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第三章 リベン珠
  第36話 月の都よ、私は帰って来た!

 勇美と鈴仙はヘカーティア達との決着を着け、無事に帰路へと着いていたのだった。
 さすがに二人は疲れたのか、その間の会話は彼女らにとっては意外に少なかったが、それでも『成し遂げた後の心地よさ』というものが二人を優しく包んでいたのだった。
 それも無理のない所だろう。何せ二人が本格的に異変を解決したのはこれが初めてなのだから。
 まず、鈴仙の方は異変を解決に向かう事自体珍しいのであった。こういうのは本来人間が行う筈であり、純粋な妖怪である彼女が解決に乗り出すのは極めて稀であったのだ。
 そして、勇美の方もこれが初めての異変解決だと言えるのだった。先日の八雲紫が三度目の月到来の際には、あろう事か弾幕ごっっこではない実戦になり、当然勇美は依姫、豊姫、紫のサポートに当たるのが精一杯でとても彼女自身で解決出来たとは言えないのだ。
 そもそも、あれを『異変』と呼べるものではないだろう。この場合の異変とは幻想郷とスペルカード戦のルールに乗っ取ったものであり、あれは最早謀略の域に達していたのだから。
 その意味でも、勇美にとっても今回の件が初めての異変解決となるのだった。それが故に彼女の喜びも一入というものだろう。
 そうこうしながら、そんな二人の喜びを帰路が称えるかのように迎え入れる中、彼女達はとうとう月の都の入り口まで辿り着いていたのだった。
「鈴仙さん、とうとう帰って来ましたね」
「ええ、一日も経っていないのに、何だかずっと離れていた気持ちですよ」
 そのように、勇美達も疲れ果てたその身を休めてくれる憩いの場へと着いた事に感慨深さを覚えていた。
「では、入りましょうか」
 勇美にそう促され、鈴仙も一緒になって表からは目視出来ない月の都への入り口へと足を踏み入れたのであった。

◇ ◇ ◇

 月の都への帰還。そこで二人を待っていたのは、大きな門であった。
 それはここから出発した時と同じである。だが、今特筆すべきはそこに門番が二人いる事であった。
 その事から、夢の世界に避難させていた月の民が元に戻った事が窺えるだろう。
 そんな彼等の下へと二人は歩を進めていった。──勿論一抹の不安を抱えながら、である。
 彼等月の民は排他的故に、外部の人間を廃絶する傾向にある。だから、この場で勇美達が拒絶される可能性が高いと言えるのだった。
 だが、そうしてここで足踏みをしている訳にもいかないのだ。そこで勇美達はダメ元で彼等の下へと駆け寄って行ったのだ。
 そんな最中、勇美達はこんなやり取りをしていた。
「鈴仙さん、もし門番の方が私達を入れてくれなかったらどうしましょう?」
「う~ん、ここからは遠くて少し大変ですけど、このまま秘密の通路へ行ってそのまま幻想郷に帰りましょう」
「それは少ししんどいので、かくなる上は門番の方達(♂)に色仕掛けをしてでも……って事で、その時は鈴仙さん、お願いします」
「そういうしょうもない案って、人に任せるものじゃないですよって」
「でも、私に色気はありませんから。でも、鈴仙さんが私のようなミニの着物を着れば活路は見出せるかも知れませんよ」
「……それってはっきり言って『希望の無駄遣い』ですよ。希望は有効活用しないと」
「なにおー! 鈴仙さん、それはミニの着物に対する侮辱ですよ」
「そんな妙ちくりんな概念に権限なんて余りないと思いますが」
 と、しょうもない不毛な言い合いをしながらも、二人は確実に門へと歩を進めていったのだった。
 そして、遂に辿り着く事となる。
「よし、こうなったらかくなる上は私がパンツを脱いで門番さん達(♂)に受け渡すしか……」
「そんなワイロ、渡される方も引くだけですって。あなたはどこぞの兄貴ですか……?」
「む、そこの者達。そこで止まれ」
 漸く門番は勇美達に気付いたようで、不用意に門に近付く者を容易には入れないと職務に忠実な態度で出迎えるのだった。
「う~ん、やっぱり対応がピリピリしていますね」
「そういう役職ですから、仕方ないですよ」
 そう言い合う二人を前にして、門番達ははたと気付くのだった。
「確か、あなた方は……?」
「うむ、間違いないだろう」
 一人目の門番(以下門番A)の様子に二人目(以下門番B)も同意といった感じで頷いた。そして、互いに視線を送り合ってその認識を確かめ合うのだった。
 そして、そこから出した答えは一つであった。
「確かあなた方はサグメ様からの紹介にあった方々のようですね」
「サグメ様から話は聞いております。あなた方をお通しするようにと」
 どうやら、サグメが二人に話を通してくれていたようである。これには二人は話が早いと喜ばしい気持ちとなるのであった。
 ちなみに、この門番達も月の民の例に漏れずに今まで夢の世界にてずっと月の都にいたと思い込まされているのである。だが、サグメの申し出から二人が重要な存在だという事実は認識しているようだ。
 そして、サグメが彼等に今まで夢の世界にいた事を伝えていないのも、彼女が判断力に長ける事を物語っていたのだった。今まで自分達の慣れ親しんだ場所にいると思っていたのが、操作された上での認識だったと知れば彼等の不安は募る事となるだろうから。
 加えて、いかに彼等が排他的な人種の一員だろとも、勇美達が今の事態を解決に導いてくれた事は分かるのだった。更には第二次月面戦争を経て綿月姉妹の計らいにより月の民の地上への認識は多少良くなっているのだ。故に、彼等はこう決定付けたのである。
「あなた方はサグメ様の命によりここをお通しするように伝えられています」
「しかし、ここで一つだけさせて下さい」
 そう言って門番Bは、予め持っていた装置を取り出すと、それを勇美達に掲げたのである。
「一体何をするのですか?」
 そう聞く勇美の疑問はもっともだろう。もし害になる行動だったら、とてもではないが御免被りたい所である。
「『穢れ』の浄化ですよ。あなた方は私達の事態解決をしてくれた人達だというのは分かります。ですが、我々にとっては穢れだけは持ち込まれてはいけないのですから」
 そう門番Aが言うのも無理はないだろうと勇美は思ったのだ。何せ、今回の騒動が起こったのには、彼等がそれを弱点とする事に他ならなかったからである。
 そう勇美が思っている内に、彼女の浄化はいともあっさりと終わったようであった。
 こうもあっさりと済まされてしまうものなのかと、勇美は月の技術力の高さに改めて舌を巻くのであった。
 後、こういうのはパンツを脱いでいた方が効力がもしかして高かったかも知れないと、どうでもいい後悔を彼女はしていた。
 勇美の方はこれで完了である。残るのは……。
「次は兎のあなたですよ」
「私は元月の住人なのにやるのですか?」
 その事に鈴仙は些か訝りを覚えるのだった。元同志だというのに、何だか他人行儀のような対応でやるせない心持ちを感じるのだ。
「ええ、あなたは最早『地上の兎』ですからね」
「それならいいか♪」
 その言葉を聞いて鈴仙は吹っ切れたのであった。今の彼女は自分が地上の兎になった事に誇りを持っているからである。だが、門番のこの発言は、玉兎でありながら浄化処理をされる事となる鈴仙をうまく丸め込む為のサグメの案だという事を鈴仙は知る由はなかったのだった。
 こうして、鈴仙も方も浄化処理を施されて、二人は月の都に入る準備が整ったという訳である。
 そして、手筈を整えた門番達は、満を持して二人に言うのだった。
「手間暇掛けさせて申し訳ありませんでした、それではどうぞお入り下さい」
「どうぞご満喫していかれて下さい」
 こうして門番達は勇美達を月の都の中へと招き入れ、二人はそこへと身を投じていった。

◇ ◇ ◇

「うわあ、素敵……」
 月の都の中で、勇美はそう感嘆の声を漏らすしかない程のものを覚えていたのである。
 確かに最終決戦の地へ向かう為の準備の間に勇美達は月の都に滞在していた。だが、その時と今の様相はまるっきり違っていたのだった。
 あの時は都を凍結させた状態であった為に、色褪せた無機質な雰囲気が全体を支配していたのだ。そして勿論、サグメとイシン以外の月の住人は存在していなかった為に、がらんどうとしていて心まで凍えてしまいそうな程の冷たさがその身を包むような状態だったのである。
 だが、今はどうだろうか? 都は色とりどりに彩られていて暖かさに包まれており、正に『命の息吹』を感じられるのだ。更には道ゆく道には人々の喧騒が存在して、大いに賑わい力強さが勇美達の身に伝わってくるのだった。
「私としても安心しました。これで元に戻っていると実感出来ますね」
 鈴仙の方もすっかり元通りになった月の都の様子に安堵を覚える。もう彼女にとっては帰る場所ではないものの、かつて生まれ育った場所に安泰が戻ったのは喜ばしい事なのである。
 これにて元の平穏が戻り、勇美達は肩の荷が降りる思いであろう。これで自分達は為すべき事を為したと実感出来るというものだ。
 これで月の都に平和が戻った事は実感出来た。だが、勇美達は後一つこの月の都でやっておかなければならない事があるのだった。
 一頻り都が平和になったのを確認した勇美達は、その画竜点睛となる人物の元へ赴こう、そう思っている時の事であった。
「頼まれた物の買い出しはこれで完了ですね」
 そう独りごちながら都に繰り出していた者を勇美達は発見したのだった。その者の名前を彼女達は知っていたのである。
「イシンさん」
 そう、サグメの専属の学者となり、凍結した月の都でも深く関わる事となった玉兎。レイセン改めイシンであった。
 彼女の姿を視界に収めながら、鈴仙も口を開く。
「日数は経っていない筈なのに、何だか『お久しぶり』という言葉がとってもしっくりきますね」
「ええ、全くです。私もそう思いますよ」
 その鈴仙の意見にはイシンも同意する所があったのだ。今回の件は余りにも脳裏に鮮烈に焼き付くような出来事だったのだから。
 そう二人は言い合うと、お互いに思わず笑いがこみ上げてくるのだった。そこには、形は違えど、異変に立ち向かった者同士の絆のようなものが感じられたからである。
 二人が一頻り笑い合った所で、勇美達は本題に入るのだった。そこで勇美は話を切り出す。
「イシンさんが出向いていてくれて丁度良かったです。買い出しも終わった所でしょう?」
「ええ、それでは私があなた方をサグメ様の所に案内しますよ」
「うん、話が早くて助かるよ」
 勇美はイシンのそういう所が柔軟性があって良かったと思うのであった。その特性が今の能力に目覚めてサグメ専属の学者にまで上り詰めた一因だと勇美は感じる所である。
 こうして、月の都を救ったちょっとした英雄となった勇美達はイシンに案内されて官邸に赴くのであった。

◇ ◇ ◇

 そして、今勇美達はサグメ達に近況報告をしている所である。ちなみに、無論であるが官邸の門はイシンとサグメの計らいで難なく通れたという訳だ。
『成る程……『暫くは』襲撃をしないと来ましたか』
 そうサグメは重々と呟いた。勿論、生の声を出せば事態は逆転してしまうので、イシンの能力により思考を音声に変換してもらっての所為である。
 そして、そう『呟いた』サグメの心境は複雑であった。もう金輪際襲撃をしないという約束には取り付けなかったのは悔やむべき事なのだから。
 しかし、今回は身を引いてくれた相手方の配慮も忘れてはいけないだろう。相手方にも事情というものがあるのだ。それを無碍にして事態の解決というのは虫が良すぎるというものだろう。
 その事を踏まえて、サグメは頷くのだった。
『分かりました。取り敢えず結果は完璧とは言えないものの、事態の解決に赴いてくれたあなた方には感謝します』
 サグメにお礼を言われ、勇美達は「どういたしまして」と礼を返した。
 だが、勇美達はボランティアで今回の異変を解決に導いたのではないのだ。確かに幻想郷の平穏を護る為に戦った訳だが、それだけで終わらせては、収まりがつかないというものである。
 その事もサグメは重々理解しているのだった。そして、彼女は発言で事態を真逆にひっくり返す自身の手に余る能力は持っていようとも、嘘は可能な限りつかない主義なのである。
 だから、次にサグメが言うのはこのような内容であった。
『では。約束通りにあなた方に月の遺産のごく一部ですが差し上げましょう』
 この約束は、勇美達が最終決戦に赴く前に取り決めた事であった。もし、無事に事態解決出来たら、その時は勇美達に報酬を与えるという内容であったのだ。
 それは、どちらからともなく決められた事であった。サグメの方も異変解決に赴いてくれた勇美達をタダ働きさせる気はなかったし、勇美の方としても将来妹と平和な暮らしをする為に入手出来る利益は入手しておきたい所であったのだから。
 このように両者の意見は、予め一致していたのだった。それが今果たされる時なのであった。
 そして、サグメによって勇美達に遺産を渡すように指示されていた彼女の側近達によって、勇美達の元へとそれが運ばれて来たのである。
「うわあ~♪」
 勇美がそう感嘆の声を上げるのは無理のない事であった。何しろそこには絵に描いたような金銀財宝の山が持ち込まれていたのだから。
「これで、ごく一部ってのが信じられませんね」
 その事も勇美を驚かせる要因となっていたのだった。この豪華絢爛なラインナップでありながら、これでも氷山の一角に過ぎないというのだから。
 しかし、それも月の文化の中枢が拵えた遺産である事を考えれば当然と言える事かも知れないだろう。何せ、月の文化は地上よりも遙かに進んでいるのだから。
 これが自分達の物となるのだ。故に勇美はその興奮を隠せずにはいられなかったのだった。
「グヒヒ、こんなにもうかっちゃった……」
「勇美さん、落ち着いて下さい。それだとどこぞの国民的メガネ少年ですよ」
「バーロー♪ 私はそんな頭脳は大人なんて大それた存在じゃありませんって♪」
「そっちじゃありませんって。絶対ワザと言ってるでしょう?」
 と、鈴仙はそのようなコント染みたやり取りを勇美としながらも、彼女がそうして心躍るのも無理はないかと思い直すのであった。
 何せ、これは勇美が今までで一番利益を上げた瞬間だからである。自分達の力で事を成し遂げた先に手に入れたという結晶なのだから。
 そう、自分達である。つまり、勇美と鈴仙の二人の力で築き上げた利益という事だ。
 だから、鈴仙もその利益を素直に受け取る算段でいた。それは、勇美が利益を独り占めしない性格を考慮しての事であった。鈴仙には金銭的欲求はそこまでないのだが、そんな勇美の気持ちを考えれば、自分もその利益に享受するのがベストだという事は彼女も分かる所なのである。
 無論、鈴仙としても全く魅力のない話ではなかった。何せ、永琳から渡されるお小遣いでは些か物足りないと思う所もなくはなかったからだ。
 故に、この場にはサグメから月の遺産の『ごく一部』を受け取る事に反対する者はいなかったという事であった。
『これにて約束は果たしましたよ。これで問題はないでしょう?』
 そのサグメの問いに対して、二人とも承諾の返事で返すのだった。最早そこに否定する意味合いなどはないのだから。
 ちなみに、勇美はこの財宝をすぐには換金する算段は付けてはいなかったのだ。
 それは、確かにサグメは幻想郷が脅かされる事となった最後の要因であるが、しかしそれでも彼女と異変の大元の解決の為に協力した事により生まれた絆も本物であるからだった。
 そんなサグメとの絆の結晶をすぐにはお金には変えず、それが必要な時が来るまでは自分の手元に置いておきたいというのが勇美の心情なのである。
 と、ここで財宝の受け渡しの件については解決済みの話題となったのだ。だが、最後にサグメはある提案をせずにはいられなかったのである。例えそれがダメ元でも。
『ところで鈴仙。あなたは月の都に戻る考えはありませんか?』
「!?」
 その問いに鈴仙は驚く。だが、それも無理はないというものだろう。何せ彼女の今後の将来に影響する内容なのだから。
『あなたは今回の事で月を救った英雄のようなものです。故に今後あなたが月に戻ってくれば、あなたの対応も優遇される事になるでしょう? どうですか、悪い話ではないと思うのですが』
「……」
 思いもよらぬ……いや、自分が成し遂げた成果から多少は予測出来たかも知れない提案に、鈴仙は暫し目を白黒させてしまう。
 だが、彼女の答えは決まっていたのだった。そして鈴仙は自分の意思を迷う事なく言葉に紡ぐ。
「サグメ様。折角の申し出ですが、それはお断りさせて頂きます。私はもう地上の兎になると決めている事ですから。その考えは今後も覆る事は有りません」
 悪くない提案にそう鈴仙が結論付けたのには様々な思惑が絡み合っていたのだった。
 まず、彼女にとって幻想郷は大変居心地の良い場所だったからである。ここでは月にいた頃には知り得ない出来事が彼女を待っていたのだ。そして、その者が求める限り『全てを受け入れてくれる』そんな幻想郷の残酷でありながらも優しい性質に彼女も惹かれる所があった訳である。
 第二に、彼女自身、もう『逃げたく』はないからである。確かに今回の話に乗れば今よりもいい生活は出来るかも知れない。だが、それは今の彼女自身から逃げる事に繋がるのだ。鈴仙はもう自分を捨てるような行為は二度としたくはなかったのだ。
 第三に、自分には既に永遠亭の者達が家族同然になっていたからである。厳しいがちゃんと優しさも見せてくれる永琳、だらしないもののどこか憎めない上にここぞという時は主としても決めてくれる輝夜、何かと世話を焼かせてくれるが何だかんだで気があうてゐ。そして、新たな永遠亭の家族となった勇美……。
 それらの事を鈴仙は切実にサグメに伝えていったのだった。
 その鈴仙の発言を、サグメは実に真摯に受け止めていた。そして最後まで話を聞き終えた後にこう言葉を紡いだのである。
『鈴仙。今のあなたの自分を大切にする心、忘れてはいけませんよ。そして良い帰る場所と、良い家族が出来たのですね』
「はい」
 サグメのその言葉に、鈴仙は素直に頷いたのであった。それは今しがた自分がサグメに伝えた事に嘘偽りはないからである。
 そして、その内容を逃さずに端から聞いていた勇美の表情も綻んでいたのだった。
「鈴仙さん。私の事を家族だって認めてくれるんですね?」
「ええ、当たり前じゃないですか」
 喜びの表情を見せる勇美に対して、鈴仙の方も心地よい笑みを見せながら返した。
 それを見ながら、微笑ましく思いつつサグメは結論付ける。
『鈴仙、あなたの想い、しかと受け止めました。ここはあなたの意思を尊重しましょう』
 その言葉はサグメの本心であった。決して子供を自分の思い通りに動かしたい毒親が外面を取り繕う為に言う時の台詞とは全く違う、サグメの嘘偽りない本当の考えである。
 そんなサグメの切実な想いを受けながら鈴仙は言った。
「サグメ様……ありがとうございます」
 ここに鈴仙の今後の方針は決まったのである。
 これで話は全て終わっただろうか? 否、まだ最後に大事な事が一つ残っているのだ。その旨をサグメは言葉に紡いでいく。
『では、これにてあなた方の処遇についての話は終わりましたね。それでは最後に勇美さん、あなたにはプレゼントがあります。それもとびっきりのがですね』
 そうどこか茶目っ毛を出しながらサグメはそう言ったのだった。これには勇美は頭に疑問符を浮かべた。
 一体何だろうか。今しがた自分達は月の遺産の一部という贅沢な施しを受け取ったばかりである。それ以上のプレゼントとは何だろうか。
 そう思っていた勇美であったが、その疑問はすぐに解消される事となるのだった。何故なら今勇美の視界に入った人物がその答えそのものであったからだ。
 その者『達』の名前を呼びながら勇美は掛けよって行った。
「依姫さん! 豊姫さん!」
 そう、勇美にとってこれ以上はない、かけがえのない二人であった。彼女達に比べれば、どんな財宝であろうとも勇美には霞んで見える程であったのだ。
 そんな勇美を二人は暖かく迎え入れたのであった。そして三人で固い抱擁をし合う。
 そして勇美は滅多な事では『それ』はしないと心に決めていたが、今この場ではそれも許されるだろうと無意識の内に想い、気付けば大粒の涙を流していたのだった。
「豊姫さん、依姫さん。私……やりましたぁっ……!」
「偉いわ、よくやりました勇美ちゃん」
「まさかあなたがここまで来れるようになるとはね……。感慨深いものです」
 最早、今は下手な言葉は野暮というものだろう。勇美は今までで最高のプレゼントを享受しながらその気持ちを心行くまで堪能するのだった。 
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