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IS ショタが往くIS学園生活

作者:屍モドキ
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少年と天災

 玩具の溢れた子供部屋。
 絵本、積み木、人形、ブリキ、他にも子供向けの玩具が辺り一面に散乱し、部屋の一角で山を形成していた。壁紙は星が煌めく夜空から太陽の差す青空の絵が描かれている。天井にも同じような壁紙が張られており、複数の照明が部屋を照らす。

 しかし窓はなく、それ故、外の状況が分からないようにされていた。空調の無機的な音とモビールの駆動音と静かな電子音が、この部屋のBGMと化していた。
「・・・・・・・・・」
 その部屋に一人、小さな男の子が中央に座り、本を読んでいた。 

 身の丈は随分と小さく、まだ小学校に上がるか上がらないかというほど。肉は少なく細身で脂肪も少ない。見た目からの年にしては若干痩せている印象が見受けられる。髪は艶の抜けかけた黒色で、少しはねっ毛が目立つくらい。

 少しして、子供部屋に一人の男性が入ってきた。
 痩せた顔立ちは西洋人らしいもので、その碧眼の下には薄い隈が伸びていた。髪はあまり整ったものではなく、着崩した白衣はあちこちがよれて皺が出来ていた。
「おはよう、(ゆい)。元気かな?」
 部屋に入ってきた西洋人の男に、少年は振り向いて笑顔を咲かす。

「先生!」

 少年は読んでいた本を閉じて置き、男に向かって飛び込んで、男は少年を優しく抱きかかえた。
「おっと、元気なようだね」
「うん!」
 男は少年の頭に手を置いて撫でながら、会話を続ける。
「それじゃあ、今日も検査をするよ」
「また、やるの⋯⋯?」
 男の言葉に少年が身をすくませてあきらかに嫌そうな表情を浮かばせる。

 男は苦笑いをして、謝罪を垂れつつ少年を宥める。
「⋯⋯すまない。けれど、これも君がちゃんと健康であるか調べるためなんだ。わかってくれないか?」
「⋯⋯うん」
 男はその場にしゃがんで少年の目線に合わせ、頭を撫でてやりながら目の前の少年を宥める。
「それに今日は結にプレゼントがあるんだ。検査が終ったら上げよう」
「ほんとに? 分かった、やる!」
 その言葉を聞いて検査とやらを渋っていた少年も、嫌々ではあるものの先生と慕う彼に付いていくことにした。
「それじゃあ行こう、結」
「うん、先生」
 二人が部屋の外に出る。部屋の外はさっきの子供部屋のような温かい色ではなく、無機質なパネルを敷き詰めた生気のない作りになっていた。等間隔で分け目を見せる床と壁。目を刺すような光を無造作に放つ細長い照明。鼻につくのは消毒液のアルコールの匂いと、それに隠された煙草や出所のわからない鉄臭い匂い。

 無言で歩く二人だが、少年は西洋人の男の服の裾を掴んで離さない。男も慣れてしまっているのか諦めたのか、時折少年の方を向いては優しく微笑むが、何も言わずに歩くだけだった。
「さ、着いたよ」
「う、ん」
 脚を止めて横を向くと、シルバーメタルに塗装されたスライド式の扉。右側に設置された入力端子に男がパスワードを入力すると、空気の抜ける音と共に扉が開く。

 中には拘束具を取り付け床に固定された手すり付きの椅子と、それを囲うように置かれたたくさんの機械類。少年は上に着ていた服を脱いで椅子に座る。

 細身な体。骨こそ浮いていないが脂肪が落ちかけているその肢体に一つ、異常な点があった。


 彼の背中。項中程から肩甲骨の間までにかけて、背骨の突起をさらに伸ばしたような装置が装着されていた。否、装着と言うよりか、もはや埋め込まれているようだった。

 白衣から手術服に着替えた男と、同じ格好をした大人が複数人。椅子に拘束された少年を囲んでそれぞれ機械をいじっている。そして幾つかのコードを引っ張り出し、少年の背中にある装置に接続していく。

「それでは始めよう」

 その言葉が耳に届いた途端、少年は諦めたように、目を瞑った。



 ◇



 施設の直上。
 雲の上まで上がると、そこにはデフォルメされた巨大なニンジンが浮かんでいた。大きさは高さが10mに達するかと言うほど。
 そのニンジンの上に、一人の女性が立って空映画面を覗きながらホログラムキーボードを叩いてニンジンの最終調整及びチェックをしていた。身長は170cm前後で、放漫に実った体を『不思議の国のアリス』の作品を一纏めにしたような恰好に身を包んでいた。
「こーんなもんかなー。さてさて、奇襲型ニンジン準備かんりょーう!」
 モニターとキーボードを閉じる。ニンジンの上部が開くと乗り込み口が現れ、そこにその女性は乗り込んだ。そして空中で停止していた巨大ニンジンは吊るしていた二兎を切ったように直下へ落下していった。

「私の娘でイタズラするゴミ共は抹殺だ♪」

 落下するニンジンは、たっぷり数秒かけて施設へ直撃した。



 ◆



 同時刻。
 施設内を赤いランプが点滅を繰り返し、警告音が忙しく耳を叩く。男女年齢の入り混じった作業員や研究員のような恰好をした人間が逃げ惑う。奇声、怒号、悲鳴。耳障りの悪い声が入り混じり、そこは地獄のような情景だった。
「何事だ!?」
「し、襲撃です!」
「なんだと!?」
「現在、当施設の上空に謎の飛来物体が降下してきています!」
 それはあの女性が乗っているニンジンだった。それは数秒と待たずに施設に直撃し、巨大な風穴と共に容易く侵入して見せた。

 人命なぞ知ったことではないと言わんばかりに身勝手に、そして大胆に侵入してきたその女性をみた研究員たちは、あぜんとした表情で硬直した。
「やぁやぁ愚か者諸君共。私のISを返してもらいに来たよ」
 出てきた女性は張り付けた笑顔で目的を言い放ち、施設の床に足を置く。
「し、篠ノ之束!?」
 一人の男が女性の顔を見て声を上げるが、束と呼ばれた女性はその男含め、その場に居る全員を素通りして歩いていく。だが警備員が束を止めようと携帯していた機関銃を構えて塞がり立つ。しかし束を止まることなく進んでいく。
「止まれ、そしてこちらの指示に従ってもら⋯⋯」
 言い終わる手前で束は目の前に居た武装した男二人の首を掴んでそのまま前に押し倒し、首の骨をへし折って動きを止める。更に、加勢で増えた戦闘要員が発砲してきたが、それを難なく避けて見せて全ての武器保持者を屠っていった。
「こんなものかなー。さて、目的の物はこっちかなー」
 特に気に留めることなく、床に散らばる屍の山を放置して目的の部屋。少年が入っていった部屋に行く。

 中は蛻の殻で、誰一人としてそこに居る者はいなかった。
「ふん、ここじゃないか」
 歩いてきた方向とは逆を見て、そちらに向かって束は動き出す。





 同時刻、少年が入っていった部屋では数名の研究者が右往左往していた。
「まだ性能分析すら終わってないんだぞ!」
「しかし、このままでは施設も我々も無事ではすみません!」
「だが⋯⋯!」
 西洋人の男を中心に話し合いが行われ機材を畳むか逃げるかを言い争っていた。そこへ、壁を突き抜けてニンジンがめり込んできた。中からはふざけた格好をした女性こと束が登場する。
「反応的にはここだけど。お、いたいた」
 目の前に立つ異様な存在に畏怖すら覚える研究者たち。そんな彼らの事に見向きもせずに束は部屋の奥、分厚いガラスに分離されている奥の広間へ視線を向ける。

 その中には、歪な形のISが佇んでいた。

『アァァァ⋯⋯』

 そのISは時折痙攣しながら面を上げて、安定しない挙動でこちらを視認すると、倒れそうになる自身の状態に構うことなく突進し、ガラスに衝突して突っかかる。厚さ40cmはありそうな強化ガラスに罅が入るが、割れるまでには至らず、衝撃波が束の髪を揺らす。
「お前、いや君は⋯⋯」
 目の前の化け物に対する呼称を改めて、荒れ狂いながら窓を殴り続ける存在と、部屋に転がっていたコンピューターを拾い上げ、画面に表示されていた情報を交互に見やる。
「そういう事か。⋯⋯チッ、下衆共が」
 小さく毒づいて手に抱えていたコンピューターを投げ捨てて、まだ逃げていなかった西洋人の男の胸倉を掴み上げる。
「おい、アレを《《外す》》方法はあるんだろうな」
「う、ぐ⋯⋯ない」
 苦しそうに否定した男を投げようとしたが、その前に男が懐から何かを取り出したのに気がついた。
「なにそれ」
「完全停止は無理だが、これならあのISを抑えることが出来るだろう」
 手渡されたものは、棺に十字架を重ねたようなアクセサリーだった。
「どうか、これを彼に身に付けてやってくれ、もう苦しまなくていいように⋯⋯」
 束は渡された装飾品を眺めて、背後で強化ガラスを叩き続けているISに振り向く。幾度と殴られたガラスが次の一撃でようやく粉砕され、細やかなガラス片が辺りに散らばる。

 しかし、お構いなしに束は装飾品を持ったままISに近づき、襲いかかる巨椀を難なくすり抜けて、彼の首もとに装飾品を掛けてやる。
『ガァアアアァァァァァッ!!!!!』
 すると暴れていたISはもがくように頭を抱えてのたうち回り、咆哮を揚げてプツリと沈黙した。一拍子開けてISは光を放ちながら収束し、中から少年が気絶したまま出てきた。
「う、うぅ⋯⋯」
 束は倒れた少年に近寄り、体をゆっくり持ち上げてその顔を見る。
「よいしょ、それじゃあね。愚かな石ころくん」
 束は少年を抱えてニンジンに乗り込み、そのまま施設を後にした。
 しかし軽やかに去っていったが、その横顔には憤慨とも後悔とも言えない相が映っていた。

「これで四人目か⋯⋯」

 目の前に倒れている少年を見ながら、揺れる機体の中で束はやるせない声で呟いた。

「君は、何になるのかな?」

 
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