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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘と提督とスイーツと・62

      ~大和・桃まん~

「うわぁ~、本当に桃そっくりなんですね!」

 チケット当選者の大和が、リクエストした『ソレ』をふにふにとつついている。

「蒸し立てで熱いからな、気を付けろよ?」

「わかってますぅ」

 少し拗ねた様子で指を離す。リクエストされたのは桃まん。中華の点心の1つで、お祝い事があると食べられる縁起物らしい。

「まぁ、皮の作り方とかまんま肉まんと変わらんかったから、大して難しいモンでも無かったけどよ」

「あ、そうなんですか?私てっきり特別な物かと……」

「全然?ふっつーの肉まんと違うのは食紅で桃っぽい色つけたのと、中身がこしあんとカスタードクリームの2種類って位だな」

 肉まんは作った事あったんでな。作り方の解らんのよりは苦労せずに作れたが。

「むぅ、何だか損した気分……」

「まぁまぁ、知らんかった事を1つ知って1つ賢くなったんだ。その勉強代だと思って諦めな」

「勉強代が高すぎますよぉ」

 ぶぅ、と口を尖らせて大和が拗ねる。どうもウチの大和は大型建造のシステムがテスト段階の時に建造された影響なのか、他の鎮守府の大和に比べて精神的に幼い所がある。戦闘はキチンとこなすし、不都合がある訳じゃないんだが……見た目は年頃のオンナが子供っぽい所を見せられると、なんというか、こう、落ち着かない。

「はむっ……あ、本当にあんまんですね」

「だから言ったろ?見た目で縁起物ってだけで、中身は普通の中華まんだって」

 桃ってのは中国じゃあ縁起物でな。悪鬼を祓う魔除けのご利益があるとされたり、不老長寿の妙薬になるとも言われていた。

「昔話の桃太郎が桃から生まれた事になってるのも、桃の魔除けのご利益からですか?」

「多分な。それに桃太郎が桃から生まれる設定になったのはかなり最近の話なんだぞ?」

「え、そうなんですか」

「あぁ。元々の話は川に洗濯に行った婆さんが、川で拾った桃を喰ったら若返って、芝刈りから帰ってきた爺さんにも桃喰わせたら若返って、ヤったら出来た子供が桃太郎ってのが元の話だぞ?」

 そう言った瞬間、大和の顔が桃より真っ赤に染まる。

「ん、どした?」

「そ、そんな話を真顔で言わないでくださいっ!セクハラですよ!?」





「何を今更。子供の作り方を知らんネンネでもあるめぇし、第一そういう事したこと無いとは言わせんぜ?」

「そ、そりゃあ……そうですけどぉ」

 真っ赤になった大和は俯いたまま、もじもじとしている。こいつも妹の武蔵もとっくの昔に嫁艦だからな、『嫁艦になってから』ってウチ独特のルールがある夜のメンテナンス(意味深)を受けたのも一度や二度じゃない。

「そもそも、桃を食べて若返るって辺りからしても中国から流れてきた思想の影響受けまくりだけどな」

 仙人になる為の力を得る為に食べるのも仙桃とかって桃じゃなかったか?とにかく中国じゃ桃は魔除けやら縁起物やらで祝い事には欠かせない物らしい。

「だからってあんなあからさまな言い方しなくても……」

「別に誰が聞いてる訳でもなし、そんな気にすんなっての」

「はぁ……もういいです。あ、カスタード美味しい」

 大和は会話を諦めたのか、桃まんにかぶりつく。

「しかしなんだな」

「ん?どうしたんです提督?」

 大和がカスタードをほっぺに付けて小首を傾げて来る。

「結構大きめに作ったのに、大和が持つとちっちゃく見えるな、桃まん」

「お、大きいって言わないでください!結構気にしてるんですから」

 おいおい、今度は愚図りだしたぞ。情緒不安定過ぎないか?

「雑誌とかにも大きい女はモテないって書いてあって、気にしてたのに……提督は酷いです!」

「いや、別にそれは気にしなくてもいいんでね?」

「ふぇ?」

「だってお前、俺の嫁だろ?カッコカリだけど。他に男が出来たらアレかも知れんが、お前俺よりは身長低いし」

 ウチの大和の身長は大体180cm前後、190オーバーの俺より頭一つ分は低い。

「それに俺は、どっちかってーと身長高いオンナの方が好みなんだよ。俺がデカイから、小さいのが隣に居ると絵面が締まらんのよ」

 実際、俺のカミさん(金剛)と立ったままキスしようとすると俺がグッと屈むか、金剛が頑張って背伸びするかしないといけない。

「俺ぁ一応大将だからな。見栄えって奴も気にせんといかんから、お前ら姉妹とか長門姉妹とか、身長高い美人の部下には重宝してんだぜ?」

 そう言って頭を撫でてやると、はにかんだ様に顔を赤らめてエヘヘと照れ笑いする大和。顔付きは大人びてる癖に、こういう子供っぽい表情されるとギャップ萌え好きな俺としてはグッと来る物がある……が、今は執務中の上にまだ昼の3時。シケこむにはちと早い。





「そういやぁ、なんでまた桃まんなんて珍しい物を。他にも何か食いたい菓子があったんじゃねぇのか?」

「最初は大和の特製アイスクリームと提督の手作りアイスクリームで食べ比べ、っていうのも考えたんです。けど……」

「けど?」

「私、夢があるんですよ」

「ほうほう」

「この戦争が終わったら、世界中を旅して、美味しい物を食べたり、美しい景色を見て回りたいなって。折角艦(ふね)として生まれたのに、戦うだけが目的なんて勿体無いじゃないですか」

「ふ~ん。まぁ、いいんじゃねぇの?」

「あ、素っ気ない返事。大和の計画だと提督も一緒に旅行に行く計画なんですけど?」

「いやいや、勝手に計画に組み込まれてもな……」

 俺は退役したらこの鎮守府を買い上げて、ホテルリゾートを作る計画を立ててるんだが?それに金剛をはじめとして嫁艦達と精一杯イチャイチャするつもりだし、あいつらも多分退役しても俺にくっついてくると思うんだよな。そうなれば毎日爛れた生活(性活?)まっしぐらだろうし、当然子供も欲しい。そうなれば一気に大家族、旅してる暇なんぞこれっぽっちも出来ないと思うんだが。

「じゃあいいですっ!武蔵と2人で旅行行きますから!」

「いや、私も提督がここに残るなら残るが?」

 執務室のドアの方を見ると、呆れ顔の武蔵が佇んでいた。

「む、武蔵!?何しに来たの、っていうか何時から聞いてたの!」

「おいおい、ここは執務室だろう?演習の報告書を持ってきたぞ、提督よ」

 その右手には報告書らしき書類がヒラヒラと揺れている。

「おぉ、ご苦労さん」

「ふふ、仕事だからな。それに、合法的にお前に会いに来るチャンスを逃すはずあるまい?」

 と言いながら俺の横に腰掛けてしなだれかかってくる武蔵。その姿を見て、更にむくれる大和。

「もうっ!提督も武蔵も2人だけで仲良くしちゃって!」

「なんだ、淋しかったのか。ならそう早く言えば良かったろうに」

 そう言って立ち上がると、武蔵は大和の両脇に手を入れて抱え上げ、ぽすんと俺達の座っていたソファに下ろした。大和を座らせた位置は真ん中。俺と武蔵の間に挟まれる形だ。

「どうだ、これで文句あるまい?大和」

「いや、だからそうじゃなくてぇ……」

「なんだ?まだ執務中だってのに、仲良く(意味深)したいのか?大和って意外とムッツリなんだな」

「いやいや、大和はこれで意外とオープンだぞ?何しろ部屋では毎晩ーー……」

「いやあああぁぁぁぁぁぁ!?何を言おうとしてるの武蔵!」

「いや、だからナニの話だろう?」

 と、姉そっくりの仕草で小首を傾げる武蔵。

「いや、俺もそこまで明け透けなのはどうかと思うんだが」

 もはやフルオープン通り越して痴女のレベルだぞ。

「も~っ!2人して私をからかって!」

 弄られキャラな大和をからかいながら、鎮守府の午後は更けていく。 
 

 
後書き
オマケ

提督「そういやぁ、お前って大和の事を『姉さん』とか姉的な呼び方しないんだな」

武蔵「いやぁ……どうにもあのキャラのせいで姉とは思えなくてな」ポリポリ

提督「わかる」 
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