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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
第1部 閑話
  閑話1・値切り交渉

 
前書き
第1部終了までの間の話です。 

 
 私がとある町の道具屋で買い物をしていると、別行動をとっていたナギがやってきて怪訝な顔をした。
「お前、それ全部買う気なのか?」
「だって、備えあれば憂いなしっていうでしょ? 回復魔法が使える人ってユウリしかいないし、もしユウリがいない場合薬草がないと困るじゃない」
「うー、まあ、オレも魔法使えないし、確かにたくさんあれば便利だもんな」
「でしょ? だからとりあえず、人数分持てる分と、予備も用意しようかと思って」
「なるほど予備か。お前意外としっかりしてんだな」
「少なくともナギよりはしっかりしてる自信あるよ」
「なんだよそれ。お前何気にオレの事馬鹿にしてない?」
 ナギがふてくされたように言うので、私は慌てて訂正した。
「いやいや、ナギは大人物だよ。たとえそんなにしっかりしてなくても」
「どっちにしろオレしっかりしてないのかよ」
 ぶつぶつ文句を言いながら、そのままナギは別の店に行ってしまった。気を悪くさせちゃったかな。
「別にそんなつもりで言ったんじゃないのになあ……」
「お前がそう思ってなくても相手には別の意味で伝わるときもある」
 全く気配を感じさせずに急に現われたのは、我らがリーダー、勇者のユウリだった。
「びっ、びっくりしたぁ……」
「お前、俺にまで失礼なことを言うつもりか」
「そんなことないよ。ただ急に現われたから驚いただけじゃん」
 私は勝手に気を悪くした男性たちに不条理を感じながらも反論した。
「そんなことよりお前、その薬草全部でいくらすると思ってるんだ」
「え、確かひとつ8Gだったから、35こで……えーと」
「280Gだ。そのくらい一瞬で計算しろ」
 にべもなく言われ、私は小さく肩を落とした。そんな私の様子などお構いなしに、ユウリはさらに言い募る。
「薬草もそれだけ買えばバカにならないんだというのがわからないのか。こういうときは少しでも安くするように頭を使うんだ鈍足」
 最後の一言が余計だ、といいたかったが、意気消沈した今の私には言えるはずもなかった。
「おい親父。こっちは大所帯で使う金が限られてるんだ。少しぐらいまけろ」
 道具屋のおじさんは、いきなり現われた勇者のいきなりの値引き交渉に、戸惑いを隠せない様子で私とユウリを交互に見ている。私がなんともいえない顔を見せると、おじさんはあきらめてユウリの方に向き直った。
「まあ、あんたたち旅してるみたいだし、お金に余裕なさそうなのはわかるよ。だけど、こっちも魔物の影響で仕入れがかなり滞ってるんだよね。こっちも生活かかってるんだ。そんなには負けられないよ」
「こっちは命賭けて魔物と戦ってるんだ。お前らが家のベッドでのうのうと寝ている間も俺たちは野宿をしながら旅を続けているんだぞ? それでもまだ俺たちに高い金を払わせる気なのか?」
 ユウリの熱弁に、おじさんは声を詰まらせた。それを見逃さず、さらに畳み掛ける勇者。
「本当はこんな場所で言うべきではないのだが、お前には知ってほしい。実は俺はアリアハン王からの命を受けた勇者だ。もし俺たちが魔物に殺されたら、永遠にこの世界は魔王に支配されたままになってしまうんだぞ? それでもいいのか?」
「い、いいえ!! まさかあなた様があの有名な英雄オルテガの意志を受け継ぎし勇者様だとは、露ほども存じ上げず、申し訳ございませんでした! あなた様方にはぜひとも特別価格の2割引でご提供します!!」
 勇者だと知ったおじさんは、先ほどとは打って変わった態度で大量の薬草を私たちの前に差し出した。
 だが、ユウリはなぜか納得いかない顔でおじさんにさらに言い募る。
「お前人の話を聞いてなかったのか? 俺が今までかかわった道具屋の主人は皆定価の8割引で売ってくれたぞ?」
「そ、そんな……。これでも破格の値段なんですよ? ただでさえこの辺りは薬草の仕入れがままならなくて……」
「それはさっき聞いた。お前こそ、俺たちが戦いにおいていかに薬草を重視しているのかわからないのか? 重視している、すなわちそれだけ量が必要だということだ。お前は世界を滅ぼされたいのか?」
「しかし、それとこれとは別の話でして、こっちは今の生活を最重要視してるんですよ。勇者様こそ魔物を倒し続けてきて相当お強いんでしょう? だとすればそれだけお金も稼いでいるはずですよ」
 鋭いところを突かれ、ユウリはわずかに眉根を寄せる。だがすぐにもとの表情に戻り、
「確かに俺たちは相当の数の魔物を倒してきた。だが魔物を倒すには技術や経験だけではない。より強力な武器や防具も必要になってくる。それが強ければ強いほど、高価になってくるんだ。商人のお前ならわかるだろ」
 体勢を立て直し、おじさんに反撃することに成功した。おじさんはにこにこしながらも、目はあまり笑っていない。
 私はこの二人のやり取りを、ただ呆然と眺めるしかなかった。
 すると、今まで別行動をしていたシーラが陽気なステップを踏みながら道具屋にやってきた。
「あー、ミオちんたち、やっと見つけた! もおー、ずっと探してたんだからね!!」
 見るとシーラの腕に抱えているのは、大きな皮袋。ちらりと見える黄金色の輝きは紛れもなく金貨だ。
「すごいねシーラ! またこんなに稼いできたの!?」
「そーだよー♪ ミオちんにも後で分け前あげるね☆」
 私が感動すると、シーラはふふんと鼻を鳴らし、得意げに金貨の入った袋を私に見せびらかした。
 その袋は当然ユウリの目にも入っているはずなのだが、なぜか彼は不機嫌な顔をしている。
「昨日はユウリちんに3000Gあげたから、今日は2000Gね♪」
 シーラがご機嫌な様子でユウリに皮袋を渡そうとするが、ユウリはそれを受け取ろうとしない。それどころか、気まずそうな表情で道具屋のおじさんの方を見ている。
「どうやら勇者様たちは、お金に不自由のない生活を送っているようですね」
 満面の笑みでその一言を言い放つ道具屋のおじさん。ユウリは若干顔を引きつらせながらも、なんとか声を絞り出す。
「こ、これはたまたま強運の持ち主である遊び人が、たまたまカジノでたまたま大金を手に入れたからであって、決して日常茶飯事では……」
「いえいえ、先ほどの話を聞いてると、とても今日初めてカジノをやったとは思えないですね。しかも短期間で相当な額のゴールドを稼いでいるようで……。いやはやなんとも、私もその強運の持ち主である彼女にあやかってみたいものですな」
 シーラの登場をきっかけに、すっかり立場が逆転してしまったようだ。せっかくの値引き交渉も、この雰囲気では元に戻せそうにないというのが私にもわかる。
「? どーしたの? いらないの?」
 シーラが不思議そうにユウリに尋ねる。そして受け取らないと判断した彼女が自身の手を引っ込めようとしたその時、突然ユウリが無言でその皮袋をひったくった。
 そして道具屋のおじさんのほうへ振り返り、
「もう二度とお前のところで薬草は買わん!!」
 と一声発し、皮袋を握り締めたままその場から走り去ってしまった。
「……えーっと、どういうこと?」
 私は勇者の不可解な行動に、これまた不可解な言葉を発することしか出来なかった。
「とりあえず、何か買っていって行きませんか? お嬢さん」
 最初に会ったときと全く同じ表情で声をかける道具屋のおじさん。
 結局私は最初に買おうとした薬草35個を、定価で買うことにした。
 あとでユウリに何か言われても、知らん顔しておこう。
 
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