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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年と痴女

 
前書き
なんか連投してしまってましたごめんなさい。

 

 
 結が病室を抜け出したその日、一夏と鈴はあの事件で起きた《《結の》》暴走の詳細を知るべく、結のことをよく知っているであろう山田先生、ないし一夏の姉であり、一組の担任の織斑先生を訪ねようと職員室に向かっていた。
 鈴の足取りは空元気を振り絞っているようでもあり、一夏は危ぶんで何度も止めようと手を持ち上げはするものの、先日の仲違いからまともに声を掛けられずにぎくしゃくして話しかけられずにいた。

「ねぇ一夏」
「なんだよ、鈴」

 いかり肩で廊下を歩く鈴は、振り向くことなく一夏に問いかける。

「あの子、結はさ、なんであんなことがあって笑ってられたの⋯⋯?」
「⋯⋯わからない」

 十数日ぶりに再会し、話した時の少年は怯えることも、取り乱したりも泣き出すことも一切せず、ただ一言「ごめんなさい」と言い、慣れた作り笑いでこちらを見ていた。それがこの一連の騒動で何よりも恐ろしく、忌むべきことだというのを肌で感じた。更に言えば、あの少年がどんな悲惨な思いを経験してきたのかが垣間見えた瞬間でもあった。

「とにかく、先生たちに会って話をきかないと分からない」
「うん。そうよね」

 鈴は振り向かない。
 その声は震えていた。





 職員室の扉を叩いて目的の先生を探す。山田先生をすぐに見つけて呼び掛ける。振り向いた彼女の顔は数日分の疲労に濡れていた。目の下の隈、艶の落ちた髪、卓上に並ぶ栄養剤。どれも健康とは呼べない状態だった。

「山田先生。少しお時間いただいてもよろしいですか?」
「へ、私ですか? 構いませんけど」

 少し間の抜けた返事をしながら震える体を振り向かせる真耶。一夏と鈴は端的に旨を伝えて話を聞き出そうとする。

「この前の、結が暴走したときの事なんです」
「……少し場所を変えましょうか」
  
 結のこと、と口にした瞬間、真耶は目の色を変えて立ち上がり、二人を人気の少ない場所まで案内した。教室を出る時、千冬が此方を見ていたのを一夏は感付いていたが、何も言わない姉はまた書類に目を落としていた。


 人気のない放課後の廊下。自販機の置かれた休憩スペースまで来た真耶と二人。真耶は二人に缶ジュースを渡して自分も買った缶コーヒーの封を開け、息を吐いて話し始める。

「さて、何から話したらいいですか?」

 疲れた顔はさっきと変わらないが、真剣な眼差しは少し枯れている。目線は此方を見てはいるものの、時折あらぬ方へ向いては直りを繰り返している。

「結の、アイツのISについて詳しく聞きに来ました」
「あの子のISも、あの子自身にも何かあるんじゃないんですか?」

 一夏も鈴も半ば食い気味に質問するのも無理がない。
 あの事件の当事者であり、被害を被った二人だったが、何より気にかけているのが結だった。
 
「クラス代表を決めるときもおかしかった。けど今回はもっと明確だったんです。」

 いつも大人しい彼が、あの状態に陥ったときだけは荒々しく、全てを拒絶するような憎悪を感じた。
 自身の損傷も省みず、目の前に動くものだけをただ破壊しようとするあの存在は、何も知らない彼らでも危険だと分かる程だった。

「そうですね。まずあの子とあの子のISがどんなものか、話さないと⋯⋯」
「それは私から教えてやろう」

 真耶の言葉を遮って、誰かが話の中に割って入ってきた。

「織斑先生!?」
「千冬姉!」
「千冬さん!」

 話に入ってくるや否や一夏と鈴の頭上に拳が落ちた。

「学校では織斑先生と呼べ。いい加減覚えろ貴様ら」
「「はい……」」

 千冬は一つ咳払いをして話に戻る。









「まず、お前たちの知っている上代のISはどんな姿をしている?」
「そんなのあのデカイ盾を持ってるやつだろ?」
「そうか。では待機形態は?」

 千冬の問いかけに一夏は何故そんなことを? と訝しみながらも答える。
 一夏の答えに千冬は唇を閉めて首を振る。

「あの盾のペンダントじゃないのか?」
「そう思うだろう。だが上代のISはそれではなく、項に埋まっている有機デバイスだ。そして恐らくだが、通常時のあのISの本来の姿ではない」

 項と聞いて一夏は、結が何故常にパーカーを着ているのか、そして初めて会話した時、フードに触れようとして逃げられたことに合点がいった。それと同時に、千冬の言い方に引っ掛かるものを感じた一夏は話を遮って質問をせずにはいられなかった。

「待ってくれ千冬姉。今なんて言った? 項に? 有機デバイス?」
「それじゃあまるで、ISを直接身体に入れてるような言い方⋯⋯」

 血の気が引き、顔を青くさせる二人だが、それでも足腰を力ませて踏ん張る。


「あぁそうだ。奴のISは奴自身の身体に直接埋め込まれ、脳から伸びる神経系に直に接続されている。もしISを取り出せば最悪⋯⋯上代は死ぬ」


 絶句。
 この学園で、下手をすればISを扱える人間の中で最年少と言っても良いあの少年が扱っているISは、体内に直接埋め込まれ、しかも外せば大なり小なり被害が出てしまうと言う。少し考えるだけでも恐ろしく、あの少年がどれだけの所業を強いられて存在しているのかが垣間見える。

 しかし、それがあの暴走と何の関係が。

「あれと戦ったお前たちなら分かるだろう。私もあの状態になった上代と対峙したことがあるが、あれは守り優先の上代とは打って変わって、捨て身の攻めしかしない」
「確かに、あの状態になったら盾も捨てて突撃してきた」

 二回も戦闘し、同じクラスで過ごしてきた一夏だからこそ、結の性格と戦闘スタイルを知っているつもりだった。
「でも、どうして戦闘スタイルにそんなにも差が出るんですか?」
「それはな……」

 千冬は目を伏せ、間を開けて続ける。
 そして一つの仮説を提唱した。

「あの暴走は上代自ら暴れていたのではなく、奴のISがひとりでに暴れていたのではないかと考えている」
「そんなこと」
「あるはずがない。とは言い切れないんだ」

 操縦者とISのリンクが定まらずに、IS使用中に事故が発生するというのはこのご時世だ。世界中で起こっていて今時珍しくもない。
 それでも人間がISに乗り込んでISを動かす、という行程はどれも等しく同じで、その前後が入れ替わる事例は今までに一件も出てきていない。

 もしそうだとしたのなら、ISの持っている人工知能がただの学習のみならず人を取り込んでパーツの一つとして数えられ、いつ死んでもおかしくない。

「そんなこと、許されるはずがない!」
「そうよ、なんであの子が!」

 一体何処の誰があの少年にそんなことを施したのか。
 一夏は千冬の片を掴んで揺さぶり口を開く。

「教えてくれ千冬姉、結は何処で誰にそんなことをされたんだ!」
「落ち着け一夏。焦る気持ちは痛いほど分かる。だが、まだその情報が掴めていない。探していくしかできないんだ」 
「っ⋯⋯!」

 激昂する一夏の手を押さえながら千冬は苦い表情で呟くように、一夏の言葉に返す。
 本当につらいのは当人だ。自分達はその一部だって分かってやれない。そう言いたげな表情に一夏は何も言えなくなる。

「結ちゃんがこの世に生まれた痕跡はなく、誰もあの子を知りません。もしあの子の存在を知れば、あの子を欲しがる人間はごまんといるでしょう。更にこの世界に結ちゃんが安心して居られる場所は無い。この学園ですら先日の襲撃事件で安全と言えなくなってしまった。誰かが守ってあげるしか出来ないんです」

 真耶の語る無慈悲な事実に、自分の無力さに立ち尽くすことしか出来ないことが何よりも悔しかった。固く握った拳は血が滲みそうなほど赤く滾り、噛み締める歯は食いしばって痛みが喉奥を焦がす。

 憎い。
 結を作った人間が、結を苦しめる存在が、無力な自分自身が。

 自分が手に入れた力はこれほどにもちっぽけで、また、誰かが苦しむ力でもあることを認めざるを得なかった。

「なぁ、千冬姉。どうすればあいつを、結を救えるんだ⋯⋯?」
「わからない。だが、間違わない様に導いてやることは出来るはずだ。そうだろう? 一夏」

 姉の優しい手が肩に触れる。見上げれば、滅多に見せない微笑みを浮かべた姉の姿が見え、その信頼に応えようと心の中にあったわだかまりを一度忘れ、前を向く。

「重たいな、あの時の刀みたいだ⋯⋯」
「命を預かるとはそういうことだからな。当然だ」

 剣道を習い始めたころ、姉に持たされた真剣の重みを思い出す。
 人を殺すための道具はそれだけの重みがあり、物理的な重さとは別に、もっと大きな重みが腕から全身に絡みついてきた。
 今一度、その気持ちを思い出し、拳を握りなおす。

「あぁ、俺やるよ。千冬姉!」
「よく言った、それでこそ私の弟だ」

 千冬は一夏の頭を撫でる。
 一夏の瞳に宿る熱い思いを、千冬も感じていた。

「私も、あの子を守りたい」
「そう言ってくれるとありがたい、鈴」

 もう負けない。自分に、そしてあの少年に対して誓う鈴もまた決意を固める。





 同時刻、自室に戻った結は診察服を脱ぎ、小さく華奢な肢体を蛍光灯の下に晒す。
 手を見つめ、手首、前腕、腹、胸、脚を見る。

 背丈は小さい。痩せ気味。ヒトと同じ、少しばかり血色の悪い青みが残る色白な肌はまさしく人間と同じそれだ。

 目を瞑り、背中のISに触れる。

 硬く、関節部分の駆動音が指の骨を伝って聞こえてくる。ひと肌に温もっており、機械部品は精密機器を内に秘め、頑丈な外装で覆われている。体表面の癒着部分にはとうの昔に塞がっている傷跡が幾つも刻まれている。

 意識を体表から体内に移す。背骨に変わって身体を支えるISはこの身体を構成するパーツとして認識され、既に無くてはならないモノになっている。違和感は物心がつく前から存在せず、どれだけ嫌悪感を示そうと拒絶反応も出さない自分の身体に嫌気がさす。

 時々聞こえるISの声はノイズのような雑音なはずなのに、頭の中には鮮明に響き渡る。
 いつも大人しくしていたアイツは、ISとの戦闘のときだけは活発になり、自分の身体を使おうと暴れ出す。

 そのせいで大切な人たちに迷惑をかけた。

「ぼくなんて⋯⋯」

 表情を歪ませて拳を握る。
 いくら死のうとしてもアイツは自分を死なせてはくれない。必ず何らかの方法で助けられてしまう。
 刃を突き立てても、銃で頭を撃っても、高所から飛び降りても、首を吊ろうと、意志に反して体はISによって動き出し、絶対に死なないように行動する。

 その時だけは首に掛けられた(ガーディアン)も反応せず、ISに加担して自分を救おうとしてくる。

「なんで、死なせてくれないの⋯⋯?」

 もう誰も悲しませたくない。ボクが居るせいで誰かが傷つくくらいなら、いっそ死んでしまった方が⋯⋯。


「う~ん、なんだか暗いムードじゃない?」


 突然部屋の隅から聞こえた誰かの声に顔を向け、服を拾い上げる。
 そこに居たのは淡い水色の髪を首のあたりで短く揃えた、何時ぞやの不審者が扇子で口元を隠し、腰に手を当てて堂々とした仁王立ちで立っていた。

「これじゃあお姉さん話しづらい⋯⋯」

 結は迷うことなく防犯ベルをカバンの中から引っ張り出し、その栓を引き抜こうとした。
 しかし瞬きよりも速く止めに入った不審者によって防犯ベルは腕ごと掴まれ、その勢いのまま結は不審者にベッドの上へ押し倒される。

「だから、何の躊躇いもなくそれを使うのは止めてもらえないかしら? お姉さん傷つくなぁ~」
「もうなんでもいい、好きにしてよ⋯⋯」
「あら大人しい」

 不審者こと楯無に、覆いかぶさるように押し倒され、両手は楯無の手で押さえられて抵抗もできない。
 自分への嫌悪感で既に無気力状態の結はもう自分がどうなろうとどうでもいい、と思い至り、自分の自由を眼前の痴女に差し出した。

 着替える前のあられもない姿で押し倒される結。
 そのことに気が付いた楯無はとんでもない状況だと今更ながら感じ、一先ずこの少年に服を着てもらおうと股の間に通していた足を持ち上げたところで、誰かが部屋の中に入ってきた。

「上代くん、でいいのかな。服を持って帰ってないから届ける様に、言われて⋯⋯」

 入ってきたのは簪だった。

 簪はベッドの上でイタイケナ少年に手を出そうとしている姉の姿を見てしまい、硬直する。
 半裸の少年をベッドの上に、しかも両手を押さえつけた状態で覆いかぶさっているなど性犯罪一歩前と思われても致し方なし。

「か、かか、簪ちゃん⋯⋯どうしてここに⋯⋯いや、あのね、これはその、違うのよ? そんなことをしようと思っていたわけじゃないの、たまたま、たまたまこんな体勢になっちゃっただけであって決して結くんにイカガワシイことをしようと思って押し倒したわけじゃなくて、なりゆきでこんな格好でこんな姿勢になっちゃっただけなの、お願い信じて簪ちゃん!」

 実の妹にそんな現場を見られた楯無は顔を青くさせながら飛び上がって結から離れ、どうにか弁明しようと言い訳を羅列していくが、簪は何も言わない。

「お姉ちゃん、見損なったよ⋯⋯」
「あぁっ! 誤解されている!」

 簪の姉を見る目は冷めきったもので、太陽すら凍らしてしまおうかと言うほどだった。

「こんな小さい子に手を出すなんて見損なったよお姉ちゃん! 尊敬してたのに、大好きだったのに⋯⋯まさかお姉ちゃんが小さな男の子に手を出すショタコンの変態だったなんて!」
「酷い言われよう! 待って簪ちゃん! 誤解なの、誤解なんだって!」

 珍しく狼狽える楯無をしり目に、無気力にベッドの上に横たわっていた結を引っ張り出した簪は心の中に入り混じる本音を叩きつけて部屋を出ていく。

「お姉ちゃんなんかしらない!」
「簪ちゃぁぁぁぁん!!!」

 ほの暗い結の部屋で、たった一人取り残された楯無はその場に項垂れ、大好きな実の妹に散々罵倒されたことにより、数十分たっぷりと放心状態で動けなくなってしまった。


 
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