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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年と約束

 金属フレームが剥き出しになっている十畳ほどの部屋の中で、簡素なベッドの上に寝そべる小さな人影が起き上がる。

「⋯⋯」

 何も言わずベッドから這い上がり、部屋の隅に置かれたボストンバックからスポーツドリンクと健康食品ブロック、サプリメントを手短に平らげ、部屋の入口向かい側の壁に設置された洗面台で歯を磨き、顔をお洗い、寝癖を整える。

「⋯⋯今日は静かだね」

 そう呟きながら背中の機械部品の背骨を撫でる。
 何も言わないそのパーツは不規則に緑の点滅をするだけだが、結にとって今は静からしい。

 冷たいタイルの上にそれまで着ていた診察服が無造作に落とされ、別のバッグにしまわれているパーカーと制服を手早く着込んで部屋を出る。

 一応の施錠はするが、ここに来る人間は合鍵を持っている教師だったりつい先日不法侵入に勤しんでいた珍妙な格好をした自称生徒会長だったりと、本当に今やっていることに意味があるのか疑問が残るが、せめてもの意思表示であると決めつけて鍵を閉める。

「いってきます」

 扉に向かってその一言を発し、結はアリーナの地下から戸を開けて外に出て、教棟に向かい小さな歩幅で進んでいく。


 ◇


 一年一組教室。

 顔のあたりにある取っ手を掴んでもぞもぞと扉を開けるとまだ誰も来ていないらしく、教室内は朝の冷気と静寂に包まれていた。

「おはようございます⋯⋯」

 ふと壁にかかっている時計を見ればまだ六時を過ぎたばかり。
 何もすることがない。いや、せめて予習でもしておこうか。
 部屋の後ろにある自分用に調整された机に着き、背負ってきた鞄から分厚い教本を引き摺り出して項を捲っていく。

 操縦については知っていることばかり。模範的な内容に飽き飽きするが、時折記載されている注意事項やら禁止行為等に目を通し、わからないところに付箋をつけたり線を引いたりしていく。



 そうこうしていたら幾分か時間が経ったようで、クラスメイトの女子生徒が教室に入ってきた。

「おはよーございまーす。て、誰もいな⋯⋯いたぁ!?」
「おはよう、ございます」

 朝から元気な女の子に結は吃りつつもきちんと返事を返す。

「昨日の、男の子、結くん。おはよう!」
「んん……」

 女子生徒は昨日の朝の出来事を思いだし、結の頭を撫でてやる。
 気恥ずかしいのか慣れてないのか、撫で終わると結は本を被って机に突っ伏す。その姿が妙に愛らしくて女子生徒は思わず破顔してしまう。

 何この可愛い生き物は!? 可愛いよう!

 朝だからだろうか、頭の調子が少しおかしい女子生徒だった。
 もう少しじゃれていたいがそうは時間が許さない。
 その女子生徒は換気や日誌の準備をしなくてはならないと早足に教室内を巡っていった。

「結くん、また構ってね!」
「うん」

 撫でられた頭に手をあてがい、久々に感じた人の手の温もりを再確認し、頭を振ってまた予習に勤しむ結。

 時間は流れてようやくHRの時間まであと10分も無いかという頃に、一夏と箒が滑り込みで入室した。

「せ、セーフ!」
「ハァッ、ハァッ……」

 急いで来たのか息が荒い。
 そんな二人の後ろに織斑先生が立っていた。

「いつまでそこに立ち尽くしている。早く席に着け」
「「は、はい!」」

 鐘がなり、学校が始まった。



 高校生の五教科には出席しないが、IS専門授業には参加する。それが結がクラスに居る時間だ。
 それ以外の時間は別室で小学生向けの就学カリキュラムを進めている。

 それ以外はアリーナの自室から殆ど出ようとしない。

 人との関わりを避けて一人で過ごすことが多い結にとって、人の多いクラスの中は新鮮の一言だった。


 授業が終わっての休憩時間。
 専門科目は連続授業なので教室の隅の机で教本を捲って居ると、一夏が話しかけてきた。

「お、おはよう。結」
「あ……おはよう、一夏お兄ちゃん」

 机の近くまで来た一夏は若干躊躇い勝ちだったが、返事を受け取ると何処かほっとした様子で会話を切り出してくる。

「なぁ、結はISの授業の内容、わかるのか?」
「なんとなくは、うん」
「そっかー……わかるのか……」

 肩を落として落胆している一夏に戸惑いの目を向ける結を思ってか、少し面倒くさそうな顔をした箒が一夏の回収にきた。

「おはよう、上代。一夏がすまない。コイツは今の授業について行けていない上、後の決闘も相まって焦っているのだ。許してやってくれ」
「うん、いいんだけど」

 自分の机の縁に手をかけてあからさまに項垂れている歳上になんと声を掛けてやればいいのか悩むが、昨日顔を会わせた女子生徒に首根っこを掴まれて席に戻される姿はあまりに居たたまれなかった。

「ねぇ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「ん?」
「なんだ、結?」

 流石に気が引けた結は思わず声をかけ、二人は立ち止まって足を止めた。

「良かったら、ぼくも色々、教えるよ……?」
「ほ、本当か結!?」
「わっ」

 藁にもすがりつく思いで結に飛びつく一夏。
 すかさず箒が止めにかかるがそれを優しく制止した結は一夏の前に立ち、彼の手を握る。

「昨日はごめんなさい。手、叩いちゃって……」
「あ、あぁ……」

 弱々しい声で俯いて話す少年の謝罪を聞いて、一夏は驚いたような畏まるような何とも言えない気持ちで向き合う。

「いや、いいんだ。俺も気にしてるのに気付かなくてごめんな」
「……うん」

 一夏は結の頭を撫でてやると結はくすぐったそうに目を細める。

 その様子を一定距離を保って観察していたクラスメイトの淑女達は爛々とそのぎらついた眼を輝かせていた。

「む、一夏。そろそろ授業が始まる。早いところ席に着かねばまた織斑先生に怒られる」
「そりゃいけね、じゃあな結。また後でな!」

 視線に気付いた箒は一夏を連れて自分達の席に戻っていった。


 ◇


 その後、本日の専門科目は終了して結が退室、通常科目の授業を挟んで昼休みになった。
 生徒は皆それぞれの時間を過ごし、教室で駄弁る者、食堂に赴く者、部活や委員の仕事に励む者など様々だった。

 一夏と箒は食堂に向かい、昼食を取っていた。

「なぁ箒。結見なかったか?」
「いや、午前の授業が終わってからは一度も目にしていないが、それがどうした?」
「あの年なら食べ盛りだと思うし、ここに来ると思ったんだけどな……」

 学年問わず沢山の女子生徒で賑わう食堂を見回して一夏はそう呟く。
 暫く二人で話ながら昼食に手を着けていると、突然二人の生徒が話しかけてきた。

「ねぇ、君が織斑君だよね」
「はい、えっと、二年の先輩ですか?」

 胸元のリボンの色が緑なので自分より上の学年だと知る。そんな名前の知らない二人が自分に何の用だろうか。

「男でIS動かしたって言っても分からないこと多いでしょ? 良かったら私たちが教えてあげようか?」

 思わぬ申し出に驚くが、先輩から手解きしてもらえるなら願ったり叶ったりと承諾しようとしたら、箒が割って入ってきた。

「結構です。私が教えることになっていますので」
「でも貴女も一年でしょ? それなら私達の方が……」
「私は、篠ノ之束の妹ですので……」

 その言葉を聞いた先輩方は急に態度を改めて身を引く。

「篠ノ之束、てあの……?」
「そ、それなら私達はいらないね」
「え、あの!?」

 そそくさと去っていった二人の背中を見送って一夏は幼馴染みに問いただす。

「なんで断ったんだよ」
「言っただろう!私が指導してやる」
「と言ってもお前ISどれぐらい乗ってたんだ?」

 ISはその操縦時間に比例して操作に順応していくと言われている。
 教えるとなればそれなりに操縦技術が高くないといけないのだが。

「……」
「なんでそっぽ向くんだよ」

 何故か居心地悪そうにしている目の前の幼馴染に敬遠の眼差しを向ける一夏。それに抵抗したいのか箒は言い訳を吐き出す。

「仕方ないだろう! 私は保護プログラムであちこち転校していたのだ。そんなまとまった時間などあるわけがないだろう」
「それはそうだが、じゃあ断らなくても良かったんじゃ」
「⋯⋯この朴念仁め」

 小さく呟かれたその非難は誰の耳にも入ることは無かった。 
 


 ◇



 頭を撫でられた。
 それはこの島に来てから先生方や今朝のクラスメイト達のように撫でられることは多々あったので、珍しくもなかった。
 しかし問題はそれではない。
 誰に撫でられたか。

 織斑一夏。

 彼に触れてもらった時、頭に電流が走ったような感覚が横切っていった。

 初めて会ったばかりなのに懐かしい感じがした。
 今まで何度となく触れ合った彼らと同じ感じ。
 一緒に過ごし、励まし慰め合った彼らの匂い。

 鉄と油に塗れた匂い。
 
「ッ⋯⋯」

 どす黒い記憶が四肢に絡まり耳もとで囁いてくる。
 「なんで?」「どうして?」「信じていたのに」そんな彼らの悲鳴が、身も下ですすり泣いている。

「ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯」

 見えない誰かに謝罪を送るが、誰もそれを受け取らない。
 張り付いた亡霊達はただ苦しませることが目的とでも言いたげに、結にしがみついていた。

 
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