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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年のIS

 アリーナ。

 グラウンドの上空で、蒼い機体に身を包んだ長い金髪を携えた英国の淑女、セシリアが浮遊した状態で佇んでいた。セシリアは目を閉じ、精神統一に集中していたが、相手側のハッチが開く音で目を開き、そこから出てきたISを確認する。

「あら、随分と堅牢なISですこと」
「⋯⋯」

 ISには絶対防御という機能が備わっており、大半の攻撃は生身の人間には届かないようになっているので全身を装甲で覆う必要はない。
 だが、結のISは頭全体を覆うマスクに加え、胸部、肩、腹部、腰部に、その幼い身体に不釣りあいなほどの鎧が付けられていた。

 マスクには十字型のバイザーが前方にかせられ、左右から頭部全体を一周するようにセンサーのスリットが開いている。胸部にも同じように合わせ目のような溝が目立つアーマーが取り付けられている。腕部や脚部は通常の模範的なISに比べると一回り大きく、脚に至っては足首が見えないほどだった。
 
 背中のスラスターはウィングなどの滑空翼は無く、武骨なブースターが二つ並んでいて、同じように肩や腰、脚部に姿勢制御用の小型スラスターが見える。

 総じて飾り気のなく、武骨で時代遅れな機体と言うのがセシリアの評価だった。

 それにしてもあの装甲の厚さは何か理由でもありますの? とても意味があるようには感じませんが⋯⋯。
 まぁどうせ倒してしまうのですし、構いませんわ。

 しかしどれだけ頑丈なISに乗っていようと、子ども相手に銃口を向けるというのは躊躇うものがる。
 なので彼に提案をする。

 プライベートチャットを開き、セシリアは結と交渉する。

「そこのあなた」
「? なに。誰」
「以前名乗ったでしょうが! イギリス代表候補のオルコット、セシリア・オルコットですわ!」
「金髪のお姉ちゃん」
「話を聞かない子供だこと!」

 完全に嘗められている。
 可愛げがあればまだ手心と言うものがあったが、こうも虚仮にされてはプライドが許さない。

「今すぐ負けを認めれば痛い思いをさせずに終わらせて差し上げようと思っていましたが、世を知らないお子様には少し教育が必要なようですわね⋯⋯!」
「よく分かんないけど、負けない」

 チャット終了と共に試合開始のブザーがアリーナ内に響く。
 セシリアは瞬時に展開したライフルを構え、結に向けて射撃する。
 結は飛んできたエネルギー弾を最小限の動きで回避した。

「初撃は避けましたか。ならこれならどうです!」
「⋯⋯⋯」

 セシリアは自身のスラスターユニットに備わっている四基の移動砲台であるビット、『ブルーティアーズ』を展開し、結に向かって四方八方から狙撃う。

「⋯⋯っ」
「さぁ、踊りなさい! ブルーティアーズの織り成す円舞曲(ワルツ)で!」 

 前後左右、果ては上下すら関係なく四基のBT兵器が結に向かって銃口を向け、容赦なくレーザーを撃ってくる。

 前から来れば今度は右から、それをかわすと上と後ろに待機していた二基が発射する。
 飛び上がるように回避しても、BT兵器は螺旋を描いて追随し、離れない。

「観念なさい! このブルーティアーズの前では、貴方は私に近づくことすら適わない! その余裕もいつまで持つでしょうか!」
「よく喋るね」
「減らず口が多いこと!」

 BT兵器の四期同時稼働、並大抵の努力では一基動かすのもやっとの代物を四つも同時に操っていることに、結は内心驚きつつ、セシリアの実力を改めていた。
 この学園にも少なからずいた、女尊男卑主義の人間ではあるが、確かな実力を持ってその風潮に乗っかっているのだと。

 けど、まだ追い付けない速さじゃない。

 確かに四基同時のBT兵器攻撃は恐ろしい。
 だが、そんな訓練をしていたのは何もセシリアだけではない。

「……っ、何故一撃も当たりませんの!?」

 結は旋回飛行を続けながらセシリアのブルーティアーズの攻撃を全てかわしていた。

 振り向きもせず。

 ISにはハイパーセンサーが搭載されていて、360°全方位の視覚情報を取り入れる事が出来るが、その情報量を処理しようとしても、追い付かない。

 しかし、あの少年は全方位からの攻撃を全て把握し、単機ずつだろうが同時攻撃だろうが全て回避していた。

 一撃も当たらない事実にセシリアは焦り始めていた。

 向こうから攻撃はされない。しかしこちらの攻撃も一切入らない。それがもどかしくて仕方なかった。

 フラストレーションと共に、四基同時操作による疲労が見え始め、ブルーティアーズの動きが鈍くなってきた。

「くッ! まだ終わりませんわ!」

 残り時間が半分を切った。焦燥感は色濃く滲み出して、セシリアは半ば自棄になっていた。
 錯乱させてやろうと、追い詰めてやろうと思考を巡らせて飛ばしていたブルーティアーズも、最早余裕もなくなって気がつけば自分で撃った射撃に自分の兵器が当たりそうになることが多々あった。

「せめて、一撃でも……!」

 もう時間がない。このままでは遊ばれたまま引き分けになってしまう。それが何よりも屈辱だ。
 せめて一撃、たった一撃だけでも当ててしまえば勝てる。

 焦ったセシリアはそれまで飛行させていたブルーティアーズから意識を離し、自ら狙撃しようと構えた。

「……ッ!」

 だが、その隙を結は見逃さなかった。
 それまで逃げの一択だった結はブルーティアーズの猛攻が止んだ途端、目の色を変えてセシリアに飛び込んでいった。

 だめ押しとばかりに空中で静止したブルーティアーズを踏みつけ、三角飛びをしながら四基のBT兵器を文字通り足蹴にして加速し、セシリアに向かって一直線に飛びかかる。

 ぬぅ、と開いた掌でセシリアの頭を掴もうとした。


 が、次の瞬間試合終了のブザーがアリーナに鳴り響いた。
 結が向けた掌は、セシリアの目の前で止まっていて、彼女に触れる事はなかった。

「ッ……フーッ……!」
「……終わっちゃった」

 仰け反って動けないセシリアから意識を完全に外し、結はカタパルトに向かって飛翔して戻る。

「お、お待ちなさい!」
「……なに?」

 セシリアは数分そのまま動けず、結が離れたところでやっと硬直が解け、少年を引き留めた。
 フルフェイスの仮面からは表情は読み取れないが、その声音から何も面白くないような雰囲気を出したいるのはわかった。

「何故攻撃してこなかったのです! ずっと避けるだけでやり過ごして、貴方決闘というものを理解していませんの!?」
「……あー」

 結はわかったようなわかってないような呻き声を上げて空に手を翳し、自分のISに登録されている唯一のアイテムを展開させた。

「た、盾……?」
「うん。盾」

 出てきたのはISを着こんだ結の背丈を覆うほどの大盾で、結はそれを一度掴んでアリーナのグラウンドに放るが、盾は地面に落下する前にデータ化して消える。

「ぼくのISには武器が入ってないの。あるのはさっきの盾だけ。だから攻撃しなかった」
「な⋯⋯だからといって!」
「それじゃあね。金髪のお姉ちゃん」

 試合の結果はお互いに無傷でタイムアップ、引分けで終わった。
 結は今度こそカタパルトに向かって戻っていった。

「結、お疲れ!」
「ん」

 戻ると既に待機していた一夏と遭遇する。

「凄いな、あんな動きが出来るなんて。一体どれだけISに乗ってたんだ?」
「お兄ちゃんよりは多いよ。あぁそれと」

 結は勿体振るように間を開けて、先程の試合で感じたことを一夏に伝えて去る。

「あのお姉ちゃん、あんまり踊らなかったんだ」
「お、踊らなかった……?」
「じゃあね」
「あ、あぁ、おう」

 なんの事かいまいちぴんとこない一夏は小さい少年の背中を見送り、言われた言葉を反芻させながら出撃準備を終わらせる。

「よくわかんねぇけど、やるっきゃなぇよな」




 控え室。

 ISスーツにパーカーを羽織った結に、箒達が駆け寄ってきた。

「よくやった、と言いたいが、なんなんださっきの試合は……?」

 終始避けているだけだったのに、最後に突然セシリアに向かって突っ込んでいった様子に違和感を感じた箒は靄がかった質問を投げ掛ける。
 その質問に結は何でもないような顔をして、答えた。

「おにごっこ」
「は?」
「ぼくが何も出来ないから、遊んでた」 
「いや、だからと言って」
「それじゃ、お兄ちゃんのとこ行ってくるね」
「あ、おい待て!」

 箒の言葉に聞く耳を持たず、少年は部屋の隅に寄って二機のISが向かい合って浮遊しているモニターを眺めていた。

「お兄ちゃん、気づくかな」
 
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