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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年の宝物

 翌朝、一夏は釈然としないままに自分の教室に登校すると、教室内がいつもとは違う騒々しさがあった。

「あ、織斑君、おはよ!」
「おぉ、おはよう」

 目があった一人の女子が挨拶しながら一枚のプリントを持って近づいてきた。
 手渡されたプリントに目を落とすと、そこには学園行事の案内が書かれていた。

「クラス対抗戦?」
「そ。織斑君は一組のクラス代表だからね。頑張ってもらわないと!」
「頑張って織斑君!」
「がんばれ~おりむー」

 拳を握って激励しているクラスの面子を呆けた顔で眺めていた一夏の横から、セシリアが話に入ってくる。

「一年のクラス代表で専用機を持っているのは一夏さんだけ……だと思いますが」

「待った」

 セシリアの言葉を遮ってきたのは教室の入り口にいた鈴だった。

「二組のクラス代表はアタシに変わって貰ったから。もし対抗戦であたしが勝ったらあたしに謝ってもらうから、一夏」

 そう言った鈴はクラス内を見回したあと、一夏とセシリアの元に来て胸を張る。

「ところで結はいないの? 渡したいものがあるんだけど」
「結なら」
「あんたには聞いてない」
「えぇ……」

 昨日の一件で鈴は一夏に並々ならぬ敵意を向けていた。

「結さんなら今日は三限からここに来ますわ」
「そうなの? じゃあこれ返しておいてもらえないかしら。実技やら体育やらで教室空けるから暇がなくて、お願い」
「それならお安いご用です」
「ありがと!」

 セシリアに昨日借りたハンカチを手渡し、鈴は忙しそうに自分のクラスに戻っていった。

 一夏は居心地悪く自分の席に戻り、セシリアは受け取ったハンカチを眺めて、その質感から祖国のブランド品だと鑑定する。

 そして、刺繍されていた名前を見つけて、一瞬顔をしかめさせた。

 が、すぐに頭を振って気を改める。
 



 ◇




 別教室。
 黒板前に添えられた教壇と、その向かいに一つだけ置かれた机があるだけの、あまりにも殺風景な教室に、結は一人席について何をするわけでもなく無言を貫いていた。

 何かするわけでもなく、床に足が着くか着かないかの高さの椅子は些か爪先が泳ぐので当てもなくぷらぷらと振ってみる。
 楽しいわけじゃないが、何も考えずに暇を潰すのならこういう単調な動作も良いのかとぼー、としていると、教室の扉が開かれて外から赤縁メガネに緑髪をした女性教員が入ってきた。

「おはようございます結ちゃん!」
「真耶先生、おはようございます」

 結のことをちゃん付けで呼ぶ真耶。
 結が学園島に来た頃から、結の世話をしていた。
 はじめはかなり警戒されていたが、今では作ったお弁当を食べてもらえる程には関係も和らいできた。

「はい、今日のお弁当ですよ」
「ありがとう、ございます」

 特に何か特別なことを言うわけでもなく、結は手渡された弁当の包みを受け取り、それをまじまじと眺める。

「ふふ、気になりますか?」
「え、あ、うん、はい」
「開けてからのお楽しみですよ」
「わかりました」

 それでは授業に移りましょう、と手を叩き、真耶は教壇に立ち、小学生用の教本を片手に授業が始まった。





 ◇




 昼休み。

 結は教室内で弁当をついばんでいた。
 表情は終始変わらず機械的に中身を摘まんでは口に運び、一定数咀嚼して飲み込む。この動作を只管続けていた。

 箸の持ち方は若干覚束なく、力んでいるのか少し持ちづらそうに震えている。
 それでも食事は滞りなく進めている。

「美味しいですか?」
「うん」

 同席していた真耶が同じ中身の弁当をつつきながら弁当の感想を尋ねる。
 返答は二文字の一言で終わってしまい、真耶は嬉しさを必死に感じつつも少し物悲しい気分になってしまう。

「……まだ、味は分かりづらいですか?」
「……そんなことないよ」

 間を置いての返答は嘘にまみれていた。

 結がここに来た当初、結はまともに食事をせず、何か口にしても味がしないと吐き出していた。
 それが極度のストレスによるものかはわからないが、みるみるうちに痩せ細っていく小児の姿を眺めるのは教師として、大人として堪えられなかった真耶は自ら結の世話役を買って出た。

 今ではこうして弁当を作り、時間があれば一緒に食べたりしている。
 以前のように嘔吐することはなくなったが、それでも些か我慢をしているようでやるせない。

「ごちそうさま。美味しかったです」
「結ちゃん」

 真耶は咄嗟に目の前の少年を呼び止め、抱き締める。

「結ちゃん。つらかったり、寂しかったりしたら、いつでも私に頼ってください。どんなときでも力になります。だから、抱え込まないでいいんですよ……」
「……はい」

 暫くそのままで結はされるがまま真耶に抱き締められ、その人肌にかつての恩師の姿を重ねる。
 性別や人種は違えど、その温もりが微かに似ていると感じた結は、自ずと手が伸び、自分も真耶に抱擁する。

「ぼくは大丈夫だよ、真耶先生」
「結ちゃん……」

 それが本心だと信じたいが、もしかすれば不安にさせないための見栄かもしれない。
 それでも、信じたいと思った真耶はそれ以上は何も言わず、滲む涙を堪えてただ抱擁するだけだった。










 午後からは教室で専門座学が入っているので、結はあのあと真耶と別れて教室に向かった。
 ついた先で扉を開けば皆の視線が集まるが、全員一度開いた扉の先に人影が見えなかった事に驚き、改めて下の方にいる結を見つけて内心ほっとする。

 結は毎度集まる視線に少しびくびくしつつ、会釈して自分の席に着く。
 そして誰かと話すことなく爪先で暇を玩んでいるとセシリアが声をかけてくる。

「ごきげよう、結さん」
「セシリアお姉ちゃん。こんにちは」

 最初はイギリスの、決闘の時は金髪。しかし今は名前で呼んでくれていることに親しみやすさを感じたセシリアは複雑ではあるが嬉しくて少し頬が緩む。
 が、すぐに引き締めてセシリアはポケットからきれいに畳まれたハンカチを取り出し、結に渡す。

「こちら、鈴さんがありがとうと言っておりましたよ」
「あ、うん。ありがとうセシリアお姉ちゃん」

 ハンカチを受け取った結はこれまでにないような笑みを浮かべ、その一枚の布を大事そうに包んで自分のポケットに仕舞う。

 物に対するにはあまりにも仰々しい態度に、流石のセシリアも気になった。


「結さん。そのハンカチ、とても大切な物なのですか?」
「うん」

 短く答えた結は、ハンカチの元の持ち主のことを考える。

 あの施設で皆のことを思いやり、泣いている子が居れば慰め、笑っている子が居れば一緒に笑い、とにかく誰かのために身を粉にして働いていたあの人。

「これね、先生からもらったんだ」
「先生? この学園のですか?」
「うぅん、前に施設に居たころの、先生」

 まだ十にも満たない子供だというのに、結は哀しみと嬉しさを綯交ぜにした表情を浮かべながら話し続ける。

「先生は、世界で一番、誰よりも優しくて、みんなのために頑張ってた人。ぼくの大切な人なんだ」
「そうなのですか」

 結が思い浮かべる人物というのが、一体どんな人間かはわからない。
 だが、話を聞く限りではあの父親とは違う、まともな人間のようであった。
 あの人とは違う、そう再認識したセシリアは安堵するが一緒に落胆もした。

「だから、このハンカチはぼくの宝物」
「それは、大切にしないといけませんわね」
「うん!」

 今までにない笑顔を見せられて戸惑ったが、ここで取り乱しては貴族の誇りが失われてしまう。
 セシリアは結の頭を優しい手つきで撫でてやり、ヒラヒラ手を振って自分の席に戻った。



  
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