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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年と画面のヒーロー

 自室を出てすぐ、手を引かれ歩きながらアリーナを出る。ここまで来ても後ろから楯無が追ってくる気配も声もしない。
 もう知るものか。どれだけ引け目に想っていても忌み嫌おうと高見の存在だと突き放そうとしても心の底では慕っていたはずなのに、まさかこんな子供に手を出すような年下好きの変態だったなんて、信頼も紙屑の如く地に堕ちてまった。

「君、お姉ちゃんに何か、されたりしてない?」
「⋯⋯うん」
「じゃあ一先ずこれ着て」
「うん」

 結は簪に渡された服を着る。
 思えば部屋を出て今まで半裸のままで少年を歩かせていたことに気が付いた簪は大胆なことをした、と羞恥心で頬を染めるが、当人で被害者であるはずの結は素知らぬ顔でパーカーを着て制服に腕を通し、最後にフードを目深に被って背中を隠す。 

「それじゃあ、行こっか」
「行くって、何処へ?」

 簪は繋いだ手を優しく引きながら、生徒寮へと足を向ける。

「私の部屋。そこなら、少しは安心できる。と思う」



 ◇



 結が病室を抜けたという情報はすぐに千冬の耳に入った。

「私だ⋯⋯なんだと! ⋯⋯わかったすぐに向かう」

 話の最中にかかってきた電話に出た千冬は、受話器越しに伝えられた旨を飲み込んで真耶と二人に伝える。

「上代が突然病室を抜けたらしい。しかも既に全快していたそうだ」
「どういうことですか!?」
「わからん。とにかく上代のもとに行くぞ」

 訳もわからずに走り出した四人。千冬を先頭に第一アリーナの地下まで走った。
 初めて入るアリーナの地下という場所に右も左も分からない一夏と鈴だったが、先頭を駆ける千冬のお陰でなんとか迷うことなく結の部屋の前までたどり着き、その扉を蹴破る勢いで開くと、そこには本命の少年ではなく見知らぬ女子高生が魂の抜けた顔で座り込んでいるだけだった。

 織斑先生はその女子高生の頭を片手で掴んで持ち上げ、結がどこに行ったかを尋ねるが、客観的に見ると拷問のようでもあるのでもう少し手心を加えてやってもいい気がするが、それどころではないので口を閉じる。

「おい楯無。上代がどこに行ったか知らないか? 知っているなら吐け。知らないなら今すぐ失せろ」
「うふふ、かんざしちゃん⋯⋯わたしなにかだめだった? まってかんざしちゃん⋯⋯」
「だめだ、使い物にならん。仕方ない」

 そう呟いた織斑先生は掴んでいた手を放したかと思えば、がら空きの胴に、徐に拳を叩きこんだ。
 謎の女子生徒は「ぴゅっ!?」と奇妙な悲鳴を上げて悶絶し、意識を取り戻したのか涎を垂らしながら起き上がり、辺りを見回して手を振っていた織斑先生を見つける。
  
「織斑先生!? あれ、簪ちゃんは!?」
「目が覚めたか楯無。上代は見てないか?」
「それよりなんだかめちゃくちゃポンポンが痛いんですが」
「あぁ、殴ったからな」
「容赦ないですね!?」
 
 ぎゃあぎゃあ騒ぐその女子生徒から事情を聴き流しながら、結を連れて行ったと思われる生徒の情報を聞き出した織斑先生は、振り向いて部屋を出る。

「生徒寮に行くぞ、しらみつぶしだ!」
「「「はい!」」」



 ◇




 簪に連れられた結は、有無を言わさず簪の部屋まで連れてこられ、何も言わずに部屋の中に入る。
 ドアの音を聞きつけて、部屋の奥から誰かが顔を出してきたが、その人物は結を見て目を剥いて驚いた。

 いつも誰とも話さず、近づかず、接することなく一人で過ごしている幼馴染みが、接点など無いはずの自分のクラスの少年を連れて部屋に帰ってきたのだから。

「かんちゃんおかえり~⋯⋯て、ゆいゆい? なんでここにいるの~?」
「そういえば本音は知り合いなんだよね。ちょっとこの子よろしく」 

 黄色いネズミのようなキャラクターの着ぐるみを身に纏う、いつか顔を合わせたクラスメイトの姿をぼうと見上げる結は、着替えをするからと衝立をして着替え始める簪の後ろ姿を見送ってそのまま立ち尽くして動かなくなってしまう。

「久しぶりだねゆいゆい。とりあえず座りなよぉ~」
「う、ん。ありがとう、ございます⋯⋯」

 袖に埋もれた手で椅子を差し出しながら、本音は初めて会った時よりも距離が遠くなった? と思いながらも何も言わず、いつものようににこにこしながら買い溜めているおやつを引っ張り出してきて迷うことなく封を開ける。
 遠慮がちに椅子に浅く腰掛ける結。肩肘は少し張ったままで動かず、目線だけはずっとあちこちを視ているようで落ち着いていない。

 それに突っ込むほど本音も野暮ったいことはせず、何も言わないまま棒菓子を食べ始める。

「おたべ~」
「い、いい」
「いいからいいいから~」
「むぇ、いただきます⋯⋯」

 半ば強引に口元に押し当てられる棒菓子を咥え、餌付けをされるように硬い食感を思わせる咀嚼音を鳴らしながら少しずつ食べ進んでいく。

「おいしい?」
「しらない」
「むー。私のお気に入りなんだよーこれ?」
「しらない」

 味なんて分からないのに。
 今更そんなことを言おうが、無味の食べ物を食すことに慣れきった体はもう拒絶反応も嫌悪感も感じないので自然と喉を通っていく。  
 そうして数本の棒菓子を食べさせられたところで、着替え終ったらしい簪が衝立を戻して結の前に姿を見せる。

「お、おまたせ⋯⋯」
「あれ~なんでちょっとおめかししてるのかんちゃん~?」
「本音うるさい⋯⋯!」

 出てきた簪は、部屋着と言うには少し華々しさがある服を纏っていて、これから出かけても問題は無さそうなほどには整っている。
 顔を赤くしながら本音の背中を軽い拳で叩く簪は、しばしうろうろとその場で右往左往しながら、思い出したかのようにテレビとブルーレイレコーダーに電源を入れて、戸棚の中から取り出した何かのパッケージからBDを再生機に挿入して再生開始する。

「えっと⋯⋯」
「ゆいでいいよ」
「じゃあ、結。こっちきて」

 言われるがままに結は簪が座っているベッドのところまで歩きその隣に座るが、何を思ったか簪は結の後ろに回り込んで、あすなろ抱きの要領で結を自分のまたぐらに入れる様にして座りなおす。
 勿論ほぼ初対面の相手にそこまで距離を許す結ではなかったが、耳打ちされた内容に黙って従うしかなかった。

「(背中のそれ、本音には言ってないんでしょ? 私が隠すから、じっとしてて)」
「(⋯⋯ありがとう)」

 後ろで間の抜けた顔をしながら訝しむ本音だったが、あまり気にしない様にして食堂にいってくるという旨を伝えて部屋を後にする。

 残された二人は、そのままオープニングが始まったアニメの映像を視界に映す。

 内容は変身するヒーローが悪の組織と戦うという内容で、よくある設定だがその分約束された熱い展開と白熱する激闘が描かれた人気の作品である。しかし年齢層はほとんどが低年齢の模様。
 何気ない日常を謳歌していた主人公、だが裏では悪の秘密結社が良からぬ計画を企て、それを実行に移し始めたところで主人公が登場、変身して戦う勧善懲悪な作品。
 
 そんなアニメを見ながら、簪は結に話しかける。

「背中のそれ、いつ付けられたとか、本当に覚えてないの?」
「おぼえてない。けど、夢は見た」
「どんな夢?」
「怖い夢」
 

 真っ暗な部屋。辛くて足元しか見えなくて、どれだけ広いとか、何があるとかは全然分からない。角も見えない部屋の中、ボクは月の光が入ってくる窓際の壁にもたれかかって膝を抱えて座っていた。

「声が聞こえるんだ」

 壁を隔ててくぐもった声が絶え間なく聞こえる。
 バンバン壁を叩きながら、そいつはずっとぼくの方を見ながら話しかけてくるんだ。
 そっちは見てない。見ちゃいけない。ぼくの中で何かがそう言ってた。壁の向こうから覗いてくるそいつは、薄くて小さい窓の向こうから、ボクの事をずっとずっと見ていた。そして嗤っていた。

『お前、一人、なんだろ。遊ぼうよ。俺と遊ぼう。遊ぼ』

 ぼくは壁に背中を当てて座ってる。そいつの方は見ないようにしてるのに、そいつはずっとぼくのことを見つめながら壁を叩いて、遊ぼう、遊ぼ、て話しかけてくる。ずっとけたけた嗤いながらぼくに話しかけてくる。

 ずっと。ずっと。ずっと。

 聞こえないように、耳を塞いでうずくまってたらそいつはもっと壁を叩いてくる。強く、壊そうとしてくる。

『遊ぼうよ。ねぇ。一人なんだろ。なぁ。おい。遊べ』

 聞こえない。
 何も聞こえない。
 そうやって思い過ごしだって、思いながら、目が覚めるのを待ってたんだ。毎日、毎日。



 でもある日、その窓が割れた。



 そいつは開いた窓からどろどろの体を滑り込ませて入ってきた。気味が悪いほど長くて、細い腕が床を這って、べちゃ。て落ちる。

『入れた。入れた。お前。遊ぼう。なぁ』

 そいつは床を這いながら近づいてくる。生え揃った歯だけが見える口を開けて、そいつはぼくの顔を指先で撫でながら話しかける。

 食べられる。
 そうでなくても命が危険にさらされる。

 そう思っても体は動かない。

 ボクはそいつとの境界線がなくなって、そいつの中にずぶずぶと沈んでいった。

 気がついて目が覚めたらそいつはいなくなってた。
 オモチャだらけの知らない部屋の中でぼくは気が付いた。



 そして背中にはこれがあった。



「それからはその夢は見なくなったよ」
「⋯⋯そっか。そうなんだ」

 所謂予知夢のようなものなのか、それとも物心がつく前の記憶が映す記憶なのかは分からないが、どちらにしてもこの少年を苦しませたことに変わりはない。

 思いふけって押し黙る簪とは対照的に、何も考えずにアニメを見ていた結だったが画面をすい、と指差し、懐の中で身動ぎをしながら今度は簪に問いかける。

「悪いやつってどっち?」
「あっちの、なんかゴテゴテしてるほう」
「ふーん」

 それ以上は何も言わない。
 また口を閉じ切って画面に向き直る。

「ねぇメガネのお姉ちゃん。なんでこの人たちは戦ってるの?」
「名前教えてなかったっけ⋯⋯いやいや、えっと、悪いヤツらをやっつけるのがヒーローだから、かな」

 何故戦っているのか、そんなこと考えもしなかった。それ故何と答えたら良いのか分からない。「これまでがそうだったから、これからもそうなんだろう」そういう認識で、いままでずっとこの作品や他のタイトルを視聴してきたが、戦う理由を深く考えたことは無かった。

「どうして戦わなきゃいけないの?」
「それは、なんでだろう……」

 勧善懲悪ものの作品が好きな簪にとって、その質問に対する答えは持ち合わせていなかった。 

「倒さないと、また誰かが傷付くから、かな」

 考えて考えて、やっと絞り出した答えに、結は興味があるのか無いのかわからない態度で聞きながら簪を見上げる。

「そっか。それなら、ぼくと一緒かな」

 自嘲するようにへらへらした笑みを浮かべながら、結は画面を見つめる。
 画面の向こうでは丁度悪党がヒーローの必殺技を喰らい、爆発四散して終わった瞬間であった。

「ぼくはお姉ちゃんを傷つけた。みんなを悲しませた。ぼくもあのカイブツと一緒、あのヒーローに倒される」

 脳裏に蘇る数日前の記憶。

 あの侵入者に殺されそうになって途切れ、気が付けば一夏と対峙しており、自分に刃を向けて困惑していた一夏の顔を思い出す。「どうして」なんて言ってそうだったあの顔に、なんて答えたら良いのか今でも分からない。
 そして先日、鈴に怒鳴られたこと。何故笑っていられるんだと怒られた。彼女自身の保身も見えた、自分への心配や恐怖も綯交ぜになった感情をぶつけられた。

「この前は一夏お兄ちゃんに倒された。だからきっと、今度は、今度こそ⋯⋯むぐっ」

 結の言いかけた言葉を、簪は咄嗟に手を差し伸べて口を塞ぎ、遮った。
 更に簪は触らせるまたぐらを寄せて太股を擦り合わせ、片手で結を自分の胸の中に引き寄せ、背と腹を密着させる。ついでに結の背中にあるISの背骨が胸骨を強めに撫でるが、そんなことを気にすることもなく、彼の頭上に顎を乗せ、後ろから完全に密着した態勢になる。

「⋯⋯君を悪者になんて、させない。織斑一夏が君の敵なら、私が君を守る。絶対に⋯⋯」

 少しだけ歪んだ感情からくる意志からそう宣言する簪。相まって結を抱く体に力が籠められる。力んだことで更に簪の胸に背骨が突き刺さるが、その痛みすら簪は受け止めようとしていた。
 あの男が、私から専用機を奪ったあの男がこの子の敵なら、私と同じ敵。

「ん、くるしい⋯⋯」
「あ⋯⋯ごめん」

 流石に絞めすぎたか、と反省しながら力んでいた身体を脱力させて結を強めのあすなろ抱きもとい羽交い絞めから解いてやる。
 やっと解放された結は息苦しさを解消しようと深呼吸をし、ベッドから立ち上がって部屋の出口へ向かう。

「気にしてくれて、ありがと、う」

 ドアノブに手を掛けたところで結は立ち止まり、顔だけ此方に向けて、光のない瞳で微笑みながら戸を開く。

「じゃあね。お姉ちゃん」
「あ、うん⋯⋯」

 少年が離れた懐はすぐに熱を失い、うすら寒く感じるほど冷えてしまった。
 簪は立ち上がって結の手を引こうとしたが、勝手に足が止まってしまう。

 それでも。

「結!」

 簪は咄嗟に結の手を取って引き寄せる。

「また、また一緒にアニメ観よ? いいよね?」

 どうしてそんなことを言ってしまったの⋯⋯?
 自分で言ってて恥ずかしいやら情けないやら、もう少しいい言葉とか投げかけてやる言葉があったはずだろうと後悔の渦に飲まれそうになっていると、結は笑って了承してくれた。

「いいよ。また見ようね。簪お姉ちゃん」
「ー、うんっ」

 強く握手をして結は簪と別れ、部屋を出たところで結を探し回っていた四人と遭遇した。
 あちこちを聞きまわり探し回り、虚ろになっている目で結を見つけた途端に一瞬固まり、目の前の情報を再認識してようやく動いた全員はあっと声を上げて駆け寄る。

「あ」
「上代! 無事か!」

 やたら焦っていたのか、皆汗だくになり肩で息をしている有様だった。
 そんな状態の織斑先生に肩を掴まれて揺さ振られる結は何が何だかわからないまま、されるがままに振られて目を回す。

  
 ⋯⋯⋯
 ⋯⋯
 ⋯


 部屋に居た変質者こと楯無は無事にお縄を掛けられ連行され、平穏が確立された旨を聞かされた結は心の中で胸を撫で下ろして安心していた。
 結が見つかったことで安堵した一夏と鈴は結と話をしたかったが、消灯時間が近づいていて話す間もなく今日はお開きとなり、煮え切らないまま部屋に戻っていく。

 去り際、また教室で会おう、と声を張っていた一夏に手を振って返し、真耶に手を引かれながら結は自室への帰路に就く。

「結ちゃん怖くありませんでしたか?」
「簪お姉ちゃんがいてくれたから、大丈夫だった」

 一時はどうなることかと肝を冷やした真耶だったが、なんとか結が無事でいてくれたので簪と言う少女に感謝の念を送る。
 
 程無くしてアリーナ地下の結の部屋まで辿り着く頃には夜も浸かって辺りは暗くなっていた。
 最初は指を引っ掻ける程度だった結の繋ぐ手は、きゅっと握るぐらいに力んで離れない。

「はい、着きましたよ結ちゃん」
「……うん」

 結の手が真耶の指先からすり抜けて離れる。
 それを心の片隅で寂しく思いながらも、彼が無事でいてくれたことに感謝しながら笑顔で来た道に振り向く。

 しかし、戻ろうとした真耶の袖を、控えめに、けれど確かに掴む。





「《《先生》》」





 その呼び方に、真耶の意識が凍った。

 
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