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ユア・ブラッド・マイン 〜空と結晶と緋色の鎖〜

作者:のざらし
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第9話『合流』

 
前書き
サブタイトルいらない気がしてきた。
説明多めの回です。 

 
「まったく、未契約のお前が製鉄師と交戦するとは、一歩間違えると取り返しのつかないことになっていたことを理解しているのか?」
「はい……以後気を付けます……」

 事情を説明した後、玲人は燕から説教を受けていた。
 結果的に何事もなかったとはいえ、玲人のしたことは褒められた行為じゃない。 玲人自身もそのことは理解してはいたが……やはり堪えるものがある。

「そもそもだな、お前は日頃から自分を疎かにしすぎている。 そういった心持ちが今回のような……」

 ……長い。 決して口にこそ出さないが、そう思ってしまうのは悪いことなのだろうか? いつの間にか普段の行動にまで話が広がっていた。 チラリと視線を向けてみると、立石も同じことを考えているのか苦笑を浮かべている。
 一体いつまで続くのか、一向に終わる気配のない話を聞きながらそう思っていると、窓の外から気の抜ける聞きなれた声が聞こえてきた。

「あれ、珍しい。 草場が説教受けてら」
「輝橋。 戻ったか」

 空から偵察をしてくると言っていた輝橋がようやく帰ってきたようだ。 燕たちから遅れること約10分。 ちなみにその間、燕の説教が止まることはなかった。
 見たところ怪我をしたような様子もない。 あの怪鳥とは運よく遭遇しなかったということか。

「っと、とりあえず報告したいんですけどいいですかね?」

 玄関まで周りいずもに入った輝橋が切り出す。 燕もこれ以上続けるつもりはないようで、立石と天野に寝室で休んでいる者の警護を指示すると、残りをリビングに集合させる。
 円卓を囲むようにして玲人、輝橋、燕の三人が座った。

「先ずは私から。 玲人も既に聞いていると思うが、浴場に向かっている途中に襲撃をうけた。 状況からみて玲人の交戦した男の鉄脈術と考えて間違いないだろう」
「ん? 草場、製鉄師と戦ったの?」
「その話は後だ。 襲撃者ーーーつまりは鉄脈術の性能だが、ここの力量は決して高くない。 同じく製鉄師である者ならば十分に対処可能だろう」
「上から見た感じ、あのゾンビは山のあちこちに配置されてました。 パワー絞って効果範囲を広げてるタイプじゃないですかね?」
「そう考えても問題はないだろう。 他に気になったことはないか?」
「んー、そこらじゅうで木が切り倒されてましたね。 登ろうにも降りようにも難しい感じです」

 木が切り倒されている。 普通に状況的に考えると、例の男が山の出入りを封じるために細工をしたのだろう。
 普通に考えると、だ。 そして玲人の脳内には普通の埒外にいるような存在がちらついていた。

「輝橋、倒れてた木に何か違和感とかなかったか?」
「違和感……? あぁ、そういえば出入口とは関係ない森の中でも倒れてるのは見かけたよ。 そっちの木のほうが綺麗に切られてたのは気になるかな」
「綺麗に切られてた?」
「うん。 道を封鎖してた方は斧でも使ってへし折った見たいだったけど、森の中のはくりぬいたみたいに綺麗だった」
「くりぬき……なるほど……」

 玲人のみた怪鳥はほんの一瞬で地面に大穴を開け、飛び去った方角から断続的に木が倒れる音を響かせていた。 無関係、と思うほうが短慮だろう。

「森の中の方は別口かも」
「……何か見たようだな」

 玲人は製鉄師の男との交戦中に遭遇した怪鳥について2人に説明する。 怪鳥が通った後には大きな穴が残るということ、怪鳥は鉄脈術をも貫いたこと。 そして、怪鳥がカセドラル・ビーイングと呼ばれたこと。

「かせどら、なんて?」
「カセドラル・ビーイングだ。 その反応だと輝橋は知らなさそうだな。 燕さんは何か……燕さん?」
「馬鹿な、ありえん。 この山にレリックはないはず……」

 レリック。 また知らない単語だ。
 この反応だと、燕さんには心当たりがあるらしい。 もう少し詳しく聞きたい所だが……

「す、少し待て。 事情が事情だ。 宇宙(そら)と話す時間をくれ」

 そういうと、燕さんは寝室にいた武蔵野と連れだって外に出て行ってしまう。 残された玲人たちにできることといえば、眉を顰めて目を見合わせることくらいか。

「ギバちゃんせんせー、嘘つけないもんね」
「ま、まぁそこが燕さんのいいところでもある」

 なぜ取り繕うようにフォローを入れているのか。 あまりに分かりやすく取り乱した燕の様子を見て、玲人と輝橋は逆に肩の力が抜けていた。
 そうなると、今まで気を張っていただけに一気に疲労感に襲われる。 輝橋の提案した小休憩を断る理由はなかった。

「んで? どう思うよあの反応」

 じゃんけんに負けた輝橋が2人分のコーヒーを用意しながら訪ねてくる。 余談ではあるが、輝橋には知ってか知らずか最初にチョキを出す癖がある。 故に、じゃんけんにおいては写真部最弱である。

「そうだな……まず心当たりがあるのは間違いないだろう。 それもおそらく機密事項級の、だな」

 普通に知っているだけならば、今こうして武蔵野と対応を相談することもないだろう。 しかし、こうして待たされているということは、今のような緊急事態下においても簡単に口に出せないような心当たりがあると考えるのが妥当だ。

「まぁ冥質界(カセドラル)だもんなぁ……鬼が出るか蛇が出るか」

 やはり輝橋も連想することは同じらしい。
 冥質界。 これの説明は少し面倒だ。 何せまずは《三層世界論》なんていう小難しい話から始めなければならない。
 この理論を平たく説明すると、今玲人たちが存在しているこの世界は三つの層に分けることが出来るらしい。

 まず一つ目が《物質界(マテリアル)》。 玲人たちの存在する世界まさにそのもののことをこう呼ぶ。 三つの層の中では最も下に位置し、”形”を作るベースとなっている。
 二つ目は《霊質界(アストラル)》。 物質界の一つ上に存在するとされるこの層は”存在”の世界であると言われている。 この層の最も面白い点は霊質界の変化は物質界にも影響を与えるという点だろう。 存在そのものを歪められているわけだから、形が変わるのは当然か。
 そして最後、一番上に存在するのが今話に出ている《冥質界(カセドラル)》というわけだ。 この層が管理しているのは”情報”だという話だが……詳しいことは分かっていない。
 というのも、冥質界は霊質界と違って物質界とのつながりが希薄な独立した世界らしい。 何らかの研究は行われている様だが、それらはほとんどが一般に公表されていない。

 他にも下位次元による上位次元への干渉不可能性だとか、その一部の例外なんかもあるんだが、その話は割愛する。 教科書でも読んでくれ。
 今はとりあえず、目の前に出てきた問題が弩級のブラックボックスであるということだけ理解してくれたらそれでいい。

「……話がついた。 立石と天野も呼んでくれ」
「マイエンジェルは?」
「どうせ呼んでも起きないだろう。 二人だけでいい」

 どうやら方針が決まったようで、燕に言われて寝室で待機していた2人もリビングに呼び寄せる。
 ここまでの話を聞いていないなりに燕の様子をみてなんとなく状況は察しているのだろう。 先ほどまでの気の抜けた雰囲気はなりを潜め、緊張した空気が流れる。

「まず最初に言っておこう。 今からするのは聖学園でも理事長を含めたごく一部しか知らないような機密事項だ」

 誰かが生唾を飲む音が聞こえる。 あるいは、自分のものだったかもしれない。

「私たちが直面しているこの事態に、冥質界からの来訪者《冥質界情報体(カセドラル・ビーイング)》が関係していると推測される」



 この日のことを後悔する日が来るかもしれない。
 不審な男など放っておいて、合流を優先するべきだったと。
 あるいは、そもそも合宿なんて行うべきじゃなかったと。
 少なくとも言えることは一つ。

 この数日の合宿で俺の、いや、俺たちの運命は後戻り出来ない場所に踏み込んでしまったらしい。
 
 

 
後書き
教科書はコチラ↓
https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~22210

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