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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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日向宅訪問・3




 表情が、出にくい。

 勿論、私の表情の話しだ。

 私の表情筋は頑固だ。寧ろ働く事を拒否しているのかもしれない。

 特徴的な白眼の瞳には、子供らしからぬ無表情の私が映っている。ひょっとしたらこの働かない表情筋がネジに威圧を与えているのかもと、私は引きつりそうになる頬を意志の力で押さえつけながら、なんとか笑みを形作ろうとしてみた。


「まだ、お前の事はよくわからない」


 が、形作った笑みは見事にスルーして、ネジが重たい口をゆっくりと開く。
 やっぱり作った笑みは不自然かと、私は表情を楽なものへとかえてネジの話しを聞く体勢をとる。

「正直、変わったヤツだと思う。今日の一件で、怖いもの知らずという印象も加わった」

「……」

 褒め……られてはないよね?

「変わっていない所を探す方が難しい」

「………」

 寧ろ落としてるのかな?

「だが」

「……?」

 そこで、ネジが言葉をきった。
 私を焦らすというよりも、言う言葉を選んでいるかのようなネジの眼差し。

「知り合えてよかったと──…思う」

 落とした後に一気に持ち上げるネジの言葉に、一瞬で私の頬に熱が走る。自分で言った照れくさい言葉より何より、ネジに言われたこの言葉の方が照れくさい。
 でも、元来ネジはこういうタイプなのかもしれない。良くも悪くも素直で、抑えているようで抑えられずに表に出てしまう。
 だからこそ中忍試験でヒナタを必要以上に痛めつけ、ナルトと戦った時も一方的に言葉を投げつけた。


「俺もだ」

 不器用なネジは、口下手でもある。
 そんなネジが一生懸命考えて言ってくれた言葉に、私は笑みを浮かべながら自分も知り合えて良かったと、そんな意味を込めて言葉を返した。
 子供じゃない私と、子供らしくないネジ。
 案外丁度良いのかもしれないと、ネジの珍しい表情を見ながら満足気に頷く。

 子供らしくないネジだけど、時折見せる素直な表情はやっぱり良い。

 お互い照れくさい言葉の応酬で、後々恥ずかしさから七転八倒しそうだと予想は出来ても、今はこの空気を楽しむ。
 照れくさいからといってこれを楽しまなければ、後々後悔しそうだしね。



 
 ほんわかとした空気をたっぷりと堪能した後、随分と冷めてしまったけどそれでも美味しさがわかるお茶をいただき、ホッと一息ついた。
 うちの茶葉がまずいとは言わないけど、流石日向本家。良い茶葉使ってるなぁ。

「冷めたな」
 多分ネジ専用の湯のみを傾け、喉へと流し込んだネジがぼそりと呟く。
「美味いから大丈夫だ」
 冷茶でも全然いけるよね。
 今は喉がカラカラだから、この冷たさが逆に良い感じ何だけどさ。どうやらネジは気に食わないらしく、空になった湯飲みをお盆へと乗せて再び部屋の外へと出て行く。
 何か一言ほしいけど、待っててもまったく問題はないだろう。
 さっきは見る余裕がまったくなかったけど、ネジの部屋は物が少ない。本棚と箪笥。それと机ぐらいで特に何かがあるわけじゃない。
 本棚の本を見てみれば、忍術書ばっかり。
 私の部屋にもあるけど、基本的に本棚の数からして違うもんね。つまりネジとは違って娯楽系も相当の数がある。
 多趣味だからと一言で済むけど、結局は移り気なだけかもしれない。
 徹底したネジの書物の選び方を見ながら、ふと気になる書物の手を伸ばしかけ、やめた。
 手に取るのはネジの許可をとってからだよね。
 浅く広く状態の私だけど、忍術や武術、近接、暗器、それ系の事には真面目に取り組んでいたりする。
 書物もそれなりに集めて読んだりしてるけど、ネジのこれは知らないやつだ。
 巻物も置いてあるけど、流石にこれは何が書いてあるかまったくわからない。

 興味深げに本棚を見てたら、今度はしっかりと足音を消しながらネジが煎れたてのお茶を持って部屋に帰ってきた。気配は消しきれていないから、足音が消えていても今の所それ程効果のない状態。
 ネジの事だから時間なんかかけずに気配まで消しちゃうだろうけど。
 そんなネジが持ってきたお盆の上を見てみれば、先ほどはなかったはずのお菓子の山が見えた。

「……」

 少し時間がかかったのはこれが原因かとネジを見れば、無造作に包みを解いたお菓子を私の口の中へと押し込んだ。
 どうやら、分かりやすく照れ隠しに走ったらしい。
 
「……(お茶だけにしては時間がかかったなぁ、って思ったけど)」

 お菓子の用意と、先程の照れが襲ってきたんだろうと思う。口の中に押し込められたクッキーを咀嚼しながら、照れくさそうに瞳を伏せさせるネジをしっかりと見てみる。
 そしたらまたクッキーを押し込められたけど。
 でも、さ。これも結構恥ずかしいんじゃないのかなぁ。


「何だ?」

「いや……美味いな、と思っただけだ」

 ギロリと睨みつけるように私を見るネジに、私はお菓子の感想を述べながらもとりあえずお返しを決行する為に手早く包みを外し、右手の親指と人差し指でクッキーを挟み込む。

「だからネジも食べろ」

「──ッ」

 私の言葉の意味を理解するよりも先に、準備してあったクッキーを口の中へと放り込んだ。驚きと羞恥で目を見開き、顔を真っ赤にするんだけどさ…。

 それ…何回もやられたからね?
 流石の私も結構恥ずかしかったからね?

 私の言いたい事がわかったのか、ネジは大人しく熱めのお茶を飲みながら、そっと視線を逸らした。

 やっぱ、子供同士でも食べさせるのは照れるんだなぁ…。
 まぁ、実際は違うけど心情的には同性だからね。
 男の子は恥ずかしいよねぇ。


 
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