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愚か者達は反省なぞしない

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第一章

                愚か者達は反省なぞしない
 国崎洋介はこの時自分が勤めているラーメン屋のカウンターにいた、店は繁盛していて席に客が多くいた。
 その中の一人カウンターの座っている二十代のサラリーマン風の男がラーメンの麺を鍋に入れている彼に言って来た。
「あんたあいつの親戚だったな」
「ああ、百田さんの」
「そうだったな」
「お客さんあそこの旦那さんの同僚でしたね」
「同期でな」
 こう洋介に答えた、清潔そうな外見ですらりとしたスタイルだ。この店の常連でありお互いに知っている仲だ。
「そうだよ」
「そうでしたね」
「前は仲良くしてたよ」
 客は洋介に言った。
「この前までな」
「じゃあ今は」
「あいつは気付いてないが絶交した」
「絶交ですか」
「他の同期の奴も会社の人間全体がな」
 絶交したというのだ。
「仕事の話はするがそれだけだ」
「飲みにとかもですね」
「昼もな、もう誘うこともな」
 飲み会や食事にというのだ。
「しなくなった」
「もう総スカンですか」
「そうなった」
「それはまたどうしてですか?」
 洋介はその客にラーメンを出しながら尋ねた、出したラーメンは豚骨だった。彼の作ったラーメンは麺の茹で具合もスープの加減も絶品だと評判である。
「一体」
「犬いただろ」
「ああ、ふわりですね」
 洋介はすぐに答えた。
「あの娘ですね」
「前に自分と奥さんと赤ちゃんの写真自分のディスクに飾ったんだよ」
「そうしたんですか」
「そこで犬がいなくてな」
 客は箸を出しながら応えた。
「俺達があの犬どうしたんだって聞いたら」
「捨てましたよ、あの人達」
 洋介はあっさりと答えた。
「子供が出来たら邪魔になって」
「性格が変わって朝から晩まで吠えるとか言ってな」
「奥さんが参ったとか言ったんですよね」
「子供が生まれたばかりでな」
「ええ、そう言ってですよ」
「保健所に捨てたな」
「もういらないと言って」
 洋介も言った、次の客のラーメンを早速作りだしている。
「そうしたんですよ」
「それまで娘とか言っていたのにな」
「殺処分されてしまえですね」
「そんなの普通するか、飼ったら最後まで面倒見るのは常識だろ」
 客は怒った顔で言った。
「そうだろ」
「ですよね」
「どうせあれだろ、散歩も行かないで無視してずっとケージに閉じ込めていたんだろ」
「そうだったんですよ、これが」
 洋介はこの事実を話した。
「本当に」
「やっぱりそうか」
「ほったらかしにして。子供生まれたら」
「そうしたら犬だって自分の居場所言ったり相手して欲しくて鳴くよな」
「そうしていたんですよ」
「それでポイだろ、それをあっさりとおもちゃ捨てるみたいに言ったからな」
 その写真を飾る時にというのだ。 
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