言って、普通自分の”死”を望むなんてありえないぜ。」

「”普通の人間”ならばそうだろうね。だけど子爵閣下や父上のような武闘派で、特定の人物達に対して絶対の忠誠を誓っている人達がそんな状況になったら、それこそ自分の”死”を望んでもおかしくないよ。実際、父上も内戦での皇帝陛下に対する償いもそうだが、シュバルツァー男爵閣下に対する”詫び”の為にも先の連合によるルーレ侵攻戦を最後の一人になってでも戦って最後はリィン君達シュバルツァー家の関係者に討たれるつもりだったそうだからね。」

「内戦の件でログナー侯爵閣下は皇帝陛下もそうですが、シュバルツァー男爵閣下に対してもそれ程までの罪悪感を抱かれていたのですか……」

「ログナー侯の気持ちは俺にもわかる…………俺も父や兄の罪を償う為にはアルバレア公爵家を廃絶させ、俺自身も皇帝陛下達もそうだがメンフィル帝国やシュバルツァー家に対して何らかの償いをする必要があると今でも思っているからな……」

「ユーシス………」

ミュラーの説明を聞いて一人の”剣士”としてミュラーの推測が理解できたアネラスが複雑そうな表情で答えを濁している中鼻を鳴らして呟いたアッシュの指摘に対して疲れた表情で答えたアンゼリカの推測を聞いたシャロンとユーシスは複雑そうな表情で呟き、ミリアムは心配そうな表情でユーシスを見つめた。



「”武人”でもなく、”貴族”でもない僕には子爵閣下の今の本当の気持ちはわからないが、だからと言って子爵閣下の――――――紅き(ぼくたち)の身内の”死”を受け入れろだなんて話が別だろう!?」

「そうだよ……!紅き(ぼくたち)はそんな悲劇を防ぐ為にも活動しているんだから!」

「ああ……!子爵閣下から今まで受けた恩を返す為にも、絶対に子爵閣下を助ける……!」

「其方達………」

真剣な表情で声を上げたマキアスとエリオット、ガイウスの言葉を聞いたラウラは驚きの表情でマキアス達を見つめ

「よく言ったわ、あんた達!エレボニアのさまざまな”しがらみ”に囚われずに活動するあたし達からすれば、子爵閣下もそうだけど、リィン達や”黄金の羅刹”、それに”英雄王”達の”誇り”やら”義務”なんて馬鹿馬鹿しい考えよ!」

「サ、サラ先輩~、さすがに”誇り”や”義務”を馬鹿にするのは幾ら何でもどうかと思いますよ~?」

「あたし達遊撃士は例え戦争や政治が関わろうとも、民間人を守る事を最優先とする事が”義務”と”誇り”なんだから、あんたの言い分だとそれも馬鹿にしている事になるわよ……」

「つーか何気に”英雄王”達の事まで貶すとか命知らず過ぎだろ………」

(アハハ……ミーシャさんの件でプリネさん達にも八つ当たりをしていたアガットさんだけはサラさんの事は言えないような気が……)

サラは満足げな様子でマキアス達を見つめて指摘し、サラの発言にアネラスは冷や汗をかいて表情を引き攣らせて指摘し、シェラザードとアガットは呆れた表情で指摘し、ティータは冷や汗をかいて苦笑しながらかつての出来事を思い返した。



「うっさいわね!それとこれとは別よ!」

「いや、全然別じゃねぇだろ……」

「レン達がサラの事を”脳筋”ってバカにする理由の一つはサラのそんな短絡的な部分もあるからだと思うよ。」

アネラス達の指摘に対して反論したサラの反論にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中クロウは呆れ、フィーはジト目で呟いた。

「アハハ……でも、皆さんの言う通り、僕達も子爵閣下――――――いえ、アルゼイド家から受けた今までの恩を返す為にも子爵閣下は何としても助けなければなりませんね。」

「そうだね。それに子爵閣下が今の状況になった責任は私達アルノール皇家にもある。その責任を取る為にも必ず子爵閣下を取り戻そうじゃないか。」

「……もったいなきお言葉。………オーレリア将軍閣下が仰った通り、”武人”である父上の娘である私が戦いによって果てた父上の死を受け入れる事は私にとっての”義務”だ。だが、それでも私は娘として父上を救いたい……!皆、どうか力を貸してくれ……!」

セドリックとオリヴァルト皇子の言葉に会釈をしたラウラは静かな表情で呟いた後真剣な表情を浮かべたアリサ達を見回して嘆願の言葉を口にし

「おおっ!!」

ラウラの嘆願に対してその場にいる全員は力強い答えを口にした。



「さてと。子爵閣下を助けるのは決定事項とはいえ、いくつか問題があるね。」

「うん。リィン君達もわたし達が介入してくることは想定……ううん、”確信”しているだろうから当然子爵閣下との戦いを妨害されない為の”対策”はしているだろうね。」

「その”対策”って……」

「ルーレの時のように俺達を阻む連中をどこかに配置しているって事か。」

「ハッ、ルーレでの”リベンジ”も兼ねてまたあの冷酷外道天使が率いる天使の連中が出張ってくるんじゃねぇのか?」

アンゼリカの言葉に頷いたトワの言葉を聞いてある事を察したエリオットは不安そうな表情を浮かべ、クロウは目を細めて呟き、アッシュは鼻を鳴らして推測した。



「いや……先程も少し話に出たが恐らく今回の彼女達の担当はジュノー海上要塞の攻略だろう。ジュノーを早期に落とす為には空からの奇襲が最も効果的なのだから、空を自由自在に飛行でき、かつ狙撃も可能な弓矢の使い手に加えて魔術も攻撃、回復、支援の使い手も揃っている”天使”達を率いるルシエルの部隊はジュノーの攻略に必須と思われる上、冷静な判断力が求められる”参謀”でもあるルシエルはルーレでお前達に出し抜かれた件に拘って、”戦場での適材適所”を疎かにするような判断はしないだろうから、今回は彼女達と直接相対するような事はないだろう。」

「まあ、その代わり前回の反省を生かした布陣――――――ヴィータや”怪盗紳士”達の加勢も計算した上での戦力にアタシ達を阻ませる事はほぼ間違いないでしょうね。」

「ぜ、”前回の反省を生かした布陣”って事はまさかエリゼ君達以上の戦力を僕達にぶつけるって事か!?」

「”前回の反省を生かした布陣”――――――わたくし達や”怪盗紳士”達を纏めて相手できる戦力という事になると、それこそベルフェゴール様達――――――”魔神”の方々か最悪の場合は”女神”であるアイドス様が阻んでくるかもしれませんわね……」

ミュラーの推測の後に答えたセリーヌの推測を聞いたマキアスは表情を引き攣らせて声を上げ、シャロンは静かな表情で推測した。



「……少なくてもアイドスさんをあたし達を阻む戦力にはしないと思うわ。魔術は攻撃、回復、支援の全てを扱える上”飛燕剣”の使い手でもあるアイドスさんは子爵閣下との戦闘で勝利する重要な”鍵”となってそのアイドスさんをあたし達にぶつけたら”本末転倒”になってしまうでしょうからね。」

「そうなるとやっぱり”魔神”――――――エヴリーヌちゃん達の内の誰かが阻んでくるかもしれませんね……」

「後はレーヴェの野郎を俺達を阻む戦力にするかもしれねぇな。」

静かな表情で呟いたシェラザードの推測に続くようにアネラスは不安そうな表情で、アガットは厳しい表情でそれぞれの推測を口にした。

「それ以外にもまだ肝心な問題が残っているぜ。」

「へ……その”肝心な問題”って何なのかしら?」

クロウが呟いた言葉が気になったアリサはクロウに訊ねた。



「仮にリィン達が用意した俺達を阻む連中を超えて子爵閣下の元に辿り着いたとしても、俺達の戦力だけで子爵閣下――――――”エレボニア最高の剣士”と称えられている”光の剣匠”に勝てるのかよ?」

「……それは………」

「ハッ、幾ら化物じみた強さの剣士だろうと、数はこっちが圧倒的に上なんだから数の差で圧しちまえばなんとかなるだろう。実際、黒の工房の時もそれでいけたじゃねぇか。」

クロウの指摘を聞いたラウラは複雑そうな表情を浮かべ、アッシュは鼻を鳴らして指摘した。

「幾ら何でも子爵閣下を舐め過ぎているわよ………子爵閣下――――――”光の剣匠”は幾ら数をそろえても生半可な戦力では制圧できるような相手ではないわ。」

「それに多分リィン達が用意したボク達を邪魔する戦力の対策の為にルーレの時みたいに何人かが残る必要があると思うから、ここにいる全員で”光の剣匠”に挑めないと思うよ~。」

「他力本願にはなるけど、わたし達が到着する前にリィン達がラウラのお父さんをある程度疲弊させている事を期待するしかないかもしれないね。」

「そ、それってリィン達との戦いで疲弊した子爵閣下に私達が戦闘を仕掛けて子爵閣下を制圧するって事?」

「フン……手負いの相手に止めを刺すといった卑怯な戦術を取る等本来なら言語道断だが……子爵閣下の命がかかっているのだからそうも言ってられない状況だな。」

アッシュに対してサラは呆れた表情で指摘し、ミリアムは疲れた表情で推測し、フィーの提案を聞いたアリサはジト目になり、ユーシスは鼻を鳴らした後重々しい様子を纏って呟いた。



「…………こんな時エステルお姉ちゃん達がいたら、よかったのに……エステルお姉ちゃんは”魔神”であるカファルーさんと”契約”しているし、”女神”のフェミリンスさんとも”契約”しているし、何よりもエステルお姉ちゃん達も凄く強いからエステルお姉ちゃん達がいれば、ラウラさんのお父さんを助ける件でこんなに困ったりしなかったでしょうし………」

「ティータちゃん……」

「仕方ねぇだろう。あいつらはあいつらでやるべき事があるんだからな。」

「そうね。………まあ、エステルはフェミリンスさんも含めて7人もの異種族と”契約”しているのだから、正直2,3人くらいあたし達に派遣してあたし達を手伝って欲しいのが”本音”なんだけどね……」

辛そうな表情で呟いたティータの言葉を聞いたアネラスとアガットは複雑そうな表情を浮かべ、静かな表情で呟いたシェラザードは疲れた表情で溜息を吐いた。

「……確かにエステル君達――――――特にフェミリンス殿がいれば、例え子爵閣下が万全な状態であろうとも俺達と子爵閣下、双方無事な状態での勝利は”確実”だろうな。」

「ハハ、何せフェミリンスさんは”影の国”では”最後にして最強の試練の相手”として”影の国”のフルメンバーで戦ってようやく勝てた相手だったからねぇ。」

複雑そうな表情で呟いたミュラーの言葉に続くようにオリヴァルト皇子は苦笑しながらかつての出来事を思い返した。



「えっと……でしたらそのエステルさん達に連絡して、今回の件だけ手伝ってもらう事はできないのでしょうか?確かその方々は”空の女神”の一族の方々と行動をしているとの事ですから、連絡する事ができるのでは?」

「……そういえばバルクホルン神父はエイドス様達に接触するつもりだとの事だから、エイドス様達と連絡を取り合える事は可能かもしれないな……」

「トワ、後でバルクホルン神父に連絡して状況を説明してそのエステルさん達に今回の件だけ手伝って欲しい事を頼めないか聞いてみたらどうだい?」

「うん、このブリーフィングが終わったらすぐに連絡するよ!それよりもまずは子爵閣下達が滞在しているカイエン公爵家の城館の潜入方法についてなのだけど――――――」

セドリックの提案を聞いてガイウスはある事を思い出し、アンゼリカの提案に頷いたトワはブリーフィングを続けた。



そして翌日、ヴァイスラント新生軍と灰獅子隊による”海都オルディス・ジュノー海上要塞同時奪還作戦”が始まった―――――





 
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