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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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こゝろ

厚いカーテンの隙間から、陽光が僅かばかり漏れていた。目を覚ましたのは恐らく、そのせいだろうか。寝起きに朦朧とする脳を叱責しながら、秒を刻む壁掛け時計に視線を遣った。
だいたい8時30分。この時刻なら、女子高生が食パンを口に咥えながら通学路を全力疾走しているところだ──そうして曲がり角で誰かにぶつかるまでがお約束。

流石に例えが古いかな……などと苦笑しながら上体を起こして、軽く腕と上半身の伸びをする。昨日に目覚めた時と比較しても、身体の調子が格段に良くなっているように思えた。アリアや理子と話をしたそれだけのことでも、調子を戻す要因になったことだろう。

《境界》越しにカーテンを開くと、途端に朝が肉薄してきた。東京湾に溶けていたあの藍色は、もう群青に変貌している。どんな魔法でも再現のしきれない原風景が、そこにはあった。

それと同時に、歯車の動き出す音が聞こえた。この世俗を廻り廻らせてゆくための歯車が、鈍重な音を立てながら、或いは軽快な音を響かせながら、また今朝のために動き出していく。そうして、それに覆い被さったのは、この部屋の扉を叩く音だった。


「──失礼するよ」


扉の隙間から身を滑らせた来訪人は、初老紳士を思わせる風貌をしていた。多少に皺のある白衣を、微塵の違和感もなく着こなしている。黒髪の僅かばかりが残る白髪頭を隠すこともなく、彼はこちら側──ベッドの傍までやって来た後に、慇懃に会釈した。

歳は70あるくらいだろうか。銀縁の眼鏡の向こうに穏和な垂れ目を映していて、彫りの深い顔の皺を幾重にも畳ませている。さては腕利きの医師だね──と類推するのに時間は掛からなかった。こちらも会釈を軽く返してから、彼の告げるであろう次の言葉を、腹の中で暗に待ち受けていた。


「如月彩斗くんだね。話は昨夜、受付の者から聞かせてもらったよ。僕が君の担当医だ」
「あぁ、貴方が……。今回はどうも厄介になりまして……」
「君がそう(へりくだ)る必要が、何故あるんだ。患者を治すのが僕の仕事なんだから、君が叩頭する必要は無いと思うんだけどもね。遠山くんも星伽さんも、みんな無事で良かった」


老医はそうやって(しゃが)れた、少し高い声を洩らしながら、磊落に笑った。


「ところで如月くんね、もう退院したいという意嚮(いこう)かい」
「えぇ、今にでも」
「ははっ、そりゃあ元気が宜しいが、ちっとばかし難しいね。でもまぁ、昼くらいまでには出来るように準備はしといてくれるかな。ただ、君のご友人の、他の2人だけれどもね……」


老医はそこで言葉を区切ると、白衣のポケットの中から折り畳んであるメモ用紙を取り出した。カルテのように患者の詳細の何事かを記載しているらしく、ズレた眼鏡の鼻当ての位置を中指で直しながら、彼は「申し訳ないけれどもね」と前置きをする。


「遠山くんと星伽さんはね、毒にやられちゃったでしょ。解毒剤は投与したんだけれどもね、その経過観察ってことで、あと1日だけ様子を見さしてくれるかい」
「素人が何も言えやしませんから、医師の意嚮に従いますよ」
「うん、ありがとう。因みに2人とも至って普通だよ。健康そのものだから心配は無用だ。……しかしね、ちょっとだけ、僕は気になることがあるんだ」


「あー……、遠山キンジくんだがね」老医は声の調子を落としながら、そう付け加えた。


「君たちは地下倉庫で敵と交戦した。その時に遠山くんと星伽さんは毒をもらった。星伽さんは、峰さんという女の子に連れられて来たわけだろう。どうして同じに毒をもらった遠山くんも連れてこなかったんだい。彼自身の口から、はっきりと、大丈夫だと言われたからかい?」
「……えぇ、そうですが」


聞くところ、どうやら老医は白雪と共にキンジを搬送しなかったことを、疑問に思っているらしい。しかしその口ぶりは、『本人が大丈夫だと言っているから、別段、搬送しなくても良いというわけではない』といったような内容の説教でないことは、何となく察しがついていた。それとはまた別を話すのだろうということにのみ、察しをつけていた。


「ふぅむ……、本人からも話は聞いたがね。最初は毒で危うかったが、どうやら交戦の最中に、毒の効果を全く感じなくなったと言ってるんだけどもね。結果的に何ともないから良かったけども、僕らの方でも念のため、解毒薬の投与とその経過観察を本人に課したわけだ。この遠山くんの身に起きた不可思議な現象がどんなわけか、君はご存知かね?」
「……いいえ、何も」


老医のその言葉には、もはや首を振るしかなかった。

……確かに俺たちは《境界》で地下倉庫まで赴いた。しかしそれには、割り入るための絶妙な機会が必要だったのだ。魔剣ことジャンヌ・ダルクが、毒に侵されたキンジと白雪を本気で殺めようとした時──その隙を狙って、奇襲を仕掛けるはずだった。
けれど、読みと現実は違った。その読みがキンジによって外されたのだ。毒に倒れたという事実を錯覚だと思ってしまうほどには、彼は平生よろしく──むしろ平生以上に立ち回っていた。

そうしてキンジは、毒の有るはずのその身体で闘えると言ったのだ。思い出せば思い出すほど、摩訶不思議な現象だろう。キンジ本人がどう類推しているのかは定かではないけれども、否、そうであるが故に、こちらとしては摩訶不思議としか言い様がない。

ましてやこの老医も、自らの師事された医学を真っ向から否定されたようなものなのだから、さぞ不可思議な事案だと思っていることだろう。この問いの裡面には、それが見える。
白衣のポケットに両手を突っ込みながら、老医は言った。


「……世の中には不思議なこともあるもんだ。武偵病院に僕は散々居るけどもね、こんなことは初めてだよ。人体の奇跡としか僕には言えない。何か科学では説明のつかないものが、遠山くんの中にあるんかもしれないね。超能力者とか、何かあるんでしょ? 世界にも、君の学校にも。……だから、そういうんかも知れないね。僕たち医学を師事された人間の領域じゃない、その一回り上のレベル。僕には理屈が分からないけども、遠山くんは本当は分かってるのかもしれないよ。もしも真実を言っても、僕らには通用しないだろうからってね」


老医はそうやって、口惜しそうに前髪を掻き上げる。鈍色に染まった白髪の、その指の合間からすり抜けていくような虚脱感が、老医の心情そのものを表してしまっているように思えて、どうにも仕様がない。医学では太刀打ちできない現象を目の当たりにして、それが医師として口惜しいと思わないはずがないのだ。どうにかして解明したいと、そう思っているのだろう。


「七十にして心の欲する所に従って矩をこえず──先生は『論語』をご存知でしょう」


突拍子のない話をこの子はしてきたな……とでも言いたげな、或いは、その話が今の話とどう関係があるのか……とも言いたそうな怪訝な顔を、老医は見せた。そうして、頷いた。
『論語』の一節にあるこの詩句は、あまりにも有名すぎる。とはいえ、意味までを把握しているのかは、また、別の話になってしまうのだけれど。


「欲望のままに行動しても、人道から外れることはない、という意味ですよ。是非とも医学で理解のつかないところまで、学びを深めていってほしいように思います。医師だから医学第一主義というのが強制されるわけではありません。ましてや武偵を診る先生ですから、今後そういった摩訶不思議な患者が現れることもあるでしょう。その時までに、新たな学を志してみては?」


そう言い終えるまでに、老医は何度も頷いていた。医学第一主義といった単語を出したあたりから、彼の皺の出来た目蓋が持ち上げられたように思う。意外も意外だったのかもしれない。
「なぁるほどねぇ……」と嘆息したような声を洩らす後に、老医はこちらに視線を遣った。


「しても君はだいぶん、教養のありそうな口ぶりをしているね」
「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です」


2人で軽く微笑を交わす。そうして既に、この老医になら担当医としての任を任せられると、そう確信していた。この年齢になろうともなお、上の更に上を目指す意欲を、いま見せたのだ。誰にでもできることではない。仮に次があったとするならば、彼を呼ぼう、と。

どうせなら自分も、老いた末はこのようになりたいとも思った。老子のように大層ではなくても、自分なりに納得のいくような末を迎えたいと、そう、何がなしに至った。


「……あぁ、そうだ。個人的にもう1つ気になったことがあったんだ」老医は一通り笑い終えると、不意に何かを思い出したように、目を見開いた。


「ハーフらしい、随分と背の小さい女の子が居たでしょう。お名前は、確か……」
「神崎・H・アリアでしょう」
「うん、そうだそうだ。その神崎さんについて、君は彼女から何か言われたかい」


アリアについて、彼女の口から、何かを言われた……? キンジの次はアリアのことに関しての問いをぶつけてきたか、と暗に心の内で身構える。特段、何を言われた覚えもない。
重ね重ねの考慮も埒が明かないので、端的に返す。「いいえ、何も聞いてはいませんけれど」
「……そうかい。あの子はそういうことを、進んで言う子じゃないのかもしれないね」誰にともなくそう呟いた老医は、その穏和な顔を、更に穏和にさせていた。


「神崎さんはね、君を搬送する時からずーっと、君に付きっきりだったんだよ。僕らが君の処置をしている様子も彼女は遠目に見ていたし、『彩斗は大丈夫ですか?』って涙目で何度も何度も訊いてくるんだ。君が昏睡している間も、このベッドの傍らの椅子に座って、君の起きるのを待っていてね。朝から夕まで、片時もそこを離れずにだ。お手洗にも出ていない。何も食べていなかったように思うよ。ずーっと、この部屋から出ずにいたんだ。ただ、君の目の覚めるのだけを待っていてね。『彩斗の目が覚めた時に、アタシが居なきゃ』って、そう言ってたよ──」


瞬きをするのは2度が限界だった。無性に震えてしまう手で額を押さえて、やっとの思いで目元を隠しながら、老医の告白を聞いていた──それこそ彼女が目前に居たならば、すぐにでも逃避衝動に駆られていたことだろう。誰にも気取られずにいることは不可能だろうと、我ながらそう思ってしまうほどには、この泡沫は止め処の無いままに、玻璃として肉流を彩った。目蓋が荒れて、果ては滲みてしまうだろうことなどは、思いも付かなかった。

そうして咽喉も、震えていた。老医に碌な挨拶さえも出来ないままに、この虚室を満たしましょうと言うばかりに、誰も人が居ないのを良いことにして、そのまま泡沫の内に見える随喜に暮れていた。咽喉の声帯を無理矢理にでも震わせたならば、こうして押し留めている感情が、嗚咽と混じり混じって、1度に吐き出されてしまいそうな気がしたから──。





それから数時間ほどして、ようやく湖面は平穏を取り戻せたように思う。けれども、その湖面の奥底──湖底では、未だに感情の権化が浦波となって揺れ動いていた。
そのことを誰にも気取られないようにしながら、この武偵病院の敷地から足を外す。身を置いたのは、たかだか1日と数時間だけだった。とはいえ、その1日と数時間だけでも、こうして過ごしてしまった過去は──どうにも濃密そのものではあったのだけれど。

理子に貰った花束は《境界》に仕舞ってある。病室も適当に片付けておいた。キンジと白雪にも挨拶をして、老医には次があったら宜しくと伝えてきた。アリアにこれから帰ることを言伝る以外には、忘れ物とも言える忘れ物は無い。そこまで反芻して、安堵する。

後はいつも通り武偵校の制服を羽織って、帯銃と帯刀をして、いつも通り部屋に戻るだけ。ここ最近に勃発した騒動にも、既に終止符は打ったのだ。またしばらくは平穏だろう。

そんなことを幾らか考えながら、この五月空に降られている。威厳づけるわけでもなく、ただただ温和な陽気を浴びていたいだけに、今の自分の歩調は50ほどのBPMを刻んでいた。

五月空の温和な陽気も、東京湾の潮風も、今日だけは──今日だけは何故だか、当たりが強いような気がした。その理由は自分が、分かりすぎるほどに分かり切っていた。そうして、老医のあの一語一句を思い出せば思い出すだけ、湖底の感情が込み上げてくるのを感じていた。

アリアはそんな素振りを微塵も見せていなかった、というと、言い訳がましく聞こえてしまうだろう。こればかりは……そう、気が付けなかった自分が悪いのだ。表情、口調、挙止動作といった細部に至るまでの観察が行き届いていなかったこと──病み上がりの鈍さが関係しているのかは分からないけれども、少なくともあの時分では、その事実に気が付けていなかった。

本当は疲弊に疲弊を重ねていたはずだと思う。食事も排泄もしていない、なんて。ずっと、あの病室から、出ずにいた──自分の目の覚めるのだけを、待っていた、なんて。
そもそも、自分の怠惰に自分が対面していたならば、こんなことにはならなかったろう。アリアにここまでをさせることも、その原因の(たお)れたことも、無かった。

アリアを護れだの、或いは護りたいだの言っておきながら、結局は──ハイジャックの時みたく傷害と同様に、艱苦をも与えてしまっているのだろう。そうして原因はいつも、自分だ。
自分の不出来が(もたら)した結末は、いつも彼女に艱苦を与えている。自分が、自分の能力の無さを自覚して、自分に辟易して、果たして変わろうとすれば変われるのだろうか。

無味乾燥な日々に何が起こるとも思わずに、知らず知らずのうちに、誰の目にもつかないような奥底に仕舞っておいてしまったのだ。在るべき本家の由縁を。1度は手放したそれを、再び拾い上げるだけの覚悟が、果たして自分にあるのだろうか──。


「覚悟──」


変われるのだろうか、ではなくて、変えなければならない、のだ。


「──覚悟なら、無いこともない」


往来から見れば、この言葉はただの独り言のように聞こえただろう。けれども、独り言ではあるけれども、夢の中の言葉でないことは、自分がいちばん分かり切っている。
彼がこの言葉で自殺の意志を抱いたのと同様に、自分もまた、別の意志を抱いたのだから。自分が、拾い上げて、変わらなくてはならない。護るべき者のために──。

そうして同時に、いま下した断案が、実にこの胸臆の靄を晴らすのに都合が良かったか。今朝から執拗なまでに渦巻いていた、単なる随喜と艱苦がごっちゃになった、堪らないほどに粘っこいのを、吐いても吐いても吐き切れぬ胸の悪さ──それが妙技に当てられたかのように、途端に馬鹿馬鹿しいほど何でもない、果ては清々しいものに変貌してしまった。

……ふと視線を他方に向けると、武偵校の校門が見えてくる。そういえばこの辺りで、セグウェイを追い払ったんだったか。あのグラウンドの方は、キンジの自転車が大破した辺りだろう。更に見遣ると、女子寮も分かった。その屋上から、アリアはパラグライダーで滑空してきたのだ。

強襲科、鑑識科、通信科、探偵科──各専門科の棟を横目に歩きながら、更にはお台場のモノレール駅の下を潜り抜けて、レンタルビデオ屋、コンビニの前を通っていく。そうしてようやく、自分たちの居住区であり本拠点、第3男子寮にまで行き着いた。

エントランスからエレベーターホールまでを一直線に向かう。指先で触れるように上りの矢印を押すと、大した間も無く扉は開かれた。最初から待機していたような素早さだった。
周囲に人が居ないのを確認してから、部屋のある階を行き先に指定する。《境界》で移動をこなしてしまうことも少なくはない中で、こうして勝手にエレベーターに連れられていくのは、何だか新鮮な心地がした。独特の浮遊感を、全身に感じていた。

『──ドアが開きます。──ドアが閉まります』
そんな見送りの機械音を背に受けながら、廊下を踏んだ歩を進めていく。いつもの光景を見ただけで、どうしてこんなに安堵してしまうのだろうか。これが一種の懐郷病(ホームシックネス)めいたものだとしたならば、やはり自分は、1人が嫌なのだろう。

色々と思いを巡らせているうちに、既に目の前には見慣れた扉があった。小さく深呼吸してから、人差し指と中指で軽く前髪を整えてみる。掴んだ扉の取手は、何故だか温かかった──、


「わっ!」


途端に聞こえたのは彼女の声だった。いつもよりも少し高めの、溜めに溜めて吐き出した、快哉と悪戯心が綯い交ぜになったような、可愛らしい声色。それが余韻を帯びる頃には、眼前の扉はとうに開き切っていた。そこから身を滑り出してきた彼女は、微塵の逡巡すら見せもせずに、その赤紫色の瞳をこちらに向けている。そうして一刹那の後に、徐に上半身が苦しくなった。


「ふふっ、どう? 驚いたでしょ?」


梔子のような幽香が、あの今朝のように肉薄していた。そうして、彼女が上目で自分を見遣っていることに気が付いてから、ようやく、アリアに抱き締められていることを自覚した。

悪戯をする子供のように無邪気な、屈託のない笑みは、やはり彼女にお似合いなのだろう。それに当てられてしまっただけで、また例の感情が隆起してくることも、自覚していたから。
泰然を気取りながら、「まったくもう、心臓に悪いでしょう」と返すのが、精一杯だったのだ。


「だって、嬉しかったんだもん」


あの時と同じように、あの時と同じ声色で、アリアは零した。だから、そうであるからこそ、いま自分が抱いた感情も、あの時と同様だと微塵も疑わないのだ──『刹那に抱いた感情は、もう名前を知っている。そうして、この子は何処まで可愛らしいんだとさえ思ってしまった。窓硝子から見える、この黄昏時の五月空のように果てがなくて、あの揺蕩う千切れ雲のように奔放で、時折見せる常花のような仕草に──やはり何度も、惹かれているから。』



「ねぇ、そんなことより──アタシ、彩斗のこと、待っててあげたよ」


この文章に対する模範解答は、恐らく自分だけが知っていることだろう。あの黄昏時に交わした、軽躁な口約束が見え見えの伏線になっただけの、そんなものではあるのだけれど。
たった4文字の答えに、超過しすぎた字余りの想いを乗せに乗せながら、抱いている感情と覚悟とを改めて反芻させている。この口約束を交わしたのは、自分とアリアだけなのだから。


「……うん、ありがとう。ただいま(・・・・)
「えへへ、おかえりなさいっ」 
 

 
後書き
水無月彩椰です。さて、緋神の巫女と、魔剣編はこれにて終了となります。ここまでお読みくださっている読者の皆様方には、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとう。

本章では、原作とはまた別の遠山キンジが見られたことでしょう。白雪に対する積極的な姿勢とか、そういったものが顕著に現れていました──特に『幽香、前梅雨に香る』では。この回の最後の描写、明記こそしていませんが、そういうことです。想像は皆さんの自由です。

翻って、神崎・H・アリアはどうだったでしょう。如月彩斗に対する行動──『秘めた想いと現実と』のあたりから、大っぴらはことはしていないにしろ、心理的な部分では変化があったろうと思います。それは勿論、如月彩斗も同じ。……彩斗の方が、少し積極的になったかな? この2人の行く末も、『落花流水の二重奏』では婉美に描写していくつもりです。

しかし、本章の隠れた主人公は、実は峰理子だったりします。キンジと白雪、彩斗とアリア──彼等彼女等が話を展開させていく裏で、理子もまた、彼女の生き様そのものを展開させていた。そこに如月彩斗がひょいと覗きかけたようなもので、裏を返せば彩斗がそうしたからこそ、理子は隠れた主人公になれたのだと思います。『最高に最低な──救われなかった少女』という言葉の『なかった』というのは、お分かりの通り、過去形として解釈してあげてください。

少々後書きの幅が過ぎましたが、まぁ、楽しんでくださっているのなら幸いです。そして、次章を書くまでには少し時間を要しますことを、ここに記しておきます。改稿や詳細設定の構築など、やることが出来てしまいました。それだけ次章は『落花流水の二重奏』の中でも重要な話になります。お楽しみに。それでは、また。 
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