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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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化物と少年

 IS用カタパルト内部。

 金属のきしむ音が聞こえたかと思えば、天井に大穴を開けて鈍色の光沢を煌めかせる全身装甲に包まれた、謎のISがピット内に侵入してきた。

「だ、誰、ですか」

 出撃準備を済ませたばかりの結がそのISの方を向いて固まる。
 呼び掛けても返事はない。
 これは敵と見なしても良いものだろうか、と悩んでいると、胴体と一体化した頭についているカメラアイをキュイと鳴らして、それは此方を確認していた。

 不気味。
 あれが何なのか、何処から来たのか誰が乗っているのか何が目的なのか、ISを纏っていると言うことしか情報がないその存在に結は恐怖を抱き、涙を溢しそうになる。

「なんなの……」

 後ろに後退するが、決して広いと言えない環境、どうにかして逃げ出さなければと頭を捻っていると、目の前のISはその極端に太く大きな腕部に添えられたキャノン砲を物々しく此方に向けて、チャージ、そして躊躇いなく発砲してきた。

「っ! ガーディアン!」

 咄嗟に起動させたガーディアンのシールドで防御し、その間に装着を完了させた結はもう目の前にいる存在を已む無しに敵と見なす。

 レーザーを真正面から防いだせいで閃光が散り、その間に謎のISは結の死角に移動して接近してくる。

「う、しろ!」

 ブレードの握られた腕を振り向き様に蹴り飛ばし、その勢いで大盾で横薙ぎを当てようとするがそれを体躯を無理矢理海老反りするという、おかしな挙動でかわされる。

「っ!?」

 敵は跳ね退いて距離を取り、またレーザーを放ってくるのでそれらを盾で防ぎながら横に飛び、壁際すれすれまで移動して三角飛びでやや上から盾で殴りかかる。

 が、敵はそれを察知した途端に砲身を下ろして機体を回転させ、巨大な怪腕による裏拳で盾が弾かれた。

「あっ……!」

 最大の盾にして唯一の武器。
 それが今手元から離れて遠くへ転がる。
 すぐ取りに行こうとしても目の前に敵ISが立ち塞ぎ、武器を持たせまいと妨害をしてくる。

「う、うわあぁぁぁあああ!!!」

 骨の髄から響いてくる震えを押し殺し、拳を握り込む。
 背中のスラスターが展開して高速機動状態になり、踏ん張った姿勢から超加速を始め、この閉鎖空間でけたたましい爆音を響かせ、結は目の前の全身装甲を纏ったISに向かって殴り掛かった。

 瞬間を置いて衝撃音がピット内部を反響する。
 確実に入った。

 だが、そのISは何事も無かったかのように振り向き、巨腕を這わせるように伸ばしてくる。
 
「ッ!?」

 体前側のスラスターを噴かせて腕を避け、右側面のスラスターを噴かせて側転し、横腹に向けて勢いをつけた蹴り上げを当てる。

『⋯⋯』
「⋯⋯嘘でしょ」

 ピクリともしないどころか、脚を掴まれてレーザーキャノンと一体化した右腕が直上から容赦なく顔面に振り落とされる。
 避けようにも足を掴まれたまま宙釣りの状態で、引き上げられながら極太の砲身が迫る。

「かふっ⋯⋯」

 仮面から響く衝撃が脳全体を通り過ぎて反響する。

 まずい。
 攻撃は全て防がれ変な動きで避けられるし、当たってもびくともしない。
 通信障害が起こっているのかさっきから放送室に掛けても通じない。
 逃げようとすれば後ろから撃たれるだろうし、向こうも逃がす気はないだろう。

 退路がない。
 進路もない。

 支えであった盾も今は握っていない。

 どうしようもない不安感が結の心にのし掛かり、目尻に浮かべていた涙が溢れだした。
 手先が震えだし対峙しなければならないはずの敵の目の前で蹲りそうになる。
 頭の中は足踏みをして前にも後ろにも進めず動けない状態で燻り、答えを出せない状況に吐きそうになる。

「誰か……助けて……」

 目の前が滲んで何も見えなくなり、呼吸も段々と浅くなってくる。

 敵が動かず背を丸める此方に向かって悠々と歩いてくる姿が、絶望にじわじわと進んでいる事だけを示し、視界が端から炙るように色が落ちていく。

 敵が眼前まで到達した。
 殺される。

 そのとき、頭の中であいつの声が木霊する。

『俺が自由に出れないでイラついてる時によぉ、楽しそうなことしてんじゃねぇよ⋯⋯』

 その声が聞こえた瞬間、結の意識は覚醒状態のまま蓋をされ、項の機械部分からガチリと無機質な音がなり、全身の内側、筋や血管、神経が急速に回路を繋ぎ変え、体の自由が利かなくなる。

「フー、待って……ッ!」

 まだ辛うじて残っていた意識は丸めて内側へと押し込まれ、封をして重石を載せたように動けなくなった。

 同時に、ガーディアンのフルフェイスの仮面に掛けられた十字のハイパーセンサーの隙間から赤い燐光が溢れ、全身のアーマーが途端に重くのし掛かり、内側からひび割れていく。









       『俺ガ殺シテヤル』









 金属製の発出ハッチの扉がけたたましい轟音と共に張り裂けて、中から二体のISが縺れながら飛び出してアリーナの地面を転がった。

「なんだ!?」
「また敵!?」

 俺と鈴は目の前の謎のISから音のしたほうに意識を向けると、そこには俺達が対峙しているものと同じ格好と装備をしたISと組み合っている結の姿があった。

 馬乗りになって分厚い装甲を纏ったマニピュレータで敵の腕部を掴むが、それを跳ねのけられる。それでも喰らい付いてがむしゃらな拳を打ち付ける姿は何処か焦燥感に駆られているようだった。

「結!」
「一夏、加勢するわよ!」
「当たり前だ!」

 互いにそう言って接近しようとした束の間、謎のISは結の拘束を一時的に振り解いて、下敷きにされたその体勢からゼロ距離で、あの強力なレーザーキャノンを発射した。

「なんだと!?」
「うっそ⋯⋯あんなの喰らったら一溜りもないじゃない!」

 しかも一撃では終わらず、続け様に二発、三発目を至近距離で打ち放ち、そのすべてを真面に喰らった結が仰け反って硬直する。
 結のIS、ガーディアンには異常なほどの装甲とあの大盾があり、並大抵の攻撃では歯が立たないが、このIS専用アリーナの防御シールドを容易く打ち破るような威力のレーザーを、しかもあの距離で喰らおうものならいくら結のISといえども生半可なダメージでは済まないはず。

「結を放せぇぇぇぇ!!!」
「とっととどきなさいよこの木偶の坊!」

 瞬間加速で近づこうとするが、先の戦闘でエネルギーを使い果たして、お互いもう残りわずかしかエネルギーが無く、じり貧に近い。
 それでも二人は飛び上がり、謎のISを退けようと躍起になる。

 せめて、あのISから結を引きはがすことが出来れば、まだどうにか出来るかもしれない。

 動かない結、またレーザーキャノンを放つため、チャージに移行する敵IS。

「逃げろ、結!」

 フルフェイスのせいで今、結自身の意識があるのか判断が出来ない。
 気を失っているのか、それとも朦朧としているのか、動かない彼をどうにかしようと駆け出す。

 レーザーが発射される、その寸前。

 結が腕をレーザーの発射口に突っ込み、爆発させた。

「はぁ!?」
「ゆ、ゆい!?」

 相手の武器を潰したが、自分の腕も使い物にならなくなった。
 半壊したガーディアンの腕を見た結はすぐに敵ISに意識を傾けて、先程と同じように、馬乗り状態から腕を上から下へ向けて、只管に振り下ろす。

 不気味なほど静かになったアリーナに鳴り響く金属音。ISの関節部のモーターの駆動音と、ぶつかり合う金属音が一定間隔で木霊し、それ以外の音など聞こえてこない。

 殴られながらゆっくりと、抵抗の意を示すように持ち上げられた敵ISの腕を、結は無造作に掴みとってへし折り、捥ぎ取り、興味の失せた玩具を捨てる様に、適当に後ろへ投げる。

 そして、最初は暴れていた敵ISもエネルギーが切れたのか、それとも駆動部が動かなくなったのか、だんだんと身動ぎすらしなくなり、ピクリとも動かなくなった。

 それでもなお、結は拳を振るい続ける。

「お、おい、結、もういいって!」
「ソイツ動かないし、倒したんじゃないの!?」

 一夏と鈴が声を掛けるが、結は顔も向けず、ずっと敵を殴り続ける。
 もう動かなくなったそれを、怒りをぶつける様に、嬲る様に、徹底的に。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 何度も。

 やがて一際大きく破砕音が響き、敵ISの胸部を貫いて結のISの右腕部がめり込んでいた。

「結⋯⋯?」
「⋯⋯⋯⋯」

 動かなくなった結と敵のIS。
 互いにひび割れたISの装甲が所々ボロボロと崩れ落ちていた。
 
 結のISの分厚い装甲。
 シールドエネルギーのあるISにおいて、装甲の厚さと言うのはあまり防御面に影響されないはずなのに、何故あんなにも堅牢な作りになっていたのか。
 華奢も通り越した幼い彼に対して、何故あんなにも大きな鎧が必要だったのか。

「なに、あれ⋯⋯」
「分からない⋯⋯けど……」

 一度だけ、見たことがある。
 セシリアと決闘をしたあの日の試合の中で、結が自分と試合をしていた最中、突然身のこなしや戦闘スタイルが豹変したあの時の事を思い出した。

 今はあのときに比べてもっと酷いだろう。

 装甲の外れた結のISの中から、無機質な鉄色のISの腕と、レーザーによって割れたフルフェイスのヘッドギアからは頭骨のような何かと、茨の蔦が伸びて、欠けている部分の頭部を包もうとしていた。

 やがて十数秒掛けて形態変化を終了させ、何も喋らない結が振り向く。

「⋯⋯⋯⋯⋯」

「なぁ、結?」
「どうしたのよ、結」

 割れたフルフェイスの十字架のバイザーの下から髑髏の節穴のようなカメラアイが覗き見て、側頭部の穴を伸びた茨が補っている。砕けた腕から小型で細身の腕部が伸びていて、若干節くれ立っていた。

「結、早いとこ避難しようぜ。ここは危ないか《s》    《/s》」

 微動だにしない結を不気味に思いながらも声を掛けようとしたその瞬間。
 目の前に居た結が忽然と姿をかき消し、一瞬遅れて突風が靡く。後ろに居た鈴の短い悲鳴が後になって聞こえた。

「いぎゅっ!?」
「鈴ッ!」
『アァァ⋯⋯⋯』

 振り返るとIS展開状態の鈴の上に覆い被さり、抵抗させまいとのしかかる結の姿があった。

「結! 何してんだよ!」
『⋯⋯⋯⋯』
「なんとか言えって!」

 一体何が起きているのか、此方に対して攻撃とも取れる行動を始めた結をとにかく抑えようとしたその時。

「な、なに!?」

 結が自分のISの、装甲の砕けた方の腕を鈴の甲龍に押し当てると手のひらから鈴と甲龍を縛る様に茨が伸び、甲龍が光と共に掻き消され、ISスーツを着た鈴がその場に尻餅を着いてアリーナの地面に倒れた。

「へ? なんで、アタシIS解除したの?」
「鈴! 危ないから逃げろ!」
「う、うん」

 とにかく危険だと判断した一夏は何が起きたのか分からず困惑する鈴に逃げるように言い、目の前の結に対面する。
 鈴がアリーナの端まで移動した辺りで、一夏は雪片弐型を構えて結に問うた。 

「結、鈴の甲龍はどうしたんだ」

 結は答えない。
 しかし、言葉の代わりに行動で返答を示した。
 崩れた腕が持っていた物、それは甲龍が待機形態になったブレスレットがあったた。

「何をして鈴からISを奪った」
「⋯⋯⋯」

 何も言わず結が待機形態の甲龍を握り、短くなった腕に押し当てるとIS装着時の時のそれと同じ光を発して、結は甲龍を身に纏った。

「なんだそりゃ!?」

 正確には先ほどまで壊れていた部分を補うようにして結のISは甲龍を纏っていた。

 中身が出ていた左腕部、サイドアーマー、胸部装甲の一部、脚部装甲は右側の膝から下がすげ替わっていた。それに伴って伸びていた茨は形状を変え、甲龍の角のようなヘッドギアを真似た角に伸びる。

「本当にどうしちまったんだよ結!」

 目の前の歪な何かに呼び掛けるが何も返答はない。
 代わりに目の前のISは大股を開いて踏ん張り、背にある甲龍のスラスターをガコン、と展開して飛び込んできた。
「うおぉ!?」
 我武者羅な助走を着けての拳が飛んできて、それを避けるとそのISはお構い無いしにそのまま突っ込み、壁に衝突して停止する。

 一抹の希望をかけて壁に突っ込んだ方向に向き、ハイパーセンサーを起動させて確認するが、希望は消え去り脂汗が腹の下を冷やしてくる。



『ギィィアアアアアアァァァァァァ《s》               《/s》ッッッ!!!!』



 舞い上がった土煙の中から出てきた半壊のガーディアンは、甲龍の武器である大型の青龍刀、『双天牙月』を展開して握りしめている。
 壁に衝突して更にマスクが砕け、顎部分がクラッシャーのようにだらんと開くと、そのISは解放された鬱憤と解放感をまき散らすかのような雄叫びを上げた。

「やる気満々かよ、キツイな⋯⋯」

 シールドエネルギーは半分を切って残り30%あるかないか。
 もう一度『零落白夜』を使えば一瞬で持っていかれるような残量に、焦燥感が湧いてくる。
 
 目の前の結のISが飛び上がり、青龍刀を構えて斬りかかってくるのを雪片で弾く。

 通り過ぎたかと思ったら空中で反転し、背負っている甲龍の龍砲の片方を発射してその場で制止、更にもう一発を発射して速度を付けてまた攻撃を仕掛けてくる。

「そんなのありかよ!」

 攻撃のための装備をそれ以外の用途に使うことも然ることながらあんな無理矢理な挙動をすればいくら絶対防御が発動したとしても身体に掛かるダメージは計り知れない。
 それなのに何のためらいもなしにそんなことをしでかす今の結の状態はやはり普通ではない。

 早く結を止めなければ、あの機体に殺されかねない。
 そう思っていても龍砲による規則性のない軌道変換とでたらめな攻撃に手出しできず、只管に四方八方から迫りくる連続攻撃を捌くことしかできない。

 しかし。

『ゴブゥッ』

 突然結仮面の下から溢れるほどの吐血をして地面に落下。明らかな不時着。かなりの勢いをつけたガーディアンはそのままの速度で転げ落ち、大きな隙を晒した。

 一夏はすかさず結に向かって瞬時加速で詰め寄り、その間に発動させた『零落白夜』で立ち上がった直後の結
の胴を横一閃に斬り抜け、残っていたシールドエネルギーを全て消費して結のISのエネルギーを同じように全て持っていく。

「かッ、ぁ⋯⋯」

 白式の『零落白夜』によってエネルギーを削られたガーディアンはそのまま倒れて待機形態に戻るかと思われたが、その予想は一蹴され、またも異常事態が起き出した。

 まだ動こうとするISの腕に、自身の背部から出た鎖が巻きつき、両手を縛って胸元に押し当てられる。更に手足を縛り、白色に近い灰色の板が何枚も展開して繋がり、瞬く間にガーディアンを取り囲んで棺の形になった。

『ガァァアアァァァァ《s》            《/s》ッ!!!』

 まだ藻掻くガーディアンだったが、棺の上に展開されたガーディアンの大盾が棺桶の蓋のように、容赦なく重たい音を立てて封をされ、更に鎖が何重にも暴れる棺に巻き付いて完全に結とISを閉じ込めてしまった。

 歪な喧騒は嘘のように消え去って、アリーナに残された一夏と鈴は次第に暴れなくなっていった棺桶を見つめているだけだった。

 その静寂を打ち破って救護班がアリーナ内に入れるや否や一夏と鈴を連れて医務室に向かい、内側から引っ掻くような音を漏らす棺は、教員たちによって回収されていった。

「待ってくれ、その中には結が!」
「それは分かっている、今は自分のことを心配しなさい!」

 結の行動とあのISについて、もしかすれば今後結に会えなくなるかもしれないと感じた一夏は身を乗り出して食い止めようとするが、救護班の上級生たちは一夏を取り押さえてつれていってしまう。

「結、結ーーーーーーッ!」

 彼の叫びに誰も答える者はいなかった。

 
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