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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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四十六 拘束

「いい加減、鬼ごっこは終わりにしようか」



小さな湖と化したその場。
それでも『暁』との戦闘の爪痕が色濃く残る水上で、鬼人の背後を取る。

五代目火影の命令により、アスマ班を追った矢先で再会した予想外の人物。
彼の異名を言葉の端々に含ませながら、はたけカカシは懐かしげに眼を細めた。


「鬼が逃げ隠れするなんて、おかしな話でしょ」
「新鮮でいいじゃねぇか。鬼だって隠れたくなることだってあらぁ」


首元にクナイを突き付けられていても、平然と受け答えする。その余裕ある表情に、カカシは眉を顰めた。


中忍本試験前に自来也と対峙し、更に木ノ葉崩し以降にも鬼鮫との戦闘を繰り広げたとされる男を訝しげに見る。
どちらも事後報告でしかなかったが、カカシ本人にとっては波の国以来である相手は、首元の刃物を無いかのように首を巡らせた。



「それともなにか?てめぇが鬼にでもなってみるか?写輪眼のカカシ」
「お前の二つ名は俺には血生臭すぎるよ、霧隠れの鬼人」
「へっ!よく言うぜ」


お互いに血生臭い世界にどっぷり足を浸かっている双方は軽口を叩き合う。
話している雰囲気はまるで世間話をしているかのようだが、如何せん、充満する緊張感がその和やかな空気を打ち消していた。


やがて、一層鋭い凄みを放ちながら、カカシは重々しく口を開く。
突き付けるクナイを握る手に、より力が入った。



「一緒に来てもらおう、桃地再不斬。お前の身柄を拘束させてもらう」





カカシの鋭い発言に、再不斬は「やれやれ」と肩を軽く竦めてみせる。


「暁の代わりに俺を手土産にするか…木ノ葉は随分と節操がないようで」
「無駄口を叩くなよ、再不斬。いつからそんなにお喋りな鬼になったんだ?」


クナイによって首から血が一筋流れる。
しかしながらそれすらどうでもよさそうに、再不斬は肩越しに「おいおい」と振り返って笑った。
首から血を流しつつ、親指でくいっと指し示す。


「俺がいなければ今頃、こいつら全員、そこのアスマとかいう奴のお仲間になっていたのを忘れるんじゃねぇぜ」
「…………わかってるさ」


再不斬が示した先。
そこではアスマの遺体に寄り添うシカマルと、コテツ・イズモの姿がある。

辞世の句も読めず、最期の別れの挨拶すら言えず。
『暁』の手にかかり、あっさり亡くなってしまった友を直視できず、カカシは眼を逸らす。


「…その件は綱手様に伝えるよ」


あえて再不斬を見ることでアスマの死から顔を逸らしたカカシは、淡々と言葉を続けた。


「彼らを助けてくれたことは礼を言う。だがお前には色々聞きたいことが山ほどあるんだ、再不斬」
「そうかい」


ふ、と口許に笑みを湛えて眼を閉ざす。
双眸を閉ざしたまま、再不斬は手を挙げた。


「まぁいいぜ。てめぇとは久しぶりだしな、カカシ」




降参のポーズを取る。
しかしその顔には笑みが浮かんでいた。苦笑と言ってもいい。


その眼に宿る本心を押し隠して、霧隠れの鬼人は嗤った。





























「『暁』が火ノ国に潜入した」


深く深く、地下の淀んだ世界。
木ノ葉の暗部養成部門【根】の創設者であり、『忍の闇』の代名詞的存在である男の声に従い、数多の忍び達が頭を垂らす。
重苦しい空気が漂う中、一際、重圧のある声が響いた。



「既に五代目火影が手を打っている…が、奴らでは生ぬるい」

志村ダンゾウの言葉を耳にして、幾人かの『根』の忍びの伏せた顔に戸惑いの色が僅かに生まれる。


「せっかく向こうからお出でなすったのだ。捕らえて『暁』の情報を聞き出すのが木ノ葉の里の為にもなる」

足どころか全身をどっぷり血生臭い世界に浸けていようと、里を想う気持ちは三代目火影と同じ。
里の為に、と動いていた猿飛ヒルゼンと、やり方は違えど、里を守っているダンゾウは、己の手駒達に命令を下す。

五代目火影とは別に、暁を追うように命令したダンゾウに従い、忍び達が地を蹴った。






地下から抜け、地上へと向かう。
影に紛れ、火ノ国に潜入した侵入者を五代目火影の配下の忍びとは別ルートで捜す。

その内のひとりはしかし、暁よりも目の前の見慣れぬくノ一に目を留めた。
同じ『根』に所属する者だとはわかるものの、最近入ってきたばかりの新参者を引き留める。


「君が、先日連れ返されてきた抜け忍か」
「……あなた、誰よ」

桜色の髪。三つ編みにした長い髪を翻して、振り返る。
率直すぎる物言いに、不機嫌そうに睨む彼女に怯まず、サイはにこにこと薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けた。

「ボクはサイ。以前、サスケくんには世話になってね」



五代目火影就任を巡り、ダンゾウと綱手が争っていた当時。
サイはダンゾウの命令でサスケに付きまとっていた。狙いは、サスケが持つ署名状。
同期のほとんどが名門の嫡子故に、彼らの親である名族から署名を募っていたサスケから、署名状を奪うようにとサイは命令されたのだ。
もっともダンゾウの目論見は失敗。五代目火影は綱手に決定した。


だが、あの時、サスケと接触するにあたって彼と仲良くしようとサイは努めてきた。
その頃を思い出して、サイは眼を細める。
視線の先には、サスケを慕い、里抜けまで仕出かしたくノ一だ。

サスケという名前に食いつかないはずがない、とサイは確信していた。



「ボクの兄が現在、サスケくんと行動を共にしている」
「あなたの…お兄さん?」
「シン、と言えばわかるかな?」


大蛇丸の許で同じく仕えていた相手の名前を耳にして、サクラは軽く目を見開く。
胡乱な目つきでサイを睨みながらも、彼女は──春野サクラは無言で話の続きを促した。
話を聞く体勢になったのを見て取って、サイは声を潜める。


「ボクの役割はダンゾウ様の情報を兄に流すことだ。君も協力してくれないか?」
「…ダンゾウを裏切る気?主なんでしょ?」
「サスケくんの一族が滅んだ理由が、ダンゾウ様にあると言ってもかい?」


一層声を潜めて告げられたサイの言葉に、サクラは今度こそ動揺した。
視線を彷徨わせ、それでも小声で反論する。


「……うちは一族を滅亡させたのは、うちはイタチでしょ…」
「そのイタチに命令した相手がいるとしたら?」
「まさか、」

うちは一族の仇。
それがダンゾウだというのなら…。





世間一般では、サスケの兄であるイタチがうちは一族を滅ぼしたとされている。
その事実がまったくの嘘だったのならば、サスケがもっとも憎むべき相手は実の兄ではない。
そしてその真実を知ったサスケがどう行動するのか容易に想像はつく。

サスケを追い駆けて抜け忍となり、大蛇丸の下についた。
そしてアジトに潜入してきた木ノ葉の忍び─ナル・いの・シカマル・ヤマトによって、再び木ノ葉の里へ連れ戻され、そして今に至るサクラは、今も昔もある人物の為だけに動いている。


本心からの笑顔とは思えないサイを、サクラは胡散臭げに見やる。
しかし、大蛇丸の下に共に仕えていたシンを知っている限り、サイの言い分は信憑性があった。


ダンゾウ打倒の計画を企てるサイとシン。その詳しい話を聞こうと、サクラは身を乗り出す。
想い人の為に長く伸ばした桜色の髪がさらりと揺れた。



「それが…サスケくんの為になるのなら」












































チカチカ、と眩い光を瞼に感じる。
意識が浮上するなり、腹部に鈍痛が奔った。

苦悶の表情を浮かべたかったが、傍らで聞こえてくる会話に身体を強張らせる。
未だに意識を失っているふりをしながら、周囲と現状を把握する為、彼は耳を注意深く澄ませた。



「すまないな…兎を一羽、死なせてしまった」
「いえ、元々囮用でしたし」

兎、とは何かの隠語か?と顔を伏せながら、考える。
兎というのが正真正銘の動物の兎を指しているとは、内心狼狽する彼に気づけるはずもない。
ましてや、かつて波の国で桃地再不斬と対峙したカカシが使われた手だとも。



そもそも此処はどこだ、と彼は思考を巡らせる。
『暁』の不死身の男と交戦中に、突如乱入してきた存在に腹部を蹴られてからの記憶が定かではない。
未だ朦朧とする頭を地面に伏せ、双眸を閉ざしながら周囲を窺う。


「それに近々、兎鍋にしようと思っていたので」
「そ、そうか」


若干引き攣った声音で受け答えしていた相手が振り返る。
起きている素振りを微塵も見せなかったにもかかわらず、得体の知れないフードの誰かはハッキリと確信めいた声で告げた。


「起きたか」




視線を感じる。意識が戻っていると悟っている相手の不意を突こうと、伏せていた身体をガバリと勢いよく起こす。
戦闘態勢を取ろうとするが、そこで初めて相手の容姿と周囲の光景を目の当たりにした彼は、あんぐりと口を開いた。

視線の先には、先ほど飛段との戦闘中に割って入ってきた件の人物。
フードを目深に被った人間の周囲には、チカチカと眩い光が瞬いている。




それは鏡だった。
自分の姿が映っている鏡が幾重にも連なる鏡の世界。





あまりに多くの鏡が光を反射し、虹色に輝く。
その中心で、鏡でつくらせた椅子のようなモノに腰掛けていたフードの男が、此方へ顔だけを向けていた。


そのフードの人物に従うように控えている少年に、見覚えがある。
かつて木ノ葉にうちはイタチ・干柿鬼鮫が侵入してきた際、鬼鮫と戦う再不斬の邪魔はさせまいと四方を鏡で閉じ込めた、一見美少女と見間違うかのような儚い少年だ。


今は青年となっているが、波の国でカカシが対峙したという白という忍び。





「…此処は何処だ…俺をどうするつもりだ…?」


至極当然の疑問を投げると、その美しい青年の傍ら、片膝をあげ、軽く椅子に腰かけているフードの人物が値踏みするかのような視線を向けてきた。
フードの陰から垣間見える双眸に、思わずひゅっと息を呑む。

「そうだな…」



白がつくった鏡の世界で、顎に人差し指を添える男の横顔が幾重にも鏡に映り込む。
目深に被るフードの陰から蒼の瞳を鋭く覗かせて、ナルトは攫ってきた相手を見遣った。



「暫く、貴方の身柄を拘束させてもらうよ」



飛段との交戦中、腹部を蹴りつけ、濃霧の中へ入ったタイミングで白の鏡に吸い込ませる。

囚われの身となった猿飛アスマへ、何の悪びれもなく。
決定事項とばかりに、「それに、」とナルトは言い放った。






「三代目火影が目覚めた時、息子の貴方がいないと悲しむだろう?」
 
 

 
後書き


短くて申し訳ございません…!キリがよかったので…


疾風伝まで生きてるのだから、少年とは言えないですね、白も…(汗)
白のオリジナル忍術がありますので、ご注意ください!

 
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