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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第五十四話 誰が強いの?2

108部隊に向かうアスカ達。

合同訓練であったが、緊急アラートが発動される。

敵に立ち向かうフォワード達の前に、新型ガジェットが現れる。



魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。



outside

陸士108部隊。

捜査主任のラッド・カルタスは、モニター越しにギンガと話をしていた。

「機動六課のフォワードメンバーは、こっちに向かってるそうだよ。妹達に会えなくて残念だったね、ギンガ」

「いえ」

機動六課との合同訓練の為に準備をしていたギンガだったが、急遽事件にかり出されていた。

「まあ、うちの捜査員や魔導師達の合同訓練に方は……ん、アラート?」

突如、緊急警報が発令された。カルタスはアラート内容を確認する。

「サードアヴェニュー警ら隊からの応援要請がきた。ギンガ、動けるか?」

「申し訳ありません。こっちはまだ時間がかかりそうです」

「そうか……分かった。なら、外から応援を頼むとしよう」

「外から?」

聞き返してくるギンガに、カルタスはニッと笑った。

「久しぶりに、スバルを見てみるのも良いだろう?」

その答えに、ギンガもニコリと笑って頷いた。



アスカside

108部隊に向かうヘリの中で、オレ達は出動を言い渡された。

「サードアヴェニューE37地下道に不審な反応を発見しました。動体反応……ガジェット確認!」

ルキノさんからの報告を聞いて、オレのモードが切り替わる。

ティアナも、素早く作戦を考えているようだ。

「ガジェットの数と形式は?」

オレはロングアーチに問い合わせた。

新型がなければプランは簡単だが、ガジェットもいつ進化するか分からない。

「ちょっと待って、サーチャーからのデータは……来た!1型17機、3型2機!ん?これは……」

シャーリーが送ってくれたデータの中に、見慣れない、いや、改造されたようなガジェットがあった。

「気をつけて、3型は初めて見るタイプよ」

シャーリーの言う通り、2機の3型はいつものまん丸ではなかった。

球体のボディに、鋭角のクモの足のようなユニットを装着している。

「ボールの足付きか。どうするよ、ティアナ」

この足付きの性能が分からない以上、作戦の立てようがない。

だがオレ達のリーダーは、頼もしい事に不適な笑みを浮かべている。

「どうもしないわよ。いつも通り、油断しないでキチッとやる。いいわね!」

「「「「おう!」」」」

そうさ。力む必要なんかない。

オレ達のできる事を、全力でやる。ただそれだけだ。



outside

改造された3型を見ても、フォワードメンバーは怯む事は無かった。

だが、その映像を機動六課の司令室で目にしたヴィータの表情は一変した。

それまでは厳しい目つきだったのが、突然動揺し、青ざめている。

「ヴィータ副隊長?」

ヴィータの様子がおかしくなった事に、グリフィスが気づく。

その小柄な身体が、僅かに震えている。

「……何でもねぇ。ちと嫌なもんを思い出しただけだ」

強がっているのは、誰の目にも明らかだ。

ヴィータの脳裏には、8年前の撃墜事件の事が再生されていた。

なのはの側にいたヴィータが、一瞬だけ見たアンノウン。

すぐに姿を眩まし犯人は分からず終いだったが、目に焼き付いたあのクモのような足は忘れる筈がなかった。

(アレじゃねぇ……だが、あの足は!)

「ヴィータ……」

ギリッと歯を食いしばるヴィータを心配そうにはやてが見る。

あの撃墜事件の後、ヴィータは自分を責めていた。

夜寝ている時に何度もうなされていたのを、はやては間近で見ていた。

なのはが復帰してからも、暫くは続いていた悪夢。

はやては、それがまた蘇ったのではないかと思ったのだ。

「……悪りぃ、はやて部隊長。大丈夫だ。それよりフォワードに指示を」

無理をしているのは分かったが、今は現場に向かうフォワードを優先しなくてはいけない。

ヴィータも、はやてもそれは理解している。

「フォワードチーム、こちらロングアーチ」

はやてが先行しているフォワードに指示を出す。

「こっちからはライトニング1、2が緊急出撃する。みんなは、そっちの状況確認とガジェットの迅速な撃破。108部隊や近隣の武装隊も警戒に当たってくれる。スターズ1からは?」

はやては後ろに控えているなのはを促す。

「スターズ1からフォワードチームへ。AMF戦に不慣れな他の武装隊員達にガジェットや危険対象をなるべく回さないように。こんな時の訓練だよ。5人でしっかりやってみせて」

「「「「「はい!」」」」」

なのはの叱咤激励を受け、5人の声がそろう。

「じゃあ行くわよ!」

ティアナの気合いに、

「「「「おう!」」」」

アスカ、スバル、エリオ、キャロが応える。

セットアップを完了させ、5人は現場に向かった。



地下通路。

ボディスーツを身につけた二人の少女が、管理局の動きを察知していた。

「あーらら、動き速いなぁ」

無機物の中を泳ぐように移動できる少女、セインがモニターに映る光点を見て眉を寄せた。

「機動六課だっけか?例の部隊が出てきちゃったよ。どーしよ、クア姉」

セインは通信でクアットロに助言を求める。

「そーねぇ。今ここでプチッと潰しちゃってもいいんだけど、まだ不確定要素が多いし~、今回の作業は3型改のテストとお披露目だけなんだし、もう殆ど済んだでしょう?」

例の甘ったるい声でクアットロが応える。

「まー、だいたいの所はね」

「じゃあ、空からおっかなーいのが飛んでくる前に、早めに引いて戻ってらっしゃい」

「そーねー」

クアットロは以前それで痛い目をみているし、セインもその現場近くにいて六課隊長陣の恐ろしさを知っているので、撤退に異存はなかった。

「3型改も方っておいていいわ。量産ラインに投入するかどうか、まだ決めてないし……「はい!はいはい!クア姉!!!」…なーに、ウェンディちゃん?」

クアットロの指示の途中で、通信の横入りする者がいた。

セインと一緒に行動していた、ウェンディと呼ばれる戦闘機人のNo.11だ。

「せっかくお外に散歩に出られたのに、もう帰るのはつまんねーッス~!あいつらに、ちょこっとチョッカイ出したりしちゃダメっスか?」

赤毛を後ろで纏めたウェンディは、好奇心いっぱいの目でクアットロにお願いする。

「そーねぇ~。これから大事なお祭りが待ってるんだし……」

そこまで言って、クアットロはニヤリと笑う。

「武装も未完成のあなたが怪我でもしたら大変だから、直接接触はしちゃダメよ。でも、見学と遠隔チョッカイくらいなら、良しとしましょ」

「わーい!ありがとっス!」

許可をもらったウェンディは、無邪気に喜んだ。

セインはヤレヤレと、呆れたように妹を見ている。

「さあって、どう遊ぼうっスかねぇ~♪」

軽い言葉とは裏腹に、ウェンディの目に鋭い光が宿った。



地下通路での戦闘は一方的なものになっていた。

「アスカ、そのまま前進!エリオ、スバル!」

「「「おう!」」」

ティアナの指揮で次々とガジェットを破壊していくフォワードメンバー。
気がつけば、全てのガジェットを殲滅していた。

「よし!全機撃破!」

ティアナが安全を確認する。

「ありゃ~、足付きを確保できなかったか」

ノリに乗って攻撃していたので、新型ガジェットを木っ端微塵にしていた事にアスカが気づく。そして、その元凶に目を向けた。

「スバル~!お前もっと加減ってのを覚えろよな!」

アスカが非難めいた事を言うと、

「えー!私だけじゃないよ~!エリオだってそうじゃない!」

スバルはそのままエリオに流そうとするが、

「ボク、斬撃なんで粉々にはできません」

エリオはスバルのパスを華麗にスルーした。

「あう~!言うようになったねぇ、エリオ」

あっさりと躱されたスバルがグチる。

入隊当初では考えられないくらい、今は余裕をもって戦っている。

だからと言って、油断はない。

「3型改の反応、新規に出現!機動六課フォワードチームはG12へ進んでください!」

シャーリーが新たな敵影を確認する。

「ロングアーチ、こちらライトニング5。足付きは何機だ?」

「反応は1機だけね」

それを聞いたアスカがティアナを見る。その視線の意味に気づいたティアナがコクリと頷いた。

「各位、罠の可能性があるわ。気を抜かないでね」

「「「「了解!」」」」

ティアナの言葉に、全員が応えた。

「それでは!」

フォワードメンバーは、それまで共闘していた108部隊員に敬礼する。

「ああ、気をつけて」

敬礼し、フォワードメンバーを見送る108部隊員達。

「前に見た時よりも速いし強い……」

「半年前までは、Bランクなりの新人だった筈だよな?」

「いったい、どういう成長速度だよ……?」

108部隊員の言葉には、驚愕と羨望の響きがあった。



出撃していたガジェットが破壊されたのを示すように、セインとウェンディが見ていたモニターの光点が消えた。

「へ~、こんなに動けるんだね、この子達……って、何だよ、ウェンディ。その楽しそうな顔は?」

妹の顔がご機嫌になっているのを見て、セインがつっこみを入れる。

「え、そーっスか?」

そうとぼけるが、ウェンディは笑顔だった。

いたずらっ子が、面白いおもちゃを見つけた時のような顔だ。

「こいつらの担当、アタシやノーヴェになるんスよね?」

「多分ね」

セインは出撃していないガジェットをイス代わりにしながらウェンディに応える。

「こーゆー連中を、どーやって叩き潰そうかなとか、どうしたら攻撃を喰らわずに済むかなとか考えると、中々楽しいんスよ」

楽しそうに話しているが、ウェンディの目には剣呑とした鋭さが宿る。

「ふーん。ウェンディならどう戦う?」

気のないセインは、軽い感じでウェンディに聞く。

「こいつら単体でも魔導師ランクでAはありそうっスけど、それぞれの特化技能はAA級じゃないっスかね」

「ぽいね」

「別々の特化技能を連携させる事で総合力を高めてる」

ウェンディは自分の固有武装、ライディングボードを脇に構えた。

「まー、分断してブッ叩くのが適切っスよね」

「正解だ」

妹の答えに満足したのか、セインは横に倒したガジェットの上に寝そべる。

「ま、連携戦だろうが単体戦だろうが、負ける気はねェっスけどね」

ライディングボードに実弾を装填したウェンディは、遙か先のターゲットに狙いを定める。

「シッポ掴ませるとウー姉やトーレ姉に怒られっからさー、一発撃ったらすぐ引っ込むよー」

「了解っス~」

ウェンディは軽く答え、そして……引き金を引いた。



アスカside

足付きを前にして、オレ達は優位に戦闘をしていた。

この足付き、ボールに比べて確かに出力は上がっているけど、それほど攻撃バリエーションを持っていない。

たった一機の手こずるオレ達じゃないさ。

「キャロ、今!」

「はい!アルケミックチェーン!」

ティアナの合図でキャロが足付きをアルケミックチェーンで捕獲する。

「よし、捕まえた!」

行動不能にすれば、六課に良い土産になるな。そう思った時だった。

ガンッ!

「!?」

異音がして、それまで暴れていた足付きが機能停止する。

撃たれた?どこから?何故撃たれた?

「……!下がれ!」

マズイ!

オレは素早く足付きの前に躍り出た!



outside

「命中~♪」

超長距離のターゲットを撃ったウェンディがニッと笑った。

「なんだよ、貫通してないじゃん。不発かー?」

ウェンディの撃った弾丸は3型改に直撃はしたが、それだけだった。

もっと派手な事をやるのかと思っていたセインは拍子抜けする。

「冗談、これでも一応射撃型っスよ?」

ウェンディはそう言ってモニターを指す。

「今のは反応炸裂弾。チンク姉に教わった狭所でのエネルギー運用理論。金属とエネルギーの塊である3型に撃ち込んで、狭い通路内を一瞬で満たす爆散破片に変える。これならアタシでも、ディエチやチンク姉に匹敵する破壊力が出せる……」

「はずっス♡」

パチンと指を鳴らすウェンディ。

それと連動するように、ガジェットが爆発した。

一瞬で狭い通路が爆風に曝される。

「えげつねぇーなぁ。ちょっとやり過ぎだぞ」

思った以上の結果に、セインが顔をしかめる。

「えっへっへぇ~♪」

当のウェンディは、悪びれた様子もなくやり切ったぞ、と満足そうな顔をしていた。

「ま、それでも、連中が5人セットなら防いじゃうでしょーねぇー」

ウェンディが爆煙で埋め尽くされている様子をモニターで見る。

セインも同じようにモニターを見ていたが、すぐに身体を起こした。

「……甘く見たな、ウェンディ。5人じゃないぞ、一人で防いだんだ」

「ふぇ?」

爆煙が晴れて、そこにはアスカがバリアを展開して爆片を防いでいるのが映されている。

「ホレ、爆発直後にもうこっちの位置を特定。高速のガードとフロントがこっちに向かってカッ飛んできてる。ご丁寧に飛竜とオレンジ頭の誘導操作弾まで引き連れてるよ」

たった一発の弾丸から、こっちの位置を探り当てられたのだ。

内心、セインは相手の索敵能力に舌を巻く。予想以上に優秀なメンバーだと確信した。

「クア姉とディエチが向こうの隊長達に落とされ掛けた時と同じパターンだね」

セインはそう言いながら、残っていたガジェットを引き寄せる。

六課フォワードと接触する前に退散しようというのだ。

「……アギトさんが言っていた”亀野郎”っスか。中々やるもんス」

ウェンディはモニターに映るアスカを見て、ニヤッと笑った。

「まー、ちゃんと遊んで満足したろ。交戦しないうちに帰るよー」

ガジェットから触手のように伸びてきたコードを身体に絡めるように巻き付けたセインが、ディープダイバーを発動させる。

「はーい……でもその前に♪」

最後のお遊びと、ウェンディはマジックペンを取り出してニヒヒと笑った。



エリオが敵がいると予測されている地点に飛び込む。

そのすぐ後ろを追っていたスバルとフリードもすぐに戦闘態勢に入る。

だが、そこには誰もいなかった。

「逃げられちゃったかぁ」

悔しそうにスバルが呟く。

「スバルさん、これ見てください!」

エリオが指さした壁を見るスバル。

そこには”バイバイ、またね♡”と言う文字と、デフォルメされた似顔絵のような物があった。

『すみません、逃げられました。でも、壁に何か書き置きがあります』

エリオが現状をティアナに報告する。

『了解。合流して対策を続けましょう。エリオとスバル、フリードはその場で待機。アタシ達が行くまで現状維持に努めて』

ティアナの指示を受けたエリオとスバルとフリードは、周囲に気を配りながらアスカ達の合流を待った。



結局、犯人は追いきれずに状況は終息した。

「六課のみんな、お疲れさま。新手も来ないし、警戒態勢は解除しよう」

108部隊の捜査主任のラッド・カルタスがそう通達する。

「「「「「はい!」」」」」

六課フォワード一同、それに敬礼して応える。

そんなフォワードメンバーを前に、カルタスは人懐っこい笑みを浮かべた。

「合同訓練だったのに出撃させて悪かったな、みんな。大した物も出せないが、良かったら食事を済ませていってくれ」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

食事と聞いて、特にスバルが元気になる。それを見て、アスカが露骨に不安そうな顔をした。

「……主任」

「皆まで言うな、ザイオン二士。充分に用意している」

アスカの言いたい事を察したカルタスが苦笑する。

「スバル。向こうにギンガがいるから、一緒に食ってこい」

「はい!ありがとうございます!」

カルタスに促されたスバルは、上機嫌でみんなを引っ張って行った。



ギンガとフォワードが合流して、それぞれが弁当箱を手にする。

「自分より強い相手に勝つ為には、相手よりも強くないといけない?」

積み上げられた弁当箱の中心にいるギンガがスバルに聞き返す。

「そうなんだよ~。なのはさんが出してくれた問題でさ、その言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさいって」

「そっかー」

話をしながらも、食べる速度は落ちないナカジマシスターズ。

その後ろでは、エリオも負けないくらいに弁当箱を積み上げている。

「「「……」」」

その様子を、アスカ、ティアナ、キャロが唖然と見ている。

もう慣れた筈の光景だが、それでも引いてしまうらしい。

「あれ?ギン姉、今日はあんまり食べないね」

「捜査が忙しくて、あんまり訓練していないからね」

などと、末恐ろしい事を言っているスバルとギンガがドンドン空箱を積み上げていく。

「オレの何倍も食ってそれかよ……」

ゲンナリとするアスカ。

「ま、まあ前衛組はカロリー消費が激しいらしいしね」

上擦った声でティアナが言うが、それを言ったらアスカも前衛だ。

「さすがに、あれには勝てないよ」

いつもの事と、アスカは切り替える。

アスカ達にドン引きされている事などつゆ知らず、ギンガはスバルの問題に答えていた。

「その問題の答えは分からないけど、私としては、それは否定するべき言葉だと思うなぁ」

「え?」

「母さんが言ってた。刹那の隙に必殺の一撃を叩き込んで終わらせるのが打撃系スタイル。出力がどうとか射程や速度がどうとか、自分と相手のどちらかが強かろうが、そんなの全部関係ない」

その言葉が終わらないうちに、ギンガはスバルの喉元に手刀を突きつけた。

「相手の急所に正確な一撃、狙うのはただそれだけ。私はそう思っている」

ギンガが語ったのは打撃の極意。究極の理想と言える事だ。

「う~ん……でも、なのはさんが問題を出している訳だから、何かしらの答えがあると思うんだよねー。それに、アスカは答えを知ってるっぽいし」

「そうなの?」

スバルとギンガがアスカを見ると……

「こらー!フリード!その唐揚げは最後に残しておいたヤツだぞ!食うなー!」

「くきゅーっ!」

フリードとじゃれ合っている姿があった。

「……あれだけ見てると、そんなに凄いようには見えないんだけどね」

ギンガは呆れたように言う。

「まあ、アスカだしね」

何気に酷い言いようのスバルだった。



事件が解決し、フォワードメンバーは六課へと帰還した。だが……

「結局、答えは何なんだろ~?」

唸るような声を出すスバル。

あの後、散々みんなで考えたのにも関わらず、なのはの出した問題の答えは出てこなかった。

「そもそも勝ち負けって、どう言う事なんだろうな?」

グロッキーのスバルを見かねて、アスカがヒントを出す。

「そんなもん、決まってるでしょ。絶対的に優位に立つ。それが勝ちよ」

ティアナが当然、とそう答える。

「じゃあ、絶対的優位ってどんな条件だ?」

「……?」

アスカの言葉に、ティアナが首を捻る。言っている意味が分からないからだ。

「……あっ!もしかしたらですけど」

それまで大人しかったキャロがポンと手を叩く。

「私達は”誰が強いか”の聞き方を間違っていたんじゃないでしょうか?」

キャロがそう説明する。

(聞き方?絶対的優位の条件……誰が強い……)

キャロの言葉を皮切りに、今までの事がティアナの頭の中でグルグルと回り出した。

(アタシ達は隊長の誰が強いかを知りたかった……でも考えてみたら、強いってどういう事を指すんだろ?強さの意味……状況……ジャンケン!?)

ふと、ティアナが閃いた。

「あ……何か分かった」

ティアナも、キャロが言わんとしている事が理解できた。

「じゃあ、もう一度隊長達に聞いてみよう。今度は、間違わないように」



部隊長室、八神はやて。

「なのは隊長やフェイト隊長に勝つ方法?そらまあ、ガチンコ以外の広域戦限定なら少なくとも負けはないから、そーやって戦うよ」

「最大射程と効果範囲なら、お二人に負けませんから」

ティアナは、はやてにどうすれば勝てるかという風に質問をしていた。

その答えが、こうであった。

「あとは集団戦や!6人チーム戦。コレなら誰にも負けない自信がある」

「無敵です!」

限定的な戦力ではなく、総合的に考えた戦力。つまり、個人を最大限に活かす状況は何かと、ティアナは考えたのだ。

そして、自分が思っていた通りの答えを聞けたせいか……

「なんや、ティアナ。子供みたいに嬉しそうな顔をして」

満足げなティアナに、はやてのツッコミが入る。

「い、いえ、すみません」

自分でも気づいたのか、苦笑いを浮かべるティアナであった。



シグナム、ヴィータ。

「相手の強さや自分の弱さに捕らわれて、戦いの本質を忘れては仕方がない。自分の強さに驕るのは更に愚かしい。ギンガの見解は、その意味でも正しいな」

エリオは、前を歩くシグナムの言葉に耳を傾けていた。

「戦うなら勝つ、騎士の一撃はその為にある。お前も騎士の端くれなら、その気概を忘れるな」

ヴィータの言葉は、戦いに向かう為の覚悟を説く物だ。

「はい!」

戦いの意味、エリオはそれを強く意識していた。



キャロはフェイトと話をしていた。

「……だと思うんです。なのはさんが言っていた事って」

みんなで話し合った答えを、キャロはフェイトに伝えていた。

「なるほどね……そう言えば、キャロも誰か強いかとか興味あるの?」

フェイトは、争いを好まないキャロがこの手の話をしていた事に、少し驚く。

「あ、えぇっとですね。正確な戦力分析は後衛として必須ですし、スバルさんやエリオ君がすごく一生懸命でしたから、だから私も一緒に考えたくなっちゃいました」

「そっか」

穏やかに微笑むフェイト。

引っ込みじあんだったキャロが、自分の考えをしっかり持って行動している事が嬉しかったのだ。



スバルはみんなの意見を纏めて、なのはに報告した。

「自分より総合力で強い相手に勝つ為には、自分が持っている、相手より強い部分で戦う。その為に自分の一番強い部分を磨き上げて、自信と気概を持って戦いに当たる!それにチームがそれぞれの強い部分を持ち寄れば、より万全に近くなる。
だから、問題の言葉は正しくもあり、間違ってもいる。
これが、みんなで考えて出した答えです」

隊長室でそれを聞いたなのはは、穏やかな笑みを浮かべる。

「じゃあ、それが正解かどうか、これから実地で確かめていかなきゃね」

「え?なな、なのはさん!?正解は教えてくれないんですか!?」

てっきり答えを聞けると思っていたスバルが大きく目を見開く。

「明日の朝練で、多分わかるよ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

結局、スバルはその場では正解を教えてもらう事はできなかった。

だがその日、自室に戻ったなのはがヴィヴィオに嬉しそうに話しているのを、フェイトは見ていた。

その顔は、生徒が成長した喜びに溢れていた。



ティアナside

苦労して出した、なのはさんの問題の答え。

あれで正解かどうかは分からないけど、一つの答えだとは思う。

そして、アタシはアスカのクイズの正解を答える為に、アスカを休憩室に誘った。

「アスカが言っていたジャンケンクイズ。やっと分かったわ」

アタシはアスカに缶コーヒーを手渡す。これはアタシの奢り。今回の事は勉強になったから、そのお礼。

「グーを出したらパーを、パーならチョキを、チョキならグーを出せばいい。つまり、相手のペースに乗らないで、自分の得意分野で勝負すれば、相手に対して優位性を保てる、でしょう?」

言葉にしてみたら何て事ないのに、この答えを出すまでに時間がかかった。

「まあ、そう言う事だけど、そんなのはみんなやってる事だろう?ワザワザ誰が強いかなんて、まんまり意味の無い事だとオレは思ったんだ」

アスカがイスに座って、一口コーヒーを飲む。

「結局、個人の最強なんて一時的な事でしかないよ。でも、チームなら上限なく強くなれる、オレはそう考える」

アスカは時々、妙に達観したような事を言ってくる事がある。

今回のクイズだって派遣任務の時に出されたやつだから、少なくともその時にはそう言う考えがあったって事よね。

「うん……見失いがちになっちゃうのよね、そう言う事って」

アタシはアスカの対面に座って彼の顔を見る。

アタシは強さだけに拘って、肝心な事を見落としていた時期があった。

その時、アスカはぶつかりながらもアタシにそれを教えてくれた。

今考えれば、何てバカな事をしてたんだろうって思う。

「大丈夫だよ、オレ達は。みんな気をつけているし、もし間違った事をしても、隊長達が注意してくれる。だろ?」

アスカの言う通りだ。

間違った事をしたら、なのはさん達が注意してくれる。それをちゃんと受け取ればいいんだ。もうバカな事はしない。

そう思った時、アタシは今の状況がどれだけ恵まれているのか、今更ながら思った。

「そうね。アタシ達って、本当に幸せなのね」

うん。局員にとってこれほど幸せな事はない。

尊敬できる上司と、信頼できる仲間。

どんな困難でも乗り越える事がきっとできる。

ふとアスカを見ると、アイツは嬉しそうに笑っていた。きっと、アタシと同じように、幸せを感じているんだ。
 
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