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熊と猫の家族

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第二章

「ニャア」
「あの子は確か」
「オルトですね」
「雄の子猫でしたね」
「あの子ですね」
「あの子もだよ」
 シモンズはその猫を観ながら暗い顔で述べた。
「やっぱりね」
「そうでしたね」
「捨て猫でしたね」
「誰かがここに捨てた」
「そうした子でしたね」
「あの子もね」
 こうスタッフ達に話した、だが。
 スタッフ達は小さな猫が大きなグリズリーに近寄っていくのを見てだった、顔を曇らせてそうして言った。
「あの、大丈夫ですか?」
「オルトがラルフに近付いてますけれど」
「大きな熊に」
「そうしてますけれど」
「大丈夫だよ」
 シモンズは落ち着いた声でスタッフ達に答えた。
「何もされないよ」
「そうでしょうか」
「襲われないですか」
「食べられたり」
「そんなことは」
「生きものは満腹だったら襲わないよ」
 その声は落ち着いたままだった。
「野生の生きものはね」
「ですが縄張りに入ってますし」
「危ないですよ」
「オルトを敵とみなすとか」
「そうしませんか?」
「それもないよ、ラルフはずっと僕達と暮らしていて」
 暮らしは野生のものだがというのだ。
「餌付けもされてるしいつも人に懐いているね」
「だからですか」
「それで、ですか」
「猫にもですか」
「何もしませんか」
「そうした子じゃないよ」
 このことは絶対だというのだ。
「だからね」
「それで、ですか」
「落ち着いて見てみればいいですか」
「ラルフは何もしませんか」
「絶対に」
 野生動物を知っていた、もっと言えばラルフを知っていた。だからシモンズは安心していた。だがその光景には彼も驚いた。
「えっ・・・・・・」
「あの、ご飯をあげました」
「オルトに」
「そうしました」
「これはない」
 思わずこう言った。
「流石に」
「ええ、まさかです」
「ご飯をあげるなんて」
「そんなことをするなんて」
「自分のご飯をあげるなんて」
「これは想像していなかった」
 襲わない確信があったが。何と。
 ラルフはオルトに自分の食事、肉をそっとあげたのだ。すると。
 オルトはその肉を食べはじめた、ラルフはじっと見ているだけだ。これには誰もが驚いてそうして話した。
「こんな光景はじめてです」
「見たことがありません」
「まさか自分のご飯をあげるなんて」
「そんなことをするなんて」
「私もだよ」
 シモンズもこう言った。 
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