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MOONDREAMER:第二章~

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第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第10話 『波』VS『水』?:前編

 鈴仙が二つ目のキーを作動させた直後に、離れた場所で何かを引きずるような物音がしたのである。
 それは、どうやら行く手を阻んでいた扉が全てのキーを作動させた事により解錠したのだろうと鈴仙は踏むのだった。
 鈴仙がそう思っていると、彼女の近くの足元で何やら光が発せられたのである。当然彼女はそれに何事だろうかと目をやった。
 するとそれは、徐々に光量を収めていき、気付けば淡く光を放つ円形の紋様のようであるようだった。
 今まで勇美に勧められてビデオゲームを嗜んできた鈴仙は、実に勘良くそれが何だかを察するのであった。
「うん、この上に乗れば元の場所に戻れるという事ですね」
 そう確信している鈴仙に迷いはなかった。気付けば彼女は躊躇する事もなく、その紋様の上へと乗ったのである。
 そして、瞬く間に彼女の視界に飛び込んで来る光景が変化したのであった。今彼女の目に入っているのは、板状の機体に乗る前にいた水場の行き止まりなのであった。
「やっぱり、あれは目的を達成した後に現れる帰りのワープ装置だったという事ですねぇ……」
 何てゲームチックなご都合主義だろうかと鈴仙は思う所であった。だが、こうして帰りの道程を大幅短縮出来たのだ。それに対して感謝しない手はないと鈴仙は腹を括るのだった。
「さて、帰りの時間が短縮された事ですし、後はあそこに戻るだけですね」
 そう、鈴仙が目指す先は前に行く手を阻んだ扉の前なのである。そして、既にそこは開いている筈であるのだ。
 そう想いを馳せながら鈴仙は扉の前へと向かうのであった。
 そして、彼女は再び扉の前へと辿り着いていたのである。そこへ立ちながら鈴仙は呟く。
「問題なくいったようですね……」
 鈴仙は満足気に──見事に二つのキーを入力されて開かれた扉を見据えながら言うのであった。
「さて、いよいよ大詰めのようですね」
 そう自分に言い聞かせるように言うと、鈴仙はその扉の先へと踏み出していった。

◇ ◇ ◇

 いよいよ扉の先へと進んだ鈴仙。今彼女は水の上にそびえる一方道の立派な橋の上を歩いているのであった。
「これも、勇美さんが貸してくれたゲームのシチュエーションだと、いかにもボスのエリア直前の道ですよねぇ……」
 ここまでゲームチックというのもどうかと思う鈴仙であったが、たまにはこういう演出も悪いものではないと気持ちを新たにするのであった。
 そして、何よりこの水上に浮かぶ荘厳な橋を渡るという体感である。これだけでも心洗われるというものであろう。
 これは、丁度戦いの前の清涼効果のような役割を果たすなと、鈴仙は密かにそう思っていたりするのであった。
「……私も図太くなったものですねぇ……」
 そう鈴仙は自嘲気味にそう呟いたのである。これも、自分を地上の兎として受け入れてくれた幻想郷や、友人となった勇美の人柄のお陰かと彼女はそう感謝の念を覚えたのである。
 そのように思うと鈴仙は気分が楽なのであった。そして、今回の任務で程よい緊張を持ちながらも、基本的にリラックスしている自分に気付くのであった。
 そうなれば、鈴仙の行き着く結論は一つのようだ。
「勇美さんの請け売りですけど……この任務は『楽しんで』終わらせてしまうのがいいですね♪」
 そう弾むような心持ちの中、鈴仙は『ボスキャラ』の待つエリアまで歩を進めて行くのであった。
 そして、鈴仙の目に入る情報に変化が見られたのである。
 まず、直線であった橋の先は大きな円形の広場が造り出されていたのである。そして、その広場の中心には一人の人影が見受けられるのであった。
 そう、この者こそがこの内装が塔から掛け離れた『半月の塔』を制圧している主犯である事は一目瞭然なのだ。
 その者に対して、早速鈴仙は声を掛ける。
「あなたがこの塔の制圧のリーダー格ですね?」
 その問いに対して、その者は律儀に答えていく。だが、その振る舞いは鈴仙の予想していたものとは些か違ったようだ。
「うん、その通りだよ。僕がこの塔の担当のリーダーだよ」
「うん?」
 その台詞回しを聞いて、鈴仙は思わず首を傾げてしまった。
 まず、言わずもがな、その一人称であろう。『僕』とは女性が用いる言葉ではないからだ。それは幻想に生きる存在であっても代わりはないのである。
 だが、目の前にいる存在は、確かに少女の姿をしているのだ。水色の神に水色のゴシックロリータ──通称『ゴスロリ』の出で立ちは、彼女が少女である事の証明なのである。
 それを見ながら鈴仙は思った。格好だけなら、メディスンかどこぞの厄神に似ているなと。
 だが、この者からは『毒』だの『厄』だのといった、基本的に害となる力は感じられない事に鈴仙は一先ずは胸を撫で下ろすのであった。
 しかし、あくまで『一先ず』である。彼女は自身の波長を読み取る能力で、『ある意味』それよりも難儀な課題が存在する事を知ってしまったのだ。
 だが、その事実からいつまでも目を背け続ける訳にもいかないだろう。なので鈴仙は意を決してこういうのだった。
「こんな事、玉兎人生で始めてなんですけどね……」
「何かなぁ?」
 鈴仙がそう言うのをその玉兎はまったりとした態度で聞いていた。だが、その対応は適切ではなかった事を彼女……は後悔する事になるのだった。
「見た目ではにわかに信じられないんですけど……波長から察すると……『あなたは男の子』って事になるんですよね?」
 その鈴仙の発言は突拍子もなく聞こえるものであった。だが、それが実際は的を得ていたことはこの玉兎の「あっ」という反応から察する事が出来るのであった。
 そして、次の『彼』の発言から、それは確定となるのである。
「よく分かったねぇ、僕が男だって事?」
「ええ、私の波長を操る能力はお師匠やかつての同志の玉兎達からもお墨付きを得ているものでしてね」
「これはお見事だよ……」
 鈴仙の主張に、その玉兎も自分の見事な女装術を棚に上げる程に舌を巻くしかなかったのであった。
 玉兎は見事に一本取られた状態となってしまったのである。だが、彼は気を取り直してこう切り出してきた。
「でも、実際に僕が男だって確実に確かめておきたいよね? それじゃあ……」
 そう言って彼はゴスロリの服のスカート部分をたくし上げ……ようとしてものの見事に鈴仙に阻止された。
「挨拶代わりに『それ』を見せるのは、これから始まる私達の戦いを穢す事になりますよ」
「でも、どこかの大鎌使いは戦闘前に『見せて』いたのに……」
「無縁塚の死神はれっきとした女性です」
「うぐぅ……」
 鈴仙に見事に外されてしまって玉兎は呻き声を上げるしかなかったのであった。こうなっては『そっちじゃない』というツッコミはとてもし辛くなってしまったのである。
 そんな出鼻を挫かれた玉兎を尻目に見ながら、鈴仙は続けていった。
「戦いの前に出すものはそういう破廉恥なモノではなく、お互いの名前でしょう? もう知っているかも知れませんが、私は鈴仙・優曇華院・イナバですよ」
 礼儀正しいんだなと感じながら、その玉兎はその流儀に乗る事にしたのだった。先に名乗られてしまっては、こちらもその礼に倣わねばいけないというものだ。
「僕は『リュウセン』だよ。鈴仙さん、律儀なんだね?」
 そう玉兎──リュウセンに言われながら、鈴仙はその言葉を噛み締めながら台詞を紡いでいく。
「うーん、それは私自身の性分と、曲がりなりにも依姫様の所で訓練を積んだのが影響しているかも知れませんね」
 鈴仙は複雑な心持ちとなりながらそう言ったのであった。
「それはさておき、始めましょうか?」
「うん、そうだね」

◇ ◇ ◇

 こうして水と空気の豊かな塔の中での戦いが始まったのである。
 まず、先手を取るべく動きを見せたのは鈴仙であった。
 彼女がそう想い至ったのは、自分は勇美とは違うと考えての事である。
 確かに勇美は後手に周り相手の出方に応じた対応をする戦法を得意としているが、それはあくまで勇美の戦い方なのである。
 そして、この場に勇美がいない以上、鈴仙はここは自分らしく戦おうと考えたのだった。
 その思いを胸に鈴仙は懐からルナティックガンを取り出し、迷う事なく引き金を引いたのだ。
 銃口から発射されたエネルギーの弾丸がリュウセンへと襲い掛かる。
 狙いは寸分違わない。故にこのまま彼を捉えるかと思われた。
 だが、リュウセンはそのまったりとした振る舞いを崩す事なく、鈴仙の攻撃に対処したのである。
「う~ん、ここはこれかな。【滝符「フォールベール」】」
 そうスペル宣言をしたリュウセン。そして彼の周りを囲うように筒状の滝が出現したのであった。
 そして、その滝の流れによりルナティックガンの弾丸は見事に弾かれてしまったのだ。
「っ!?」
 これには鈴仙は驚いてしまう。掴みは良かった筈の自分の先手を巧みにかわされてしまったのだから。
 一通り自ら作り出した滝により敵の攻撃を回避した事を確認したリュウセンは、尚もまったりとした態度でスペルの解除をしたのである。
 それにより、彼の周りをまんべんなく流れていた滝はやがて小雨のようになり、そして完全にかき消えてしまった。
 その対処を見て、鈴仙は敵への認識を上げたのである。ただ美少女にしか見えない少年だけという事は断じてないのだと。
「見事ですよ、あなたの的確な状況判断。全く、緩い雰囲気に騙されてはいけませんね」
 鈴仙はそう相手を評価するのであった。それは、先の月の異変で勇美と共に戦ってきたからこそ実感出来る事なのだ。
「うん、あなたにそう言って貰えるのも悪くないかもね~」
 対して、鈴仙に言われたリュウセンもそう返すのであった。彼とて、鈴仙の実力の噂は重々に耳に入れているのだ。だから、そのような相手に称賛の言葉を貰えるのは光栄というものなのである。
 故に、今この場に二人の間には互いに信頼出来る空気が流れてきたのであった。
 これは、リュウセンとは良い友達になれるかも知れないと鈴仙は思うのであった。性別はともかくとして。
 その気持ちはリュウセンとて似たようなものがあるのだった。故に彼は戦う相手への好感を覚えながら次なる行動へと移るのである。
「それじゃあ、次は僕の番だね」
 そう言うと、リュウセンはある物を懐から取り出したのである。それは……。
「ジョウロ……?」
 それは花に水をやるのに活用する道具、ジョウロそのものであったのだった。
 それも、象さんの形なジョウロであった。象さん持ちが象さんジョウロを使う、これ以上のオチがあるかという言葉が浮かんだものの、鈴仙は敢えてその言葉は口にしなかった。
 そのジョウロを持ちながら、リュウセンはスペル宣言を行う。
「【抹符「レイニースプラッシュ」】」
 そうリュウセンが宣言すると、ジョウロの先から勢いよく複数の水の流れが弾幕となって放出されたのであった。
 勿論、それは花の水やりの時に注がれる流れからは完全に逸脱していたのである。
 それは、正に降り注ぐ雨のようになって鈴仙を襲うのだった。
 だが、鈴仙は慌ててはいなかった。こういう『量』で押し計る攻撃の対処は彼女は大の得意であるからだ。
 彼女はキッとその雨の弾幕へと凛々しく視線を送ると、そのまま自身の瞳を赤く輝かせたのであった。
 それにより、雨の群れはまるで鈴仙を避けるように軌道を変えて彼女から反れていったのである。
 そして、後に残ったのは水一滴も浴びてはいない鈴仙の姿であった。
「ざっと、こんなものですよ♪」
「やりますね~。これが狂気の瞳の力ですか……?」
 そう暢気に見える態度で呟くリュウセンであったが、内心穏やかではなかったのである。
 なにせ、自分が仕掛けたのに、敵は全くの無傷であるのだから。
 もしかしなくても、自分は強敵を相手にしているのだろう、そうリュウセンは結論付けるのだった。
 だが、彼とてそう易々とやられる気は無かったのである。それは敵はまだ自分は奥の手をまだ持っている事には気付いていないようなのだから。
 それに、自分の主たる嫦娥の事を思うと安易に敵に負けてあげるなどという選択肢は自然と消えるのであった。何故なら、彼女とて事情があるからである。
 故に、リュウセンはここで退くような事はしないのだった。『まだ』自分の能力の秘密を明かす事はしない。だが、それでも現状で強力なスペルの発動を試みるのだ。
 彼は、まず両手を広げると、そこから妖気の波動を繰り出していった。すると周囲を囲う水面が波立ち始めたのである。彼の力の影響が出始めている証であった。
 そして、『それ』の姿は一気に顕現をしたのであった。 
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