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イベリス

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第二話 はざかいの時その十一

「覚えてないことも多くて」
「それでなの」
「そのことはね」
「覚えてなかったの」
「お散歩は一日二回、ご飯とお水は三回で」
 今度は覚えていることを話した。
「ケージから出すのは決まった時間、トリミングは三週間に一回ね」
「それ位ね」
「あと躾のこともね」
「それで怪我のことはなのね」
「ジャンプすることも多いからっていうのは」
 このことはというのだ。
「忘れていたわ」
「そのことはなのね」
「ついついね」
「全部覚えておきなさい」
「多くて無理だったわよ」
「全く。まあそこまで覚えていたら合格かしら」
 母はここで考えなおしてこうも言った。
「それなら」
「いいのね」
「まあそこまで覚えていたら」
 それならというのだ。
「まだね」
「じゃあいいのね」
「ええ。それにこれで覚えたわよね」
「そうしたわ」
「それでいいわ。けれどね」
「けれど?」
「トイプードルは飼いやすいっていうけれど」
 よく言われることであろうか、小型で散歩の時に強い力で引っ張られることもなく賢くもあるので言うことも聞いて躾もしやすいからだ。
「覚えておかないことはね」
「やっぱりあるわね」
「そう、間違ってもおもちゃじゃないし」
「それは絶対ね」
「それで一生ね」
 その犬のというのだ。
「面倒見ないとね」
「それが一番大事ね」
「若しどうしても無理なら」
「次の飼い主探すことね」
「そしてその人にね」
 新しい飼い主にというのだ。
「お願いするのよ」
「面倒見てって」
「確かな人にね」
「それが一番大事ね」
「犬の十ヶ条ってあるけれど」 
 母は娘にこれまで以上に真面目な顔で話した。
「それは全部絶対によ」
「守らないと駄目よね」
「咲も何かあったら読んでおいてね」
 その犬の十ヶ条をというのだ。
「そこにちゃんと一生面倒を見なさいとも書いてあるから」
「それだけ絶対のことよね」
「さっき話した人なんてね」
「その時点でよね」
「失格だから」
 問題外、そうした言葉だった。
「人間としてね」
「飼い主以前ってことね」
「命をもういらないとか子供出来たから無視とかね」
「おもちゃじゃないから」
「だからよ」
「失格ね」
「人間失格だから」
 太宰治めいた言葉も出した。
「それこそね」
「本当にそうよね」
「咲もそう思うならいいわ」
「ええ、じゃあモコはね」
「これからもいいわね」
「家族としてね」
「可愛がるのよ」
 娘にまた犬のことを言うのだった。
「これからも」
「そうするわね、じゃあモコもお願いね」
「ワン」
 モコはケージの中から明るい声で応えた、咲はそのモコを見てまた笑顔になったがここでふとだった。 
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