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Fate/WizarDragonknight

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燃え盛る焔《ほむら》

「はあああ……」

 謎の戦士の紫の手が大きく光る。
 男のロマンたるロケットパンチが、無数にハルトたちに襲い掛かる。

「ディヴァインバスター」

 それに応じて、キャスターが手のひらで円を描く。発射されたピンクの光線が、紫の拳を掻き消していく。
 だが、キャスターの技は、謎の戦士が取り出した剣により両断され、霧散する。
 遠距離では分が悪いと踏んだのか、謎の戦士は剣での接近戦を挑む。キャスターは焦ることなく、左手に持った魔導書を開く。
 魔導書はパラパラと自動でページをめくり、キャスターは傍目だけでその内容を確認する。

「フォトンランサー」

 キャスターの周囲に発生した、黄色の光の矢。謎の戦士へ一斉に発射されるが、全ていとも簡単に弾かれた。謎の戦士の剣が、一気にキャスターへ振り下ろされる。
 だがキャスターは、右手に付けられた灰色の籠手でガード。そのまま、素手による格闘戦を持ち込んだ。
 二人が遺跡内で激戦を繰り広げる中、ハルトとコウスケはオーパーツのもとへ急ぐ。

「あれがこの遺跡の力の根源だったら……!」
「みなまで言うな! あれを取れば多分オレたちも変身できる!」

 だが、ハルトたちの足元に銃弾が炸裂する。

「ほむらちゃん!?」
「そのオーパーツは、私がもらうわ」

 次は体に当てる。
 そう、彼女の銃口が語っている。

「お、おう……」

 コウスケが唖然とした顔で頷いた。両手を上げ、目を丸めている。
 ハルトはそんなコウスケを小突く。

「お前なんでここでチキンになってんだよ」
「仕方ねえだろ。相手は銃、こっちは生身だぜ?」
「俺一応魔法は使えるんだけど……」
「リスクは犯さねえのがオレの主義だ」
「お前肝心なところ小心者なのな」

 ほむらはハルトたちに銃を向けたままオーパーツに近づく。
 その時、上空で何かが弾ける音がした。
 お互いに距離を取ったキャスターと謎の戦士が、フロアの両端で向かい合っていた。
 謎の戦士は、やがてその視線をほむらに移し替える。

「……」

 先ほどとは打って変わり、彼女がオーパーツに近づくことを止めようともしない。
 そして。

「力……これが……!」

 とうとう、ほむらが恐竜型の石を掴み、取った。
 赤々と輝くその石。直接触れている彼女には、その力が伝わっているのだろう。

「うっ……」

 持っているだけで、彼女はふらついている。

「ほむらちゃん!」
「おいおい、大丈夫なのか?」

 ハルトとコウスケは、彼女に駆け寄る。
 だが、ほむらは呻き声とともに暴れていた。

「う……がああああああああああ!」
「ほむらちゃん!」
「おい、お前!」

 コウスケが謎の戦士へ怒鳴る。

「どうなってんだコイツは!? ほむらはどうなっている?」
「オーパーツにむやみに触れるからだ」

 彼は吐き捨てる。

「長い間、この場所に眠っていたオーパーツは、常に力の吐き場所を探していた。その女に触れたことで、体を乗っ取ろうとしているのだろう」
「『カラダ……ヨコセ……!』」

 彼の言葉が正しいと言っているように、ほむらの口から彼女の意思とは関係ない言葉が紡がれた。恐竜の形をした石が、ほむらの体に吸い込まれていく。

「があああああああああああああああああああああ!」

 華奢な彼女の腕力とは思えない力が、ハルトとコウスケを振り払う。
 地面に転がったハルトとコウスケは、目が赤く光る彼女の姿に言葉を失う。

「……飲まれたか」

 謎の戦士の言葉。
 同時に、ほむらの姿が炎の柱に包まれていく。
 火山が噴火したかのような勢いで火柱が伸び、遺跡を地上まで貫通する。

「オイオイオイオイ、これマジでシャレになってねえぞ!」

 崩落を始める遺跡で、コウスケが焦る。そんな彼に、キャスターは「脱出する」と告げ、風穴より外へ出ていった。

「脱出っておい! どうやって!」
「コウスケ! 今の俺たちなら、変身できる!」

 試しにドライバーオンしてみたが、うまくいった。ハンドオーサーを操作し、急いでエメラルドの指輪を付ける。

「おお、そっか! それを早く言ってくれ!」

 コウスケも慌ててドライバーオンする。二段階変身ももどかしく、彼も左右の指に変身指輪と隼の指輪を付ける。

「「変身!」」



『ハリケーン プリーズ フー フー フーフー フーフー』
『ファルコン ゴー ファッ ファッ ファッ ファルコ』

 キャスターより遅れて遺跡より脱出した、風のウィザードと隼のビースト。
 緑とオレンジの風を纏いながら、近くの河原に着地した。
 さらに遅れて、謎の戦士も到着。

「お前……!」
「……」

 彼はウィザードとビーストを睨み、上空で浮遊するキャスターを見やる。

「あのオーパーツに触れるな。あれはもともと、オレのものだ」
「お前、一体何者なんだ?」
「……」

 謎の戦士は、無言のまま噴火する非火山を睨む。
 そして。

「聖杯戦争の参加者。貴様らともいずれ戦う定めの者」
「お前も……参加者!?」

 そういえば、とハルトは以前可奈美が出会った戦士の話を思い出す。
 処刑人を倒した戦士。

「お前、ならサーヴァントはどこに……?」
「サーヴァントだと?」

 すると謎の戦士は、ウィザードに斬りかかる。
 ウィザードはソードガンでガードし、両者の剣に火花が散った。

「ふざけるな。オレは一人で戦う。誰かの力を借りるなど、オレにはできなくてね」
「へえ。でも、参戦派なんだろ? だったら、俺は君を止める」
「……」
「おい、来るぞ!」

 ビーストが叫んだ。
 同時に、遺跡があった山は崩壊する。
 地獄の炎が沸き上がったかのように燃えあがり、その中から赤い光が流星となり、ウィザードたちの前に着地する。

「ほむら……ちゃん?」

 それは、確かにほむらだった。顔は、ほむらの顔だった。
 だが、彼女の姿は冒険家の姿でも、ましてや魔法少女の姿でもない。
 炎を纏った魔人。
 小山のようにがっちりとした鎧と、雄々しい龍のような角。右手はまさに恐竜のような顔が付いており、そこから吐き出される息はまさに炎となっていた。

「があああああああああああああああああああああああ」

 ほむらが咆哮すると同時に、山が震える。それは川を一気に干上がらせ、山々を炎に包みこんでいった。

「おいおい、これヤバいぞ!」
「とにかく止めよう!」

 ウィザードは慌ててサファイアの指輪を使う。見習って、ビーストもイルカの指輪をはめた。

『ウォーター プリーズ スイ~スイ~スイ~』
『ドルフィン ゴー ド ド ド ドルフィン』

 水属性のウィザードとビーストは、共に暴走するほむらへ駆けつける。

 その背後で、キャスターは謎の戦士を見下ろしていた。

「貴方は、何者?」
「貴様に答える理由はない」
「……なら、なぜオーパーツをマスターが手に入れることを許した?」
「力に溺れ、破滅するだけだろう。ならば、オレが止める必要もないと思っただけだ」



「うわああああああああああ!」

 ほむらの右手の口から、炎が発射された。それは木々を焼き尽くし、アスファルトさえもドロドロの粘土と化す。

『ウォーター シューティングストライク』

 ウィザーソードガンに貯まる青い水の魔力。それを上空に打ち出し、周囲に簡易的な雨を降らせるが、好天候なのも相まって、焼け石に水にもならない。

「くそ、炎が強すぎる!」
「みなまで言うな! オレも手伝うぜ!」

 ビーストはダイスサーベルのマス目を回転させ、指輪を入れる。

『5 ドルフィン セイバーストライク』

 五体のイルカたちが、水でできた体で体当たりをすることで消火活動を行っている。だが、火の手は収まることを知らず、どんどん広がっていく。

「うがああああああああああ!」

 もはやそれは少女の声なのだろうか。
 ほむらはウィザードへ直接殴り込みをかけてきた。恐竜の顔をした拳は、盾にしたウィザーソードガンを通じて、ウィザード本体にも大きなダメージを与えてくる。
 それも一撃だけではない。何度も何度も拳で殴られ、ウィザードは耐えられなくなっていた。

「くそっ!」

 ウィザードは右手を交わし、全身でそれを抑える。

「熱っ!」

 しかし、常に炎が噴き出るその体に、ウィザードは耐えることができなかった。蒸発した青部分をはたき、ほむらから離れる。

「どけハルト!」

 ウィザードに代わり、ビーストがほむらへ接近戦を挑む。蹴り、ダイスサーベル。ビーストの荒々しい攻撃に対し、ほむらはほとんど避けることなく、それを体に受けた。

「おいおい、嘘だろ……!?」

 ビーストの驚きと同じ感想を、ウィザードも抱いていた。ビーストの攻撃を受けても、華奢な体格のほむらは微動だにしない。
 あの赤いアーマーが、それだけの防御力を持っているということだった。

___ダイナキャノン___

 ほむらの右手から、炎の砲弾が発射された。それはビーストを爆発させ、その体を河原でバウンドさせる。

「コウスケ!」
「大丈夫だ!」

 爆炎から復活したビーストだが、その金色の鎧は、見るも無残なまでに傷ついていた。
 やがて膝から崩れたビーストを見て、ウィザードはもう一度ほむらへ挑む。


「次はこれだ!」
『バインド プリーズ』

 彼女の周囲に現れた魔法陣より出現した水の鎖。それはほむらの体を包むと同時に蒸発した。

「だったら!」
『チョーイイネ ブリザード サイコー』

 ウィザード、ウォータースタイルの必殺技の一つ。魔法陣より放たれた冷気が、ほむらを一気に冷やしていく。

「よし、これなら……!」

 とウィザードが思ったのも束の間。
 ほむらの体から再び炎が噴き出し、冷気は魔法陣ごと消滅させられる。その姿は、まさに彼女の名前にたがわぬ(ほむら)の姿だった。

「あああああああああああああああああああ!」

 悲鳴のような声を上げながら、ほむらの腕の口が開く。灼熱の力が空気を焦がし、一気に彼女の右腕に吸収されていく。

「……まずい!」

 炎の流れが変わった。ウィザードは急いで、ハンドオーサーを動かす。

『ルパッチマジックタッチゴー ルパッチマジックタッチゴー』

 足のマークが描かれた指輪で、最強の水の魔法陣が出現した。

『チョーイイネ キックストライク サイコー』
___ジェノサイドブレイザー___

 それを宣言したのは、ほむらの口か、右腕の口か。
 ほむらの腕より発射された超巨大熱線に向かって、ウィザードは水の蹴りを放つ。
 巨大な魔法陣を足場にした蹴りは、向かってくる炎に対し、徐々に蒸気となっていくが、それでも少しずつほむらへ近づいていく。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ウィザードは大声を上げる。だが、ジェノサイドブレイザーはまだまだ底が見えず、衰える気配が全くない。

「だったら!」

 ウィザードはストライクウィザードの最中にも関わらず、ウィザードライバーを操作する。

『チョーイイネ キックストライク サイコー』
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
『チョーイイネ キックストライク サイコー』

 消えかけては現れ、また消えかけては現れる魔法陣。
やがて、ウィザードの魔力がそろそろ底を尽きそうなところで、互いの必殺技が同時に途切れた。
 ウィザードもほむらも死力を尽くしていたが、暴走するほむらとは異なり、ウィザードはすでに次の手を打っていた。

『ウォーター スラッシュストライク』

 すでにウィザードの姿も限界である。青いウィザードのサファイアはもうほとんどくすんでおり、今にも解けそうである。

『スイ スイ スイ』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 青い斬撃が、もう一度炎を吐こうとするほむらの右手の射程を上空へ反らす。
 完全に開いた懐へ、ウィザードはその剣で引き裂いた。

「『カラダ……ヨコセ……』」

 最後に、ほむらの口から、憑りついている亡霊の言葉を最後に、
 水蒸気爆発が一気に視界を巻き込んでいった。



「はあ、はあ……」

 もうウィザードですらいられない。
 気絶したほむらを背負い、ハルトは膝をついた。

「ハルト! 大丈夫か?」

 肩を掴んだコウスケに、ハルトは無理に笑顔を作った。

「だ、大丈夫。……じゃないかな。多分、ウォーターでここまで魔力使ったことないかも……他の姿で同じことやれって言われても無理だし」
「まあ、そうだよな。……体大丈夫か?」
「ヤバイ。今にも倒れそう。だけど……」

 ハルトは背負っているほむらの方を見る。気を失った彼女は、もう先ほどまでの鬼気迫る表情をしていた人物とは思えなかった。

「それより、これ……」

 ハルトは、恐竜の形のオーパーツを手にしていた。
 気絶したほむらの傍らに転がっていたもの。ほむらの体に吸い込まれたものが、ほむらの気絶により吐き出されたものだろう。

「おいおいおい! 大丈夫なのか? 触って!?」
「さっきみたいな暴走はもうしないみたいだけど、いつまたああなるか分からない」

 そういっている間にも、コウスケはツンツンと腫物のようにオーパーツに触れる。だが、反応はない。

「それを渡せ」
『L I O N ライオン』

 突如として、ハルトの首筋に銀色の刃が当てられる。驚いたハルトは、謎の戦士とビーストの獲物が自分の目と鼻の先でぶつかる。

「!?」
「いきなりだなオイ!」

 ビーストが謎の戦士と鍔迫り合いになっている。ほむらの存在もあり、ハルトは動けないでいた。
 だが、謎の戦士は続ける。

「それは貴様が持っていいものではない」
「はあ? だったらお前は持ってていいのかよ? みなまで聞いてやるから言いやがれ!」
「……ふん!」
「ハルト!」

 謎の戦士の答えは、剣の振り上げ。ハルトが思わず目を伏せ、その前にビーストが盾になるように割って入る。
 だが、謎の戦士の刃はハルトを切ることはなかった。
 恐る恐る見てみれば、彼の腕はキャスターに掴まれていた。

「キャスター」
「……貴様……」

 謎の戦士はキャスターをギロリと睨む。
 いつのまにハルトから取り上げたのやら、キャスターの左手には、恐竜の石が握られていた。

「収集」

 キャスターの傍らの本が開く。すると、恐竜の石は、そのまま本の中へ吸い込まれていった。

「貴様!」

 彼はそのままキャスターの手を振りほどき、彼女へその刃を突き立てる。
 だがキャスターも、同時に手のひらを謎の戦士の顔面に突き付けた。

「……」
「……」

 それぞれの攻撃が、互いの顔面手前で静止する。
 キャスターの手には黒い光が発射される状態になっており。
 謎の戦士の刃先が、キャスターの髪を切り落とす。
 互いの沈黙がしばらく続き、やがて謎の戦士は、その刃を収めた。

「ふん」

 紫の光とともに、彼は元の青年の姿に戻る。

「止めだ。そのダイナソーのオーパーツは、くれてやる」
「ど、どうして……?」

 青年はハルトを無視し、背を向ける。

「いずれそれはオレが取り戻す。その時に決着は付けてやる。覚悟しておけ」
「ま、待って!」

 去ろうとする青年へ、ハルトは重い体を引きずりながら叫ぶ。

「お前は、一体何なんだ!?」

 その問に、青年は振り返る。
 その冷たい眼差しで、彼は言った。

「オレの名はソロ。次に会うその時まで、覚えておけ」

 ソロ。
 独り(solo)。その名前に違わぬ精神の持ち主は、そのままジャンプして、姿を消した。
 ただ、彼が飛び去って行った方向を、ハルトは必死に睨み上げていた。

「ソロ……きっと、アイツが……キュゥべえが言ってた、最悪の敵……」
 
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