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旧家のしきたり

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第二章

「家の中では奥さんと娘以外の誰にも手さえ触れてはあきまへん。何でかわかってますな」
「間違いがあってはあかんさかいですね」
「そうです、何があっても」  
 それこそというのだ。
「綾香さんも気をつけなはれ、ただ」
「ただといいますと」
「家の女は家の外でもそうですが」
 夫と息子以外とは手を触れても駄目だがというのだ。
「それでも女相手はちゃいます」
「女の人はですか」
「そうです、手を触れようが」
 それこそというのだ、尚家の男は芸の為なので家の外で女遊びをしてもいい。だから夫も遊んでいるし義父も同じだ。
「誰も言いません」
「そうですか」
「そのしきたりもです」
「頭に入れてですね」
「やっていきなはれ」
「わかりました」
 綾香は義父の言葉に頷いた、だがこの時はこの女に対するしきたりについて特に何も思わなかった。しかし。
 ある日義母の円、髪の毛はそろそろ白くなってきているが姿勢がいいので着物姿が似合い面長の顔はまだ整っている彼女に言われた。
「明日から宏典さんは暫くアメリカに言ってです」
「お家にいませんね」
「そうですさかい」
 それでというのだ。
「あんたさんに寂しくない様にします」
「といいますと」
「後でわかります」
 義母は綾香に思わせぶりな笑みで述べた。
「その時に」
「そうですか」
「悪いことではありませんので」
 だからだというのだ。
「安心して宜しいです」
「悪いことやないですか」
「そうです、では宏典さんの留守の間はしっかり」
 守る様に言ってだ、義母は綾香の前を後にした。綾香はこの時義母の言った意味はわからなかったが。
 夜床に着いた、夫のいない夫婦の部屋でそうしようとした時にだった。
 もし、と障子の向こうから声が聞こえた。それでその声に応じて障子を開けると。
 家に住み込みで働いている女の人の一人、小林弓香という女性が座っていた。寝間着姿で髪の毛を下ろし化粧をしている。
 その弓香に綾香は尋ねた。
「何かあったんですか?」
「お情けを頂きたく参りました」
「お情け?」
「はい、若奥様の夜のお相手をとです」
 その様にというのだ。
「奥様に言われましたので」
「来はったんですか」
「そうです、ええでしょうか」
「つまりそれは」
「今宵は若旦那様がおられへんので」
 それでというのだ。 
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