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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年の部屋

 剣呑な空気を帯びた教室にて、授業を終え各々は生徒寮の自室に戻っていったり部活に精を出していたりとそれぞれの時間を過ごしいている中、一夏は教室に残っていた。

 時刻としては夕陽が傾いて教室の窓から多少は和らいだかと思う眩しい日差しが差すほど。
 件の生徒寮については部屋割りが割り振られていないので当分は自宅から通学と、先日実の姉から電話越しに言われたばかりなので、今は本土とこの人工島を繋ぐモノレール待ちの時間でもあった。

 その間、一夏は今日あった出来事を思い返していた。

 入学によるプレッシャーと奇異の目。
 セシリアとの言い合い。

 そして上代 結と言う少年。

 特注であろう小さなIS学園指定の制服の下にパーカーを着ていた彼は、そのフードに触られるのを極端に嫌っていた。それはもう精神が不安定になるほどに。そんな彼がどうしてこの島に居るのか。

 理由はもちろん分かってはいるが、何故自分のように公に公表されていないのかが不思議だった。

 このクラスの全員が驚いていたし、皆初耳だと言わんばかりに噂話が絶えなかった。
 姦しいとはこのことかと一夏もうんざりしながら時間が過ぎるのをまっていた。

 暫く静かな教室に佇んでいると、突然教室の扉がひとりでに開いた。否、開けたのは結だったようで、机の影に隠れて見えなかったようだ。
「お兄ちゃん?」
「結くん、どうした?」
 一夏が居ることが予想外だったのか少し驚いたように目を見開いていた彼は、ふと何か思い出したように小走りに近づいてきて、一夏の目の前までくると突然頭を下げだした。
「な、何だよ急に」
「ごめんなさい」
「え?」
 突拍子もなく謝られたことになんの事かと考えたが、それが今朝の出来事かと考えると合点がいった。
「朝、お兄ちゃんの手、叩いちゃったから……」
「あぁ、あれはいいんだ。俺も何も言わずに触ろうとしたのがいけなかったんだしさ」
 ばつが悪そうに眉を下げる少年を見て慌てたように取り繕う一夏。
 どうにか慰めようと頭でも撫でてみるかと思い、手を差し出したら結は一瞬手を見て瞳孔を開いて硬直したが、優しく頭に載せられると何事のないかのように撫でられていた。
「ん⋯⋯」
 一度撫でられれば先ほどのような警戒心は多少なり薄れ、気持ちよさそうに目を細めて身を委ねてくる。

 少しの間そうやって結を撫でていると、また突然扉が開かれ、今度は慌てた様子で山田先生が入ってきた。
 「よ、良かった、まだいましたね⋯⋯」
「山田先生? どうしたんですか?」
 息を切らした彼女はふらふらと近くまで来てずずいと鍵を渡してきたので立ち上がって話を聞く。
「織斑君の、部屋割り、決まりましたぁ~⋯⋯」
「え、でも当分は自宅から通学って言われていたし、着替えも」
「それは私が準備しておいた」

 声のした方を見ると扉にもたれかかる織斑先生が大きなショルダーバッグを背負って立っていた。
「織斑先生!」
「千冬姉」
「織斑先生と……まぁいいだろう」
 千冬は大きなバッグを一夏に渡してやる。
「数日分の着替えと充電器を入れてある。それだけあれば充分だろう」
「いや、まぁ、そうだけど」
 大雑把な内容物にげんなりとするが、それだけあれば事足りると言うのも間違ってはいないので何も言えない。
「それと、参考書は発行申請してあるから、届いたら一週間で暗記しろ」
「え、いやでもあの本電話帳並みに分厚いんだけど」
「やれ」
「はい」
 有無を言わせてくれないが、これも捨ててしまった自分が悪いと無理やり飲み込んで了承する。
 若干落胆しながらも少年を引き連れて渡された番号の部屋に行こうと少年の手を握って教室を出る。
「結、行こうぜ。一緒の部屋だろ?」
「ちがうよ」
「え? いやでも男は俺達二人だけだし、部屋割りとしては俺らが同じ部屋じゃないのか?」
 それでも首を横に振る結に首を傾げる一夏だったが、それならば実際に見て確かめた方が早いと思い、生徒寮に向かった。結もなんだかんだと付いてきてくれたので少しばかり心強い一夏だった。


 生徒寮に向かう途中、一夏と結は短い会話をしていた。
「なぁ結、結はいつからこの学園にいるんだ?」
「⋯⋯よく分かんない。けど、半年ぐらいいる」
 一夏の質問に曖昧な返答をする結。
 そして無言のまま握っている一夏の手に少しだけ力を籠める。
 その目はどこか遠くを見ているようで、何だか話しかけづらかった。
「また今度、話すね」
「あ、あぁ」
 一夏はそれ以上何も聞くことが出来なかった。


「それじゃあ、ぼくはこっちだから」
 そう言いながら結はそれまでずっと繋いでいた一夏の手を放し、くるりと背を向ける。

「ばいばい」
「お、おお。じゃ、また明日な」
「うん」

 少し離れて手を振ってきた結に、ギクシャクしながらも振り返す一夏。
 寮の外は既に薄暗い。闇色に染まっていく外の空気に、結が飲み込まれてしまいそうだと思うほど、少年の輪郭は薄かった。




 静かに続いた会話は終わり、いつの間にか目的の部屋まで来ていた。
 ナンバープレートに書かれている番号と入り口の上に掛けられている札を交互に見て間違いないことを確認し、鍵が掛かっていないのも確認したうえで一夏も室にドアを開けた。

「あぁ、お前が今度の同居人か。よろしくたの⋯⋯一夏!?」
「は、箒!?」

 部屋に居たのは濡れた身体を拭いている同じクラスになった幼馴染の箒だった。
「何故お前がここにいる!」
「いや、俺も一人部屋かと思ってて!」
「一先ず出ていけぇええ!」
「うわぁぁぁあああ!!?」
 あまりの状況に困惑しながらも部屋から叩き出され、理不尽と思いながら一夏は何処にもいない誰かを呪った。



 ◆



 日も暮れて辺りは殆ど夜となりつつある道を、宛もないようにふらふらと進む結。
 その足取りは確かではないものの、道に迷うような素振りはなく、目的地はあるようだった。

 たどり着いたのはアリーナ。
 の、裏手。
 扉を開けて中に入り、狭い通路を進むと下へと続く階段があった。足元を照らす小さな照明の連なっているその道を、結は躓くこともなく、慣れた足取りで降りていく。

 その先にあったのは、行き止まりの通路の右側にある簡素な扉。
 結は少し背伸びをしながらそのドアノブに手をかけてドアを開く。


「はぁ~いおかえりなさ~い!」


 ブチッ。

 キュインキュインキュインキュインキュインキュイン。

「ちょちょちょ、ちょっと待って!?」

 結は目の前の不審者を視認するなり何処からともなく取り出した防犯ブザーの栓を躊躇い無く引き抜いた。

 不審者は予想外の反応に驚いて、押さえ込むような形で飛び付き、防犯ブザーに栓を填めさせて話を聞いてもらえるように取り繕い始めた。

「ねぇ、あまりに躊躇い無さすぎじゃない? お姉さん驚いちゃった☆」

 誰も居るはずがないのに、扉を開けて出迎えてきたのは水色の髪をショートに切り揃えたつり目の少女だった。

「不審者は通報しなさいって、先生が言ってたから」
「確かに私が悪いんだけどね。もう少し驚いてくれても良かったかなってお姉さん思うな~」

 結はまた無言で防犯ブザーに手を掛けようとしたので、今度は引き抜かせる前に少女は結からブザーを奪い取った。

「お願いだからお話しましょ? お姉さん悪い人じゃないよ!」
「勝手に人の部屋に入るのは悪いことじゃないの?」
「そうだけども!」

 子供には似つかわしくない淡々とした様子に気圧されながらも、少女はこほんと息を整えて佇まいを直す。

「まずははじめまして。私は更識楯無、この学園の現生徒会長よ」
「嘘は吐いちゃいけないて、先生が言ってた」
「本当なんだけどな~……」

 信用こそしてないが、警戒はずっと続けている結は、少女に質問をする。

「ぼくに何かようですか?」

 結の質問に楯無はやっと話に入れると内心安堵しつつ、後ろ手で自然に取り出した扇子を小気味良い音を発てながら開き、口許を隠す。

「そう、それなんだけどね。あなたの事を少しばかり視察しに来たの」

 そう言いながら扇子をひっくり返す。
 そこには『戒心』と書かれていた。

「あなたがここに居るのは前から知っていたのだけれど、あまり表立って動けなかったのよね。けれどこうして生徒会長の座に就いたことによって、何をしても怒られない☆」
「……」

 飄々とした態度に嫌気が差すのか、眉間に小さな皺を寄せる結に苦笑いを浮かべる楯無。

 しかしそれでも立場上上に居ることは変わらない。それをなんとなく察した結は上着を脱ぎ捨てて上裸になり、襟足をかきあげて項についたそれを見せつける。

「お姉さんが見たいのはこれ?」
「話が早くて助かるわん」

 軽い口調であるものの、その声音は真面目なものに変わった。

「これ、触ってみてもいいかしら?」
「勝手にしてよ」
「それじゃあ遠慮無く」

 楯無は結の後ろに屈んで、項から肩の間にかけて生えているそれに触れる。

 子供の柔肌に包まれた背骨に紛れて、入れ替わるようにそこだけ突き出ている機械部品。背骨らしく節が出ているが、骨を模した無機物が背中から生えていると言うのは異質なものがあった。

 よく見れば無機物と肌の境目には小さな切傷が無数に刻まれており、当たり前だがこれが後天的に付けられた物だと言うことを訴えかけてきた。

「痛々しいわね」
「もう慣れたから」
「そう……」

 諦めたような結の声に、楯無は無力感に苛まれた。
 もういいかと結が聞いてきたので楯無は軽い笑顔を浮かべて背中から手を離し、もういいわよ。と直る。

「《《そのIS》》にはどんな能力があるのかしら?」
「知らない。これが動いてるときは起きてないから」
「そう、分かったわ。ありがとう」

 そそくさとシャツを羽織って楯無に向き直る。
 すると楯無は『完了』と書かれた扇子を開いた。
 いつの間に変えたのか。

「もし何かあれば私にも教えてね。出来る限りの力になるわ」
「通報していいですか」
「まだ信用されてない!?」

 結の変わらない態度に不貞腐れながら部屋を出ようとする楯無だったが、振り向いた先には織斑先生が仁王立ちで立っていた。

 楯無は冷や汗を滴ながら、なんとか薄ら笑いを浮かべ扇子で口元を隠しながら目の前の修羅に訊いた。

「あら織斑先生。どうかなさいましたか?」
「いや楯無。どうやら不審者が出たという通報があってな。何か知らないか?」
「い、いえ。何も存じませんわ。それでは私はこれで……」
「まぁ待て」

 愛想笑いを立てて立ち去ろうとした楯無の首根っこを掴み、引っ張り戻す織斑先生。

「良いことを教えてやろう楯無。あの防犯ブザーにはGPS等が備わっていてな。あれの栓が抜かれたら私の持っている端末に通知が来るようになっている」
「そ、そうなんですか~」

 耳元で囁くように告げられたその情報に、更に顔を青くさせる楯無だったが、千冬は気に止めず結に不審者についての情報を訊いた。

「上代、それを鳴らしたようだが不審な人物等は居なかったか」

 千冬の言葉に結は眉一つ動かすこと無く楯無を指差した。

「先生が掴んでるその人です」
「そうか、分かった。後は任せなさい」

 有無を言わさず織斑先生は楯無を引っ張りながら部屋を出ていった。
 楯無は必死に抵抗するもすかさずアイアンクローが頭部を掴みあげ、ずるずると引き摺られる。

「あ、あの、織斑先生!? 違います。誤解なんです~~~!!」

 悲痛な叫びがアリーナの地下に響いた。 
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