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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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アカデミー入学・2



 サスケとこんな風にのんびりと歩いた事はなかったなぁ、と思ったりしながら教室の中へと入ってみる。
 席は自由なイメージがあるから、適当な場所というより一番後ろの席を陣取ってみた。視力は十分にいいし、多分授業はそんなに真面目に聞かないんじゃないかなぁ、という気がしなくもない。
 そしたら、何故かサスケも私の隣に座るという珍しい事が…。何ていうかこの俺の傍に近寄るんじゃねぇよ的な、柄の悪い空気を醸し出して座っている六歳児というのが何とも言えないというか。
 けれど女の子がチラチラとサスケを横目で確認しながら、こそこそと内緒話しをしている所を見ると、やっぱりサスケはかっこいい!という原作でモテモテな所はここでも同じらしい。まぁ、顔は美形に育ちそうだけどね。
 性格はツンデレだけどね。


「何だよ?」

 あまりにもジロジロとサスケの顔を観察してたからか、流石にサスケから怪訝そうな表情と声が返ってきた。

「別に。サスケは目立つな、と思ってさ」

 だからなるべくなら近づかないでほしいんだけどなぁ、なんてただ目立ちたくないからという理由だけでそんな言葉を口に出来るわけもなく。私はというと頬杖をつきながら、しみじみとサスケは人目を引くという事だけを伝えてみる。

「……人の事が言えんのかよ」
 そしたら、サスケが半眼のまま呆れたようにため息交じりに言葉を吐き出した。まぁ…カカシが目立ったしね。そんなカカシと一緒にいた私が目立つのも必然で。
「すぐに忘れる程度だ」
 接点のないカカシの存在なんて、一週間も経たない間に忘れると思うし。その後はのんびりとアカデミー生活を楽しんでみようかな、と。
 そんな意味を込めてサスケに言ってみれば、返ってきたのは溜息だった。
 何ていうか……最近、サスケもこういった溜息が増えてきて、子供らしくない場面が多々増えてきたんだけどなんでだろう。
 肩を竦めてハッと鼻先で笑ったり、呆れた表情を浮かべながら深い溜息を吐き出す小学一年生って結構微妙じゃないかな。慣れれば、それはそれで可愛いんだけど。
 ……サスケの満面の可愛らしい笑みって見てみたいかも。
 無邪気な笑顔も可愛いと思うんだけどなぁ。


「兄貴の言った通りだな」

 サスケに怒られそうな事を無表情を装いながら考えていたんだけど、突然イタチの名前が出てちょっと驚いたというかね。

「イタチさんの言った通り?」

 上擦りそうになる声のトーンを落としながら、引き攣った口元を隠す為にわざとらしく首を傾げてみる。
 サスケの表情の事からうちは兄弟の無邪気な笑みはどうだろうかと、そんな事を考えていた所でタイミングよくイタチの名前が出たから驚いたというか……一瞬、イタチに頭の中ではアレコレまったく別の事を考えてるって見抜かれたのかと思っちゃったよ。
 動かない表情筋にこの時ばかりは感謝しながら、サスケの反応を伺ってみる。
 
「……別に、ランセイは変わり者だって兄貴と話してただけだ」

「………」

 待ってみたらそんな言葉が返ってきて、ちょっとへこみかけた私の耳に届いたのは笑いを声。

「……?」
 子供特有の高い声。でも男の子の声だってわかる程度の音。この柄の悪い空気を醸し出しているサスケの近くに座るなんて、何て度胸のある子供だろうかと声の主を探してみたら、思いの外近くに居た。
 というか、一段下がった所の私の目の前に座っている黒髪のツンツン頭。ツンツン頭といっても、上の方で然程長くもない髪をギュッと一まとめに縛っているからツンツン頭に見えるだけ。
 はっきり言ってこの後姿だけで誰、なんて事は十分過ぎる程分かる。

「メンドクセェ奴かと思ったら、なんか馬鹿っぽい話ししてんだな」

 声は幼いけど、この三白眼といいメンドクセェという台詞といい、目の前に座っているのはシカマルだろう。
 原作キャラとの絡みが多い事に頭を抱えたくなりながら、私はとりあえず不思議そうにシカマルを見つめてみた。
 馬鹿っぽい会話というか、サスケにまで変わり者だって言われてちょっとへこんでただけなんだけどね。先日、ナルトに言われたばっかだし。
 そんな私の視線を真っ向から返すシカマルは、意思の強そうな光を眼差しに宿しながら、私を観察するように視線を軽く流していく。
 多分、私が普通の子供だったら気づかなかった程度の観察。この辺りは流石IQ200。ソツなくこなすって感じかな。

「………」
 とりあえず視線を先に逸らすのもどうなんだろうという事で、じぃっとそのままシカマルを見てたらサスケに脇を小突かれた。
「サスケ?」
 握り拳で軽く押された程度だからまだマシだけど、グリングリンとされたらくすぐったいからね?
「…ランセイ」
 これ以上は止めてねと、ほんの少しだけ眼を細めてサスケを見たら、やっぱり溜息混じりに名前を呼ばれた。
 多いね。溜息混じらせるの。
「どうした?」
 まったく子供らしくないんだからと聞いてみたら、何故かシカマルの溜息まで聞こえ出した。溜息の二重放送をされる覚えはまったくないんだけど…。

「お前が変な奴だと俺は知ってるが、他の奴はまだ知らないんだからそこまで見るなよ」
「見ないで話しをするのはどうかと思うが?」
「会話無しだっただろうが」
 呆れたように言い切られる。
 なんていうかバッサリと切られた感じがしなくもないんだけど、その後サスケは何故かシカマルとアイコンタクト。
 人見知り激しそうに見えたんだけど、私に対して激しかった理由はただのヤキモチだったのかな?
 イタチをとられるとか。そんな事しないのに、とあの時のサスケのツンツンの態度を思い出して思わず溜息が漏れてしまう。


「「……」」

「自己紹介でもするか」

 無言のサスケとシカマルに、気を取り直して自己紹介の提案。
 やっぱり無言のままだったけど、気にしていたら話しが進まなさそうだから私からする事に決めてさっさと口を開く。

「俺は夜月ランセイ。趣味は色々。大体工房に篭ってるか修行のどっちかだ」

 母さんと縁側でお茶を飲むという寛ぎな癒しもあるけどね。
 あっさりと終わった自己紹介だけど、気にせずにサスケに視線だけで促す。

「……うちはサスケだ。ランセイとは少し前に知り合った。趣味も言うのか? …言うんだな。俺の趣味も修行か。ランセイを叩きのめすのが目標か。お前は?」

「……奈良シカマル。趣味っつーか、昼寝は好きだな」

 軽く流しそうになったけど、何気にサスケが物騒な言葉を口にしたよね。
 シカマルの趣味は予想通りだったけど、サスケの私を叩きのめすのが目標ってどれだけ悔しかったんだろう。同じ年の私に負けた事がものすっごくプライドを傷つけたんだろうけど。


「「「………」」」

 自己紹介が終わると同時に重なる沈黙。
 うんうん。三人とも口が達者なわけじゃないもんね。 この後は何を話そうかなんて、露骨にどうしようか迷う二人も珍しいし助け舟は出したいんだけど、やっぱり私も口下手だし寡黙設定を崩したくはないし。
 まぁ、沈黙でも仕方ないよね。まだ会ったばかりだし。そんな事を考えながら成り行きを見守ろうとしてたら、シカマルがそういえば…と私を見上げてきた。

「…っつーか、夜月を叩きのめすのが目標って……強いのか?」
「ランセイでいい」
 苗字で呼ばれる事に慣れてないから、こっそりと訂正。
「……強そうに見えねぇけど」
 分かったとばかりに頷きながら続けるシカマル。
「コイツは……変わり者で細くて筋肉がなくておかしくて変な奴だけど、確かに強い……が、次は俺が叩きのめす」
 それに答えるのはサスケ。
 殆ど悪口に聞こえたんだけど、私の気のせいかなぁ…。
「まぁ、変な奴っていうのは同感だけどな」
「あぁ。それを分からなきゃランセイと会話をするのは無理だろ」
 というか、新種の苛めだろうか。
 サスケはサスケで変わり者とかおかしいとか変な奴とか言うし、シカマルも初対面なのに同感なんて言ってるし。
 単に寡黙設定なだけなんだけどね。
 へこんでる私なんてどうでもいいのか、子供らしくない二人はそのまま話しを進めていく。私の名前もチラホラと聞こえる所をみると、まったく無関係ではないらしいんだけど、何となく入りにくくてそのまま廊下の方に視線を移した。

 ぼけぇ、としながら外を見ていれば、元気な子供たちが駆け回ってる。忍術を学ぶ為の学校って言ってもやっぱり、まだ血生臭い事には縁がないんだろうなぁ。と、今後の展開を知っている私は束の間の和やかな空気を楽しむように、瞳を細めてホッと息を吐き出した。
 気分はすっかりと和やかだ。これから忍になる為の学校が始まるって言うのに。

「(ほぅ。のんびりさん。こういう日はスケッチに行ったり、ナルトをひっ捕まえてピクニックに行ったりすれば楽しいだろうなぁ)」

 とは言っても無理なんだけどね。
 でもスケッチぐらいは出来るかな。
 こそこそとスケッチ用のノートを取り出す私を見て、サスケがやっぱりと言わんばかりにジィッと見つめてきた。その目、結構柄悪いと思うけど?
 しかし、容姿の良い人は結局、どんな表情をしてもやっぱかっこいいんだよねー。
 うんうん。サスケはそれでかなり得してるかもしれない。というか、これからもっと得をしそうな気がするよね。

 
 
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